ひなたあきらのおけまる公認心理師たん

新制度公認心理師の検証をしばらく続け、この制度がよりよいものになるための問題提起を行いつつ、カウンセリングの在り方について考え、最新の情報提供を行っていきます。ほか心理学全般についての考察も進めていきます ブログ運営者:ひなたあきら メールアドレスhimata0630★gmail.com(★を@に変えてください。)

タグ:連携

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sᴋʏʟɪɴᴇ.
数多の正義や価値観が風のように大空を流れてゆく。僕らはそれを他人事のように眺めながらも、その三秒後には同じ空に向けて想いを放つ。自分のそれだけは誰かに届くと信じて。


「主治の医師の指示」は公認心理師に必要か?

1. はじめに

公認心理師試験も3回を重ねて合格者は 43,022 人となりましたが、この 3 年間「主治の医師の指示」に関するトラブルは一度も耳にしたことはありません。心理職、公認心理師は一般的に無茶なことをやっているかと言えば、そこまで常識ない心理職は元々いないでしょう。

まず、元々この条文を知らない医師の数は限りなく多いと思われます。

2. 法律

最近話題になっているのは、この条文の解釈です。

(連携等)

第四十二条 公認心理師は、その業務を行うに当たっては、その担当する者に対し、保険医療、福祉、教育等が密接な連携の下で総合的かつ適切に提供されるよう、これらを提供する者その他の関係者との連携を保たなければならない。

2 公認心理師は、その業務を行うに当たって心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治の医師があるときは、その指示を受けなければならない。


についてですが、たとえば民法を見てみます。

第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

とあります。

つまり第一条、私権を公共の福祉に適合させて行うのであれば、信義誠実の原則は守られていることになるわけですし、権利の濫用も行っていないわけです。

ひるがって考えてみれば、「連携等」も関係者との連携をきちんと行っていればそれは違法でもなんでもないわけです。

したがって「主治の医師の指示」はあくまで「連携」の一種であり、当該公認心理師が「連携」の必要性があるかどうかを判断し、必要性があれば主治の医師の指示を仰ぐことができると解釈できるわけです。

この主治の医師の指示については文部科学省及び厚生労働省からも運用基準が出ているわけで、そこには「従前より行われている心理に関する支援の在り方を大きく変えることを想定したものではない。」とされています。

試しに臨床心理士間例例規集(日本臨床心理士資格認定協会) 倫理綱領を見てみると「他の臨床心理士及び関連する専門職の権利と技術を尊重し、相互の連携に配慮するとともに、その業務遂行に支障を及ぼさないように心掛けなければならない」とあり、上記運用基準の文言と相違はありません。

もとより「運用基準」は法律や規則のようにはっきりとした法律よりも下位の「基準」に過ぎません。

運用基準上でも医師の指示に関して記述はありますが、「運用基準違反」で処分が行われるということは聞いたことがありません。

3. 実情

医師らも何も知らないわけですし、この42条2項に限らず、パブリックコメントでは公認心理師法は医師になんの義務を負わせるものでもないと回答しています。

日本医師会でも日本精神科病院協会でもこの主治の医師の指示に関して広めるつもりはなく、特にホームページ上でも見たことはありません。

ということはそこは医師団体側が広めるつもりがないということで、公認心理師側が「指示」を求めても「ナニソレ」的な対応をされます。

また、医師は刑法 134条で秘密漏示罪が定められています。「…正当な理由がないのに、その業務上おり厚かった時に知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役または10万円以下の罰金に処する。」とあることから、公認心理師が指示を受ける時も患者の秘密を外部公認に明かすことが「正当な理由」なのか今度は医師が判断しなければなりません。

私設開業領域で働く公認心理師が運用基準どおり文書で医師に回答を求めると患者は保険外適用文書ということで数千円を支払うことになります。患者負担が大きくなる上にそもそも医師は回答していいかどうかもわかりません。

電話や文書で「○○カウンセリング事務所」です。と名乗られてもその患者がそこでカウンセリングを受けているかどうかはわからないわけですし、たとえ患者が文書を持って行ったとしてもそれはあくまで患者の「話」に過ぎないわけです。

このように公認心理師法施行後、公認心理師が誕生してからも医師側が知らず、またそれに対して医師側から1件も異議申立てが出ていないこの条文の存在については甚だ疑問を感じますし、条文上の解釈でも「連携」の下にあるわけですから、この条文だけを読むと「主治の医師の指示に従わなければならない」ことが頭の中に浮かぶわけですが、実情としてはそこは詮無きことに思えます。

