ひなたあきらのおけまる公認心理師たん

新制度公認心理師の検証をしばらく続け、この制度がよりよいものになるための問題提起を行いつつ、カウンセリングの在り方について考え、最新の情報提供を行っていきます。ほか心理学全般についての考察も進めていきます ブログ運営者:ひなたあきら メールアドレスhimata0630★gmail.com(★を@に変えてください。)

タグ:司法

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司法・犯罪領域の臨床心理士・公認心理師

1.緒言

この分野で働く臨床心理士・公認心理師は数が限られています。僕もごく若いころこの領域で働いていたことがあります。その時司法は特殊な分野と思いました。この領域では多くの人々が臨床心理士・公認心理師資格を持っていなくとも活躍をしています。

司法は心理職が働く分野として大切な領域ではありますが、決してメジャーではなく、公認心理師試験の出題領域に結構大きな比重を占める割合で出題されているのになんとなく違和感がありました。

そしてこの領域で働く心理職の特徴について考えてみました。割と綺麗事ばかり並べている官製の文章はどこのサイトでも見られるのですがその「本音」についてです。

2.本論

僕が尊敬している依存症治療医の松本俊彦先生は「またやっちまってよー」と薬物中毒患者の再行動(スリップダウン)について許容していかないとその数は減らないものだという論調です。

依存症は何の依存症でも(物質・ギャンブル・買い物)同じですが依存症患者さんはスリップすることがあります。それを責めてばかりいてはならないだろうと僕も思います。

そして心理職が働く機関によってこのスリップは全く別物に扱われます。

例えば医療機関であれば通常医療機関から司法機関からへの通報はしない。これは上記に述べたとおりの理由からです。医療機関で薬物検査をすることもなければ「1カ月前にやっちゃって」という「言動」に「証拠」が取れるわけでもありません。

しかしながらこれが司法機関や、国民の安全を守るべく保安機関で勤めている心理職ならどうでしょうか。まだ証拠は十分に取れるほど使用から時間が経っていない時、心理職としてはかなり葛藤することでしょう。

こんな話を聞いたことがあります。とある自助グループでは長年依存症から脱しているリーダーが、まだ依存症から抜け出していない新人に対して「だからお前はダメなんだ」という厳しい言い方をしました。

依存症患者さんはその自助グループに入る前にやめられない自分を責めに責め抜いていて勇気を持って参加した。

そしてさらに他者から責められたり、自分でも罪悪感を強く持っていると「ああ、俺はどうせダメな人間なんだ」と思うと自己肯定感がひどく低くなってスリップするのは容易にわかります。

認知行動療法の一形態、なごやかな雰囲気でグループで依存症から抜け出すためのミーティングを行うSMARPPがこういった依存症治療には多く使われていますが、難しいのは犯罪についてです。

例えば窃盗癖、クレプトマニアについて言えばうまく盗めた際には性的絶頂にも匹敵するような快楽を覚える人もいるようですし罪悪感が欠如している人もいます。

第2回公認心理師試験にも出題されたRNR理論は「犯罪の重さによって適正な処遇をする」というもので、これも犯罪矯正理論の一種です。

例えばジャン・バルジャンのようにパン1個盗んだだけで重大な刑に処せられたら世を恨み再犯率が高くなりそうですし、逆に重大犯罪に軽い刑を与えたら、「大したことはない」と、これも再犯率が高くなりそうです。

また、最近ではGL(GOOD LIFE)理論も主流のひとつとなっていて、更生対象者に安定した仕事を与えて家庭が持てるような環境を整えれば再犯率はぐんと低くなるというものです。

GL理論は被害者からするとたまったものではないと思いがちですが、更生を目指す対象者についてを考えるとひどく納得できる理論です。

さて、上記SMARPPについて考えてみます。こと難しいのは性犯罪についてで、こと小児に対するものは1人の犯罪者当たり数百人の被害者が暗数としてあるということが調査されています。

筑波大原田隆之氏は自分に任せればSMARPPも援用して再犯率は激減すると豪語していましたが、それは正解なのでしょうか?

