157E3C9F-C173-471B-A479-3F06CD676376


photo&lyric by 𝚜 𝚘 𝚛 𝚊 ໒꒱⋆゚ (@Skyblue_sky_)
生きる上でストレスという負荷を避けて通ることは難しいよね。過度なものは心を患ってしまうけれど、かと言って全くそれがないと、のれんを腕押しするかの如く味気の無いものになってしまう気がする。ほどよい摩擦があることで歯車は噛み合い前へ進むのかも。でもやっぱり…ストレスフリーがいいよね。

◯ 臨床心理士・心理系大学院・公認心理師試験対策・「パーソナリティ障害の診断と治療」
1.序
精神分析の深い知識はこれまで公認心理師試験では出題されていませんでした。しかしながら「精神力動理論」はきちはんとブループリントにも「認知行動理論」と並列させて記載されてきることから、精神分析は公認心理師試験には絶対出ないとは言えません。

また、臨床心理士試験や大学院入試にも精神分析理論は出題されています。
精神分析はパーソナリティと人間の発達段階を理解する上では必須の知識です。これから大学院を受験する方、また大学院在学中の方々にもぜひ人格理論、治療理論として知っておいて欲しい知識です。

そこで「パーソナリティ障害の診断と治療」Nancy McWilliamsナンシーマックウィリアムズ著、成田善弘他2人訳、創元社の精神分析的知見からの発達段階、パーソナリティ障害について記述してある著作を参照し、考察を加えてみます。

2.フロイトの発達段階理論
フロイトの発達段階は

⑴ 口唇期 
小児性欲の中で最も原初的な唇によるリビドー、快楽、したがってこの口唇期固着が阻害されると攻撃的なパーソナリティになりやすいと言われています。)

⑵ 肛門期
小児はトイレットトレーニングを経て排便を我慢することを教えられます。この失敗が過度に許されないしつけをされると収集壁、不潔恐怖のある強迫的なパーソナリティになります。

⑶ エディプス期
男根期とも呼ばれていますが、小児性欲の中では男根期となると、自らにパニスがあることを自覚し「大きくなったらママと結婚するの」と言い、ギリシャ神話のオイディプス王が母を娶って父を殺したという神話に由来しているものです。

ちなみにフロイトは女子はペニスの欠如が空虚感を感じさせるという男尊女卑的な発達段階を考えていたようです。女子のエレクトラ・コンプレックスは父と交わりたいという欲求です。(後年フェミニズムを台頭させた精神分析学者Helene Deutschによって男根期の男性中心の考え方は否定されています。)このエディプス期の成長に失敗すると神経症になると言われています。

3.発達段階の後継

ナンシーマックウィリアムズはどの発達段階理論もこの3段階を踏襲したものと考えています。

ただし、それが防衛と欲動(防衛規制が各発達段階の欲動を規制する。フロイトは抑圧のみをこの発達段階における防衛機制と考えていたようなのですが、フロイトの娘、 Anna Freudアンナ・フロイトは後に10種類の防衛機制を考え出しました。(退行、抑圧、反動形成、分裂、打ち消し、投影、取り入れ、自己への向き換え、自虐、逆転、昇華)これらが発達段階に影響を与えた理論なのか、

自我発達理論Erik Homburger Erikson
エリク・エリクソンや
Jane Loevinger Weissmanによる自我発達理論なのか、 
(これもアンナ・フロイトであり、無意識よりも意識を俎上に上げること)

それとも自己イメージを映し出す他者としての客体的自己、物質的自己、精神的自己、社会的自己なのか、それらのイメージが自己を映し出します。理想化が失敗すればそれが神経症の原因となります。Karen Horney, 新フロイト派カレン・ホーナイがこの立場の代表者的人物です。また、Nancy McWilliamsがそれを視野に入れているのかはわかりませんが鏡に映し出された自己をはっきりと自己と認識するラカンJacques-Marie-Émile Lacanの鏡象段階理論stade du miroir 6〜18カ月がこれに当たるでしょう。

ホーナイは基底的不安が孤独、自己の孤立、神経症の原因としての母親との関係を仮定しています。

実際にはフロイトは肛門期をうまく乗り越えられないと強迫神経症になると主張してはいなく、後年の精神分析家がそれを主張していました。

そしてDaniel Stern, ダニエル・スターンはフロイトの発達段階理論に異を唱え、各発達段階における失敗が神経症の原因のなるという説を痛烈に批判しました。

ガートルード・ブランク及びルビン・ブランクは理論としての自我心理学の葛藤理論、欲動理論、自我心理学的対象関係論、ハルトマンの貢献、エルンスト・クリスの貢献そして技法としての記述的発達診断と発達の視点から精神分析と心理療法の差異、分析治療の開始、治療開始の実際問題、解釈できる転移と解釈できない転移など精神分析を実践的治療技法にまで高めました。

