「精神系のくすり」メディカ出版書評 公認心理師受験生、現職心理職、医療職、福祉職の方々へ
メディカ出版、こころJOB BOOKSから「心のケアにたずさわる人が知っておきたい精神系のくすり」が発売されました。僕は本を読む時、表紙、目次、著者を見てから中身を読むというあまのじゃくで、そこで面白そうだったら手に取って読んでみるという人なのですが、まずその段階からひどく興味をそそりました。
現場で働く看護師さんが薬のことに詳しくないとならないのはもちろんですが、表紙に書いてあるとおり、心理職・精神保健福祉士にも役立つ一冊でしょう。これから臨床心理士試験・公認心理師試験を受ける受験生にも役立つ内容だと思います。
メディカ出版「精神系のくすり」には最新の知識が書かれています。僕も仕事柄何冊か精神薬理学の本は持っているのですが、この本にはイラスト入りでなぜこの薬が効くのかがわかりやすく書いてあります。
序文に書いてあるように臨床心理士・公認心理師が「なぜ薬の本を読まなくてはいけないの?」と思いがちなところもあるかもしれませんが、僕は患者さんに投与されている薬を知ることで目の前にいる患者さんに対する医師の「思想」を知ることができるからだと思っているのです。
つまり医師がどのようにその患者さんの病態を見ているかがわかるわけです。また、忙しい医師が3分診療をせざるを得なかった時、遠慮深い患者さんは何もかも「はい」と答えてしまう傾向があります。
カウンセリングの時に「実は○○という副作用があって、先生(医師)には言いにくかったのですが…」ということがありきちんと患者さんを医師に再診してもらうのも心理職の大切な仕事です。
そこで「看護師&心理職などが知っておきたい副作用」のコラムにはひとつひとつの薬について書いてあるのです。
さて、この本は第1章「精神系のくすりの役割を知ろう!」で向精神薬はなぜ患者さんに処方されるのか、第2章では「くすりの処方行動における心の交流」が書いてあります。
よく知られていることですが、患者さんの心の状態は医師の処方する薬と医師との信頼関係にかかってきていることがあり、第2章では患者さんと薬の交互作用と言ってもいい、そのあたりも丁寧に説明されているのです。
第3章「よく処方される精神系の薬について知ろう!」がこの書籍の醍醐味と言っていいでしょう。
かなり多彩な薬剤について記述されています。抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬、抗不安薬、睡眠薬だけでなく、公認心理師試験にも出題された抗認知症薬、漢方薬、アルコール使用障害治療薬(僕はこのあたりが次の試験に出るかもしれないとヤマかけをしています。)について記述されています。
また、第4章「精神系のくすりと併用されやすいくすりを知ろう!」では向精神薬と併用されることがある、向精神薬の副作用止めに使用されることが多い制吐剤、便秘薬、胃薬、抗パーキンソン病薬、精神にも大きな影響を与えるむずむず脚症候群治療薬に関しても書かれています。
精神系の薬の開発は日進月歩です。したがって5年前の薬の知識だと現場では役に立ちません。知識ををバージョンアップする必要があるのです。
実際、公認心理師試験は薬剤に限らず法律、制度、診断名の最新知識が出題されているのですが薬剤についても同様です。もちろんこの書籍は最新の薬剤知識が記述されています。
公認心理師試験は商品名ではなく薬剤名で出題されるのですが(例;クロルプロマジン塩酸塩=コントミン、ウィンタミン)そのあたりもしっかりと書かれています。
薬の本だけあってひとつひとつの薬について作用機序(何故その薬が効くのか)、また予想される副作用が書いてあり、かなり丁寧です。また、症例が書いてあることも役立つのです。
副作用の記述はかなり詳細に説明してある本と言えるでしょう。
薬の本というと、何故その薬を出すのか、というそっけない書き方をされていることが多いのですが、症例集を読んでいると〜という症状が出て○という薬を出したが効かなかった、だからこの薬を処方したら効いた、ということもわかりやすく説明されています。
付録についている資料のQRコードも便利で、薬剤名、どんな用途で使われるか、副作用についても書いてあり、受験生の方や心理職の方も覚え込むのに、また患者さんのためにさっと調べて答えることができるのです。
公認心理師受験生から「どうやって薬剤とその副作用を知ればいいの?」と聞かれることがあるのですが、これはわかりやすく、いい本と出会ってそれをきちんと読み込むことしかありません。ここまでこの記事を読んできて、公認心理師試験の過去問に多くこれらの知識が出題されてきていることがわかります。
現場の心理職でも「投薬は医師の仕事だから」と薬剤やその副作用についておざなりにしてしまうことが多いのですが、上記のさまざまな理由から、それではきちんとしたカウンセリング、安全なカウンセリングができないことは自明でしょう。
そういった意味ではこの「精神系のくすり」はとても良書と言えるのでぜひ手に取って読むことをおすすめしたいのです。
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