ひなたあきらのおけまる公認心理師たん

新制度公認心理師の検証をしばらく続け、この制度がよりよいものになるための問題提起を行いつつ、カウンセリングの在り方について考え、最新の情報提供を行っていきます。ほか心理学全般についての考察も進めていきます ブログ運営者:ひなたあきら メールアドレスhimata0630★gmail.com(★を@に変えてください。)

タグ:近代中小企業

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営業に生かせる心理学5 「メンタルリハーサル」

「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp

1 メンタルリハーサルの重要性

営業という行為は売れた時は嬉しい、売れれば今度は新しいタスクが生まれる、売れない時には落ち込んでしまう、大変な仕事であることは間違いありません。

そんな時には「売れた自分」「売れて仕事をうまくこなしている自分」を想像することが有効です。もし「営業活動がうまく行かなかったのは顧客の性質が悪いからだ」「相性が悪い」「この商材は魅力はない」という誤った原因帰属をさせてしまうとそれは「セルフ・ハンディキャッピング」と言って失敗する自分を想像してそれを実現させることで妙な安心感をもたらすことになってしまいます。

そういった誤ったイメージに陥らないようにするためには「楽しく営業活動をしている自分」をイメージすることも大切になります。過去に営業活動をして成功したことを思い返すのは「自己効力感」を高めることにも役立ちます。

自己効力感はセルフイメージを高めることにもなります。ある具体的な状況において、人は目標を立て、その中で適切な目標を遂行できうるであろうという確信の程度が高ければ高いほど人は行動に対する動機付けが高まるのです。

2 イマジネーションを大切にする

先日YouTubeを見ていたら、自動販売機でどこにでも売っているような水1本を「相手に1万円で売るにはどうするか」という動画があり、興味を持って見ました。常識的に考えて水1本を1万円で売ることなど不可能です。

ところが営業マンはうまくその水を相手に1万円で売ることができたという内容のものでした。営業には付加価値が必要です。もし相手にその水を1万円売ることで、顧客の利益が100万円になることが約束されているとしたらどうでしょうか。筆者が経営者ならば喜んで買うでしょう。一見不可能と思えることでもそれを可能にしようというイメージは大切なことだと思いました。

心理学的な考え方ではいきなり成功をすることが大切だとはされていません。ひとつひとつ地道に前進をしていく「スモールステップ」が大切になります。さて、営業マンにとって大切なスモールステップとはなんでしょうか。

それは商材の内容や相手の対応によっても異なるのですが、少しずつ「売る方法」の行動やお互いの気持ちを考えていくことが大切になります。自己効力感について考えてみます。ある特定の行動が成功をもたらすそのプロセスについて細かく考えていきます。

そうすると「今、ここで」自分が何をしたらいいのかを見つめることになります。よい結果を出すためには何が必要で、必要な行動をどういった方法で行っていくかを分析してみます。そうすると自己効力感は高まり、成功体験がさらに営業マンの能力を高めることに役立つでしょう。

営業は形のあるものを売ることもありますし、形のないコンテンツを売ることもあります。さて、売れた時のことを考えてみましょう。どんな内容にせよ、売れた時、売れたものをうまく切りまわしてお客様が喜んでくれたことを考えてみます。それはとても営業マンにとっては嬉しいことです。

営業に訪れた時に暗い顔で受付を通ったら、まずは会社の顔である受付の人が「なんだか変な人が来たようだ」という情報はすぐにキーパーソンにも伝わってしまうと考えた方がいいでしょう。

キーパーソンに売ることだけ、ノルマだけを考えて元気なく営業先に行っていてはその表情や気持ちは相手にも伝わってしまいます。まずは受付を通る時から元気に挨拶をすることが大切です。自分というものは、あたかも鏡を見ているかのように知らず知らずのうちに自分のイメージを作り上げているのです。

もしそういった自分が人にどう映っているかを考えてみると、カメラを向けられている自分を想像してみるといいでしょう。自分が自分自身にどういったイメージを持っているかを考えてみると、客観的な自己意識が高まり、望ましく、理想としている自分のイメージに近づけることがっできます。こういった概念は「自己制御」とも呼ばれるのですが、これを意識して高めることも大切です。

人の気持ちには様々な要素があります。自己の状態や反応は行動、認知、感情、コントロール能力を高めることにつながってきます。明るい気持ちでいること、なぜそれが大切かというと、相手にいい印象を与えて対人魅力を高めるというだけでなく、自分の気持ちのテンションを上げることにも役立つからです。

対人コミュニケーションをうまく取ることに成功すれば、それは良好な関係を作ることにもなります。このプロセスを分析していくと①ある話題(営業活動)について自分の意見を言ってみる②相手の意見を十分に聞いてうなずく、③自分が相手に対して好意を十分に持っていることを、傾聴する、相手の目を見てはっきりと話すことも大事です。

こういった時にひどく萎縮していたり、その反対に「どうせ売れないだろう」と投げやりな気持ちになっていたら相手はそういった営業マンの気持ちを敏感に察知してしまいます。営業マンが売ろうとしている商材に詳しいのは営業マンです。

しかし、顧客はとても頭がいい方々なのです。顧客から「教えを乞う」という気持ちでコミュニケーションを取ることは顧客の自尊心を高め、スムーズに営業活動を行うことにもなります。営業は時として自分が話して相手の興味を高めようとしてしまいがちなものですが、自分が常に教えてもらうつもりで熱心に興味を持って聞くことが大切です。

こういった「共感力」は自分の魅力を高めることにもつながります。共感性の高い人はユーモアもあり、自主的、自発的で他人に感心があり、外交的、そしてこれらの要素によって感情が柔軟であり、何が今起きているか、正確に認知をすることもできます。そうすると共感力との相乗効果によって相手との関係性は安定していくのです。

このような親密性が高まっていくと自然にお互いの非言語的なコミュニケーションにおける好意も高まります。お互いに相手のことを知りたいという興味がわいてくるのです。営業で大切なのは相手への「視線」だともよく言われています。積極的に売ろうとばかりしていて相手の顔を見ていれば、その態度は敏感に察知されてしまいます。おどおどして「売れないだろう」と思って視線をそらしていてもそれは上手な営業はできません。

3 気分一致効果

なぜ上記に書いたことが大切かというと、人には「気分一致効果」というものがあります。例えばもし訪問する時に営業が失敗したことばかり考えていてクヨクヨしていたとします。そんな時に訪問をしたら、落ち込んだ気持ちになってしまうでしょう。

逆に成功した嬉しい体験を思い出しながら訪問したとしましょう。そうすると楽しい気分のまま訪問することができます。どちらの方が営業に役立つかは自明に思えます。

人間の記憶は恐怖ばかり感じていると、そのことばかりにとらわれてしまいます。恐怖を感じているとそのことばかり思い出されてしまいます。顧客のところに行く時にはよく行ったイメージを思い描いてから面談することも大事です。うまく行った体験をきちんとイメージングしてから訪問すれば、新規顧客であっても、継続営業をしているのであっても、うまくいく確率は上昇するでしょう。

これもひとつの学説ですが「人は悲しいから泣くのではない。泣くから悲しいのだ」とも言われています。悲しいから泣くのではなく、泣けば悲しくなります。これは好意的な感情についても同じことが言えます。意識的に笑顔でいること、その気持ちのまま営業活動をすることは顧客に対しても好印象を与えるのだと思います。 

