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どうしてカウンセラーが恋愛感情をクライエントに持っちゃいけないの?

昨日の記事の続きです。結論から言えば倫理的には持ってもギリギリ構わないかもしれませんがもうそれはカウンセリングではありません。クライエントさんに対していい結果を及ぼすことは何もありません。むしろ有害なカウンセリングになる可能性が高いでしょう。

誰かが昔ツイートしていましたが、経験の浅い心理職の男性がふわっとした華やかでニコニコ笑っているいい匂いのする 20代の美しいクライエントが目の前にやってきて、そのうち「私だけが知っている私の苦しさや私の秘密」をカウンセリングなので当然話し始める。

それがカウンセラーだけに縋り付いてきたらその男性は恋愛感情を持たずに済むでしょうか、というものです。

目の前にいるクライエントさんが生まれて初めて信頼できる人を見つけて、全身全霊をあげてカウンセラーにすがりついてきます。あなたはまるで白馬に乗った王子様のように見られています。そのクライエントさんはあなたのことを神格化していて、まるで教祖様のように信じ込んでいるわけで、あなたに気に入られるためならば何もかも投げ出したいと思っています。

たとえそれが自分の貞操であったとしてもです。ここでその男性カウンセラーが誘惑に負けて彼女を(心的にでも)好きになってしまったら、そこで真っ当な関係性は終わりです。

彼女はカウンセラーを翻弄したくて誘惑しているわけではないのです。今まで生きてきた不遇な環境、または彼女の病理性そのものがそうさせているとしたら?カウンセラーがそれに乗ってしまったらそれはカウンセラーとして失格です。

そのカウンセリングにおいて「キレイなクライエントだよね」ぐらい思うことはあるかもしれませんがそれを超えた感情を持ってしまうと、まともなカウンセリングにはもうなりません。

彼にとってはカウンセリングという行為そのものが彼女との間だけの密やかな愉しみになります。

彼はカウンセリングをしていない間、彼女のことばかり考えていて、とても胸が締め付けられるような思いをしています。あの子は大丈夫だろうか、苦しんでいないだろうか。こちらから連絡をしてみようか。

実際にしてみることもあり、その結果彼女が彼を好き好き大好きにならないと恨みさえ感じるようになります。

こうなったらまともなカウンセリング関係は終わりです。

この「告白命題」について駆け出しの心理職から「ひなたさんだったらどうするの?」と聞かれました。

1.自分がクライエントのことを好きになってしまったら?

カウンセリングを他の人に交替してもらいます。

2.自分がスーパーバイザー(指導者)でスーパーバイジー(被指導者)が「好きになってしまった」と言われたら?

そこは正直さを買うでしょう。ただしケース担当は交替してもらいます。カウンセラーとクライエントさんを守るためです。

3.自分ががもう告白してしまったら?

心理職を辞めます。世の中には心理以外にも生きていく方法はたくさんあります。心理の仕事をやる資格はないと考えます。その結果がフラれたとしてもです。

4.「告白した」とスーパーバイジーから言われたら?

ここは冷たく「心理の仕事はやめなさい。君には心理の仕事をする資格はない」と言います。見放す、ではなく見捨てます。

追い詰められたクライエントさんはカウンセラーに何もかもを与えようとします。もし彼がそのまま心理職を続けたとします。彼はまた素敵な人が目の前に現れてまた彼を神格化したら好きになってしまうのでしょうか?なるかもしれませんね。彼にとって倫理というものは紙のように軽いのですから。

理想化の次にクライエントさんが行うのは激しい価値下げです。彼はカウンセリングをしていない時は普通の人間です。完璧ではありません。彼女はカウンセリングルームにいる時のような完全体の彼を求めているのです。

彼女からの激しいこき下ろしが始まります。(例え境界性パーソナリティ障害の患者さんでなくともそのようにカウンセラーから追い込まれてしまった)この理想化とこき下ろしは境界性パーソナリティ障害を持つ人に起こりやすいのですが、カウンセリングのやり方によっては全てのクライエントさんが境界例的になり、持たなくてもいい病理性を現出させることになってしまいます。そうやって彼は彼女の病態を悪化させてしまうわけです。

彼はやがて見捨てられ、彼女は他の男のところに行く可能性もあります。その時にはきっと向いていない心理職は辞める、辞めさせられていてマイナスの資産しか残っていないことになるでしょう。

考えてもみてください。この彼の前に座ってにこにことしている可愛らしいクライエントの女性はいわばかなり経験を積んで虐げられた過去を持っていたり、病気に苦しめられていた人で、それは彼のカウンセリングの経験年数をはるかに超えています。

そこで彼が真正面から勝手に翻弄されて「好き」になってしまったら彼女に凌牙されてしまうだけです。

例えば境界性パーソナリティ障害の人は他人を操作することに長けている、だから気をつけなければいけない、とまるで患者さんを悪者にするかのような言説がありますが、患者さんは自分を守るためにそうしたスタイルのコミュニケーションスタイルを必死になって身につけざるを得なかっただけです。

なんにせよ恋愛感情を持ち、それを口にして実行すること、そこで行われてきた営みはもうすでにカウンセリングではなかったでしょう。

この「告白命題」は多くの人がこんなことはあり得ないということを言っています。それは心理職の人でなくてもです。心理職が一線を踏み越えてしまう事は他の心理職が連綿として築き上げてきた臨床心理の倫理と専門性を踏みにじる行為だということも知っておいて欲しいのです。

photo by ᴷᵁᴿᴼ' @PhotoKuro_