2783180F-A8A1-4BE0-8951-AF51F40BA1F3

◯ 公認心理師法第42条2項「主治の医師の指示」再考

公認心理師法では公認心理師は全て「主治の医師の指示」を受けなければならないとありますが、この条文自体が他法律と照らし合わせ、適切性が疑われるのではないかという可能性について指摘します。

法律は憲法=最高法規、そして民法、刑法が上位法としてあり、あくまで公認心理師法はその下位法です。

憲法上で考えると

〔国民たる要件〕
第十条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
〔基本的人権〕
第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

カウンセリングを受けたクライエントさんが公認心理師によって勝手に守秘義務違反に当たりそうな秘密を医師に話さなければならないということは、クライエントさんにとって基本的人権の侵害に当たらないか?

第十三条の「幸福追求権」個人としての権利は尊重されるものであるという視点からも問題はありそうです。

第十三条はクライエントさんや患者さんの自己決定権とインフォームドコンセントを定めているものと理解できます。

〔個人の尊重と公共の福祉〕
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

クライエントさんが主治の医師への報告を拒否した場合、無理に報告すればそれはインフォームドコンセント違反になるでしょう。

そして民法第一条の「信義誠実の原則」に公認心理師が従って秘密を守れるかという点にも疑念があります。

(判例)

東京地方裁判所「カウンセラーが面接により知り得 た相談者の私的事柄等を無断で書籍に記載したことについて、守秘義務違反として債務不履行責任が認めら れた事例」
平成7年 6 月 22 日判決

もあります。

また、民法709条、不法行為「故意または過失によって他人の権利を侵害」は公認心理師にとってどこまでクライエントさんの権利と主治の医師の指示遵守規定と拮抗するわけです。

精神的な損害や病状の悪化が発生した場合、刑法典での傷害罪、民事上の損害賠償義務も当然に発生します。

「主治医に報告したらこのクライエントさんは死んでしまうかもしれない」のに報告して死んでしまったらそれは未必の故意となり違法性阻却事由にはなりません。

公認心理師に求められる注意義務は、一般人が「ま、なんとなく大丈夫だろう」という軽いものではなく、高い専門性を持つ専門家が当然に予見可能だったことについて適用されます。

ここで主治の医師の指示が公認心理師法で定められているので報告、指示をそのまま100パーセント行い、しかも患者さんの不利益にならないようなインフォームドコンセントが必要になるわけです。

主治の医師に報告する前に診断名や心理的・身体的特質がわからない患者さんの全てを把握して質問をしなければならない義務も生じるでしょう。

もし医療過誤事件、カウンセリング事故による患者の死が発生した際、「それは主治医の了解を取ったから」という言い訳は「なんで勝手に秘密を漏らしたの?」という訴訟が起きたら公認心理師が敗訴する確率は濃厚にあります。

原告の患者、その家族が記録開示を求めても事実が明らかになりにくいので
そうすると医療者側が「一応推定」で原告側に有利な裁定や判決が下ります。

平成12年にはエホバの証人判決で輸血を同宗教の教義に反して十分にインフォームドコンセントを行なっていなかったことについて最高裁で医療側が敗訴しました。

厚生労働省のガイドラインでは主治の医師の指示を仰ぐことは、それを行うことについて十分にクライエントさんに説明、ただし患者さんが納得していない場合には懇切丁寧に説明をするとありますが、そこでも患者さんが納得をしていない場合、どうすればいいのかという指針はありません。

こういった矛盾を孕む42条2項の規定が今後どのように運用されていくか、どこからどういった指針が示されるかについては注視しなければならない課題です。

参照、参考文献「精神科医療事故の法律知識」(星和書店 深谷翼著)