4C8E6E2D-CB8B-49B9-8B0E-A064048DE862


※ 近代中小企業編集部様への投稿記事を掲載していただきました。

「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp

(以下本文)

 日々、コロナ禍に関するニュースが報道されています。「○○でクラスター発生」「今日の感染者数は○○人」など、ネガティブな報道が多く、人々はメンタルが弱くなっています。今、私はメンタルヘルス上大きな影響を与えているコロナ禍における心理学的な影響について、複数の心理カウンセラーと共同研究を進めています。本稿で、その一端を紹介します。


コロナ禍はメンタルを
不安定にさせる

●生物を無力化するダメ状態

「こんなに感染者が出ていると自分もダメかもしれない…」
「ウチの会社の従業員や家族に感染者が出たらどうしよう…」

 クヨクヨしているとメンタルはどんどん不安定になります。
 冒頭で述べたように、私は仲間と新型コロナウイルスの心理学的な影響について研究をしていますが、その途中経過で、

「苦境に陥っているときほど前向きな考え方をして、先に進んだ方がメンタルヘルスにはいい」

という結論が出つつあります。
 アメリカのポジティブ心理学の権威、マーティン・セリグマン博士は「いくら逃げ回っても電撃ショックを与え続けられたネズミは、そのうち丸くうずくまって何もできなくなってしまう」という、無気力感についての研究結果を発表しました。
 つまり「何をやってもダメ」という状態に置かれると、ヒトを含めた生物は無力感に襲われてしまうのです。反対に「何かの対策をすればそれは有効である」とも、セリグマン博士は述べています。
 楽観的に物事を見られるポジティブな心理状態は、人の気持ちを楽にしてくれるのです。

正しい知識と情報を得て
不安を減少させる

●新しい生活様式 
 正しい知識がないと不安が深まります。そして、不完全な情報は人の心を混乱させます。

「どこに行ったら危ないのか?」
「どこが安全なのか?」
「どういう生活方法をした大丈夫なのか?」

 例えば、新しい生活様式の中でスーパーマーケットへ買い物に行き「洗剤を購入するにあたり、手に取り成分をじっくりと見る」という行動はNGです。新しい生活様式では、できる限りモノに触れない、同じ場所に滞在しないようにする必要があります。
 周囲の人や店員は、あなたがウイルスを持っているか分からないので、他者への配慮をしなければなりません。スーパーマーケットへの買い物は、家族の中で一番体力がある人が短時間で行くようにして、帰宅後はすぐにシャワーを浴びてください。
 では、解放空間であれば大丈夫なのか…。例えば公園。遊びの中で子どもたちは三密を避けることは出来ませんし、遊具にもウイルスがついているかもしれません。

●安心感でポジティブ思考に
 新型コロナウイルスに対して最も有効なのは石けんによる手洗いです。正しい方法で手洗いをすれば殺菌力によってウイルスは死滅します。
 そして三密を避けるため、2メートル以上のソーシャルディスタンスを守りマスクをすることで感染の可能性はグンと減ります。クラスターの発生は、多くのケースで三密が守られていないことに起因しているので、以上の安全性の確保を心掛けてください。
 正しい知識を得ることで安全な生活方法を知り、感染リスクを減らして安心感を持つことことができます。それがポジティブな気持ちを保つことにつながります。