多分原田氏と僕の見解は結果的に共通するところがあるのですがRNR→ SMARPP→GLという流れが合理的なのだと思います。

司法矯正領域にかかわっていて思ったことは、悲しいかな、犯罪を犯すような対象者は犯罪を起こすような家庭に育ち、少年のころから非行集団葛藤的下位文化に接し、満足な教育を受けずプロ集団の犯罪的下位文化(Cloward,R.A&Ohlin,L.E)に染まっていくという分化的機会構造理論がそのまま当てはまる環境にいるということです。

原田氏の論調の犯罪を疾患の一種としてとらえるという考え方にも僕は賛同するのですが、司法矯正における原田氏の手法がかなり有効だという発想法には大きな危惧を覚えます。

犯罪は繰り返される可能性が高く、心理療法はあまりにも無力だということを若いころに僕は知りました。

どの犯罪者も「はい」と答え「反省しています」と言う。「何を反省しているの?」と聞くときょとんとした顔つきをします。

砂を噛むような思いをし、賽の河原で石を積み続けるようなかなりの脱力感を抱いたのを覚えています。

そしてこれは更生したがっている対象者にも共通していて、スティグマを背負ってなかなか更生できないでいるものだと。

3.結言

どの領域で働く心理職にとってもクライエントさんに対して必ず有効で100パーセント快方に向かわせる心理療法はありません。こと司法矯正領域で働く心理職はそれを痛感していると思います。

ただし、1人の加害者を構成させれば数限りない被害者のトラウマケアに割かれる社会的資源が減少するということを自覚する必要があるのだと、わがことを振り返ってそのように思うのです。

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法務省矯正心理専門職から公認心理師を目指す・公認心理師資格を生かして矯正心理専門職になる

法務省矯正局から矯正心理職と法務教官、保護観察官の募集が出ました。

パンフレット

また、これは
法務省専門職員(人間科学)採用試験

にも掲載されています。
パンフレットにあるようなインターンシップは残念ながらコロナの関係で中止となっています。

この矯正心理専門職についてですが、少年院、刑務所では行動科学専門家として受刑者の矯正プログラムにかかわったり、また少年鑑別所では非行少年の心理面接や心理検査を行い、処遇意見を家庭裁判所に対して提出するという、加害者臨床についての家裁調査官と並んで司法心理職の専門家としての働きが期待されています。

この試験には院卒区分と大学卒業者区分について行われているわけですが、昨今の矯正局の採用方針を内部の情報から聞くと、公認心理師有資格者は心理専門家としての知識を身につけた意欲がある者として採用を積極的に行っていく方向にあるようです。

また、大卒者は厚生労働省が定める公認心理師法第7条第2号に認定されていて、ルートFを通じて公認心理師試験を受験する資格も与えられます。

施設に隣接している義務官舎に入れて住居費も節約される上に院卒者、大卒者ともに総合職としての給与+12パーセントの公安職手当が支給されるので待遇は抜群と言えるでしょう。

僕の知るところでは30歳少し過ぎで年収は600万円程度です。

(令和2年度東京少年鑑別所勤務で初任給248,000円)

キャリア採用なので転勤があったり、本省勤務で矯正計画を立てたりと総合行政的な勤務をすることもあります。

研究も奨励されていて、日本犯罪心理学会での論文投稿、学会発表を経て大学教員になる人も多いようです。

参考までに矯正局発表の
2020年度倍率

です。
女子も多く採用されているので、司法矯正心理職を目指すのであればこれほど恵まれた職場は家庭裁判所調査官補採用試験と比肩すると思います。

なお、矯正局ということで、定められたルートを入職後にたどれば公認心理師受験資格も得られるとのこと(2021.2.24日矯正局に電話照会、細部判明次第また記事にします。)

僕の知る限りで矯正心理専門職も家庭裁判所も学歴差別もありません。採用公募アナウンスが始まったばかりです。

興味がある方はぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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おはようTwitter

