ひなたあきらのおけまる公認心理師たん

新制度公認心理師の検証をしばらく続け、この制度がよりよいものになるための問題提起を行いつつ、カウンセリングの在り方について考え、最新の情報提供を行っていきます。ほか心理学全般についての考察も進めていきます ブログ運営者:ひなたあきら メールアドレスhimata0630★gmail.com(★を@に変えてください。)

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営業に生かせる心理学5 「メンタルリハーサル」

「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp

1 メンタルリハーサルの重要性

営業という行為は売れた時は嬉しい、売れれば今度は新しいタスクが生まれる、売れない時には落ち込んでしまう、大変な仕事であることは間違いありません。

そんな時には「売れた自分」「売れて仕事をうまくこなしている自分」を想像することが有効です。もし「営業活動がうまく行かなかったのは顧客の性質が悪いからだ」「相性が悪い」「この商材は魅力はない」という誤った原因帰属をさせてしまうとそれは「セルフ・ハンディキャッピング」と言って失敗する自分を想像してそれを実現させることで妙な安心感をもたらすことになってしまいます。

そういった誤ったイメージに陥らないようにするためには「楽しく営業活動をしている自分」をイメージすることも大切になります。過去に営業活動をして成功したことを思い返すのは「自己効力感」を高めることにも役立ちます。

自己効力感はセルフイメージを高めることにもなります。ある具体的な状況において、人は目標を立て、その中で適切な目標を遂行できうるであろうという確信の程度が高ければ高いほど人は行動に対する動機付けが高まるのです。

2 イマジネーションを大切にする

先日YouTubeを見ていたら、自動販売機でどこにでも売っているような水1本を「相手に1万円で売るにはどうするか」という動画があり、興味を持って見ました。常識的に考えて水1本を1万円で売ることなど不可能です。

ところが営業マンはうまくその水を相手に1万円で売ることができたという内容のものでした。営業には付加価値が必要です。もし相手にその水を1万円売ることで、顧客の利益が100万円になることが約束されているとしたらどうでしょうか。筆者が経営者ならば喜んで買うでしょう。一見不可能と思えることでもそれを可能にしようというイメージは大切なことだと思いました。

心理学的な考え方ではいきなり成功をすることが大切だとはされていません。ひとつひとつ地道に前進をしていく「スモールステップ」が大切になります。さて、営業マンにとって大切なスモールステップとはなんでしょうか。

それは商材の内容や相手の対応によっても異なるのですが、少しずつ「売る方法」の行動やお互いの気持ちを考えていくことが大切になります。自己効力感について考えてみます。ある特定の行動が成功をもたらすそのプロセスについて細かく考えていきます。

そうすると「今、ここで」自分が何をしたらいいのかを見つめることになります。よい結果を出すためには何が必要で、必要な行動をどういった方法で行っていくかを分析してみます。そうすると自己効力感は高まり、成功体験がさらに営業マンの能力を高めることに役立つでしょう。

営業は形のあるものを売ることもありますし、形のないコンテンツを売ることもあります。さて、売れた時のことを考えてみましょう。どんな内容にせよ、売れた時、売れたものをうまく切りまわしてお客様が喜んでくれたことを考えてみます。それはとても営業マンにとっては嬉しいことです。

営業に訪れた時に暗い顔で受付を通ったら、まずは会社の顔である受付の人が「なんだか変な人が来たようだ」という情報はすぐにキーパーソンにも伝わってしまうと考えた方がいいでしょう。

キーパーソンに売ることだけ、ノルマだけを考えて元気なく営業先に行っていてはその表情や気持ちは相手にも伝わってしまいます。まずは受付を通る時から元気に挨拶をすることが大切です。自分というものは、あたかも鏡を見ているかのように知らず知らずのうちに自分のイメージを作り上げているのです。

もしそういった自分が人にどう映っているかを考えてみると、カメラを向けられている自分を想像してみるといいでしょう。自分が自分自身にどういったイメージを持っているかを考えてみると、客観的な自己意識が高まり、望ましく、理想としている自分のイメージに近づけることがっできます。こういった概念は「自己制御」とも呼ばれるのですが、これを意識して高めることも大切です。

人の気持ちには様々な要素があります。自己の状態や反応は行動、認知、感情、コントロール能力を高めることにつながってきます。明るい気持ちでいること、なぜそれが大切かというと、相手にいい印象を与えて対人魅力を高めるというだけでなく、自分の気持ちのテンションを上げることにも役立つからです。

対人コミュニケーションをうまく取ることに成功すれば、それは良好な関係を作ることにもなります。このプロセスを分析していくと①ある話題(営業活動)について自分の意見を言ってみる②相手の意見を十分に聞いてうなずく、③自分が相手に対して好意を十分に持っていることを、傾聴する、相手の目を見てはっきりと話すことも大事です。

こういった時にひどく萎縮していたり、その反対に「どうせ売れないだろう」と投げやりな気持ちになっていたら相手はそういった営業マンの気持ちを敏感に察知してしまいます。営業マンが売ろうとしている商材に詳しいのは営業マンです。

しかし、顧客はとても頭がいい方々なのです。顧客から「教えを乞う」という気持ちでコミュニケーションを取ることは顧客の自尊心を高め、スムーズに営業活動を行うことにもなります。営業は時として自分が話して相手の興味を高めようとしてしまいがちなものですが、自分が常に教えてもらうつもりで熱心に興味を持って聞くことが大切です。

こういった「共感力」は自分の魅力を高めることにもつながります。共感性の高い人はユーモアもあり、自主的、自発的で他人に感心があり、外交的、そしてこれらの要素によって感情が柔軟であり、何が今起きているか、正確に認知をすることもできます。そうすると共感力との相乗効果によって相手との関係性は安定していくのです。

このような親密性が高まっていくと自然にお互いの非言語的なコミュニケーションにおける好意も高まります。お互いに相手のことを知りたいという興味がわいてくるのです。営業で大切なのは相手への「視線」だともよく言われています。積極的に売ろうとばかりしていて相手の顔を見ていれば、その態度は敏感に察知されてしまいます。おどおどして「売れないだろう」と思って視線をそらしていてもそれは上手な営業はできません。

