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◯ 海上保安庁臨床心理士・公認心理師

海上保安庁職員の仕事は映画「海猿」で広く知られるように、海上、海中での人命救助、そして「海の警察官」と呼ばれるように不法行為者に対する逮捕権も有しています。

東日本大震災でも人命救助を多数行い、膨大な遺体収容も行い、いわゆる「惨事ストレス」に晒されることになる仕事です。

海上保安学校(一般職)、海上保安大学校(幹部養成学校)と分かれていて、警察官と同様、階級社会でのストレスもまた大きそうです。

さて、警察の心理警察官は非常に数が少なくなかなか職員のメンタルヘルスケアまで手が回らないと心理警察官から直接聞いたことがあります。

海上保安庁も調べてみると大学教員をしながら臨床心理士・公認心理師としている外部カウンセラーを導入して職員のメンタルヘルスケアに当たっているようです。

「惨事ストレスcritical incident stress」は元々米軍がベトナム戦争でこうむった心的外傷から研究が進んだようです。

戦争から帰還した米軍兵士が反戦運動盛んなアメリカ本国で大衆からまるで戦犯のような扱いを受けたことからPTSD症状を起こす帰還兵が多かったと聞きます。

反面、海上保安庁や医療現場で救命に当たっている医療職がトラウマ反応を起こしにくいのは、使命感と高い達成感、チームでポジティブな目的に向かっているという連帯感が強いからとも言われています。

惨事ストレスや救急救命に対処している救助・救命者がメンタル面で具合が悪いとなれば、通常の心理面接なら「ゆっくり休んでいたらどうでしょうか?」となります。

ところがもしメンタルダウンした医師が治療を途中で離脱したため、患者さんが死んでしまったとなれば激しく後悔することとなるでしょう。

いったん退く、しかしまた戻れるようにする、一般のカウンセリングとは違った原理が惨事ストレス対処には求められているのです。

保安・公安職のストレスは並々ならないものがあります。

何か起これば24時間対処、元々公務員には労働三法の適用は限定的にしか適用されていないなのですが、公安職の置かれているはさらに厳しい状態に置かれます。

災害で孤立した被災者の救命は一刻一秒を争います。

「公務員だし週休2日だから休みまーす」とは行かず、連続2週間の勤務も災害の際にはあると聞きます。

以前そのあたりの保安職員のカウンセリングをしている大学の先生の講義を聞いたことがあるのですが、税関もかなり厳しい職業環境だと聞いています。

総じて逮捕権や強制執行力を持つ司法警察員(警察官に限りません)の受けるストレスは日常的にかなり強いようです。

さて、それでもまだメンタルケアにおけるセーフティネットを作ろうとしている公務員は恵まれていると思います。

小売・外食業界は厳しい状態にあると聞きますが、ストレスチェック制度のハイリスク業種では13.6パーセントと全業種の平均値と全く同じ数値でした。(平成29年調査・30年発表〕

高ストレス者の割合は業種別では、製造業(16.7%)、農業・林業(14.8%)、情報通信業(14.0%)が高いです。

情報通信業が多いのはよくわかります。

プログラマーは午後出勤、始発まで仕事をして一旦帰宅してまた出勤するという勤務形態はいかにもメンタルヘルスに悪そうです。

学生の人気企業、大手データ通信業ではカウンセリングを導入していてもなかなか社員のメンタルコントロールが難しいと聞きます。

小売有名ファストファッションチェーンは大卒後年収300万円店長に店舗運営を任せ、燃え尽きて離職まで半年、つい最近半年よりやっと伸びたと公表していました。

新進の通販、不動産、保険、金融などを行っている楽◯もかなり厳しいと聞きます。

思うにストレスチェックで高得点を出す製造業は保健システムが整備されているので問題を抱えている社員が退職もせず、発病前、発病直後にメンタルケアを受けられるので安心して申告、高得点となっている可能性も高いです。

民間の中でもいわゆるブラック企業はどんどん従業員が退職しているのだろうと思います。

「公務員だからラク」なわけではありません、

保安関係に限らず公務員全体が受けているストレスは多いでしょう。

霞ヶ関総合職は果てしなく仕事をしていて本省・本庁の明かりは24時間消えることがありません。

働き方改革を担当している部署の係官がきちんと休めているのだろうかとも思います。

保安関係だけでなく、公務職員のカウンセリング担当心理職は、それほどクライエントさんが来ないので「問題が少ない職場だなあ」と思っていることがあるかもしれません。

実際には上司-部下関係の間のラインケアをがっちりとしていてそこで問題解決していることが多いです。

また「職場のカウンセラーだと秘密を守ってくれないかもしれないから」病院など外部機関に相談している場合もあるでしょう。

そういった懸念はある程度本当のことです。

心理職には安全配慮義務があります。

精神的にひどく不安定なクライエントさんに大型トレーラーの操作をさせていたら大事故、大惨事になる可能性があります。

カウンセラーも守秘義務と安全確保との間の線引きに迷うことがあるでしょう。

保安関係は人命救助、秩序維持だけでなく、操作が難しく、一歩誤ると機械、機材の扱いが伴います。

大きなミスは、さまざまな人々を巻き込む、公務員や建設、運輸業務は一歩間違えると災害を引き起こしかねません、

官公庁で産業医が常駐していない小事業所も多いです。

産業現場で働く心理職はカウンセリングをするだけでなく医療に「つなぐ」役割も期待されることが多いでしょう。

その中で福祉的なケースワーカー役を行うこともあり、心理職が1人職場で常に困難さを感じていることが保安職員に対する役割の一部となっている場合が多いと考えているのです。