コロナストレスと
メンタルマネジメント

●免疫力を高める

「自分がコロナに感染しているのではないか?」
「家族がコロナに感染しているのではないか?」
「会社でクラスターが発生したらどうしよう?」

 これらの心配事はすべてコロナストレスと言えます。特に経営者がこのようなストレスを抱えていると、企業という組織・集団の中に不安が広がることになります。
 だからこそ、コロナストレスにはメンタルマネジメントが必要になるのです。
 メンタルマネジメントのための心得とは、
・リラックスすること
・精神的なタフさを身につけるために充分な休養を取ること
・そのタフさやレジリエンスを鍛えるにはユーモアが大切
 企業のセクション、あるいは全体的なムードが沈滞していると、企業そのものの士気にも影響してきます。
 現在、飲食店や観光業など、コロナ禍のため短期的に損失を被っている企業もあります。この機会に、従業員には将来的な生活も大丈夫であるという保証のためにも、きちんと休暇を消化し、リラックスして心身を休めてもらうことが重要です。
 つまり、リラックスしてよく眠り、食事をきちんと摂る。これを企業リーダーが率先して実行し、従業員もそれに習うことが、ウィズコロナに必要なメンタルマネジメントになります。
 さらに、前述したポジティブ心理学では、
・楽観主義でいる
・気持ちを安定させる
・深呼吸をする
などの何気ない工夫がとても重視されると説いています。このような、落ち着いて安定した雰囲気作りが人々の免疫力を高めます。

企業リーダーが実践する
有効的な危機介入

●カウンセリングマインド
 これだけ新型コロナウイルスの感染が流行していると、いつ・どこで・誰が、感染してもおかしくありません。街中での経路不明感染、そして、よく聞く「夜の街」で感染することもあり得ます。
 夜の街は周知の通り感染確率も高いのですが、自社のコロナから回復した従業員に、どこでどのように感染したか、取り調べのように聞くことは好ましくありません。実際、そういったパワハラに近い対応をしている事業所があるという話も聞いています。
 その結果、何が起こるかというと、コロナの感染源が不明になります。確かに、夜の街に行ったのかもしれません。しかし、会社に対して申し訳ない、また、やましさから医療機関や家族、企業に感染経路を秘密にしてしまうかもしれません。そうすると感染経路は不明になってしまいます。
 感染経路がわからなくなることで、コロナクラスターの発生源もわからなくなります。つまり、公衆衛生的な介入ができなくなってしまうのです。
 仮に、自社から患者が数人出たとして「すべて感染経路不明」だったとしたら、保健・医療機関からいぶかしく思われるでしょう。
 どのような感染ルートでも、それをリーダーは「責めない」「差別をしない」ことです。感染ルートやクラスターを明らかにすることは、企業の社会的な責任でもあります。リーダーは何が起こっても泰然自若とした振る舞いで、事に対処してください。
 心理カウンセリングの世界ではよくあることですが、患者さんの不安をきちんと受け止めていると患者さんは安心して悩みを話してくれます。リーダーも広い心で従業員の不安を把握し、きちんと受け止め、受容するという、カウンセリングマインドで対応して欲しいと、産業・医療現場で働く私は思っています。

感染予防知識を伝えて
意識向上と安心感を与える

●接触確認アプリ「COCOA」
 「アメリカ疾病予防管理センター(CDC)」は、どんな感染症が流行しても基本的な予防法は、
・手指消毒(正しい手洗い方法)
・ソーシャルディスタンス
の厳守であると説いています。
 手洗い方法や感染症対策は、厚生労働省や首相官邸の作成したものが推奨されており、そこに、手洗いやマスクの仕方が掲載されています(図1)。
 また、厚生労働省の接触確認アプリ「COCOA」は、一人ひとりがアプリをインストールすることで予防意識を高めることができます(改善中箇所あり)。リーダーがアプリを自分のスマートフォンにインストールして、従業員にも推進してください(図2)。
 リーダーが、従業員の健康に気を配り、コロナ禍の現状に対応していることをアプリひとつで示すことができます。