3 気分一致効果

なぜ上記に書いたことが大切かというと、人には「気分一致効果」というものがあります。例えばもし訪問する時に営業が失敗したことばかり考えていてクヨクヨしていたとします。そんな時に訪問をしたら、落ち込んだ気持ちになってしまうでしょう。

逆に成功した嬉しい体験を思い出しながら訪問したとしましょう。そうすると楽しい気分のまま訪問することができます。どちらの方が営業に役立つかは自明に思えます。

人間の記憶は恐怖ばかり感じていると、そのことばかりにとらわれてしまいます。恐怖を感じているとそのことばかり思い出されてしまいます。顧客のところに行く時にはよく行ったイメージを思い描いてから面談することも大事です。うまく行った体験をきちんとイメージングしてから訪問すれば、新規顧客であっても、継続営業をしているのであっても、うまくいく確率は上昇するでしょう。

これもひとつの学説ですが「人は悲しいから泣くのではない。泣くから悲しいのだ」とも言われています。悲しいから泣くのではなく、泣けば悲しくなります。これは好意的な感情についても同じことが言えます。意識的に笑顔でいること、その気持ちのまま営業活動をすることは顧客に対しても好印象を与えるのだと思います。 

5.感情制御・自己の再評価

相手との関係をうまく運んでいくためには自分の感情を上手に制御していくことも大切です。もしあまり緊張ばかりしていて、以前にうまく行かなかった記憶ばかりが蘇ってきて、その感情で営業に臨めば、笑顔もなかなか出てこないし、自分も不快になるばかりでしょう。

緊張がうまく低減していけば、それは自分と顧客、双方とも気持ちがほぐれてうまく商談ができます。

そのためには自分を責めないで自己をうまく見つめなおす批判的思考「クリティカル・シンキング」が大切になることもあります。対人関係を築いていく上では、その中で起こっている膨大な情報を人は処理しています。その情報をきちんとまとめることが大切なのではないかと筆者は考えます。

それは①集められた情報を明確化すること。情報は明らかになっているものだけではありません。隠された情報や感情のやり取りがその中で行われている事は多々あります。

そして②その情報は確かなものかどうか自分の中で吟味する、これまでの経験や、今そこで起こっていることを再評価することも大事です。

③ そしてその中で起こっていることの価値判断、今バランスの取れた思考法をしているのかどうか、何をここで話したらいいのか、決定権は相手にあるのか自分にあるのかということを観察します。

④人間の行動には様々な無数の選択肢があります。その中で現在起きていることも再評価します。最終的にその中で最も効果的と思われる価値判断をして、相手にフィードバックしていくということを営業マンは知らず知らずのうちに行っているのですが、それをきちんと意識化していくことが大切だと考えます。

その上で、行き当たりばったりに任せるのではなく、論理的に考えていくこと、好奇心や探求心を持って関係性を探っていくこと、客観性の重視、熟慮していくことも大事でしょう。今そこで急に決められないことが起こったならば、こちらが一旦持ち帰って自分の考え方やするべき行動について誰かからアドバイスをもらうことも必要になります。

感情をコントロールできるようになるとお互いに親密な感情が生まれるようになります。古来から日本では「以心伝心」と言われていて、阿吽の呼吸でお互いを知ることができるのです。

うまく行っていても、あるいはうまく行っていなくても、自己と相手の間に何が起こっているのか吟味することも無意識的・日常的に起こっているのでそれを観察します。そんな時にあたかも鏡の中を見ているように自分と相手との関係を見つめ直していきます。

そうすると感情だけに流されず、営業にとっては必要な自己意識や自己制御力が意識化できます。相手が自分に好意を持っていれば相手との笑顔のコミュニケーションが生まれてくることは当然の事のように思えますが、笑顔の向こうに「買う気はないよ」というメッセージが含まれていればそれ以上進展することはありません。

営業の際にはこちらも笑顔で相手に接するわけですが、隠されたメッセージを読み取ることも必要です。言外の視線や表情が何を意味しているのかということを考え直します。

自己の再評価・自己制御には自分自身をコントロールすることが大切になります。営業活動はコミュニケーションです。そのコミュニケーションの中には「何を今しているのか」(行動)、何を感じて見ているのか(「認知・感情」)、自分が衝動的になりすぎていないかという内省力、それらが上手にかみ合った時に営業活動はうまく行くと筆者は考えます。

今何が起きているのか、自分をあまりに卑下することがなく、また、相手のことを軽んずることなく誠実な態度でいることは大切なのではないでしょうか。

営業マンは確かに自分が売りたい商材のことは一番よく知っているわけですが、たいていの顧客、キーパーソンはとても営業をされることに慣れているものです。相手を立てること、知識と経験がある人と話しているのだから教えを乞うという姿勢は大事です。

自分が営業活動の中で何をしているのか、そして相手との間に何が起こっているのかを正確に再評価することがいい結果につながるのではないでしょうか。

そしてそれらの認知と行動がおおむね一致した時に成功体験は生まれるものだと思います。営業マンにとっては成功体験というものはとても大切です。失敗した時に自分を振り返ることも大事ですが、成功した時にも「たまたま成功した」と手放しで喜ぶのではなく「なぜ成功したのか」という事を精緻に考えていくことも必要だと考えます。

そういった成功体験と成功体験の原因を探求していくことは次の成功する営業活動にもつながりますし、さらに自己効力感情を高めていくことにもつながって行くのだと思います。

今回の記事のpdfです。
いつも丁寧に校正していただき感謝しております。

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「近代中小企業連載第3回 ・営業に生かせる心理学『心理学的な付加価値が営業を成功させる。 』

「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp

(ひなた元原稿)
〇はじめに
どんなに魅力的な商材でもその存在や有用性が知られていなければ売れることはありません。したがって、売るためには「心理学的な付加価値」が影響します。
本連載の中では何度か出てくるのですが、人の認知、情動を変えて行動もポジティブに変化させるには「認知不協和理論」が営業活動の中で大切です。