5.感情制御・自己の再評価

相手との関係をうまく運んでいくためには自分の感情を上手に制御していくことも大切です。もしあまり緊張ばかりしていて、以前にうまく行かなかった記憶ばかりが蘇ってきて、その感情で営業に臨めば、笑顔もなかなか出てこないし、自分も不快になるばかりでしょう。

緊張がうまく低減していけば、それは自分と顧客、双方とも気持ちがほぐれてうまく商談ができます。

そのためには自分を責めないで自己をうまく見つめなおす批判的思考「クリティカル・シンキング」が大切になることもあります。対人関係を築いていく上では、その中で起こっている膨大な情報を人は処理しています。その情報をきちんとまとめることが大切なのではないかと筆者は考えます。

それは①集められた情報を明確化すること。情報は明らかになっているものだけではありません。隠された情報や感情のやり取りがその中で行われている事は多々あります。

そして②その情報は確かなものかどうか自分の中で吟味する、これまでの経験や、今そこで起こっていることを再評価することも大事です。

③ そしてその中で起こっていることの価値判断、今バランスの取れた思考法をしているのかどうか、何をここで話したらいいのか、決定権は相手にあるのか自分にあるのかということを観察します。

④人間の行動には様々な無数の選択肢があります。その中で現在起きていることも再評価します。最終的にその中で最も効果的と思われる価値判断をして、相手にフィードバックしていくということを営業マンは知らず知らずのうちに行っているのですが、それをきちんと意識化していくことが大切だと考えます。

その上で、行き当たりばったりに任せるのではなく、論理的に考えていくこと、好奇心や探求心を持って関係性を探っていくこと、客観性の重視、熟慮していくことも大事でしょう。今そこで急に決められないことが起こったならば、こちらが一旦持ち帰って自分の考え方やするべき行動について誰かからアドバイスをもらうことも必要になります。

感情をコントロールできるようになるとお互いに親密な感情が生まれるようになります。古来から日本では「以心伝心」と言われていて、阿吽の呼吸でお互いを知ることができるのです。

うまく行っていても、あるいはうまく行っていなくても、自己と相手の間に何が起こっているのか吟味することも無意識的・日常的に起こっているのでそれを観察します。そんな時にあたかも鏡の中を見ているように自分と相手との関係を見つめ直していきます。

そうすると感情だけに流されず、営業にとっては必要な自己意識や自己制御力が意識化できます。相手が自分に好意を持っていれば相手との笑顔のコミュニケーションが生まれてくることは当然の事のように思えますが、笑顔の向こうに「買う気はないよ」というメッセージが含まれていればそれ以上進展することはありません。

営業の際にはこちらも笑顔で相手に接するわけですが、隠されたメッセージを読み取ることも必要です。言外の視線や表情が何を意味しているのかということを考え直します。

自己の再評価・自己制御には自分自身をコントロールすることが大切になります。営業活動はコミュニケーションです。そのコミュニケーションの中には「何を今しているのか」(行動)、何を感じて見ているのか(「認知・感情」)、自分が衝動的になりすぎていないかという内省力、それらが上手にかみ合った時に営業活動はうまく行くと筆者は考えます。

今何が起きているのか、自分をあまりに卑下することがなく、また、相手のことを軽んずることなく誠実な態度でいることは大切なのではないでしょうか。

営業マンは確かに自分が売りたい商材のことは一番よく知っているわけですが、たいていの顧客、キーパーソンはとても営業をされることに慣れているものです。相手を立てること、知識と経験がある人と話しているのだから教えを乞うという姿勢は大事です。

自分が営業活動の中で何をしているのか、そして相手との間に何が起こっているのかを正確に再評価することがいい結果につながるのではないでしょうか。

そしてそれらの認知と行動がおおむね一致した時に成功体験は生まれるものだと思います。営業マンにとっては成功体験というものはとても大切です。失敗した時に自分を振り返ることも大事ですが、成功した時にも「たまたま成功した」と手放しで喜ぶのではなく「なぜ成功したのか」という事を精緻に考えていくことも必要だと考えます。

そういった成功体験と成功体験の原因を探求していくことは次の成功する営業活動にもつながりますし、さらに自己効力感情を高めていくことにもつながって行くのだと思います。

今回の記事のpdfです。
いつも丁寧に校正していただき感謝しております。

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「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp
営業マンが自分の活動に役立てる「メタ認知能力」

1「メタ認知能力」とは

まず、メタ認知能力とは何かについて説明したいと思います。

通常の認知は営業マンの「これを売りたいなあ」という自分自身の考え方、発想なのです。「メタ認知能力」は、その時に「顧客は本当にこれを必要なのだろうか?」「自分は『売りたい』という気持ちばかりが先走っていて、外から見るとこれはどう見えるのだろうか」という、自分を見るもうひとりの自分、さらに言うなら、あたかも自分を頭上から見下ろして自分の活動を見るという能力です。

このメタ認知能力が低いと社内でも社外でも自分勝手なわがままな人としか見られませんので注意が必要です。

例えば自分は自分、人は人と、自分だけの認知、認識にとらわれてしまうと「まあ遅刻してもいいだろう」という極端な考え方になってしまいます。

車で営業する場合に信号、道路の渋滞状況などを考えて客先へとなるべく早く到着するように心がけるというような人は知らず知らずの内にメタ認知能力を身につけていて、自分と他者のことをきちんと客観的に見るメタ認知能力を使用しています。

また、顧客がAという商品が欲しいと思っているのにBという商品ばかり売り込みたがっているのも顧客からすれば不快な思いをするだけで、営業マンはその時にはメタ認知能力を使用していません。

2 メタ認知能力を身につけるためには

メタ認知能力を身につけるためには「批判的思考(クリティカルシンキング)」が大切です。

自分だけの考えに陥ってしまって他者のことを見ない傾向を「自己中心性バイアス」と言います。

この傾向が強いと自分だけは正しいと思い込んでしまい「自分はこう思っているのだから他の人もこう思っているのは間違いないだろう」という、まるで自分だけにスポットライトが当たっているような誤った概念にとらわれてしまいます。

この傾向から抜け出すためには常に自分を振り返り、批判的思考を行うという行為が必要となります。批判というと他者を批判したり、行き過ぎた内省的な考え方をして自分が悪いとクヨクヨしてしまうことを想像しがちなのですが、真の批判的思考とはそういう概念ではありません。

誰しも人は推測、推論をして動きます。メタ認知に欠ける人は先ほど述べたように誤った推論をして動くわけですが、営業のためには証拠や実績に基づいた推測が必要になるわけです。

例えば「顧客は〇〇という提案を以前にしたら気に入ってくれた」「こういった手法を使ったら売れたけれでも別の時に別の手法を使ったら気に入ってもらえなかった」と考えて振り返るのが批判的思考です。つまり相手と自分との関係を常に客観的に見ているわけです。

直観的な思考システムだけに頼って動く勘は誰しも使用していますが、これは人が行う簡単な「ヒューリスティックシステム的思考」と呼ばれています。勘に頼るだけではなく、論理的な思考を行い、データに基づいて行うより緻密な思考方法は「アルゴリズム的思考」と心理学では言われています。