きょうも
小さき声にこころを傾けて ໒꒱⋆゚


◯ 公認心理師受験をする方へ〜心理職としての矜恃

1.序

給料は安い、非常勤だと何の保障はない、Twitterの最初の固定メッセージにも書いてありますが、それでも志のある方には心理職の仲間になって欲しい。その気持ちが強くてこのやくたいもないブログを書き続けているのかもしれません。

以下、心理職をやってきて、自分なりに凄まじい体験かな?と思えることをプライバシー保護のため、大幅に改変して掲載してみます。こんな仕事の仕方を事例問題で選択したら間違いなく試験にぶち落ちます。また、大変危険な方法ですので、しっかりとした基礎を数年以上身につけて、職場のルールギリギリで自分の性格に合っていると思った時だけのあくまで参考にしてください。ほとんど自分語りです。

1.児童虐待

なんと言っても感情移入してしまうのは、児童虐待です。司法臨床をしていた時もスクールカウンセラーをしていた時も、そして一市民として生活している時も児童虐待に出会うことがあります。

なんとかして被虐待児を公権力を動かして、子どもを公的、あるいは民間の受入れ先につないで親から引き離すことに苦労しました。特に性的に搾取されている子どもは金づるになるので親は子を手放そうとしない。または父と娘で相姦関係があって母がそれを知っていても経済的に家庭が崩壊するのを恐れて見て見ぬふりをしているということが多くありました。よくある話です。

子どもが虐待のことについて話し始めた時には感情移入させず、スパッと司法面接モードに入ります。共感や受容、驚異は偽の発言を引き出す可能性があります。

親子再統合は望めない、そのプロセスの中で出会う親に対して僕は共感も受容もしなかったと思います。親は自分の生き死にがかかっているので必死です。虐待の対象がいなければ代理ミュンヒハウゼン症候群の対象として、甲斐甲斐しく子どもの面倒をみるというアイデンティティが崩れてしまう親も必死でした。

親が「子どもから引き離されたら死ぬ」と言われたこともありますが「あなたの生き死にと子どもの処遇とは関係はありませんから」と切って捨てていました。

スクールカウンセラーをしていた時、児童保護の担当者2人に対し、一刻も早く被性虐待児の保護をお願いしても全く動かないことがありました。近年は専門家採用が進んでいますが、一般行政職として採用された職員は営林署や全くわけのわからないまま書類仕事を役所でしていた担当者でした。

校長以下学校の管理職がずらりと並んでいた中でなぜか上席に座らされていた僕は児童福祉法や公務員法、刑法、知っている限りの法律を並べ立てて「不真正不作為による犯罪として2人とも告発されてもおかしくないわけですが。これだけ証人がいますよ?」と(はったり半分。でも事実)淡々と恫喝しました。

その後の行政の仕事は手早く、スクールソーシャルワーカーと協働して市の上部団体や県の中央、多分議員もスクールソーシャルワーカー2人が動かしてくれたものだと思います。児童はほどなく養護施設に入りました。

一般市民として呆れるような虐待を見ることもありました。豪雨の中、ベランダに小学6年生ぐらいの女の子が立って泣き叫んでいる。ぎょっとしてすぐに警察と市役所に通報。警察は「子どもが遊んでちょうちょを捕まえに行こうとしただけで、婦人警官が体を見たらあざもかないし虐待ではないですね」とのこと。

僕は結構激昂して「また子殺しの事件を作るんですか?警察は何をやってるんですか?マスコミに通報しますよ?」と言うと黙って帰りました。児相にその後通告、市役所の担当者は、守秘義務があるのでその後どうなったのかは伝えられないが定期的に訪問していくと約束してくれました。あの子は今ごろどうなっているのだろうかともうあの土地から引っ越してしまった今思うのです。

2.加害者臨床

性犯罪は1人の加害者を更生させれば何百人という犠牲者をその後出さないで済みます。小児性愛者が一生のうちに作り出す被害者は400人以上、受刑者によれば「そんな数じゃ足りない」とのこと。性犯罪治療にはさまざまな治療法があり、RNR理論で適性な量の処遇を与えること、MI動機付け面接でなければ問題意識を感じない人もいます。松本俊彦先生が開発したSMARPP、その簡易版のTAMARPPは性依存症の治療にも有効そうですがそのプロセスで被害者が出てしまうのは倫理的には問題があるでしょう。