よく営業で言われているのは「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」です。相手にドアをあ開けさせてそこに足をはさみ込むと「自分がドアを開けたからこういうことになっている」という、自分の選択した行動を正当化するためにドアを開けたという小さな行動から、購買行動という大きな行動につなげるまでの一連の流れを説明しています。

〇段階的要請法と認知不協和理論による営業テクニック
実際にフット・イン・ザ・ドアテクニックを無理やり使ってしまうと押し売りになってしまうので、これは論外なのですが、段階的要請法や認知不協和理論を応用したこのテクニックは営業にとっては有用です。つまり、小さなことから承諾を取り、だんだんと大きな要請をしていくということです。

例えば無料でノベルティを付ける、そして安価でもいいから小さなモノを販売する、そうすると相手は「モノをもらった、安く買った」という自分の行動が誤っていなかったということでポジティブに自分の行動をとらえるために、大きな事柄でも承諾しやすくなるということです。常に小さなお願いは大きなお願いにつながります。

例をあげます。最近服飾等の小売店ではいわゆる「売る」押しつけがましい営業よりも顧客優先の選択をしてもらうように心がけています。「どうぞご自由に見学してください」(顧客の自由度が高い)そして顧客が迷っているようだったら「どうしました?もしよろしければ説明させてもらえませんか?」と顧客の意志決定を重視し、顧客が「自分で選択した」という認知が大切になるわけです。

ここで「30分ほど説明させてもらえませんか」と言われたら顧客はあまりの手間に嫌がってしまうでしょう。それよりは「少しお時間いいですか」「10分ほど見ていきませんか?」の方が受け入れられやすいのは当然のことのように思われます。

結果的にその説明が30分になってしまった時、人は自分が費やした時間を無駄だと認めたくないわけなので、購買行動につながりやすくなります。

人間は自分が選択した行動の過ちを認めたくありません。これをザイアンスの「単純接触理論」と組み合わせると硬軟使い分けた営業手法になるのではないでしょうか。つまり、他愛のない挨拶程度でも営業マンが毎回接触してくると「売る」という積極的な行動に営業マンが出なくても顧客は営業マンと接触してきた時間の長さが無駄だったとは認めたくないために購買行動につながりやすくなるでしょう。

単純接触効果は相手が忙しい時間を過ごしているのに無理に面会を申し入れるのは逆効果になります。「たまたま通りかかったので」と名刺1枚受付に渡しておくのでも構いません。不在でもいいのです。

新商品のパンフレットができた、あるいは従来ある商品のパンフレットがマイナーチェンジされて新しくなった、など直接顔を見なくても潜在的顧客は「あ、また来たなあ、こちらが忙しいと思って面会を無理強いしなかったんだなあ」と好意を持った単純接触効果になるでしょう。

これは営業マン自身が「広告」として機能していることを示します。ただテレビのCMが流れているのとは違い、手間がかかっている広告です。営業マンがわざわざ足を運ぶことはっこの手間がかかった広告の効果としては、相手の認知、記憶にとどまり、感情を良好にして次のステップとして面談をしてみよう、最終的には購買行動につながるものと考えられます。

さて、認知不協和理論は大切な営業テクニックで、人は自分の認知(認識=例えばこの人はいい人だ)というものは情動(感情、好意を営業マンと商品に抱いている)、そして最終的には購買という行動に出るのです。これは臨床心理学の最前線で使われている、誤った認知を正しい行動に変える認知行動療法にも応用されています。

また、購買行動に関する認知は、認知不協和理論にも似た、A―B―Ⅹモデル(バランス理論)でも説明できます。例えば、巨人ファンのA君と阪神ファンのB君が仲がいいけれどもどうしてもA君は野球の好みが許せない。そうするとA君は自分の認知を変えて阪神ファンになろうとするかもしれません。また、巨人ファンになるようにB君のことを説得するかもしれません。

以上は比較的前向きな行動なのですが、A君はお互いの認知が違っているという緊張状態を解消するためにB君が嫌いになり、B君との仲を解消するようになるかもしれません。つまり、認知の違いというのはそれほどまでに人の感情を動かすわけです。

「だから」「でも」などといった相手がなかなか納得をしないキーワードを使っても顧客の心を動かすことは難しいでしょう。例えば顧客がいったん「買わない」という言葉を口にしたとしてもその意志を無理やり変えようとするのではなく、徐々に相手の態度変容を期待する方が効率的でしょう。

〇 ポジティブな心理学の活用
従来、心理学は病人の治療のために発展してきましたが、そうではないポジティブな側面にも注目されているのがポジティブ心理学です。あたかも営業マンが治療者のように顧客に接していたら、営業マンの方が上位に立っていて顧客が不快に感じやすいのは想像に難くないでしょう。

人間はネガティブな感情よりポジティブな感情を望みます。そこで、相手が好きなこと、没頭することに話を引き入れていくことは大切なテクニックです。最初から売り込みをかけられるよりも趣味の話や大切にしている家族の話、好きな話題を好みます。

ポジティブ心理学から少し離れるのですが、会話術として上記の説明をより深めて考えてみます。人間の会話には「クローズド・クエスチョン」とそして「オープン・クエスチョン」
があります。営業をするのに「今日は暑いですね」と営業マンが言ったなら「そうだね」と一言返されて終わりでしょう。「暑いと食欲が落ちますね」も「そうだね」「そうでもないよ」の一言で終わってしまいます。

それに引き換え、「オープン・クエスチョン」は話題が広がる会話術です。同じ天気の話でも「今日の天気はどうですか?」と聞くと「暑いね、暑いのは僕は苦手でね、北の方の出身だからね」「そうなんですか、私は南の出身ですけれどもこちらの気候は蒸しますよね」と話が広がります。「食欲が落ちますよね」よりも「暑いと冷たいものが食べたくなりますよね」「そうそう、そうめんとかね」「私もそうめんは〇〇産が大好きなんですよ」等話が広がります。