勘だけに頼ると単純に物事を見がちですが「なんとなく考えるとこうだろう」と決めつけてしまうのではなく、過去の思考・発想の成功体験、失敗体験やデータに基づく緻密な分析がアルゴリズム的思考です。物事を考える時にこのアルゴリズムに基づいた発想の方が有効なのです。

アルゴリズム的思考はメタ認知概念の中では重要な概念です。何かを売る際には相手が直観でヒューリスティック的思考で物事を考えることもあるでしょう。

しかし相手もメタ認知能力を使っていて「この営業マンはこういう売り方をしていて、以前もこうだったから買わなかった」あるいは「この営業マンはあの時には自分にとって役立つ提案をしてくれたことがある、今回はどうなのだろうか」という筋道だった論理的なアルゴリズム的思考で営業マンのことを吟味していてより客観的に考えていることも多いのです。

それでは営業マンがメタ認知能力を身につけるためにはどうしたらいいのでしょうか。

それは常に自分が行ってきた営業活動を振り返り、アルゴリズム的思考をしていくことが求められます。例えば営業日誌を書くことひとつ取っても、「今日は何件訪問してA社は乗り気だった」と単純に振り返りをするのではなく、訪問して乗り気ではなかった、すぐに相手が立ち去ってしまった時にはどういった要因が働いていたのかを冷静に分析することも大切です。

それは単純に相手が忙しかったからかもしれませんしタイミングが悪かったからかもしれません。

しかし自分と相手との関係をより客観的に見て、何か自分の言動や行動に問題はなかったのか考えてみることも必要です。心理学は失敗したことだけを自分で反省させる学問ではありません。

うまく行った時、なぜうまく行ったのか考えることも必要です。メタ認知能力が低いといつまでも売れた要因は「たまたま売れた」という偶然的な過程と結果を見ることだけに終わってしまいます。

論理的に考えてみて「どうしてあの時は売れたのだろうか」と考える、成功の要因を分析して振り返ってみること、そして売れた理由を考えてそれをまた応用していくという「Do more」(ドゥー・モア)的な発想が大切になります。

売れる営業マンは「今日は何をして結果はどうだった」と単純に考えるのではなく「どうして」「なぜ」という洞察を深めていき、無意識のうちにメタ認知能力を高めているます。

売れる営業マンのことを考えてみます。売れる営業マンは精緻にメモをしています。誰から何を言われたか、そしてどういった対応を自分をしたか書いています。そしてさらに一歩踏み込んで相手と自分の関係がどうだったか、顧客がどういった考え方をしていたのかを緻密なメモの中に書いている人もいます。メモしていなくともそれをきちんと記憶しています。

3 リテラシーという概念
最近、小学校でも「メディアリテラシー」の授業が行われています。メディアやインターネット上に溢れる情報の中から正しいものを取り出し、判断するという能力がリテラシーです。

メタ認知能力は正にこのリテラシー的概念を応用したもので、自分が行ったこと、そして相手の反応はどうだったかという、膨大なデータの中から役立つものを抽出するというものです。

そのためには言ったこと、言われたことを考えるだけではなく、もう一歩踏み込んで考えてみることも必要です。つまり、訪問のタイミングや時間は適切だったか、自分の発言に対して相手はどんな表情や声色をしていたか、態度はどうだったのか等細かく相手の、言語だけではない非言語的なノンバーバルコミュニケーションに着目していくことも大事でしょう。通常の直観的なリテラシーだけでなく、より高次な分析的リテラシーが役立ちます。

4 メタ認知能力に必要なプロセス

(1) 隠れている要因を明確化すること。

人は何気ない会話の中でも上述のように膨大な情報のやり取りをしています。

したがって、営業場面でその問の課題は何だったのか、その時にどんな仮説を立てたのか、仮説にしたがってどんな言動、行動を取ったのか、相手はどうだったのか、相手はどんな態度や言動だっのかを細かく分析していくというプロセスが必要になります。そして相手も同じことをしていると考えた方がいいでしょう。多くの人は直観的ヒューリスティック思考に従って動いています。

ヒューリスティック思考情報処理の手間を少なくしてより単純な経験則だけによって動いています。しかしヒューリスティック思考の中にもアルゴリズム的な論理性が無意識的に働いていることがあります。相手が直観的な観察力だけで自分を見ているだけではなく、こちらも言動、態度等ノンバーバルコミュニケーションで見られているのです。

営業が嫌いな人は営業の時に緊張して声が震えていたり、目が泳いでいたりします。そういった時に相手は必ずこちらを見ています。緊張することは誰しもあり得ることですが、そんな時こそ笑顔で明るく振舞ってきちんと相手の目を見て話すことが大切です。

(2) 推論の根拠について考える

人は様々な情報に触れます。例えば新規訪問先のホームページを見た時にその内容を吟味してから行くことは多いと思います。訪問先の情報を伝え聞いていたり、何らかの手段で知識を得ていることもあるでしょう。そういった際に推論をする能力が必要になるのです。推論が誤っているのか正しいのか、判断することがここでは重要になります。

(3) 推論と実行のバランス

ただ「推論が必要です」と筆者が言ったところで、「簡単に言われてもそんなことは時間がかかるからできない、面倒だ」と思う人もいるかもしれません。しかし自分について、自分と相手との関係について常に振り返り、考えていくことはメタ認知能力を高めることにつながります。

この「振り返り思考」を論理的、客観的に行っていくことこそ推論の能力を高めていくことになります。常に推論を繰り返そうとしてデータの分析ばかりしていて今度は客先の訪問頻度が減ってしまったら逆効果です。「大変だからやらない」という理由を100個探すことは実行をひとつ行うよりもはるかに簡単です。データを分析しながら実行手順について考えていくことは営業先に向かう車中でも電車内でもできることです。

(4) 行動決定

メタ認知能力は、自分の認知的プロセスを適切にコントロールする能力と、頭でわかっていてそれを実現するための方策、行動に至るまでの意志決定の2つに分かれます。

理解していれば必ずできるという単純なものではないので、常にメタ認知的にはこう考えられる、その推論の根拠は何だったのか、常に過去の経験から次に自分の行動を決定するという段階が大事です。

5 メタ認知能力を鍛えるには
メタ認知能力と並んで大切なのは「メタ記憶能力」です。失敗しても成功してもその体験の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっていたら、いつも偶然にしたがって試行錯誤的に動いているだけになってしまいます。試行錯誤的な行動が悪いというわけではありません。営業は考えているだけでなく、動かなければどうにもならないところがあります。

試行錯誤的にスピーディに顧客訪問をする中で常にメタ認知について注意をしてそれをメタ記憶の引き出しにしまっておくと、だんだんとメタ認知能力が高められるようになります。

イメージ能力を高めておくことも大切です。じっくりとデータを積み上げて分析したり、細かくメモを取るということは誰にでもできることではありません。最初は経験則や勘に頼るヒューリステック的な思考でも構わないので、その記憶を後になってから内省的に分析していくことが役立ちます。そして自分が直観だけに頼っていないか、何度も考え、特に成功体験について振り返りを行うことがメタ認知能力を高めることにつながるのです。

