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photo&lyric by sora (@Skylit_Blue)
掴めそうで掴めない
永遠のような
刹那の煌めき


◯ 神経発達症群/神経発達障害・強度行動障害から見る福祉心理学

公認心理師試験における発達障害は、発達、障害、福祉、DSM-5、心理検査、法律と、ブループリントにおけるさまざまな項目に絡んでおり、どこから弾が飛んでくるかわからない状態です。

ですからDSM-診断体系から法律、心理検査、その実態と抱える問題点について総合的に試験対策を考えみることは必要です。

1.DSM診断体系から

DSM-5では発達障害は大きなくくりとして神経発達症群/神経発達障害の中に入れられることになりました。

⑴ 知的能力障害群

従来DSM-Ⅳ-TRまでは知能指数70未満というラインが知的障害かどうかの分岐点で、50、30未満も障害の程度を見る基準となっていましたがDSM-5となってその重症度を測る基準が、何ができるのか?という概念的、社会的、実用的領域によって軽度、中等度、重度、最重度に分けられることになりました。

知的能力症候群はASD自閉症スペクトラム障害の合併率は、知能水準の低さとともにかなり高いものとなっています。(IQ30未満で80%;臨床家のためのDSM-5虎の巻、日本評論社)

知的障害は以前書評的に書いた 発達障害がわかる・金子書房「発達障害児者支援とアセスメントのガイドライン」 では評価のための基準のテストとして、ウェクスラー式、田中ビネーⅤ、新版K式があげられています。

発達障害全般については社会適応度合いを測定するVineland-Ⅱ適応尺度が使われることが多いです。

DSM-5ではPDD-NOS(どこにも分類されない広範性発達障害)というゴミ箱診断名が無くなり、そのかわりに多分PDD-NOSに取って代わられたかのようなコミュニケーション症群、コミュニケーション障害群の中にかなり多く包含されることになったのではないでしょうか。

社会的(語用論的)コミュニケーション症は適切な状況で適切な語用ができないというものです。

もちろんASDの中にも多くPDD-NOSは包含されているでしょう。

福祉心理学の中であまりこれまで俎上に乗せられていなかった話題ですが、福祉にも福祉職、心理職はいて、それぞれが輻輳しながら、また業務分担をしながら仕事をしています。

2.強度行動障害

今回の記事で特に取り上げたいのは強度行動障害です。障害の中でも最も重度な領域であり、それだけに職員のやりがいもある仕事で、心理の知識と深く関連していると思えるからです。

前掲書、金子書房「発達障害児者支援とアセスメントのガイドライン」事例10、p374に「強度行動障害が絡んだケース」が掲載されていました。知的障害者入所更生施設でショートステイ中の事例について紹介されていました。

「強度行動障害」は知的障害の中でも心理職があまり知らない領域ですが、本事例では

診断:
①重度知的障害(20歳8か月時の田中ビネー知能検査にてIQ12)
②自閉症
③強度行動障害判定値36(強度行動障害と認められ、特別処遇相当となる。)
(以上前掲書から引用)

です。強度行動障害判定値はカットオフ値20のため、この事例は重度と認められます。

なお発達障害情報・支援センター の定義によれば
「強度行動障害とは、自分の体を叩いたり食べられないものを口に入れる、危険につながる飛び出しなど本人の健康を損ねる行動、他人を叩いたり物を壊す、大泣きが何時間も続くなど周囲の人のくらしに影響を及ぼす行動が、著しく高い頻度で起こるため、特別に配慮された支援が必要になっている状態のことを言います。」

とあり、自傷、他傷、排泄物を壁になすりつけるなど知的能力に制限がある対象者といかに接するかが問題となります。

強度行動障害を家庭で見ていくことは困難であり、その多くが施設に知的障害者対象の施設やグループホームに入所しています。

この強度行動障害については僕の知己のN女史が詳しく修士論文で書いていますので引用、要約をします。

こうした強度行動障害者は知的障害者の中でも最も職員がる対処困難で職員のバーンアウトも危惧されます。

こういった施設の職員は福祉、心理職の専門家であることも多いですが、必ずしもそうでないことも多いでしょう。

N女史によるとこういった職員は

◇ ◇職場での困りごと
 利用者の突然の不穏や,急な問題行動が一番に挙げられた。また,職場での人手不足や,退職する職員が多く,悲しいと語られた。人間関係での困りごとはないとのことであった。
職員の退職については,給与が見合っていないことや,やりがいをもてないという理由があるとのことであり,給与については,今は足りているが,将来家族ができた時にどうなるのかがAさん自身も不安であると語った。