話を広げて相手との親しい関係を作り上げていくのは営業の基本です。また、顧客は常に自分で選択を行ったという思考を好みますので、そこには「ユー・ミーニング」(「あなた」が主語)よりも「アイ・ミーニング」(「私」が主語)の話し方が好まれます。

読者の方は、販売のために「私はあなたにモノを売りたい」という発想とはまるで逆に感じるかもしれません。「私は売りたい」はどちらかというと押しつけがましく感じられないでしょうか。「私(アイ)はこの商品を〇〇と考えますけれど、どうでしょうか?」と聞いた方が先ほどのオープン・クエスチョンと相まって話はどんどん広がりますし、それに加えて選択権はあくまでも顧客にあるということで、満足度も高まるでしょう。

ポジティブ心理学について触れておきます。ポジティブな感情がまず大切になります。最初から高値で販売を提案されるよりもサービスや品質の積み重ねでその値段になったことを示していく方が受け入れられやすいと筆者は考えます。誰しも不愉快な人生よりも心地よい時間を過ごしたいと思っていることは間違いありません。一方的な押しつけは禁物です。

そしていったん顧客が自社の商品、そして商品そのものでなくても商品が持っている価値に自分が没頭し、夢中になっていけばそれに対する集中性は増します。常にポジティブな感情を持ってもらうことがこの没入状態に関係しています。精神的に健康度が高い人ほどこの没入状態になりやすいことが知られています。

営業マンは顧客の健康度を高めるためのユーモアや相手が興味を引く話題の引き出しを多く持っていることが大切なのはこのポジティブ心理学でも説明できます。そのためには関係性も大切です。お互いに不快な感情「売ろうとする―無理やり売られようとする」という関係性は良好とは言えません。営業以外にも付加価値が多いサービスを提供することが大事になるでしょう。

ポジティブ心理学では人間がいかにして幸せになるか、ウェルビーイングという概念を大切にしています。そこには社会的に良好な人間関係が影響しています。思い描いてみると(例外はもちろんありますが)幸せそうで、人の(社員の)役に立つものを購入したいという顧客は笑顔のウェルビーイングに満ちているわけです。

「営業」というのはただの仕事、というよりはその営業マンの価値観や人生観が強く反映されるものです。営業活動をする中で、自分は正しいことをしている、ポジティブに顧客に喜んでもらっているという感覚、人生の意味や意義をそこに見出すことはとても大切なっことです。そしてそれは顧客にも通じることです。幸福度を達成する上で、なぜその商品が大切なのかを知ってもらうことが大切でしょう。それは大袈裟過ぎないと思うのですが、意味や意義を人生に見出すことが営業活動に通じるということになるでしょう。

ポジティブ心理学の中でも大切な概念は、達成感情です。これも営業マンと顧客双方に通じることで、いいものを売った、いい買い物をしたという達成感情がお互いに生まれたら営業はさらに次の営業につながります。仕方なく買ってしまったというよりも、お互いにwin-winの関係性が大切なのはこのためです。

〇精緻化見込みモデル
精緻化見込みモデルは2つのルートをたどると考えられます。
例えば商品についてとても詳しい顧客がいたとします。詳しいからこそ、周辺情報や他社の製品と比較検討することができる、この顧客は購買行動について「中心ルート」と言えます。関心、興味を持っている中心ルートをたどる人は潜在的顧客として大きな役割を果たすと言えます。

中心ルートの人は商品に対する知識が優れているだけに、世間の評判がどうなっているのか、この商品の雰囲気は、ということについてはあまり関心を抱きません。この人たちが専門的な知識を持っているのならばこちらも懇切丁寧に専門性について説明した方が効果的ということです。

また、商品そのもののことはよく知らない、ですがSNSやインフルエンサー、芸能人等が勧めているから、と周辺からその商品に興味を持つようになった人のことを「周辺ルート」の潜在的顧客と呼ぶことができます。商品そのものに強い関心がなかったとしても「結果的にこれはとても役立った、役立っていると言っている人が多い」ということで周辺ルートの人は知識が増えなくても購買意欲は高まるわけです。

こういった周辺ルートの人たちに対して無理やりに商品の持つ魅力や性能、知識を売り込もうというのは逆効果になりかねません。周辺ルートの人たちは商品の持つ雰囲気や役に立っているというメッセージの方を重視しているからです。ただし、こういった人たちは雰囲気で選んでいるので流行が変わると中心的な興味も異なってしまうことも十分に考えられます。その商品を売りたいのであればその流行が続いているうちに、そして流行が変わった場合には別の商品を売っていくという工夫が必要となるでしょう。

〇おわりに
今回は、商品よりも商品に対してつけられる付加価値が大切ということについて述べてみました。人は認知、情動、そして認知や情動に関連したポジティブな感情についてを中心に書きました。付加価値というのは本稿では営業マン自身と、営業マンの持つ魅力、そして営業マンの持つコミュニケーション能力です。これら全てを一致させることは難しくても、その強度が強いほど営業マンは「売れる」営業マンとなっていくことが期待されるのではないでしょうか。

※いつも拙文を校正の上、綺麗なpdfにしてくださってありがとうございます。

近代中小企業「営業に生かせる心理学3」

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近代中小企業連載・営業に生かせる心理学2

「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp

2.相手が何を求めているのか、心理学を活用して知る
(1) 社会的アイデンテティ理論
BtoBでもBtoCでも、購買の決済権者に対して営業をすることが最も効果的です。決済権者は自分の所属している組織や持っている信念について自信を持っています。自分の購買行動が正しいということについて正しいと思っています。

人には自己高揚動機といって、自分の所属している集団や信念を他の集団や信念よりも高く評価し、それによって自分の自己同一感情、アイデンティティを高めようとする傾向があります。

日本人は欧米型の独立的な「自分は自分」という自己感とは異なり、「みんなと一緒」という相互に依存的な自己感情が優位なことが知られています。

つまり「ウチはウチ、外は外」ではなく「ウチに入って来たら歓迎する」ということです。したがって「営業マンの〇〇さんはウチの人だ」という同一感情を相手に持ってもらうことがまずは営業のつかみとしては重要だということです。