今、企業リーダーに
求められていること

●言葉に出してほめる
 多くの企業がコロナ禍で厳しい経営状態が続いています。しかし従業員には、自社の屋台骨は揺らぐことなく雇用確保を示します。
 実際にカウンセリングの現場では、特にコロナ多発地域に居住する人々は自身の感染よりも経済的な不安を口にします。安心感を与える根拠が必要なのです。
 動物は勘や食物の有無で危険を察知します。地球上で人間だけが言語を使いますが、言葉は人間にとって罰にもなれば報酬にもなります。報酬とは、金銭的な報酬だけでなく、言葉による安心を与えるだけでも充分なのです。
 根拠というと数値的なものを想像しますが、様々な心理学的理論では、論理的な根拠だけでなく、暖かい雰囲気やポジティブな声がけ、ほめられることなどが、自信を持たせる根拠となり得ることが示されています。
 「兵站は戦の要」という言葉がありますが、心理的なプラスの資源を持っていることは人を前向きにします。従業員が心の中にプラスのエネルギーを持つことで、ゆとりある気持ちで働くことが可能になります。
 どんなに小さなことでも、注目してほめられると人は嬉しさを感じ、それは充分ポジティブな心理状態を生み出します。

ポジティブ心理学で
ウェルビーイングを

●肉体、精神、生活を満たす
 ポジティブ心理学は、その名の通りポジティブな思考法を推し進める心理学の一分野です。健康的な良い生き方をすることは、単に病気を患っていないということではありません。
 WHOは「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます」と定義しています。
 病んでない生活をするだけではなく「満たされて幸せで充実した生活(ウェルビーイング)」をポジティブ心理学ではとても重視しています。
 コロナ禍で不安な気持ちに追い込まれ、また、そこから抜け出せない生活は「ウェルビーイングからはほど遠い状態」と言わざるを得ません。
 ポジティブ心理学は、経営学でも重要視されており、マイクロソフト社やグーグル社にも導入されています。その中核となる理論を図3に紹介します。
 これらの考え方は、不安の解消やうつ病の予防に役立つことが知られており、実際に脳波測定をして脳の血流量を調べると、ポジティブな考えをする人は脳も活発に動いているという研究結果が出ています。
 常に、積極的で前向きに進んで行くことが人間の心を豊かにします。そして、このポジティブ心理学の牽引役は、企業リーダーが務めなければなりません。

図3 ポジティブ心理学の理論
●嬉しい、楽しい、明るい、面白い、感謝、感動というポジティブさは、人の心を力強くさせます。
●何かに集中、熱中して自分を積極的に課題に関与させる「フロー状態」という概念を実践すれば不安は薄まります。
●よい関係性、援助し合い助け合うことは絆と連帯感を生み出します。
●人生の意味や仕事の意義、及び目的を前向きに追求することは、人生と仕事にプラスに働きます。
●達成感は満足を生み出します。企業リーダーは、実際に体験された方も多いと思いますが、必ずしも結果が伴わなくとも努力をしたというプロセスそのものも満足につながります。


今一度、逆境を乗り越え
自社をパワフルにする

●スモール・ステップ
 仮に、コロナ禍の影響を受けて一時的に業績がダウンしていても、人は前向きでいる限り苦境を乗り切ることは可能です。生活は変わらず、暖かい同僚、上司、経営者がいて、家族に恵まれていれば従業員一人ひとりのモチベーションは高まります。
 コロナ禍は世界的な脅威となっていますが、逆境の中でも一つひとつ目標を達成することができれば自信につながります。
 心理療法の世界では「スモール・ステップ」を重視します。コロナ禍において、自社や自身の現状が劇的に1日ですべてが改善していくことは考えにくいです。一つひとつの課題を積み重ねてゆっくり完成させることは、一見すると歯がゆいように思えますが、着実な小さな変化はやがて大きな変化につながります。
 自社が安定経営の際はあまり意識していなかったかもしれませんが、今一度、原点に立ち戻り全社全員で協働して苦境を克服し成果を挙げた日のことを思い出してください。「大変な状態を乗り切った!」という自信です。
 コロナ禍の影響はすぐに収束するものではありません。しかし、そんな辛い状況でも前向きでポジティブなリーダーがいる企業は成長を続け、日本経済と世の中の雰囲気を明るくしてくれると信じています。

※ いつも記事をPDF(クリックで読み込み可能) にしていただいて素敵なレイアウトにしていただき、非常に感謝しております。今後とも機会があればぜひよろしくお願いします。