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◯ 公認心理師・臨床心理士は数学ができないと給料が安い?

AERAの3.23号が手元にあるのですが「入試でも仕事でも数学は捨てるな」というタイトルの特集記事があります。

早稲田政経入試が数学を必須科目にしたこと、メガバンクや大手生保が理数系出身者が増えてきている事が取り上げられています。確かに生保会社は東大ほか有名大学数学科から保険数理人(アクチュアリー)を採用しています。

アクチュアリーの仕事は高等数学を駆使するもので、加入者の掛け金、各疾病の発生率、企業としての経営が成り立つ数値を緻密に計算して他社よりも魅力的かつ保障が充実していると顧客が満足できる保険商品を設計しなければなりません。

数学科学部卒のアクチュアリーはかなり以前から採用されています。東大、京大、早稲田理工等有名大学出身者しか採用されていないのですが、各企業は建前として、学歴でアクチュアリー採用試験をしているわけではなく、数学の入社試験を課してたまたま優秀な成績を取った学生が有名大出身と言っています。

AERAでは将来的に、MARCH以上の大学でも数学必須となる可能性についてを指摘しています。考えてみれば、経営、経済、商学部は数理を使う近代経済学や統計、簿記等を扱うわけで、私立文系だからといって数学と無縁でいられるわけではありません。

さて、公認心理師、臨床心理士試験は統計科目が必須です。現在出題パーセンテージはそれほど高くありません。公認心理師法は研究を業務として規定していないにもかかわらず、試験問題を見ると自力で研究活動ができる基礎的知識取得を要求しています。

心理系大学院の修士論文では、国文科や英米文学科ではないので、読みました、こうでした、という文献研究のみの研究論文はまず認められません。院試で研究計画を出させる大学院も多いのですが、筆記試験がいくらできてもきちんとした研究計画が出さないと合格できない大学院は多いです。

さて、前述AERAでは数学受験で経験した人はそうでない人と比べて90万円年収が高いという結果を掲載しています(数学が必要な大学は難関だから就職がいいかもしれないというだけの話かなと思いながら読んだのですが)。

心理職がカウンセリングをする、心理検査をする上では心理検査の計算はしますが、それは数学ではありません。心理職は「科学者ー実践家モデル」だと現任者講習でも叩き込まれます。統計数理的な研究でないと研究として受け入れられませんし、論文を提出しようとしても偉い先生方の査読で撥ねられます。

文献研究でも全くダメということはないのですが、例えば文献データベースを利用してあらゆる心理学の論文の中に例えば「倫理」がどの程度重視されていて倫理のどんな側面が強調されているかを統計処理します。

量的研究と対比される質的研究TEM手法もありますが、かなりしっかりとした研究設計をしてコーティングを行うというレベルの高さが要求されます。

さて、心理学の研究を極めて次は博士号を取ろうとした際に、臨床心理学、医学博士、教育学博士を取る人もいますがどれもレベルが高い統計処理研究が必要と思われます。

大学教員になれれば確かに収入はアップしますが、そのためには独自の着眼点と研究業績の積み重ねが必要です。

医療の現場で働いているから関係ないや、と考えていると大病院では医師、看護師と共同研究することもあり「なんで心理の先生は統計ができないの?」と思われてしまいます。下手をすると採用されないかもしれません。

また、保健師はデータの集積をアウトプットしていくので統計には強いです。大企業で産業医と働く保健師は健康に関するデータを使って健康教育をしますが、心理職はできません、だと対内外的にあまりよろしくない可能性があります。

EAP従業員支援プログラムを各企業にプレゼンする際、弊社のメンタルヘルスプログラムを導入した結果、これだけの数の企業でこれだけのメンタルダウンする社員が減り、企業にとってはコストパフォーマンスが高いです、というパワーポイントを使った説明にも数的処理は必要です。

開業心理職は数字との戦いでもあり、事務所の家賃、人を雇うこと、損益分岐点を計算するのは勘だけではなく簿記の知識があった方が便利なわけで、確定申告の度に会計士や税理士にお願いしていたらそれだけ支払いが大変になります。成功率数パーセントのベンチャー起業は課題が山のようにあります。こういった課題の解決ができたら開業領域には相当役立つでしょう。

AERAの特集にも書いてありましたが、これからはビッグデータ分析、AI化はどんど?企業内で進んでいきますし、そうした手法を身につけていかないと企業人は生き残れなさそうです。医学は膨大な症例をビッグデータ化しようとしています。情報集積は精神医学でも臨床心理学でもデータベースの構築が可能になります。コクラン共同計画(現在COVID-19により世界中の論文購読絶賛無料大解放中)のようなエビデンスデータベース集積の日本版も可能になります。

カウンセリングはひたすら対面で相手の話を聞いて満足をしてもらうもの、それは確かにそうです。ただ、認知行動療法はほぼ全て統計的エビデンス、証拠に基づいて研究を進めているのでアメリカでも日本でも保険点数化は早かったです。

河合隼雄先生ご存命だったころはエビデンスだけでない、心の世界が今よりは重視されていたような気がします。これまで統計化されにくかったナラティブ、物語的な(社会構成主義)心理療法は統計的検証が行われていくと次第にその効果の有益性が認められていくかもしれません。

心理職の世界は「あの人は良くなってよかったね」で終わることが多いのですが、なぜうまく行ったのか、どんなアプローチが有効だったのか説明することができればなお良いと思います。あまりそれを好まない謙虚な人も多いでしょうけれども、ある心理検査の科学性、例えばEMDRのようにエビデンスが確立しているものだけでなく、心理職の存在意義を説得力のある科学性で説明することができる人は能力があると見られるでしょう。

発展しつつある膨大な量の数理的データ処理、仮説検定、AI戦略は臨床心理学に対しても新たな側面を提供する可能性があり、そこに馴染んでいくことがこれからの心理職の能力として試される可能性があります。心理職という人種は有益だという認知が広がれば待遇もより良いものになる可能性があるということです。

photo by sora

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