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札幌児童虐待死・児相に本当に問題はあったのか?

札幌児童虐待死事件で札幌児相自体「児童相談所の対応に問題があった」と答えています。

政府も全国児童相談所所長会議を開催することを決定しました。

果たして札幌児童相談所が謝罪しなければならないほど、児童相談所は本当に悪かったのか?それが正しい認識なのかということについて児童福祉・心理の現状から考えてみたいと思います。

何度もニュースで報じられていますが児童福祉司が1人当たり担当する件数は平均100件以上、ひとつひとつのケースが一時保護が必要なのか、そして社会的養護の対象になるのか(乳児院、養護施設など)吟味しなければいけません。

児童相談所は全国都道府県及び政令指定都市に置かれています。

平成11年には児相への虐待事件相談件数11,631人だったのが平成29年度には133,778件です。

これは虐待件数が増えたからこういう結果になったというわけはないでしょう。

潜在的に埋もれていた、たとえば病院に子どもが怪我をして運ばれてきて、変だと思っていたとしても踏み込めなかったのではないかという事情も推察されます。

「家族内だから」と重傷を負ったとしてもあやふやで看過した領域に社会が注目するようになったことが要因として考えられます。

心理職が仕事をしていて子どもが怪我ばかりしているというケースに出会ったことはなかったでしょうか。

親の体罰が深刻な結果をもたらすことが多々あるということがはっきりとしてきたのは報道がもたらした成果とも言えます。

それまでは暗数となっていた虐待事件は明るみに出ていなかった可能性があります。

通報、相談が増えて来たのは虐待がクローズアップされるようになったからだとも言えます。

一昔前の児相は(今でもそういう自治体はありますが)その自治体の行政職として採用された職員が配置転換の際「児童相談所に行ってみたら?」と何も知らないまま児童相談所に配属されることがありました。

児童福祉司は社会福祉士を持っていることが任用条件ですが、それが満たされていなかった職員が多かったのです。

結果としてそのころ「児相は通報してもあてにならない」という不信感を抱かれるようにもなっていたというのはそのころの地域住人から何度か聞いたことがあります。

心理判定員(現児童心理司)は非常勤採用、所長も行政職で児童福祉の素人という時代は長く続き、徐々に専門家を投入した結果、相談件数が増加したものと思われます。

知り合いの児童福祉司が言っていましたが、100件ほどある案件から、死亡可能性が高いものに処理の優先順位をつけて、そこから着手していくしかないとのことでした。

しかし家庭は予測がつかない有機体です。

ファイルの下の地層にある案件がいつ何が起こって爆弾が破裂するのかわからない状態です。

そして自治体によっては児童心理司の方が児童福祉司よりも事件数を多く抱えています。

今回の事件が医療機関にありそうなヒューマンエラーやインシデント、医療事故ならばあり得ることかもしれません。

しかしどうなのでしょう。

あくまで推測ですが、あまりに多忙で、危険がわかっていても対応が不可能だったのかもしれません。

家庭再統合が可能だったという思慮があったのかもしれません。

今回の件でも児相は何度も家庭との接触を試みていて、報道は児相が何もしなかったかのように報じていますがそうではなかったわけです。

児童行政は常に慢性的な人手不足です。

自治体心理として採用されて社会的養護施設で当直業務を行いながら疲弊している心理職には息つく間もありません。

児相も社会養護施設もその中で里親コーディネートもします。

家庭内再統合は賭けですが、子どもにとって修復した家庭が何よりの居場所であることは間違いありません。

報道は一つこういった事案があると児童相談所をやり玉にあけます。

児童相談所はプライバシーがあるので話せないことも多々ありますのでそれを逆手に取られて児相が槍玉に上がっている可能性もあるのではないでしょうか。

現場で本当に全身全霊をかけて仕事をしている福祉・心理職の人たちを見ていると、世論の向かう先は個別の児童相談所ではなく、社会全体の構造であるべきだと思うのです。