◯ 前世療法、精神分析、トラウマと偽の記憶財団と司法面接
ずらりと用語を並べただけのようですが、人の記憶はその繋がりをどこかに紡ぎ出します。
それが真実なのか、錯覚なのか、妄想なのかよくわからない、明らかにしなけらばならない領域とそうでない領域の間でカウンセリングをしているカウンセラー、クライエントさんも多いと思います。
例えば箱庭療法は置かれた玩具をセラピストとクライエント2人で片付け、イマジネーションの世界から現実に戻ろうとします。
昔の文献を読み漁っていて、箱庭で炎を使って燃やした、箱庭に水をぶちまけたという、クライエントさんの激しいアクティングアウト、行動化を読んだのを思い出します。
箱庭に限らず退行を促すカウンセリング手法や、あるいは認知行動療法でも古典的条件付けにしたがって、セッションの最初にフラッディングと呼ばれる嫌悪刺激を怒涛のごとくぶつけるという技法はクライエントさんに徐反応と呼ばれる「反応」を引き起こします。
(認知行動療法では徐反応という用語は認めていません。)
僕も何回か見たことがありますがカウンセリングのセッションにおける徐反応は、激しい怒りの感情や動揺がこれでもかというぐらい表出されます。
これがすぐに看護師さんを呼べばリスパダールやセルシン注射で鎮静化させられて終わりかもしれませんがトラウマは残ったままになります。
現代催眠原論(金剛出版)でも書かれているように徐反応が起きたら徹底して(自傷の危険がない限り)徐反応を起こしてもらうのがトラウマティックな体験の解決に繋がります。
徐反応の間は解離して記憶がなくなっているので「あれ?何だっけ?でもすっきりしたなあ」
というのはセラピストとクライエントさんの共同作業による感情処理の上手な方法でしょう。
ヒーラーや民間のヒプノセラピーで前世療法を使う治療者がいます。
これはエビデンスも何もあったものではないのですが、「使えるものは何でも使う」精神科医、セラピストにとっては前世療法家が「あなたが前世で見たトラウマに苦しめられている」
「今あなたの頭の中に蘇った記憶はあなたの父親が16歳ぐらいの時にいじめられた体験かしらね。それであなたが今苦しんでいるのよ」
という前世療法家の言葉を再評価したセラピストが「じゃあ現世はどうなの?」
という問いかけに対して前世と現世、そして未来との繋がりから得られる洞察は、クライエントさんの無意識の奥に沈潜化した何かに訴えかけるものがあるでしょう。
催眠は運動支配催眠(ピタッと両手のひらがくっついて離れない)に比べれば記憶支配催眠(前世療法、あとから催眠時に言われたことを覚醒してから実行する後催眠暗示)は比較的難しいと言われています。
催眠の真偽の「闘い」の歴史は長く、1930年代、色街がなく姪などの近親者へ性の対象が向かった心的外傷を「そんなわけないだろう」とヒステリーと精神分析は否定しまくっていていました。
構造主義哲学者、精神分析学者のLacan,Jも外傷体験そのものを自らの理論に取り入れませんでした。
トラウマ研究者第一人者ジュディス・ハーマンHerman,J.L.はトラウマや性的虐待研究の第一人者ですが、裁判の場では敗訴することが多く、アメリカではカウンセリングで偽の記憶を作り出す偽の記憶財団False Memory Syndrome Foundationとの拮抗はいまだ決着はついていません。
結局心理の世界でこういった被害者の受けた虐待の真偽について確認するのは司法面接です。
司法面接は決して誘導せず、ただ一回だけの面接で虐待の有無を判定する、検察官、警察、児相、家裁調査官が真剣勝負で挑みます。
司法面接の現場では「知らない」「もうイヤ」「帰りたい」を連発する子どものトラウマ離脱のテクニックが面接者を困惑させます。
現代精神分析はトラウマ治療と相反するものではなく、精神分析家北川清一郎先生の事務所ではトラウマに特化したEMDR治療者が北川先生を含めて複数います。
司法面接でその存在が確定した虐待には「ケア」の視点を持つことが大切ですが、児童心理司は心理治療的面接を行う時間がなさすぎるとアンケートで回答しています。
トラウマ=治療対象という概念が広まって来たのはそれほど昔のことではありません。
伊藤詩織さんが刑事事件で門前払いされた事案ついて考えると、日本の司法はまだまだ先行きが暗澹としたままです。