これは相手を否定して「社長はそうおっしゃいますけれども」という営業方法ではなく、前回述べた「単純接触効果」であり、何度も相手に会い、その度にネガティブなことを言わず、相手の持っている時間と気持ちの余裕に合わせて自分を「ウチ」の人の一員として考えてもらうことが大切になります。

営業方法として相手の持っている価値観をぐらつかせようとして売るために否定的なネガティブなことを言うのは相手の購買行動を阻害することになりかねません。常に人は自己が所属している集団や価値観に対して自尊感情を持っています。その自尊感情を揺るがされることを好みません。無理な説得は相手の存在そのものを脅威にさらすことになってしまいます。

「ウチの良いところをわかってくれる人」であり「いつもウチに寄り添ってくれている人」は好感触を得やすいので、接触の回数を多くしながら相手の自尊感情に訴えかけることが重要になるでしょう。

例えば相手が野球のあるチームが好きだったとします。たまたま自分がそのチームが好きであればいいのですが、わからなくとも相手の話を一生懸命ニコニコしながら聞いていればそれが長時間にわたるほど、ウチの人になりやすいわけです。

否定や恐怖を相手に与えながら「これを買わないと大変なことになる」という営業方法よりもまず「ウチの人」になることが大切です。これらは「内集団バイアス」という心理学用語で説明できます。

(2) 印象形成
ただし、相手が何が好みか、どういった価値観を持ってそれに対して同一感情を持っているか知ることは難しいことです。顧客は「自分の好きなモノ、コトはこれだから、ここをほめてくれたら買ってみよう」というダイレクトな情報を与えてくれるわけではありません。

短時間顧客と接していて得られる情報は常に断片的、限定的なのです。そこで間接的な、雰囲気を含む情報から正しい印象形成をしてみることが大切になります。「この人はだいたいこんな人だろう」という判断は、判断材料が多ければ多いほど正確なものに近づいていきます。

いわゆる「直観」で相手を知るということは心理学的には正しい行為です。さて、その上で何を判断材料にしていくかですが、最も大きな判断材料とするべきなのは相手の性格であり、断片的であってもそれはばらばらの寄せ集めではなく、相手の持っている根源的な性格というものがその人の中核なのです。

したがって、ある程度は直観でその人を理解することはできますが、部分的なものであっても何が相手の性格を示しているのかということに注目することが必要になります。

この印象形成はまた、顧客から営業マンについても形作られています。「この人はどんな人なのだろう」と思って見られているわけです。そこでふっと隙を作って相手の気に入らない、ネガティブな感情を持たせてしまうとそこから進むのは困難になります。
初対面の印象が大切なのは「初頭効果」と言いますが、初めの印象が悪かったからといって全てダメというわけでもありません。

人間は最初に直観で相手を判断しますが、だんだんと馴染んでくると「最近の印象」が大切になってくるからです。いい印象形成をしてもらうためには常に相手にポジティブな感情を抱いてもらうようなイメージを作ってもらうことが大切になります。

(3) 顧客の自己効力感

人間誰しも自分が何かやった、成し遂げたという自己効力感情を持っています。そしてある行動を行う時、例えば購買行動がこれに当たるわけですが、どの程度その行動を行ったら自分が満足できるかという、結果予期による自己効力感が大切です。つまり、自分が行った事柄は正しい事であって、その結果として満足が得られたという予測をしています。

自己効力感の形成はいくつかに分かれますが、最もわかりやすいのは、自分が過去に行った購買行動、その営業マンから購入したことで成功をしたということが自己効力感を高めます。一度売れたからといって気を抜いて悪いものを売ってはならないということになります。

そして、代理的な自己効力感に訴えかけるのも大切です。人は自分が達成した効力感だけでなく、他人が同じことをして成功をしたという代理的な効力感でも十分に動くことが知られています。したがって、あまり露骨ではなく、さりげなく「この商品を買った〇〇さんは~という点で満足してくれた」という押しつけがましくない説得は代理効力感からそれを自己の成功体験につなげることに役立ちます。

「あなたにはできない」ではなく、できた場合にはこんなにいい事がある」という事をアピールするのが大切ということになります。

こういった説得は、直接的な説得でももちろんいいわけです。購買者は、買ったことでどんな満足感がもたらされるか、買うことに価値があるのかということについて興味を持っています。

したがって言語的な説得も自己効力感を高めるのに役立ちます。たとえその場では顧客が高価で買えないと思っていても「これが手に入ったらこんなにいいことがあるんだろうなあ」という情動を喚起することは、もしもAという商品が売れなくても少し価格が安くても品質がよいBという商品を販売することにつながる可能性は高いでしょう。

顧客は過去に自分が行った購買行動についてそれを頭ごなしに否定されてしまうと自己効力感はその時に一時的に下がってしまうので、リスクを伴います。以前にBメーカーから買ったという行動は正しかった。しかしこのAメーカーから買うともっと自分は満足できるだろう。という認知を持ってもらうことが大切になります。

(4) 相手が誇りに思っていることを知り、同調すること(認知不協和理論)

顧客は何についてプライドを持っているでしょうか。そのプライドを敢えて崩すようなことをするとともすると営業にとっては逆効果になりかねません。例えば人は車を買った後にまた車の展示会に出かけたり、車のチラシを熱心に見たりします。なぜかというと、自分が行った選択は正しかったと思いたいからです。人は自分が行った認知、そこから生まれてくる感情、そして最終的に行った決断による行動の不協和を嫌います。そこで顧客に対して「あなたが行った以前の購買行動は失敗だった」と言われることを嫌うのは、自己効力感理論に加えて認知不協和理論でも説明ができるわけです。

また、営業とは関係なくても人は自分が好きな物、事をほめられる、同調されると相手に対するポジティブな感情も高まります。売ることばかりを先に考えるよりも相手のことを十分に調べてその人が何についてプライドを持っているのかを知るのは大切なことです。
また、さきほどの自己効力感理論とは矛盾するようですが、人は高額なものを購入すると「これだけ高額だったのだから効果は抜群に違いないし、実際に効果を上げている」という認知の協和を求めるようにもなります。