そして最近の研究としてPhyllis Tysonフィリス・タイソンとRobert.L.Tyson
はフロイトから現在に至るまで精神分析理論の統合を目指しています。これは小児、成人にかかわらずです。Phyllis TysonとRobert L. Tysonは、感情的、行動的、認知的、および同時に進化する他の多くのシステムのコンテキストで心理的発達を調べる独自の発達理論も呈示しています。

エリク・エリクソンもMargaret Scheonberger Mahlerマーガレット・マーラーも発達心理学において大きな功績を残しています。とりわけMargaret Scheonberger Mahlerは乳幼児が母親からから離れて最接近するという幼児の不安による再接近期を想定しています。

Margaret Scheonberger Mahler
の発達理論は以下になります。
正常自閉期 0〜2カ月(外界と自分の区別がない)
正常共生期 2〜4カ月(母子一体化)
分化期 4〜6カ月(母親の顔、行動の認知)
練習期前期 8カ月(人見知り行動、他からまた母のところに戻る。はいはいの時期)
練習期後期 1歳頃(母親から離れることが多くなるが不安になるとまた戻る)
再接近期 1歳半頃(後追いをする。自分で行動すると不安になりまた母親に最接近、分離不安)
個体化および対象恒常性の確立期2〜3歳ごろ。(母親と自分の存在が区別さされるようになる)   
エリク・エリクソンErik Homburger Eriksonの発達段階は以下のとおりです。

⑴乳児期infancy
ア 年齢 0〜2歳
イ 得られる力
希望(hope)、期待
ウ 課題
  基本的信頼vs不信感
  trust vs.mistrust
オ 対象
  母親
カ 疑問
  世界は信じるに足りるものなのか?
・対母親とだけの二者関係、世界に対して、助けてくれるだろう、あるいは誰も助けてくれないだろうという不信感の対立です。疑問としては「誰を信じられるか?」で、この時期に授乳、愛着を得られないと否定的信念を獲得してしまいます。(境界性人格障害はこのあたりから基底欠損が生じているのかもしれません。)

⑵幼児前期early childhood
ア 年齢2〜4歳
イ 得られる力
  意思、意欲will
ウ 課題
  自律性、自主性vs恥、羞恥心
  autonomy vs shame
エ 対象
  両親
 ※ ここで初めて父親が出てきて、3者関係が生じます。
オ 疑問
  自分は自分で良いのか?
・幼児前期の課題は、トイレットトレーニング、排泄のコントロールを一人でできるか、更衣を自分でできるかという、自律性にかかわってきます。もちろんこれには失敗することもあるわけで、失敗への不安があるわけすが、ここで成功したら褒められる、失敗しても許されるという感覚があると許されている感覚を身につけて、この時期の課題をクリアできるわけです。

⑶幼児後期(遊戯期)play age
ア 年齢3歳〜5歳
イ 得られる力
  目的意識purpose
ウ 課題
  自発性(積極性)罪悪感initiative vs .guilt
対象
  家族
※ ここで初めて父母以外の家族も対象
 に含まれます。
オ 疑問
  自分はさまざまな事柄を行なって動
 いていいのか?
・探索、道具を使用したり芸術的センスを示すようになります。善悪の区別がつかないとルールを破って叱られることを恐れます。エネルギッシュでもあり、子どもらしい自立心もあれば、罰せられるのではないかというおそれも持っています。

⑷児童期(学童期)scool age
ア 年齢
  5歳〜12歳
イ 得られる力
  能力、有能さcompetency
ウ 課題
  勤勉さ対劣等感
  indstry vs.inferioty
エ 対象
  地域及び学校
オ 疑問
  さまざまな人々や事物が動いている
 この世界の中で自分はどこまで許さ
 れて成就できるか。
・ 小学生時期で課題や宿題が出ます。勉強の楽しさとともに課題も次々と出ます。この時期に大人が叱り付けてしまうと気力をそがれてしまって劣等感を持ってしまいますので褒めるアドバイスが大切です。

⑸青年期adlesence
ア 年齢
  13〜22歳
イ 得られる力
  忠誠fidelity
ウ 課題
  同一性対同一性拡散identity vs.identity confusion
エ 対象
仲間
オ 疑問
自分は何者なのか、何者でいられるのか?
・社会的経験を積んで、学生としての時間を過ごします。また、その中で義務を果たし、力を得ようとします。自分の同一性を確認することができます。

⑹初期青年期young adult
ア 年齢
  22歳〜39歳
イ 得られる力
  愛love
ウ 課題
  親密性対孤立infancy vs.isolation
エ 対象
  友人、パートナー
オ 疑問
  自分は愛することができるか?
・この時期は、仕事、恋愛関係、育児など人生にとっては中核的な課題を抱える時期と言ってもいいでしょう。

⑺成年期後期(壮年期)adulthood
ア 年齢
  40〜64歳
イ 得られる力
世話care
ウ 課題
  ジェネラビリティー(生殖)対停滞
  generativity vs. stagnation
 ※ generativityはエリクソン独自の用
 語です。次世代を育てる能力とも言
 えます。自分の事だけを考えている
 とそれは停滞です。
エ 対象
  家族、同僚
オ 疑問
  自分の人生を当てにできるか?
・管理職として部下を指導しなければならない立場、あるいは子どもの自立を見守る立場です。