人は自分で意識しているほど自分のことを知っているわけではありません。他者はその人のことをどう見ているのか明確でも、人から見ると客観的にはこういう人だ、ということがあります。メタ認知能力は常に自分を振り返る能力です。自分のことを謙虚だと思っていても人からはそう見られていないかもしれません。また、自分のことを気ままにやっていると思っていてもその人は周囲の感情や動きに敏感で感性が優れている人かもしれません。

人は他者から指摘されないとどういった人間なのかということを意識できないものです。常に他者と自分との関係を意識することは大切な能力です。また、それを他者がやんわりとでも受け入れられるように指摘することも大事です。

6 結語
営業はある意味で過酷な仕事です。しかし達成できた時、そこには大きな喜びが伴います。経営者は第一線で働く営業マンのメンタリティを常に気にかけていることが必要です。

成績を上げられたことについては褒めて、そしてなぜ成功できたのか考えてもらうことが営業マンの成長につながります。営業がうまく行かなかった時にはその理由を冷静かつ論理的に考えてもらうことも必要です。営業マンがあまりにも残業で負担がかかっていないか、それ以外にも心身の状態に気をつけるということは経営者から見た社員への「メタ認知」能力につながります。

営業マンは経営者がどの程度自分を気にしてくれているかを敏感に察知します。筆者が会ってきた経営者はみな優れた営業マンかつ心理学者とも言えます。経営者は常に自社の製品と自社を売り込むことを考えているので、営業マンを束ねるトップです。自社と顧客の関係性についてメタ認知能力を駆使していつもポジティブな内省力を持って考えています。そして経営者がそうやって身につけているメタ認知能力を営業マンに伝えていくことが営業マンを育てていくことにつながるのではないでしょうか。

※ 今回の記事もpdfにしていただきました。いつもありがとうございます。

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「近代中小企業連載第3回 ・営業に生かせる心理学『心理学的な付加価値が営業を成功させる。 』

「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp

(ひなた元原稿)
〇はじめに
どんなに魅力的な商材でもその存在や有用性が知られていなければ売れることはありません。したがって、売るためには「心理学的な付加価値」が影響します。
本連載の中では何度か出てくるのですが、人の認知、情動を変えて行動もポジティブに変化させるには「認知不協和理論」が営業活動の中で大切です。

よく営業で言われているのは「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」です。相手にドアをあ開けさせてそこに足をはさみ込むと「自分がドアを開けたからこういうことになっている」という、自分の選択した行動を正当化するためにドアを開けたという小さな行動から、購買行動という大きな行動につなげるまでの一連の流れを説明しています。

〇段階的要請法と認知不協和理論による営業テクニック
実際にフット・イン・ザ・ドアテクニックを無理やり使ってしまうと押し売りになってしまうので、これは論外なのですが、段階的要請法や認知不協和理論を応用したこのテクニックは営業にとっては有用です。つまり、小さなことから承諾を取り、だんだんと大きな要請をしていくということです。

例えば無料でノベルティを付ける、そして安価でもいいから小さなモノを販売する、そうすると相手は「モノをもらった、安く買った」という自分の行動が誤っていなかったということでポジティブに自分の行動をとらえるために、大きな事柄でも承諾しやすくなるということです。常に小さなお願いは大きなお願いにつながります。

例をあげます。最近服飾等の小売店ではいわゆる「売る」押しつけがましい営業よりも顧客優先の選択をしてもらうように心がけています。「どうぞご自由に見学してください」(顧客の自由度が高い)そして顧客が迷っているようだったら「どうしました?もしよろしければ説明させてもらえませんか?」と顧客の意志決定を重視し、顧客が「自分で選択した」という認知が大切になるわけです。

ここで「30分ほど説明させてもらえませんか」と言われたら顧客はあまりの手間に嫌がってしまうでしょう。それよりは「少しお時間いいですか」「10分ほど見ていきませんか?」の方が受け入れられやすいのは当然のことのように思われます。

結果的にその説明が30分になってしまった時、人は自分が費やした時間を無駄だと認めたくないわけなので、購買行動につながりやすくなります。

人間は自分が選択した行動の過ちを認めたくありません。これをザイアンスの「単純接触理論」と組み合わせると硬軟使い分けた営業手法になるのではないでしょうか。つまり、他愛のない挨拶程度でも営業マンが毎回接触してくると「売る」という積極的な行動に営業マンが出なくても顧客は営業マンと接触してきた時間の長さが無駄だったとは認めたくないために購買行動につながりやすくなるでしょう。

単純接触効果は相手が忙しい時間を過ごしているのに無理に面会を申し入れるのは逆効果になります。「たまたま通りかかったので」と名刺1枚受付に渡しておくのでも構いません。不在でもいいのです。

新商品のパンフレットができた、あるいは従来ある商品のパンフレットがマイナーチェンジされて新しくなった、など直接顔を見なくても潜在的顧客は「あ、また来たなあ、こちらが忙しいと思って面会を無理強いしなかったんだなあ」と好意を持った単純接触効果になるでしょう。

これは営業マン自身が「広告」として機能していることを示します。ただテレビのCMが流れているのとは違い、手間がかかっている広告です。営業マンがわざわざ足を運ぶことはっこの手間がかかった広告の効果としては、相手の認知、記憶にとどまり、感情を良好にして次のステップとして面談をしてみよう、最終的には購買行動につながるものと考えられます。

さて、認知不協和理論は大切な営業テクニックで、人は自分の認知(認識=例えばこの人はいい人だ)というものは情動(感情、好意を営業マンと商品に抱いている)、そして最終的には購買という行動に出るのです。これは臨床心理学の最前線で使われている、誤った認知を正しい行動に変える認知行動療法にも応用されています。

また、購買行動に関する認知は、認知不協和理論にも似た、A―B―Ⅹモデル(バランス理論)でも説明できます。例えば、巨人ファンのA君と阪神ファンのB君が仲がいいけれどもどうしてもA君は野球の好みが許せない。そうするとA君は自分の認知を変えて阪神ファンになろうとするかもしれません。また、巨人ファンになるようにB君のことを説得するかもしれません。

以上は比較的前向きな行動なのですが、A君はお互いの認知が違っているという緊張状態を解消するためにB君が嫌いになり、B君との仲を解消するようになるかもしれません。つまり、認知の違いというのはそれほどまでに人の感情を動かすわけです。

「だから」「でも」などといった相手がなかなか納得をしないキーワードを使っても顧客の心を動かすことは難しいでしょう。例えば顧客がいったん「買わない」という言葉を口にしたとしてもその意志を無理やり変えようとするのではなく、徐々に相手の態度変容を期待する方が効率的でしょう。

〇 ポジティブな心理学の活用
従来、心理学は病人の治療のために発展してきましたが、そうではないポジティブな側面にも注目されているのがポジティブ心理学です。あたかも営業マンが治療者のように顧客に接していたら、営業マンの方が上位に立っていて顧客が不快に感じやすいのは想像に難くないでしょう。

人間はネガティブな感情よりポジティブな感情を望みます。そこで、相手が好きなこと、没頭することに話を引き入れていくことは大切なテクニックです。最初から売り込みをかけられるよりも趣味の話や大切にしている家族の話、好きな話題を好みます。

ポジティブ心理学から少し離れるのですが、会話術として上記の説明をより深めて考えてみます。人間の会話には「クローズド・クエスチョン」とそして「オープン・クエスチョン」
があります。営業をするのに「今日は暑いですね」と営業マンが言ったなら「そうだね」と一言返されて終わりでしょう。「暑いと食欲が落ちますね」も「そうだね」「そうでもないよ」の一言で終わってしまいます。