一度販売に成功すると「この営業マンから買った物はいい物だ」という認知も働きますので、まずは比較的手に入りやすい安価な商品を販売していくことも認知の協和につながります。売ったら売りっぱなし、または次の物を何か売ることばかり考えるのではなく、売った後にきちんとしたフォローをしていくことも営業マンに対する評価や御社に対する良い印象を抱いてもらうことにつながります。

(5)どの相手も社会的に正しいものを求めている。その認識を評価して賛同する(社会的正当勢力)

BtoBを考えてみます。A社は大抵の場合、自分たちが作っている製品(提供しているサービス)は社会的に役立つものだという考えを大抵の場合持っています。
BtoCを考えると「長生きするためには保障が必要」だったり「子どもは成績がいいことが大切」という、当たり前ですが正しい社会的正当勢力は当たり前のことでもあり、社会的、文化的な常識の規範にもなっています。

したがってこれらの正当な考え方、正当勢力については同調をすることが大切です。そして人は自分が正当勢力の中にいると感じると安心感につながります。人は誰しも自分が行っていることに対して多少の不安は感じているものです。
そこで他者からの評価を参照にして正しいことをしていると思いたいのです。

ここで考えておきたいのは、何が正当勢力なのかという評価はその相手によって異なるということです。
「高くていい品質のものを求めている」のか「安くてもそれなりの価値のあるものを求めているのか」ということによって正当勢力は異なるということです。相手に十分に同調することについてまずは考えていきましょう。そして相手が持っている価値観に合わせるようなプランを提示することが大切です。

(6)キーパーソンを知ること。年輩者はポジティブ感情を持ちやすいということを知る

いわゆる「社長営業」について説明します。どんなに商品を売ろうとしても購入権限がない人にだけ気に入ってもらってもなかなか販売には結びつきません。購入の最終決定権は社長やその一家の長が持っていることが多いです。つまり年配の方が多いということです。

しかしこれが本当に真実かどうかは、実際にその相手のフィールドを見てみないとわからない事も多いです。若い女性が購買担当者で社長に購買の権限を一任している場合もあります。また、個人相手の営業の場合には一家の長は父親だから、というわけではなく、子どもが気に入るもの、子どもが気に入る人から買うということも十分にあり得るわけです。例えば保険商品のような、子どもには理解しがたい商品を販売する場合でも複数営業マンが来て合い見積もりを取っている場合には営業マンの人柄が販売につながっている場合も多いでしょう。心理学的には隠れた購入の決済者を知ることは大切なことです。

さて、実際の決済権者の年配者は社長や役職者であったり、個人営業では一家で最も裕福なことも多いでしょう。年配者はあまりにも役職が遠すぎて苦手だ、と思ってしまうとその先には進めません。

年配者はその仕事の経験を積み重ね、また、人生経験を重ねていることで自分に自信がある場合が多いのです。高齢者に近づいてきているから弱々しいという考え方は現在の社会では否定されていて、むしろ手厚く扱われていてどんどん尊敬の対象になっているという「エイジング・パラドックス」という考え方があります。すなわち現代社会では年配者は自信を持って生き生きとしているわけです。そういった方々に営業マンが及び腰でいてはなかなか売れないでしょう。気持ちに余裕がある年配の方にこそ営業マンがきちんと対峙して販売しようとする姿勢が大切になります。
 
(7) 終わりに

本稿では営業は心理学の応用であるという考え方から、営業マンが商品を売ると同時に、自分を売り込むことについても書いています。自分が相手に気に入ってもらえば購買行動につながりやすいのはよくあることです。また、売り方についても強引に相手の恐怖感や切迫感を高めて売るというやり方では一度売れたとしてもその次にはつながりにくいでしょう。それどころか無理やり売られたという気持ちやクレームにつながりやすいでしょう。

クレームは次の営業のチャンスにもなると言われていますが、クレーム処理にコストがかかることを考えると決して得策ではありません。相手の得になることを真剣に考え、次につながる営業の方が利益を上げやすいのではないでしょうか。営業マンは自分という人間の魅力を売ると同時に、社会的に正しいモノ、サービスである御社の商品を売ることが大切だと筆者は考えています。

※ 今回も編集済みpdfを記事にしていただきました。

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○ 速習「コロナ禍で急増‼︎」メンタル疾患を正しく理解する」byひなたあきら監修Kin Chu(近代中小企業)

1.序

月間近代中小企業「Kin Chu」という雑誌があり、1年半前ほどからご縁があってこれまでコロナ禍と中小企業経営者の関係について、また、パワハラについての記事を数記事投稿させて掲載させていただき、この度小冊子即週「コロナ禍で急増‼︎メンタル疾患を正しく理解する」監修をさせていただきました。
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月刊近代中小企業「Kin Chu」は僕以外にも心理職の方々の寄稿があり、中小企業とメンタルヘルスとの関係をとても重視しています。

従業員を雇用している中小企業リーダーがこのコロナ禍に巻き込まれて従業員のメンタルに気を配らなければならないというのはとても慧眼と思います。

精神疾患というのはコロナ禍にかかわらず一定の数の罹患者がいるわけです。それでも「コロナ禍で急増」というのは 、たとえ統合失調症や双極性障害のような遺伝性が高いと言われている疾患でも、強いストレスがかかるとそれまで耐えていた人が急激に発症、または増悪するというのはいかにもありそうなことです。

そこで今回本小冊子を出すことで、メンタル疾患に関する理解を一般の方々にも広く知ってもらいたいという高い意識から発行する次第となったわけですが、こういった啓蒙冊子の監修を勤めさせていただいたのは僕としても大変身に余る思いが致します。

そこでこの小冊子の見本をここに紹介させていただく次第ですが、興味のある方や、一般向け広報として活用したい方、またご自身が読みたいという方はぜひ正式版を入手して参考にし、お読みになっていただければ幸いです。

「速習」見本pdf

「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp

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「支え合う家族・夫婦で支え合い、そして子どもたちを支え、笑顔で明るい家庭を過ごすには?」

※ 本稿は近代中小企業様に投稿させていたものです。僕はこのブログの大きなテーマとしていて、メンタルヘルスへの影響が甚大な新型コロナについて取り上げています。今回出版、及びインターネット上に掲載していただいたことについて感謝申し上げます。

 
「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp

(元原稿)

1.はじめに

6月19日、政府は都道府県をまたぐ移動を許可、これによって観光産業が息を吹き返し、世の中も明るいムードになることが期待されています。その反面で日々変わる感染者数の増減が発表されています。場合によっては第2派流行があるのではないかと懸念されています。これまで休校されていた学校は登校可能になりましたが、予断を許せない状況であることには変わりありません。

ソーシャルディスタンスを守り、「3密」を回避しながらなるべく自粛を続けていくことには変わりないのです。こういった中、家庭人でもある経営者はどのように家族に接し、明るい雰囲気作りと自粛を両立させていけばいいのでしょうか?