とのこと。また、

◇ ◇ 利用者との関わりでの困りごと
 利用者の突発的な不穏の際,急に対応しなくてはならない時に困る,利用者の他傷行為(つねる,髪を引っ張る),壁を叩く等の破壊行為や自身を傷つけるような自傷行為も多いため対応に困るとのことであった。また,利用者の移動拒否も挙げられた。言葉を理解する利用者も多いが,「お風呂行きましょうか」と声をかけると「いや!」と断られると,“この人はこの時間帯に入る”という流れができてしまうため困るとのことであり,利用者との関わりでの困りごとは,主に利用者の問題行動であることが分かった。


ということも述べられていました。福祉施設でもそうですが、職員のバーンアウトを防ぐためには職員同士の協働が大切であり、

◇◇利用者との関わりでの困難に対してどう対処しているか
 まず,他の職員に相談することが挙げられた。その時,利用者の職員の好みによって困った時に相談する職員を選んでいる。職員全体に対して他傷行為があるケースであれば,職員同士でどうしていくかというのを話し合うとのことであり,状況に合わせて相談方法を変えていることが伺えた。また,施設全体で“統一支援”というのを基本にしており,自分一人で抱え込まないようにグループ内で相談し,全員が同じ支援体制をしていくシステムを作っているという。
 利用者との関わりについては,統一支援から外れないように自分と利用者とのオリジナルのやりとり,マニュアルを探りながら関わっている。具体的には日中の支援などで,手遊びや言葉のやりとりを通して自分自身のやりとりの方法を探していると語った。その中で,この職員(Aさん)はこういうことをする職員なんだというように利用者に覚えてもらうため,利用者の言葉や行動を真似をすることで意識を向けさせるなどの工夫を行っていることが分かった。ここで重要なのが,利用者の他傷行為をわざと受けたりはしないことであった。
 また,“ケースグループ”という体制があり,利用者の支援の方法を考えたり備品(服,靴,日用品)の管理を行っているという。利用者4名に対し職員3名で対応しているとのことである。何か困ったことがあったらケースグループで話し合い,最終的には職員全体で共有し,意見をもらってから“こういう支援をやっていきましょう”との方針がケースグループで決まった後に全体に周知し固まってから実践に移すというのを基本的な流れとして作っているということであった。このことから,職員が一人で困難や悩みを抱え込まないように全体で職員のフォローや利用者支援に取り組んでいることが推察される。


とも述べられていました。相当深く強度行動障害について述べられている論文なので全文引用したいところではありますが、紙面都合上残念ですがごく一部の転載です。N女史が強度行動障害施設で働く職員が協働してやっていかないとならないという趣旨を述べていることは十分に伺えます。

さて、知的障害、発達障害もそうですが、よく言われているように彼らは些少な環境の変化に弱いです。例えば食事→お風呂が、お風呂→食事に変わることは大変化であり、パニックに陥りかねません。

こうした福祉領域は支援員の負担はかなり大きく、例えば公認心理師法施行規則に規定されている独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園でも強度行動障害者が入所していますし、そのための支援員向けの特別な研修プログラム が用意されています。

また、厚生労働省資料 強度行動障害支援者養成研修に関する資料 も相当詳しくこの障害について書かれています。

3.結語

発達障害、知的障害はじゃあ応用行動分析(ABA)治療を行えばいいや、とかペアレントトレーニングをすればいい、もちろんその理念は大切なのですが、まず診断の段階で統合失調症、双極性障害との鑑別が難しい場合もあります。また、強迫的なこだわりを暴露反応妨害法で治療するともれなく悪化するだろうということも示されています。(「大人の発達障害ってそういうことだったのか」宮尾等、内山登紀夫 医学書院 .2013)

こういった処遇施設は慢性的な人手不足から職員を募集していることが多いです。心理・福祉有資格者よりも無資格でも夜勤ができる経験者を優遇して支援員として採用しています。

福祉領域は心理職の持っている知識経験がそのまま生かされるわけではなく、月手取り17〜18万円ぐらいで厳しい状況で働かなければなりません。しかし調べるに従ってやりがいのある仕事だとも感じた事も事実です。