⑻老年期(成熟期)mature age
ア 年齢
  65歳〜
イ 得られる力
  賢さwisdom
ウ 課題
  自己統合対絶望ego integrity vs.desapiar
エ 対象
  人類
オ 疑問
  私はこの世にいてよかったのだろう
 か?私は私らしい、いい人生だった
 のだろうか?
・人生の終焉を迎えようとする時にその終了を見据える時期です。エリクソンのころにはサクセスフル・エイジングやエイジング・パラドックスの概念はまだありませんでした。

さて、Nancy McWilliamsはあくまでフロイトの3つの発達段階と他の発達理論の統合を目指しています。そしてとりわけ口唇期固着はより深い病理性を持つと仮定しています。(境界性パーソナリティ障害がこれに当たるのかもしれません。)

4.パーソナリティの組織化の発達水準

さて、Nancy McWilliamsは口唇期は正常人、そして抑うつ的な人はとりわけ固着することを指摘しています。

そして強迫的な人はその行動が問題になっていなくとも強迫的なパーソナリティには肛門期が背景にあります。

Karl Abrahamカール・アーブラハムは精神分析医として神経症より比較して病理性が高い躁うつ病や妄想を持つ患者に対する欲動の体制化に類型づけようとした試みは結局失敗に終わったのだとNancy McWilliamsは結論づけています。

5.自我心理学の前駆的研究及び自我心理学

アブラハムが示した強迫神経症は、現在の強迫神経症よりも病態が重いものでした。

人の自我の発達、自他の峻別(世界観の混乱という点からは統合失調症がかていされているのかと思います。)
、パーソナリティの組織化の健常化と病理性の研究が進み、その実証的証拠が多数存在するとNancy McWilliamsは指摘しています。パーソナリティの組織化が健常でなければその障害が重いことは容易に推測できます。

面接者が患者と会う時にその人をシゾイド、あるいは強迫的水準だと定義することは対象者を病的とは決め付けることはできないけれども自我発達と対象関係によっては病的と言うのと同義と定義しています。つまり自我発達と対象関係の健全さが相手の病的水準を定義しているのです。

自我心理学(Erikson,E.H等)対象関係論(Melanie Kleinら)自己心理学(Kohut,H.)この心理学的の概念が役立つことを示しています。

精神分析学の示している病理水準は性格類型でなく、その人が抱えている困難の重さによって決まるのではないかとも指摘しています。

19世紀、歴史的には精神障害はそれほど重いものでなくとも一般的には狂気としてとらえられていました。

フロイトはその優秀な業績によって、神経症と精神障害の峻別を行いましたがそれは後継者にとって簡単なモデルとはならなかったのはあまりにもその区別が大雑把すぎたからです。

6.自我心理学の診断カテゴリー

一時的な症状による症状神経症、そして神経症的傾向が性格に深く根差している性格神経症は、より病理性の深いものでした。

そしてこの区別は現代診断基準DSMではパーソナリティ障害と定義されています。

この症状神経症か性格神経症(パーソナリティ障害)かは、
⑴ 何か誘因があって生起したものなのか、それとも患者の元々持っていた素因によるものなのか
⑵ 急激な症状の悪化によるものなのかそれとも全般的な感情の増悪なのか
⑶ 患者が一人でやってきたか(病識ある症状神経症)、それとも誰か(家族
、司法関係者)に連れられてらやって来たのか(病識がない性格神経症=パーソナリティ障害) 
⑷ 症状が自我違和的なのか、それともその症状が自我親和的で症状が自らの性格に深く根ざしていて適応のひとつの様式となっているか(パーソナリティ障害)
⑸ 患者はセラピストと協力関係を結ばなければならないが、それが「観察自我」といって自分を見ているもう1人の自分がいるか(症状神経症)、それともセラピストに対して敵対的、または魔法のように解決してくれるか(パーソナリティ障害)

症状神経症ならば患者は幼少期の未解決な葛藤を抱えているだけで、幼少期には役立ったその適応様式が役立たなくなっている、したがって葛藤を解決するためには短期間で終わることもあり得るということです。

そして症状神経症は治療者と協力関係を結んで転移、逆転移の問題が起きてもそれを解決しやすいです。

パーソナリティ障害の場合には患者の性格に深く根ざしたものなのか区別する必要性があります。パーソナリティ障害の治療は患者の性格を再編することです。

7.結語

この書籍は初学者向けの入門書と銘打っていますが、必ずしも面接技法にとって直接的にすぐ役立つものではありません。しかしながら精神分析という、さまざまなパーソナリティ発達理論と、患者さんの適応状態が一時的なものなのかそれともパーソナリティ障害によるものなのか見極めるための知恵が詰め込まれています。精神分析と発達水準を知るための推薦の書と言えるでしょう。

また、本書後半は考えられる限りの全てのパーソナリティ障害について網羅し、あげられています。精神分析的機制からパーソナリティ障害を知ることができる良書と言えます。