つまり、公認心理師側が医師と連携をしたい、連携が必要だと認める時に初めて主治の医師の指示を受ける必要性が発生するわけです。

4.結語

法律というものは時代によって解釈が変わり、または法律の条文そのものが変わったり、大きく変化すれば例えば家事審判法が家事手続法に改廃されたように法律そのものが変わることもあり得ます。

また、公認心理師法はあくまで憲法、民法、刑法の下位法であり、さきほど述べた民法の信義誠実の原則を超え、医師団体が主張するように要心理支援者の同意を無理やり得ようとしたらそこには患者との信頼関係が壊れる可能性もあり、準委任契約であるカウンセリング関係がうまく行かなければそれは不法行為ともみなされかねません。公認心理師は「秘密を守る」という義務は広く医師に対しても及ぶ債務です。

さて、公認心理士カリキュラム等検討会ワーキングチームの議事録を読むと「多職種連携」という文言は医師の構成員から多く出て来ています。医師にとっては医療ヒエラルキーの頂点である医師が「連携」と言えばそれは「指示」と主張したいように思えますが、それは机上の空論とも言えます。

実際、医療現場では心理は医師に意見を求められれば医師と見解が違っていてもきちんと言う。見解の相違=指示に従わない、とはなり得ないわけです。

事件を担当する家庭裁判所調査官がどんな事案でも身体医を含む主治医に必ず意見を聞くか、少年・当事者全てについて全部照会するのは非現実的です。「微妙な問題だから聞かないで欲しい」と言われ、はいそうですかと中核に触れる部分を聞かないと調査は進みません。

2023 年、公認心理師制度の大幅な見直しがあるはずですが実情に沿った、国家資格公認心理師の自主的、独立した判断をより重視した改正にして欲しいと思っています。

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◯ 公認心理師法3

第四章義務等(続き)

(連携等)

第四十二条 公認心理師は、その業務を行うに当たっては、その担当する者に対し、保健医療、福祉、教育等が密接な連携の下で総合的かつ適切に提供されるよう、これらを提供する者その他の関係者等との連携を保たなければならない。

2 公認心理師は、その業務を行うに当たって心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治の医師があるときは、その指示を受けなければならない。

第2項には行政上の処分規定があります。

(登録の取消等)
第三十二条 文部科学大臣及び厚生労働大臣は、公認心理師が次の各号のいずれかに該当する場合には、その登録を取り消さなければならない。

 一 第三条各号
(第四号を除く。)のいずれかに該当するに至った場合

 二 虚偽又は不正の事実に基づいて登録を受けた場合

2 文部科学大臣及び厚生労働大臣は、公認心理師が第四十条、第四十一条又は第四十二条第二項の規定に違反したときは、その登録を取り消し、又は期間を定めて公認心理師の名称及びその名称中における心理師という文字の使用の停止を命ずることができる。

復習を兼ねて再掲すると、公認心理師の登録取消、期間を定めての公認心理師、心理師の名称使用禁止は、

(欠格事由)
第三条 次の各号のいずれかに該当する者は、公認心理師となることができない。
一 成年被後見人又は被保佐人」(法改正により2019年12月14日に変更
第1号 心身の故障により公認心理師の業務を適正に行うことができない者として文部科学省令・厚生労働省令で定めるもの
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して二年を経過しない者
三 この法律の規定その他保健医療、福祉又は教育に関する法律の規定であって政令で定めるものにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して二年を経過しない者
四 第三十二条第一項第二号又は第二項の規定により登録を取り消され、その取消しの日から起算して二年を経過しない者

に当たるようになった時か、

第2項の
1.信用失墜行為の禁止(第四十条)
2.秘密保持義務(第四十一条)
3.(連携)主治の医師の指示(第四十二条第2項)の義務を履行しなかった場合
に当たるようになった時に処分対象となります。

また、秘密保持義務違反だけはこれに加えて一年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます。「主治の医師の指示」は、医療機関に勤務する公認心理師であればその場で指示を仰ぐことができます。しかし、私設心理相談所等に勤務している公認心理師がこの義務を懈怠した場合も処分対象となります。それでは「主治の医師」とは何についての主治の医師なのか。クライエントが風邪で内科にかかっていれば、風邪についての主治医ですが、指示を受ける必要はないでしょう。

辰巳ドリルでは「当該支援に係る主治の医師」と表現しています。ただし、線維筋痛症ASのように原因不明、精神的要因が強いと言われている疾患だと病院ですでに心理療法を受けている可能性もありますし、心身症で精神科以外に主治の医師がいても、整形外科のように他科だと主治の医師がいることに気づかない場合もあります。

この条文は刑法上の不真正不作為(刑罰はありませんが)に近いと解釈すれば、主治医がいたということを知らなかったという事実をやむを得ない事情で錯誤していたなら、(クライエントが主治の医師はいないと断言していたなど)行政処分の対象にはならないでしょう。