結局のところ、今性犯罪者に有効なのはGL理論、GOOD LIFE理論とされていて、安定した生活、仕事、家庭があれば再犯率がぐんと低くなるというもので、これには僕も納得です。ただし、自殺者も多く出る性被害者は決して納得しないだろうわと思います。

前置きが長くなりましたが、司法、行刑担当の心理職のやることは絶対に試験に出ない事柄も多いです。(どの職場もそうですが)手錠のかけ方、腰紐の縛り方、マイクロで犯罪容疑少年を移送する時に騒いでいる共犯者たちを一喝して怒鳴りつけるなどこんなことは院では習いません。

司法で雇える通訳は安く、技量も悪い人もいます。(いい人もいます。)僕が特殊なのでしょうけれどもさくっと人定事項(氏名・生年月日・職業など)をその相手の母語で聞けるとスムーズになります。

殺人者との面接などもしましたが、厄介なのはやはり加害者意識がない加害者でした。「反省しています」「何が?」「出たら彼女と結婚して幸せな生活をして仕事を頑張って死んだ◯さんのために生きていきます。」

この人は実は自分の世界からは当然のことを言っているわけですが、内省に乏しいという客観的評価を下されます。

3.除反応

僕はイメージ療法や催眠など特殊な心理療法をしています。臨床心理士試験には出題されて公認心理師試験からはとりこぼされている分野です。トラウマに苦しんでいる人のパンドラの箱の蓋を開けるかどうかはいつも悩むところですが、開けてしまった方がすっきりとする場合には記憶支配催眠で解離していた原記憶を想起させる(というか自然に想起される)ことがあります。どんな心理療法でも同じ現象が起こります。心理面接者がそれに気づくかどうかにかかっています。

話しているうちに混乱する→興奮する→セルシンやリスパダールを注射する、これは根本的解決にはならないと思っています。

解離の原因となっていた原記憶を想起するとクライエントさんは泣き叫び床を転げ回ることがあり、僕は身体的危険性がなければ放置しておきます。

杉山登志郎先生は被虐待児童に対して簡易EMDR4セットをやっただけでかなりの子どもに除反応が出るという統計を出しておられました。

除反応は徹底的に出させる、そして気が済むまで除反応が出し切るとケロっとしています。「なんだったっけ?」「さあ?」現実の脅威がなく、トラウマだけが残っている場合は有効です。

4.研究会・患者の自殺

今はコロナの関係で休止しているのですが産業領域、医療領域のなかなか厳しい場面で働いているメンバーが多く、ハードです。どの心理職も患者さんにだいたいもれなく自殺された経験を持っています。

カタルシスのようにその体験を話し、泣いている心理職を見ていると胸が締め付けられる思いです。それを悲しく思い泣けるような仲間がいて良かったと思います。

5.心理職のプライバシー

スクールカウンセラー、長距離通勤をしない心理職は街中でクライエントさんに会います。レジかごをのぞき込まれて「おっ、先生今日は半額のマグロで晩酌ですかい?」「いや漬け丼を作ろうと」こんな時の会話の仕方は試験には出ません。

筑波大学自殺学権威の高橋祥友先生が個人携帯番号の患者さんとのやりとりの取り扱いについて「患者が死にましたって電話と、患者から『今から死にますっていう電話とどっちがいい」と聞かれて百人ぐらいの研修で個人携帯を教える、教えないが半々だったと思います。

僕は「死ぬだろう」という患者さんには必ず携番を教えています。カウンセラーのところに電話をかけてくる患者さんは本当に切羽詰まっています。夜間でも対応できるいのちの電話など社会資源や信頼できる友人や家族に連絡するようには伝えておきますが、往々にして何も頼れる社会資源がない患者さんも多いです。