それに引き換え、「オープン・クエスチョン」は話題が広がる会話術です。同じ天気の話でも「今日の天気はどうですか?」と聞くと「暑いね、暑いのは僕は苦手でね、北の方の出身だからね」「そうなんですか、私は南の出身ですけれどもこちらの気候は蒸しますよね」と話が広がります。「食欲が落ちますよね」よりも「暑いと冷たいものが食べたくなりますよね」「そうそう、そうめんとかね」「私もそうめんは〇〇産が大好きなんですよ」等話が広がります。

話を広げて相手との親しい関係を作り上げていくのは営業の基本です。また、顧客は常に自分で選択を行ったという思考を好みますので、そこには「ユー・ミーニング」(「あなた」が主語)よりも「アイ・ミーニング」(「私」が主語)の話し方が好まれます。

読者の方は、販売のために「私はあなたにモノを売りたい」という発想とはまるで逆に感じるかもしれません。「私は売りたい」はどちらかというと押しつけがましく感じられないでしょうか。「私(アイ)はこの商品を〇〇と考えますけれど、どうでしょうか?」と聞いた方が先ほどのオープン・クエスチョンと相まって話はどんどん広がりますし、それに加えて選択権はあくまでも顧客にあるということで、満足度も高まるでしょう。

ポジティブ心理学について触れておきます。ポジティブな感情がまず大切になります。最初から高値で販売を提案されるよりもサービスや品質の積み重ねでその値段になったことを示していく方が受け入れられやすいと筆者は考えます。誰しも不愉快な人生よりも心地よい時間を過ごしたいと思っていることは間違いありません。一方的な押しつけは禁物です。

そしていったん顧客が自社の商品、そして商品そのものでなくても商品が持っている価値に自分が没頭し、夢中になっていけばそれに対する集中性は増します。常にポジティブな感情を持ってもらうことがこの没入状態に関係しています。精神的に健康度が高い人ほどこの没入状態になりやすいことが知られています。

営業マンは顧客の健康度を高めるためのユーモアや相手が興味を引く話題の引き出しを多く持っていることが大切なのはこのポジティブ心理学でも説明できます。そのためには関係性も大切です。お互いに不快な感情「売ろうとする―無理やり売られようとする」という関係性は良好とは言えません。営業以外にも付加価値が多いサービスを提供することが大事になるでしょう。

ポジティブ心理学では人間がいかにして幸せになるか、ウェルビーイングという概念を大切にしています。そこには社会的に良好な人間関係が影響しています。思い描いてみると(例外はもちろんありますが)幸せそうで、人の(社員の)役に立つものを購入したいという顧客は笑顔のウェルビーイングに満ちているわけです。

「営業」というのはただの仕事、というよりはその営業マンの価値観や人生観が強く反映されるものです。営業活動をする中で、自分は正しいことをしている、ポジティブに顧客に喜んでもらっているという感覚、人生の意味や意義をそこに見出すことはとても大切なっことです。そしてそれは顧客にも通じることです。幸福度を達成する上で、なぜその商品が大切なのかを知ってもらうことが大切でしょう。それは大袈裟過ぎないと思うのですが、意味や意義を人生に見出すことが営業活動に通じるということになるでしょう。

ポジティブ心理学の中でも大切な概念は、達成感情です。これも営業マンと顧客双方に通じることで、いいものを売った、いい買い物をしたという達成感情がお互いに生まれたら営業はさらに次の営業につながります。仕方なく買ってしまったというよりも、お互いにwin-winの関係性が大切なのはこのためです。

〇精緻化見込みモデル
精緻化見込みモデルは2つのルートをたどると考えられます。
例えば商品についてとても詳しい顧客がいたとします。詳しいからこそ、周辺情報や他社の製品と比較検討することができる、この顧客は購買行動について「中心ルート」と言えます。関心、興味を持っている中心ルートをたどる人は潜在的顧客として大きな役割を果たすと言えます。

中心ルートの人は商品に対する知識が優れているだけに、世間の評判がどうなっているのか、この商品の雰囲気は、ということについてはあまり関心を抱きません。この人たちが専門的な知識を持っているのならばこちらも懇切丁寧に専門性について説明した方が効果的ということです。

また、商品そのもののことはよく知らない、ですがSNSやインフルエンサー、芸能人等が勧めているから、と周辺からその商品に興味を持つようになった人のことを「周辺ルート」の潜在的顧客と呼ぶことができます。商品そのものに強い関心がなかったとしても「結果的にこれはとても役立った、役立っていると言っている人が多い」ということで周辺ルートの人は知識が増えなくても購買意欲は高まるわけです。

こういった周辺ルートの人たちに対して無理やりに商品の持つ魅力や性能、知識を売り込もうというのは逆効果になりかねません。周辺ルートの人たちは商品の持つ雰囲気や役に立っているというメッセージの方を重視しているからです。ただし、こういった人たちは雰囲気で選んでいるので流行が変わると中心的な興味も異なってしまうことも十分に考えられます。その商品を売りたいのであればその流行が続いているうちに、そして流行が変わった場合には別の商品を売っていくという工夫が必要となるでしょう。

〇おわりに
今回は、商品よりも商品に対してつけられる付加価値が大切ということについて述べてみました。人は認知、情動、そして認知や情動に関連したポジティブな感情についてを中心に書きました。付加価値というのは本稿では営業マン自身と、営業マンの持つ魅力、そして営業マンの持つコミュニケーション能力です。これら全てを一致させることは難しくても、その強度が強いほど営業マンは「売れる」営業マンとなっていくことが期待されるのではないでしょうか。

※いつも拙文を校正の上、綺麗なpdfにしてくださってありがとうございます。

近代中小企業「営業に生かせる心理学3」

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近代中小企業連載・営業に生かせる心理学2

「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp

2.相手が何を求めているのか、心理学を活用して知る
(1) 社会的アイデンテティ理論
BtoBでもBtoCでも、購買の決済権者に対して営業をすることが最も効果的です。決済権者は自分の所属している組織や持っている信念について自信を持っています。自分の購買行動が正しいということについて正しいと思っています。

人には自己高揚動機といって、自分の所属している集団や信念を他の集団や信念よりも高く評価し、それによって自分の自己同一感情、アイデンティティを高めようとする傾向があります。

日本人は欧米型の独立的な「自分は自分」という自己感とは異なり、「みんなと一緒」という相互に依存的な自己感情が優位なことが知られています。

つまり「ウチはウチ、外は外」ではなく「ウチに入って来たら歓迎する」ということです。したがって「営業マンの〇〇さんはウチの人だ」という同一感情を相手に持ってもらうことがまずは営業のつかみとしては重要だということです。

これは相手を否定して「社長はそうおっしゃいますけれども」という営業方法ではなく、前回述べた「単純接触効果」であり、何度も相手に会い、その度にネガティブなことを言わず、相手の持っている時間と気持ちの余裕に合わせて自分を「ウチ」の人の一員として考えてもらうことが大切になります。

営業方法として相手の持っている価値観をぐらつかせようとして売るために否定的なネガティブなことを言うのは相手の購買行動を阻害することになりかねません。常に人は自己が所属している集団や価値観に対して自尊感情を持っています。その自尊感情を揺るがされることを好みません。無理な説得は相手の存在そのものを脅威にさらすことになってしまいます。