従業員にも安定した家庭の中で過ごし、明るく生き生きとして働いてもらいたい、そのためにも企業のリーダーが範を示したいものです。

2.沈滞ムードにならないための家庭の雰囲気作りとは?

休校からだんだん開校となってきた今、子どもたちも元気に学校に行き始めました。そうするとすっかり元の生活に戻ったような錯覚を抱いてしまいます。専業、兼業でも主婦(夫)は子どもの昼ご飯を心配しなくていい、ストレスをためながらずっと家族で顔を合わせていなくてもいいということでほっとしているかもしれません。

ところがスーパーやコンビニに行くと相変わらずビニールの仕切りがあり、並ぶ時にもソーシャルディスタンスを開けて、と今の生活は元とは異なっています。

ニュースは再流行しそうだとか、ワクチンや治療薬はできるのか、海外では爆発的な感染のおそれあり、と見る番組ごとにばらばらの報道をしています。様々な報道に接していると不安にさせられたり、もう危機は脱したのだと思う事になったり、人々は気持ちをかき乱されてしまいます。

企業リーダーは家庭でも大切な舵取り役でそして水先案内人です。混乱する世間の情勢に流されて家族が不安定にならないためには、経営者であるリーダーとっては家族のマネジメントも大事な仕事です。

今は全て良くなったと喜ぶ時期ではなく、世界ではまだコロナは大流行しています。その中で家族を支えるためには正確な情報を知り、家族の不安や心配に対して親身に共感することが大切です。日々洪水のような情報が飛び交う中で、正確な情報を拾い上げましょう。そして家族が知りたい事実をきちんと伝えておく心構えも大切です。正確な事柄というのは「日本ではこの状態はだんだん立ち直りつつあるけれども決して油断はできない」という事です。

子どもは大人の立ち振る舞いを見ています。そして大人を頼りにしています。配偶者もあなたを頼りにしています。ですから大黒柱が揺らぐと他の家族も影響を受けるということを心に留めておきましょう。

家族が「沈滞ムードにならない」工夫というのは無理をして場を盛り上げるということではありません。家庭はお互いの感情が影響しあってひとつの有機体のような動きをします。今回外出が制限されてストレスがたまった、そして自粛ムードが解けたからもっと自由にしたい、まだ慎重にするべきだ、家族といっても一人一人は違っているのですから考え方が違うのは当たり前です。

たとえ誰かがストレスがたまってイライラしたり怒り出したとしても、家庭内のムードメーカーはきちんとその苛立ちを真剣にじっくり聞いて受け止めます。家族全員が他のメンバーから尊重されて、大切にしてもらう権利があるのだということを忘れずにいたいものです。

企業経営者の方々は取引先や従業員ともこういった繊細なやり取りをしたことは多々あったはずです。筆者のような心理カウンセラーから見ても企業リーダーの中には、すぐにでもプロのカウンセラーになれそうな人格識見が優れた人たちが多いのにはいつも驚かされています。企業リーダーこそが家庭の上手な運営者ではないかとも思っています。

企業経営者は人心掌握のプロです。企業はトップダウンで意思決定をして遂行しなければならない場面もありますし、それは必要な事です。しかし家庭ではトップダウン方式は好ましくないことも多いです。どの家族も自分の行動は自分で決めたい、自分の考えていることを相手に表明したいという欲求があります。そしてその意向をきちんと受け止めることも大切です。

世間が大きく揺れ動いていても家族がそれに巻き込まれないためには、ストレスがあってわがままな事をいう家族メンバーがいたとしても「それはお前が悪い」という言い方をしないように心がける事が大事です。こういった時には「I meaning(アイ・ミーニング、自分はこう思うんだけれども」という言い方や態度が有効です。

例えば「お父さん(お母さん)としては行動制限が自由になったとしても家族で夕食は食べたいし、みんなで仲良くしたいから、6時半までには帰ってきて欲しい。そういう風にして(考えて・思って)くれると嬉しいんだけどなあ」とあくまで自分目線から適切な言い方(心理学的にはアサーティブな表現といいます。)だと「そうか、お父さんはそんな風に家族を大切にしようと考えているんだ」とプラスの意味で受け止められやすいです。

3.夫を、妻を支え合う思いやりのある夫婦関係が大切に

夫婦は家族内では子どもたちを支えて、そして夫と妻はお互いを支え合います。夫婦でうまくやっていくために大切なのはセルフケアです。会社のことで頭がいっぱいで心ここにあらず、帰宅しても配偶者の言う事も生返事で聞いていて、真剣に受け止めていない、そうすると相手も不安になります。この事態で日本そのものがぐらついているので、経営者としても冷静でいられない時があるのはよくわかります。

しかし、健全な家族関係を作りたいのなら夫婦関係が良好な事が前提です。そして夫婦関係を健全にしたいのであれば、まずは自分のメンタルケアが大切になります。企業経営者の方々はこの時期切羽詰まっている精神状態にあっても、明るい笑顔を忘れず、楽観的でいられるようなゴールを定めていけば理想的です。

だからといってこの時期は明るい話題ばかりではないのが当たり前なので、「今何が(企業を経営していく上で・経済上の問題として・従業員の生活を守っていく上で)心配なのか」悩んでいる事をきちんと配偶者に伝えておくといいでしょう。