主治医やリワークセンター、職場、とにかく資源を探すために助けを求めている患者さんの最後の分水嶺の象徴なのだなと思い、僕自身が丸ごとホールディングはしないように気をつけているのですが、数年以上付き合いのある患者さんだと曖昧になるのを気をつけています。

実際に死に際の電話はかかってきます。

6.結語

院でも教えてくれないし、困ったときにどうするか誰も指針を示してくれない場合は多いです。ワープア心理職がバイザーを全員持てるか?持てない人の方が多いです。大変厳しい心理職の現状のごく一部だけを書きました。繰り返します。Twitterに固定してあるtweetの「それでも志のある人は仲間になって欲しい」それだけを願っています。

(おまけ)

みおみん:ふえーん、Grinberg.L難し過ぎ
僕:あの、深掘りし過ぎじゃない?対象関係論の中では確かにビオンの系譜を汲んだ逆転移研究者で、逆転移が精神分析に与える影響を研究してるけどさ、松木邦裕先生の本にも書いてないぞ。ビオンまでだ。Grinberg.Lはだいたい翻訳書ないぞ?深掘りし過ぎたらあかん。
み:過去問の選択肢に出てたから。もう不安で
僕:あいつは自分のコト大切なビオンと同じ研究者だぞ?おま、そんなもんより統計とか得意やん
み:回帰分析とか重回帰分析とか信頼性妥当性とか。
僕:尺度とか第一種の過誤とか?
み:うーんなんとか
僕:お前事例得意じゃん
み:そそ、間違えたことない。ほぼほぼできる

僕:脳神経図解の本買ってたしおま、真面目だから俺はイケると思ってる。資格なくても仕事できるし
み:ふえーん
僕:ま、やるだけやんなよ、俺なにもしないけど応援だけはしてやんよ

(了)

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弱さを見せることは
時として強さでもあるんだよね ☪︎⋆


◯ 裁判所に期待されている公認心理師・臨床心理師制度

1.序

公認心理師5領域には司法が入っています。司法というと家庭裁判所調査官、法務省矯正局での心理職の役割を想像しがちです。裁判所のホームページには◯◯家庭裁判所委員会議事録というものが掲載されていて、それらを読むと公認心理師・臨床心理士に期待される役割は、最高裁家庭局は公認心理師制度、臨床心理士制度について、割と中立的でしれっとしているように見受けられたのですが、現場レベルでは実は心理職への期待は大きいということを指摘しておきます。

2.採用

裁判所において能力が高い人材の採用は常に大きな課題です。例えば法律職の裁判所総合職、裁判所事務官について見てみます。院卒者10.4倍、大卒者53.7倍です。

家庭裁判所調査官補については院卒者6.9倍、大卒者8.2倍です。

この倍率をどう見るかということですが、裁判所は神の地位を持つ裁判官、それから書記官、そして事務官に至るまで法律職の専門家集団です。そこに異分子として人間関係諸科学の専門家として入職する家庭裁判所調査官なので、疎外感半端ないです。総合職の事務官はほんの一握りですので、給料が安く事務官から試験を受けてもなかなか書記官になれない一般職事務官は猛勉強して苦労し、書記官になってやっと調整手当がつくのですが、調査官は最初から調整手当がついています。

それにもかかわらずあまりにも調査官補採用試験の倍率が低いと「本当に総合職として採用する価値があるの?」という疑問になりかねません。というかもうなっています。

だから裁判所では優秀な調査官補受験者を多く求めています。各地の家庭裁判所委員会でもこの話題は上っていて、大卒者が家裁勤務2年の経験で公認心理師資格が取得できることを売り物にして志望者増を狙っています。

実際には家裁調査官を目指すという時点で相当難しい試験に怖気ついて受験しない人も多かろうと思うのですが、そういった事情は「倍率」という数の正義の前には通用しません。

3.心理職への期待

家裁は「少年の健全育成」「子の福祉」を謳っているだけあって心理面での当事者に対する手当てがかなり重視されています。特に家事事件について心理職の働きは重要とされています。