「ウチの良いところをわかってくれる人」であり「いつもウチに寄り添ってくれている人」は好感触を得やすいので、接触の回数を多くしながら相手の自尊感情に訴えかけることが重要になるでしょう。

例えば相手が野球のあるチームが好きだったとします。たまたま自分がそのチームが好きであればいいのですが、わからなくとも相手の話を一生懸命ニコニコしながら聞いていればそれが長時間にわたるほど、ウチの人になりやすいわけです。

否定や恐怖を相手に与えながら「これを買わないと大変なことになる」という営業方法よりもまず「ウチの人」になることが大切です。これらは「内集団バイアス」という心理学用語で説明できます。

(2) 印象形成
ただし、相手が何が好みか、どういった価値観を持ってそれに対して同一感情を持っているか知ることは難しいことです。顧客は「自分の好きなモノ、コトはこれだから、ここをほめてくれたら買ってみよう」というダイレクトな情報を与えてくれるわけではありません。

短時間顧客と接していて得られる情報は常に断片的、限定的なのです。そこで間接的な、雰囲気を含む情報から正しい印象形成をしてみることが大切になります。「この人はだいたいこんな人だろう」という判断は、判断材料が多ければ多いほど正確なものに近づいていきます。

いわゆる「直観」で相手を知るということは心理学的には正しい行為です。さて、その上で何を判断材料にしていくかですが、最も大きな判断材料とするべきなのは相手の性格であり、断片的であってもそれはばらばらの寄せ集めではなく、相手の持っている根源的な性格というものがその人の中核なのです。

したがって、ある程度は直観でその人を理解することはできますが、部分的なものであっても何が相手の性格を示しているのかということに注目することが必要になります。

この印象形成はまた、顧客から営業マンについても形作られています。「この人はどんな人なのだろう」と思って見られているわけです。そこでふっと隙を作って相手の気に入らない、ネガティブな感情を持たせてしまうとそこから進むのは困難になります。
初対面の印象が大切なのは「初頭効果」と言いますが、初めの印象が悪かったからといって全てダメというわけでもありません。

人間は最初に直観で相手を判断しますが、だんだんと馴染んでくると「最近の印象」が大切になってくるからです。いい印象形成をしてもらうためには常に相手にポジティブな感情を抱いてもらうようなイメージを作ってもらうことが大切になります。

(3) 顧客の自己効力感

人間誰しも自分が何かやった、成し遂げたという自己効力感情を持っています。そしてある行動を行う時、例えば購買行動がこれに当たるわけですが、どの程度その行動を行ったら自分が満足できるかという、結果予期による自己効力感が大切です。つまり、自分が行った事柄は正しい事であって、その結果として満足が得られたという予測をしています。

自己効力感の形成はいくつかに分かれますが、最もわかりやすいのは、自分が過去に行った購買行動、その営業マンから購入したことで成功をしたということが自己効力感を高めます。一度売れたからといって気を抜いて悪いものを売ってはならないということになります。

そして、代理的な自己効力感に訴えかけるのも大切です。人は自分が達成した効力感だけでなく、他人が同じことをして成功をしたという代理的な効力感でも十分に動くことが知られています。したがって、あまり露骨ではなく、さりげなく「この商品を買った〇〇さんは~という点で満足してくれた」という押しつけがましくない説得は代理効力感からそれを自己の成功体験につなげることに役立ちます。

「あなたにはできない」ではなく、できた場合にはこんなにいい事がある」という事をアピールするのが大切ということになります。

こういった説得は、直接的な説得でももちろんいいわけです。購買者は、買ったことでどんな満足感がもたらされるか、買うことに価値があるのかということについて興味を持っています。

したがって言語的な説得も自己効力感を高めるのに役立ちます。たとえその場では顧客が高価で買えないと思っていても「これが手に入ったらこんなにいいことがあるんだろうなあ」という情動を喚起することは、もしもAという商品が売れなくても少し価格が安くても品質がよいBという商品を販売することにつながる可能性は高いでしょう。

顧客は過去に自分が行った購買行動についてそれを頭ごなしに否定されてしまうと自己効力感はその時に一時的に下がってしまうので、リスクを伴います。以前にBメーカーから買ったという行動は正しかった。しかしこのAメーカーから買うともっと自分は満足できるだろう。という認知を持ってもらうことが大切になります。

(4) 相手が誇りに思っていることを知り、同調すること(認知不協和理論)

顧客は何についてプライドを持っているでしょうか。そのプライドを敢えて崩すようなことをするとともすると営業にとっては逆効果になりかねません。例えば人は車を買った後にまた車の展示会に出かけたり、車のチラシを熱心に見たりします。なぜかというと、自分が行った選択は正しかったと思いたいからです。人は自分が行った認知、そこから生まれてくる感情、そして最終的に行った決断による行動の不協和を嫌います。そこで顧客に対して「あなたが行った以前の購買行動は失敗だった」と言われることを嫌うのは、自己効力感理論に加えて認知不協和理論でも説明ができるわけです。

また、営業とは関係なくても人は自分が好きな物、事をほめられる、同調されると相手に対するポジティブな感情も高まります。売ることばかりを先に考えるよりも相手のことを十分に調べてその人が何についてプライドを持っているのかを知るのは大切なことです。
また、さきほどの自己効力感理論とは矛盾するようですが、人は高額なものを購入すると「これだけ高額だったのだから効果は抜群に違いないし、実際に効果を上げている」という認知の協和を求めるようにもなります。

一度販売に成功すると「この営業マンから買った物はいい物だ」という認知も働きますので、まずは比較的手に入りやすい安価な商品を販売していくことも認知の協和につながります。売ったら売りっぱなし、または次の物を何か売ることばかり考えるのではなく、売った後にきちんとしたフォローをしていくことも営業マンに対する評価や御社に対する良い印象を抱いてもらうことにつながります。

(5)どの相手も社会的に正しいものを求めている。その認識を評価して賛同する(社会的正当勢力)

BtoBを考えてみます。A社は大抵の場合、自分たちが作っている製品(提供しているサービス)は社会的に役立つものだという考えを大抵の場合持っています。
BtoCを考えると「長生きするためには保障が必要」だったり「子どもは成績がいいことが大切」という、当たり前ですが正しい社会的正当勢力は当たり前のことでもあり、社会的、文化的な常識の規範にもなっています。

したがってこれらの正当な考え方、正当勢力については同調をすることが大切です。そして人は自分が正当勢力の中にいると感じると安心感につながります。人は誰しも自分が行っていることに対して多少の不安は感じているものです。
そこで他者からの評価を参照にして正しいことをしていると思いたいのです。

ここで考えておきたいのは、何が正当勢力なのかという評価はその相手によって異なるということです。
「高くていい品質のものを求めている」のか「安くてもそれなりの価値のあるものを求めているのか」ということによって正当勢力は異なるということです。相手に十分に同調することについてまずは考えていきましょう。そして相手が持っている価値観に合わせるようなプランを提示することが大切です。