企業経営者の配偶者は、相手が何をしていても上の空で、一体何を考えているのかわからない。という事では不安が高まるばかりです。人は曖昧な情報しか持っていないとより不安になります。人は「完全に把握したい。完璧でありたい」と望むものですがそれは無理なことです。ただ、曖昧なままにしておくよりはお互いに情報を知っておくことが望ましいわけです。企業においては従業員と、そして取引先や顧客との間でもコンプライアンスの一環として情報共有が大切になっていますがそれは家庭もまた同じで、家庭では特にお互いのメンタルについての情報を知っておくとコミュニケーションがスムーズに進みます。

そしてこの時期はかなり女性に負担がかかっていることに留意しておいた方がよいかと思われます。男性の経営者であれば妻のことを、そして女性の経営者であれば自分についてきちんと気配りをしましょう。

妻は母親でもあり、また夫の両親からは嫁としての役割も期待されています。兼業主婦でも専業主婦でもまだ日本においては女性は家事労働の担い手として期待され、育児ばかりでなく介護者になるかもしれません。新型コロナで外出がなかなかできない、ステイホームは女性の仕事を増やしたと思います。買い物や家事は家のことがよくわかっている女性、ということになると一気に負担が増えていたでしょう。

ステイホームが解けてから、それまで気を張り詰めていたのが一気に気が緩んで体調を崩しやすくなることも考えられます。男性はきちんとこういう時に女性をいたわり、きちんと家の事に手を出して家事育児などに取り組む姿勢が期待されます。

新型コロナを乗り越えるためには夫婦がお互いのことを心配し、心身の状態を十分に気遣うことが大切になってくるでしょう。結束力が高い夫婦はお互いのメンタルを支え合います。それは経営者にとってはかなり心強いことです。「なぜうちの妻(夫)はわかってくれないのか」という不満を抱くよりも、まず相手を理解していこうという対話の努力が身を結ぶでしょう。

4.子どもを不安定にさせないために

危機場面では大人よりも子どもの方が敏感に反応して情緒的に不安定になったり、体調を崩しやすくなります。

イライラそわそわする、大人たちがいつもと違う様子なのに気づいて子ども帰りをして甘えたり泣いたり、という変化が起こります。

子どもは心の不調を身体に表しやすいです。食欲が一気になくなったり、反対に食べ過ぎたり、睡眠が乱れることもあります。休校によるステイホームと登校の繰り返しがあれば生活のリズムが乱れ、それは心身面への悪影響も及ぼすのです。

情報共有のことについて書きましたが、それは子どもにとっても同じです。なるべくわかりやすい言葉がけをしましょう。家族は変わらずに仲良くやっていけること、確かに新型コロナは怖い病気だけれども対策をきちんとすれば感染の危険性はぐんと減る、手洗いを励行すること、ひとつひとつ子どもの不安をときほぐすように質問に答えてあげましょう。

そしてこういった場面だからこそ大切なことを子どもには覚えて欲しいと思います。今医師、看護師など医療従事者が治療の最前線にいます。そしてさまざまな市町村でコロナに感染した家を特定してくれ、そうしたら近寄らないようにするから、という人々が役所に押しかけています。

医療従事者だからコロナに感染しているのではないか、だから医療従事者の子どもとは同じ学校には通いたくない、コロナに感染した人のそばには近寄ってはいけないなど差別と偏見が世界中で問題となっているのです。

医療従事者は命がけでこの病気から人々を守って救おうとしている、そして感染者でも治癒したということで退院していればもう何の感染力も持っていない人です。命を大事にするという情操教育を行い、そしてどんな場合でも差別はいけないという事を教える絶好の機会です。

子どもにとっての休校、そして休校明けは生活のリズムが変わったので精神面での不安定の原因にもなります。

これまでは友だちに会えなかったからじっと我慢していた、また友だちに会えたというとテンションが上がり過ぎてしまう場合もあります。学校が始まったとしても家庭のルールは守らなければいけません。門限を伸ばす必要もないですし、きちんと普段通りの生活を規則正しくさせることが子どもの安定につながります。

子どもは親の思うようにはならず、それはステイホーム期間もそうでしたし、解けてからもわがままを言うかもしれません。育児にかかわる親にとって、親も人間ですから当然腹が立つことはあるでしょう。躾のために叱る事は大切ですが、感情のままに当たってしまうと子どもは怖がってしまい、心に傷を残してしまうことになりかねません。子どもが通っている学校は教員がこういった相談にきちんと対応してくれるでしょう。学校にはたいていスクールカウンセラーも巡回しに来ています。または別の相談機関を紹介してくれるかもしれません。親としての自分を振り返ってみて、冷静さを失っているかもしれないと思ったら、まず学校に連絡してみることをおすすめします。

4.自粛しながら家族内で煮詰まらないための工夫

自粛がある程度解けていけば家族で外出することも可能になります。それでも大勢で集まって3密が守れなくなるような生活はできないわけです。だから大人数で集まってわいわいと遊ぶ、飲食をする生活はまだできないものの、このステイホーム期間を通じて多くの人々がオンラインで人とつながる手段を獲得してきました。

それは自粛がある程度緩められてからも使用できる手段です。オンラインやSNSで仲のいい人たちとつながり、そして苦しい、苦しかった期間を耐えてきたことをお互いにねぎらい励まし合うのはあちこちに出かけなくてもオンラインでも可能です。

家族がそのメンバーだけでさまざまな物事に対処しようとするよりも、他の人々の支援を受けた方がはるかにうまくことは多くあります。筆者のような心理カウンセラーもこうしたご家族の相談に乗る事は多いのですが、健全な家族ほど早めに相談に来てきちんとご自身たちで解決方法を見つけていらっしゃるようです。

ぜひ様々な工夫をして企業リーダーのご家族の方々にこの場面を乗り切り、明るい未来を見られるようになって欲しいと願っています。

今回もPDF にて原稿を編集、掲載していただきました。どうもありがとうございました。

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