⑴ 調停委員への登用

調停は心理的なかかわりが必要になります。夫婦関係の調整にしても、お金がからむ遺産分割にしても、人の心を抜きにしては考えられません。したがって調停委員に臨床心理士を活用しようというアイディアは昔から出ています。

⑵ 面会交流への活用

面会交流事件においては、離婚した夫婦が子どもに会うので葛藤含みです。元夫婦同席の面会交流でいさかいが起こったら子の福祉に反することになります。ですから心理職が同席してのこの場面での心理職の活用は大切な観点と思います。

⑶ 家事調停での付添い

家事調停では特に女性が不安になって調停に臨むことがあります。その際に臨床心理士が付き添うということは実際にあるようです。

⑷ 裁判員制度への裁判員へのカウンセリング

裁判員は外国で言えば陪審員制度のようなものです。被告人の有罪、無罪の心証を形成するのですからかなり重味がある職務です。したがって裁判員が精神的不安定になった際のカウンセリング体制も準備されています。パンフレットも用意されています。

こういった心理学的なかかわりは、元々専門職として採用されている家庭裁判所調査官がやればいいのでは?という意見もあるかもしれませんが、調停委員と家裁調査官を兼ねることは不可能です。また、スクールカウンセラーと同様、心理職の外部性が大切になってくると思います。

刑事裁判でも心理職が精神鑑定の際に心理テストを行うことは昔から行われています。公認心理師試験では医療領域の人から見たら、なんで司法問題が出るのだろう?と思うかもしれませんが、成年後見人制度しかり医療と司法は大きく交差することもありまさ。司法への心理職のかかわりはかなり重要性があるのです。

ざっと裁判所における心理職のかかわりを記載してみたのですが、臨床心理学者や精神科医が裁判所総合研修所に教育に来ることもあります。

国家が心理職を求めていることは確かです。医師団体の思惑とはあまり関係のない分野で心理職がその活躍を期待されているのは心強いものです。

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澄んだ景色を見たければ
手放す勇気をその手に掴もう ꕥ⋆゚


◯ 公認心理師試験小項目「面会交流」

公認心理師試験ブループリント、大項目「19 司法・犯罪に関する心理学」中項目「⑴ 犯罪、非行、犯罪被害及び家事事件に関する基本的事項」小項目「面会交流」

についてです。そもそも「面会交流」という言葉を聞いたことがある心理職の人も少なく、旧来は「面接交渉権」と言われていたこの制度についてもあまり広く知られていません。

協議離婚では通常定められない条項ですが「子ども1人につき養育費月◯万円支払う」と同様「面会交流を月◯回行う」と定めることができます。

なおこの面会交流の根拠は民法にあります。

民法第766条1項
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。


離婚した後の夫婦について子と居住していない側の親は面会交流調停を申し立てることができます。この面会交流は正式には「子の監護に関する処分(面会交流)調停事件」と呼ばれていて、離婚成立前、夫婦別居時から申立て可能です。  

なおこの面会交流制度は調停事件で話し合いが決裂した場合には審判事件に移行することもあります。

ちなみに日本の家事調停は、40代以上人格識見の高い、学識経験豊かな2名の調停委員が当事者の意見を聞き、当事者双方が合意に達したら最後には調停調書を作成します。

離婚した後でも「子どもと会いたい」という親が多いのは親として当然の人情ですが、紛争があって離婚した夫婦なので、その感情のいさかいが面会交流にも持ち込まれることもあり、やっかいです。

離婚はさまざまな要因で起こります。不和、性格の不一致、有責となる配偶者の浮気などです。

しかし子どもにとってはどちらに責任の所在があるかは関係はありません。自分の両方の親と会いたいのだという子どもの気持ちを尊重することが一番です。

ただし、子に対する虐待、子の前で酔ってクダを巻くような親の子の福祉に明らかに反しているような親への面会交流は望ましくないです。

面会交流調停申立があった際には家事審判官(裁判官)は家裁調査官に命じ、調査を行うことがあります。調査といっても子どもに「お父さんとお母さんとどっちがいい?」など子どもを混乱に陥れるだけの質問は厳禁です。