(6)キーパーソンを知ること。年輩者はポジティブ感情を持ちやすいということを知る

いわゆる「社長営業」について説明します。どんなに商品を売ろうとしても購入権限がない人にだけ気に入ってもらってもなかなか販売には結びつきません。購入の最終決定権は社長やその一家の長が持っていることが多いです。つまり年配の方が多いということです。

しかしこれが本当に真実かどうかは、実際にその相手のフィールドを見てみないとわからない事も多いです。若い女性が購買担当者で社長に購買の権限を一任している場合もあります。また、個人相手の営業の場合には一家の長は父親だから、というわけではなく、子どもが気に入るもの、子どもが気に入る人から買うということも十分にあり得るわけです。例えば保険商品のような、子どもには理解しがたい商品を販売する場合でも複数営業マンが来て合い見積もりを取っている場合には営業マンの人柄が販売につながっている場合も多いでしょう。心理学的には隠れた購入の決済者を知ることは大切なことです。

さて、実際の決済権者の年配者は社長や役職者であったり、個人営業では一家で最も裕福なことも多いでしょう。年配者はあまりにも役職が遠すぎて苦手だ、と思ってしまうとその先には進めません。

年配者はその仕事の経験を積み重ね、また、人生経験を重ねていることで自分に自信がある場合が多いのです。高齢者に近づいてきているから弱々しいという考え方は現在の社会では否定されていて、むしろ手厚く扱われていてどんどん尊敬の対象になっているという「エイジング・パラドックス」という考え方があります。すなわち現代社会では年配者は自信を持って生き生きとしているわけです。そういった方々に営業マンが及び腰でいてはなかなか売れないでしょう。気持ちに余裕がある年配の方にこそ営業マンがきちんと対峙して販売しようとする姿勢が大切になります。
 
(7) 終わりに

本稿では営業は心理学の応用であるという考え方から、営業マンが商品を売ると同時に、自分を売り込むことについても書いています。自分が相手に気に入ってもらえば購買行動につながりやすいのはよくあることです。また、売り方についても強引に相手の恐怖感や切迫感を高めて売るというやり方では一度売れたとしてもその次にはつながりにくいでしょう。それどころか無理やり売られたという気持ちやクレームにつながりやすいでしょう。

クレームは次の営業のチャンスにもなると言われていますが、クレーム処理にコストがかかることを考えると決して得策ではありません。相手の得になることを真剣に考え、次につながる営業の方が利益を上げやすいのではないでしょうか。営業マンは自分という人間の魅力を売ると同時に、社会的に正しいモノ、サービスである御社の商品を売ることが大切だと筆者は考えています。

※ 今回も編集済みpdfを記事にしていただきました。

BD4BCB11-1D6A-4BD1-AD5B-BCBE83C16B65

近代中小企業寄稿文

「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
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営業に生かせる心理学

1.顧客に信用される接触の仕方

⑴ 単純接触効果のもたらす信頼性

感情心理学者、ザイアンスは接触の機会が多ければ多いほど相手はこちらを信頼してくれるという研究結果を報告しています。

保険会社の女性が昼休みごとに笑顔でにこにこしながらなんということはないノベルティグッズを持って挨拶にやって来る、その行為そのものは大したことはありません。ただ毎日来ているだけで何ら特殊な能力も必要としません。ところが毎日のようにその女性が来ていることでなんとなく好意を抱くようになってしまいます。

さて、あなたが保険に入ることを検討するようになったとしましょう。この時代ですからネットの比較サイトで保険を調べて加入するのは簡単です。次々と電話がかかってきて、いかに自社の商品が優れているのかセールスをしてきます。しかし保険商品というのは専門的でわかりにくいところもあり、各社の電話のトークだけでは判断できません。そんな時には誰に聞いたらいいでしょうか?

そう、いつも来ている笑顔の女性に聞くことです。難しい保険商品についてわかりやすく説明してくれたらその保険に入ることを第一に検討する可能性は高くなります。

とは言え単純接触効果が逆効果になることもあります。それは無理強いして顧客に会いに行く事です。「近くまで立ち寄ったので挨拶に」とアポなしで顧客が忙しいのに無理やり会いに行ったのでは逆効果です。

単純接触効果は営業では有名な「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」にも応用できます。つまり一度ドアを開けてしまうと「ドアを開けた」という顧客の行為は主体的になされたものですので、そこですぐにドアを閉めるようだと相手は自分が行った選択を自分で否定してしまうようなバツが悪い感じの「認知的不協和」が起こります。ポジティブな単純接触を繰り返すことは有効です。

そういった地道な活動が顧客の認知を協和させて、そしてセールストークを開始することにつながるのです。

⑵ 営業マンが与える第一印象とは?

第一印象が相手に与える効果というのは大切なものです。高い服を着ていてもそれがよれよれで体にフィットしていない、また、清潔感がないなどの身だしなみは重要です。サイズが合っていない高い服を着ているよりも、UNIQLO、しまむらでも身体にフィットした服を着ていると相手に好印象を与えます。

人間は相手を判断するときにその人が発する言葉、例えば「いい商品を持って来ましたよ。この商品のいい点は…」という言語内容にはほとんど注意を払っていません。

言語は相手を判断する際にわずか7パーセントしか正否の判断材料になっていません。

初対面の人が相手を判断するのに最も重視しているのは声です。そして次に見た目です。(メラビアンの法則)見た目といっても顔がいい、スタイルがいいという意味ではありません。

売れる営業マンは声が明るくて張りがあり、笑顔で清潔感があります。売れない営業マンを売れる営業マンがOJTでトレーニングすることは常に有効でしょう。

こういった第一印象が対人魅力になるのです。それでは対人魅力はどのように作られるのでしょうか?

⑵ さまざまな対人魅力

どんなに商材が優れていてもそれを売る営業マンの魅力がなければ販売することは難しいです。

最初の印象は初頭効果というのですが、どんな初頭効果を与えることが大切でしょうか?男女の仲でも同じ事が言えますが、最初はお互いに似ているところがあると「類似性」に引き付けられます。

例えばゴルフが趣味ということが共通している、インドアでも同じ映画が好きで話が合うと相手はこちらに親近感を抱くでしょう。

しかしいつもいつも同じことばかり話しているとどうしても飽きが来ます。そこで役立つのが、お互いにはないものをお互いが持っているという「相補性」です。顧客が興味を持っていて、こちらが今まで触れたことがない世界があればそれを熱心に聞きます。

また、顧客がこちらの話を面白がって聞いてくれるのならばそれを話すことも大切です。

これは頭の良さが関係しているのではありません。知能が高ければ売れる、というわけではなく、知能指数(IQ)に対して情動指数(EQ)が大切ということです。

相補性は正の相補性は大切ですが、相手が物事を知らないからと思い込んであたかも教え諭すような態度を取ってしまうとそれは「負の相補性」になってしまいます。

「いい会社から来て恵まれている営業マンだ。物知りのように上から目線で何でも話をしてくる」とこれは逆効果になってしまいます。したがって常にワンダウンポジションを取って相手を立てることは大切でしょう。ワンダウンしながら相手に合わせて(ジョイニング)、しかも正の相補性の魅力を打ち出していき、顧客の心をつかむ。