医療過誤訴訟の場合の基本的な考え方ですが、通常の専門家としての注意義務を十分に払っていたか否かがこの法律適用の分かれ目になると思います。

ただし、辰巳ドリルでも紹介されているのですが、これについては厚生労働省からのガイドラインがすでに出ています。

「公認心理師法第 42 条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準について」

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000192943.pdf

(以下厚生労働省文書から引用)

3.主治の医師の有無の確認に関する事項 公認心理師は、把握された要支援者の状況から、要支援者に主治の医師があることが合 理的に推測される場合には、その有無を確認するものとする。

主治の医師の有無の確認をするかどうかの判断については、当該要支援者に主治の医師が存在した場合に、結果として要支援者が不利益を受けることのないよう十分に注意を払 い、例えば、支援行為を行う過程で、主治の医師があることが合理的に推測されるに至った場合には、その段階でその有無を確認することが必要である。

主治の医師に該当するかどうかについては、要支援者の意向も踏まえつつ、一義的には 公認心理師が判断するものとする。具体的には、当該公認心理師への相談事項と同様の内 容について相談している医師の有無を確認することにより判断する方法が考えられる。なお、そのような医師が複数存在することが判明した場合には、受診頻度や今後の受診予定等を要支援者に確認して判断することが望ましい。また、要支援者に、心理に関する支援に直接関わらない傷病に係る主治医がいる場合に、当該主治医を主治の医師に当たらない と判断することは差し支えない。

また、主治の医師の有無の確認は、原則として要支援者本人に直接行うものとする。要 支援者本人に対する確認が難しい場合には、要支援者本人の状態や状況を踏まえ、その家 族等に主治の医師の有無を確認することも考えられる。いずれの場合においても、要支援 者の心情を踏まえた慎重な対応が必要である。
(以上引用終わり)

※ このガイドラインに明示されていることですが、主治の医師と公認心理師が全く違う機関で活動している場合にはどのようにしたかよいかということについては、情報提供を主治の医師に書面で提供するなどして、主治の医師の指示を仰ぐこととしています。

ただし、その場合も情報提供について要支援者、未成年者の場合は要支援者の家族の同意を得るものとしています。また、重要なポイントとしては、公認心理師は主治の医師から指示を受けた日時、内容について記録を残さなければならない義務があるとこのガイドラインでは明記されています。

災害時緊急を要する場合は要支援者の手当てを優先しなければならない時には後日主治の医師からの指導を受けます。

どんな支援にかかわらず、公認心理師が行うのは要心理支援行為で、医師のみが専権的に行うことができる「医行為」ではありません。したがって診療、服薬指導は公認心理師の業務として行うことはできません。

もし要支援者が主治の医師と公認心理師との連携を拒んだ場合には公認心理師はその重要性と必要性について丁寧に要支援者に説明することとしています。

(以上、運用基準の説明終わり)

※ 第四十二条に戻ります。第四十二条の注意点ですが、第1項、保険医療、福祉、教育関係者との連携は保たなければならない連携義務はありますが、罰則規定はありません。したがって第1項は努力義務と解釈すべきでしょう。

(資質向上の責務)

第四十三条 公認心理師は、国民の心の健康を取り巻く環境の変化による業務の内容の変化に適応するため、第二条各号に掲げる行為に関する知識及び技能の向上に努めなければならない。
※ これに関しても罰の科せられない努力義務・作為義務です。

(名称の使用制限)

第四十四条 公認心理師でない者は、公認心理師という名称を使用してはならない。

2 前項に規定するもののほか、公認心理師でない者は、その名称中に心理師という文字を用いてはならない。

※ これは刑事罰規定があります。

第四十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第三十二条第二項の規定により公認心理師の名称及びその名称中における心理師という文字の使用の停止を命ぜられた者で、当該停止を命ぜられた期間中に、公認心理師の名称を使用し、又はその名称中に心理師という文字を用いたもの
二 第四十四条第一項又は第二項の規定に違反した者
※ 第四十九条文第二号(1項しかない法律の条文は項を特定する必要がないので第◯◯条△号と表記します。)は、辰巳法律研究所に例題が掲載されていました。

「公認心理師でない者が『街の心理師』と名乗っていたら処罰対象になるか」ということですが、公認心理師は第四十四条の法律に規定されているとおり、名称独占資格なので、「心理師」という文言を使用するだけで処罰対象です。それでは「心理士」ではどうなのか。現在でも認定心理士、臨床心理士、臨床発達心理士などの心理士名称の資格が出ていますが、「心理士」と名乗ることで公認心理師と欺罔するような名称はダメでしょう「公認心理士」「公認心理カウンセラー」はアウトだと思います。

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