年端もいかない子どもはゲームソフトひとつでどちらにも転びますのでこういった質問そのものが無意味です。ただ、子は親の愛情を必要としていますし、こういった情緒的表現の困難さを伴う面会交流に対する意見を大人と同じように求めるのは残酷です。

家裁調査官が行う調査にはお互いが親同士として持っている感情が面会交流の妨げにならないか、また、実際の面会交流の場面を見て人文関係諸科学の専門家、児童心理学的に面会交流が望ましく行われているのかも含まれています。

子どもは離婚したとはいえ、自分が一緒に住んでいない親と会えないというのは辛いものです。まず最大の留意点として面会交流というのは、親のためではなく、子の福祉を第一に考えなければならない制度ということを忘れてはいけません。面会交流が想定される場合、同居親がもう一方の親の悪口を悪し様に言うことは好ましくありません。

面会交流の条項が決まっているにもかかわらず自分の感情だけで一方的なキャンセルを繰り返すと「間接強制」といって一回当たり会わせなかった親が5万円〜10万円の違約金を支払わなければならないこともあります。

さて、望ましい面会交流のあり方とはなにか?について考えてみます。

定められた面会交流権を同居親は拒否することはできません。子どもが「会いたくない」と言う場合もありますが、その子どもの真意が何なのかということについて知る必要性があります。

同居親が別居親に子どもが会いに行くのを明らかに嫌がっているのではないかと思うと子どもはそれを敏感に察知して会いたくないと言う場合もありますが、本意としては久しぶりに別居親と会いたいということも十分あります。同居親はひごろからその言動に注意し、子どもにとっても同居親が喜んで子どもを別居親のところに送り出すのだという安心感を与える必要があります。

子どもが面会交流に行って楽しかったとしても同居親に気を遣わなければならなかったとしたら子どもは沈痛な面持ちで帰宅して苦しかったような表情をするでしょう。そして親は「やはり会わせるべきではなかった」と誤解し、かたくなな態度で面会交流を中断したくなってしまいます。しかしそれは元々同居親が招いたからかもしれません。

別居親は面会交流が久しぶりに子どもに会える場だとしても喜び過ぎず一定のルールを守る必要があります。まず、別居親からの同居親の悪口は禁句です。別居親は男親で再婚していて経済的に豊かなことも多いですが「あっちからこっちに来ないか?」などと言ってしまうと子どもに忠誠葛藤が生まれてしまい、子どもの心を傷つけてしまうだけになります。

また、同居親との生活について根掘り葉掘り聞くこともいけません。久しぶりに会ったからといって高価なゲームや衣類、豪華すぎる食事で子どもを喜ばせようとすることも好ましくありません。子どもと相手の親に対して「どうだ、こっちの生活はいいだろう?」と暗黙のプレッシャーを与えているようにも受け取られかねないからです。

逆パターンとして、同居親が面会交流の様子がどうだったのか執拗に聞き出そうとすることも好ましくないのです。

公認心理師試験では誤答選択肢として
「面会交流で久しぶりに会った親は子と会えたことについて喜ぶ姿勢を示すためにおもちゃを買い与えて子との情緒的関係を結ぶのがよい。」などど出そうな気がします。

別居親が、子どもが楽しんでいるからといって滞在期間を引き延ばしていつまでも同居親のところに戻さないという行為は禁物です。面会交流は離婚した親双方の合意によって行われるもので、約束とは契約です。契約に違反したらそれは契約続行ができなくなる危険性が生じるということです。

面会交流には細かなルール作りが行われることが多いです。月1回、宿泊夕方◯時〜翌日午後2時まで、とか子どもの住む近所の公園で両親が揃って子どもと遊ぶ、など両親同席の面会交流もあります。

ルールは変更になることがあります。別居親が回数や時間を増やしたいなど条件を変更したい場合もあるかもしれません。その場合には当事者双方の合意をきちんと文書化する、もつれそうな場合には再度調停で調停条項として定めておくということが必要かもしれません。

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