難しそうに見えますがこれが相手の気持ちをこちらに引き付けるコツになります。

最初の印象が相手に悪かったかもしれないと思っても、それを気に病む必要性はありません。むしろそれは自分の印象を管理する、印象管理の上で大切な武器になります。

人は最初の印象が悪くてもだんだん印象が良くなれば大きな魅力を相手に対して抱くようになります。

逆に最初の印象が良くても次に悪い印象を与えるようなことがあると悪影響がありますので、最初にいい関係が築けたのならばそれを続けていくことは大切です。

⑶ 好意の返報性の原理

笑顔の営業で上記に述べたような営業の心構えを実行していくとそれは相手への好意につながります。

人は好意を示されれば示されるほどその気になり、何か好意を好意で返さなければならないという気持ちになります。これが返報性の原理です。

「売る」「売らなければならない」「売り込む」と商材や営業成績のことばかり考えているよりもまず自分の好意を相手に対して注いでいくことが大切です。

営業マンにはさまざまな個性があり、自分が持っている個性を大事にすることも大切です。

営業マンで口下手な人は数多くいます。かつて自動車のセールスマンでトップセールスマンがいました。

彼は赤面症でどもりがちで、いつも緊張していて額に汗をかいていました。その営業所には立板に水のようなセールストークが上手な営業マンがいましたが、その営業マンよりも彼の方が成績が良かったのです。

なぜかというと、お客様はすらすらといかにも「売ってやろう」という営業よりも、彼の一生懸命、額に汗しながら本部と交渉をして値引きをしたり、サービスを一生懸命にしてお客様にいい見積もりを出す営業方法を好んだのです。

もちろんきちんとした商品知識があることは前提ですが「自分はコミュ障だから売れない」と思うよりも、どもりながらでも一生懸命に話すことが大切なのです。話せなければ営業にはなりませんから、下手なコミュニケーションと思っても相手に真剣に伝える姿勢が大切ということです。

⑶ 自分の「印象管理」だけでなく企業、商品の印象管理も大切にして効果的な説得を

心理学を生かした営業テクニックはさまざまにあります。人は馬鹿げたことを言われると全く信じずに一笑に付してしまいます。

いわゆるデマなどがそれに当たります。しかし自分の信念と違うこういった噂は時間が経てば経つほどなぜか信憑性を持って人に信じられるという「スリーパー効果」があることが知られています。

「こんな高価なものは買ってくれないだろう」「うちは有名企業てはないから」と及び腰になってしまうより、難しいと思われるチャレンジをまず最初にしてみることは大事です。

売れないだろうと思って最初から説得を諦めたような態度よりも自信を持った態度でいる方が企業と商品、双方の魅力をやがて高めることになります。

さきほど述べた「認知不協和理論」に似ている概念に「接種理論」があります。何でも相手に対して「イエス」と言ってもらう「イエス・セット」を作ることです。

「朝、歯を磨きますか?」→イエス
「お風呂に毎日入りますか」→イエス
「食事はしますか?」→イエス

当たり前のことについて相手に常にイエスを言ってもらうと、ついにはその人が嫌っている予防接種も健康にいいから、ということで「イエス」を言うようになります。

営業マンは対人魅力価値を自分に身につけるという印象管理を行いながら企業を魅力あるものとして売り込むことは十分に可能です。

最初に自分ありきで良いのですが、自分に魅力があるというポジティブな印象管理ができてこそ、そういった営業マンがいるという企業は素晴らしいと思わせることができて、最後には商品に対する信頼性を持ち、購入するという購買行動につながるわけです。

したがって最初からまずは商品を売ろうとしたらそれは順序が違う場合も多々あるということです。

良い人間関係を顧客と築くことこそ良い返報性の原理の成立を可能にして、一見遠回りに思えても顧客が営業マンから購買したいという気持ちにつながるのです。

営業マンというのはともすると自社の商品のいいところしか言わないと思われていますし、実際にそうしている営業手法は多いでしょう。

⑷ 両面提示の法則

しかしそれで本当に結び付きの強い信頼関係獲得を得られるのでしょうか?

セールスマンがメリットばかり述べていれば「ああ、この営業マンはやはり売りに来ているだけなんだなあ」と思い、警戒されてしまうだけです。

そこで知られているのが、よくマーケティングで使われている「両面提示の法則」です。デメリットも説明しながらメリットも説明していくということです。

美容、ダイエットなどの広告は数限りなくネットの上に見受けられます。GoogleやYahoo!にお金を払ってリスティング広告を出している企業も星の数ほどあります。

そこで消費者の側としてはどれをいいのか不安になり、例えばA社のダイエット食品広告を見ます。そうすると当たり前ですがA社のいいところしか書いてありません。

そうすると「それでは実際のところはどうなのだろうか」と「A社 効果ない」「A社 高いだけ」等のネガティブキーワードで検索をかけます。

しかしそこはA社が先回りをして悪い口コミの記事を探しても、十分なSEO対策をしてA社が作成したサイトしか出てきません。

そのサイトには何人かの「体験談」のようなものが掲載されています。A社の製品は悪かった、というものが数例、A社の製品が良かった、というものが数例、そして最後にはその口コミをまとめた記者が「A社には悪い口コミもあったけれどもいい口コミもたくさんあった。だから○○という記述を信じてA社のものは効果があるのではないでしょうか?」と結ばれています。

これは確かに両面提示をしているので、一見有効なように思えてしまうので、半信半疑でも藁にでもすがってダイエットをしたい人はそれでも買ってしまうかもしれません。

では実際の営業の現場ではどうでしょうか?大抵の顧客はネットで何もかも調べて商品に十分な知識のある層だと仮定しておいた方がいいでしょう。

あるいは営業マンが一度帰った後に集中して情報収集をします。(だからこそ引っ越し会社などは「ここで決めたら5千円値引き」などの早期決定割引サービスをしているわけですが)

営業マンは、顧客がこうした都合のいいリスティング広告や、ネット上の表面上の両面提示を信じないと思っていた方がいいでしょう。顧客が知りたいのは本音です。したがって顧客は、自社の強味と弱味をはっきりと言ってくれる、そして自社よりも顧客の利益をきちんと考えてくれる専門的なアドバイザーを求めているという事実を知っておくことが必要です。

営業マンと顧客は長い付き合いになるかもしれません。もしも今回は営業マンが与えた正確な情報から他社のものを小ロット購入したとしても、その情報をくれた、商品に関して専門的知識を持つ専門家とみなして今度は多くの自社製品を買ってくれるかもしれません。

これが上記に述べた「返報性の原理」にもつながるのです。営業マンは損をしても顧客の利益をよく考えてくれた、そうすると顧客は自然と恩返しをしたいと思うものです。長い目で見て何が得なのかというと、それは営業マンと顧客の信頼性という、強い絆なのです。

⑸ おわりに

どの営業の心理学も大切なことです。もう一度自社の営業マンの姿勢を見直して見ましょう。中小企業の経営者は自らが営業をすることが多い、または営業マン出身のことも多いでしょう。そうでなくとも経営者というのは現場の第一線に立っていなくとも自社商品の強味を知る最高の営業マンです。

こういった営業の心理学はごく当たり前に思えることかもしれません。そうだとすればそのとおりに物事が運んでいるかどうか詳細に点検してみることは役に立ちます。

そして実際の営業現場というのは多くの複雑な要因が絡んでいて、原則どおりには物事が進まないことも筆者は知っています。

それだからこそ多くの営業の心理学的法則を知っておく、再認識をしておくことが大切に思えるのです。
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