ひなたあきらのおけまる公認心理師たん

新制度公認心理師の検証をしばらく続け、この制度がよりよいものになるための問題提起を行いつつ、カウンセリングの在り方について考え、最新の情報提供を行っていきます。ほか心理学全般についての考察も進めていきます ブログ運営者:ひなたあきら メールアドレスhimata0630★gmail.com(★を@に変えてください。)

カテゴリ: 発達障害

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photo&lyric by sora (@Skylit_Blue)
掴めそうで掴めない
永遠のような
刹那の煌めき


◯ 神経発達症群/神経発達障害・強度行動障害から見る福祉心理学

公認心理師試験における発達障害は、発達、障害、福祉、DSM-5、心理検査、法律と、ブループリントにおけるさまざまな項目に絡んでおり、どこから弾が飛んでくるかわからない状態です。

ですからDSM-診断体系から法律、心理検査、その実態と抱える問題点について総合的に試験対策を考えみることは必要です。

1.DSM診断体系から

DSM-5では発達障害は大きなくくりとして神経発達症群/神経発達障害の中に入れられることになりました。

⑴ 知的能力障害群

従来DSM-Ⅳ-TRまでは知能指数70未満というラインが知的障害かどうかの分岐点で、50、30未満も障害の程度を見る基準となっていましたがDSM-5となってその重症度を測る基準が、何ができるのか?という概念的、社会的、実用的領域によって軽度、中等度、重度、最重度に分けられることになりました。

知的能力症候群はASD自閉症スペクトラム障害の合併率は、知能水準の低さとともにかなり高いものとなっています。(IQ30未満で80%;臨床家のためのDSM-5虎の巻、日本評論社)

知的障害は以前書評的に書いた 発達障害がわかる・金子書房「発達障害児者支援とアセスメントのガイドライン」 では評価のための基準のテストとして、ウェクスラー式、田中ビネーⅤ、新版K式があげられています。

発達障害全般については社会適応度合いを測定するVineland-Ⅱ適応尺度が使われることが多いです。

DSM-5ではPDD-NOS(どこにも分類されない広範性発達障害)というゴミ箱診断名が無くなり、そのかわりに多分PDD-NOSに取って代わられたかのようなコミュニケーション症群、コミュニケーション障害群の中にかなり多く包含されることになったのではないでしょうか。

社会的(語用論的)コミュニケーション症は適切な状況で適切な語用ができないというものです。

もちろんASDの中にも多くPDD-NOSは包含されているでしょう。

福祉心理学の中であまりこれまで俎上に乗せられていなかった話題ですが、福祉にも福祉職、心理職はいて、それぞれが輻輳しながら、また業務分担をしながら仕事をしています。

2.強度行動障害

今回の記事で特に取り上げたいのは強度行動障害です。障害の中でも最も重度な領域であり、それだけに職員のやりがいもある仕事で、心理の知識と深く関連していると思えるからです。

前掲書、金子書房「発達障害児者支援とアセスメントのガイドライン」事例10、p374に「強度行動障害が絡んだケース」が掲載されていました。知的障害者入所更生施設でショートステイ中の事例について紹介されていました。

「強度行動障害」は知的障害の中でも心理職があまり知らない領域ですが、本事例では

診断:
①重度知的障害(20歳8か月時の田中ビネー知能検査にてIQ12)
②自閉症
③強度行動障害判定値36(強度行動障害と認められ、特別処遇相当となる。)
(以上前掲書から引用)

です。強度行動障害判定値はカットオフ値20のため、この事例は重度と認められます。

なお発達障害情報・支援センター の定義によれば
「強度行動障害とは、自分の体を叩いたり食べられないものを口に入れる、危険につながる飛び出しなど本人の健康を損ねる行動、他人を叩いたり物を壊す、大泣きが何時間も続くなど周囲の人のくらしに影響を及ぼす行動が、著しく高い頻度で起こるため、特別に配慮された支援が必要になっている状態のことを言います。」

とあり、自傷、他傷、排泄物を壁になすりつけるなど知的能力に制限がある対象者といかに接するかが問題となります。

強度行動障害を家庭で見ていくことは困難であり、その多くが施設に知的障害者対象の施設やグループホームに入所しています。

この強度行動障害については僕の知己のN女史が詳しく修士論文で書いていますので引用、要約をします。

こうした強度行動障害者は知的障害者の中でも最も職員がる対処困難で職員のバーンアウトも危惧されます。

こういった施設の職員は福祉、心理職の専門家であることも多いですが、必ずしもそうでないことも多いでしょう。

N女史によるとこういった職員は

◇ ◇職場での困りごと
 利用者の突然の不穏や,急な問題行動が一番に挙げられた。また,職場での人手不足や,退職する職員が多く,悲しいと語られた。人間関係での困りごとはないとのことであった。
職員の退職については,給与が見合っていないことや,やりがいをもてないという理由があるとのことであり,給与については,今は足りているが,将来家族ができた時にどうなるのかがAさん自身も不安であると語った。


とのこと。また、

◇ ◇ 利用者との関わりでの困りごと
 利用者の突発的な不穏の際,急に対応しなくてはならない時に困る,利用者の他傷行為(つねる,髪を引っ張る),壁を叩く等の破壊行為や自身を傷つけるような自傷行為も多いため対応に困るとのことであった。また,利用者の移動拒否も挙げられた。言葉を理解する利用者も多いが,「お風呂行きましょうか」と声をかけると「いや!」と断られると,“この人はこの時間帯に入る”という流れができてしまうため困るとのことであり,利用者との関わりでの困りごとは,主に利用者の問題行動であることが分かった。


ということも述べられていました。福祉施設でもそうですが、職員のバーンアウトを防ぐためには職員同士の協働が大切であり、

◇◇利用者との関わりでの困難に対してどう対処しているか
 まず,他の職員に相談することが挙げられた。その時,利用者の職員の好みによって困った時に相談する職員を選んでいる。職員全体に対して他傷行為があるケースであれば,職員同士でどうしていくかというのを話し合うとのことであり,状況に合わせて相談方法を変えていることが伺えた。また,施設全体で“統一支援”というのを基本にしており,自分一人で抱え込まないようにグループ内で相談し,全員が同じ支援体制をしていくシステムを作っているという。
 利用者との関わりについては,統一支援から外れないように自分と利用者とのオリジナルのやりとり,マニュアルを探りながら関わっている。具体的には日中の支援などで,手遊びや言葉のやりとりを通して自分自身のやりとりの方法を探していると語った。その中で,この職員(Aさん)はこういうことをする職員なんだというように利用者に覚えてもらうため,利用者の言葉や行動を真似をすることで意識を向けさせるなどの工夫を行っていることが分かった。ここで重要なのが,利用者の他傷行為をわざと受けたりはしないことであった。
 また,“ケースグループ”という体制があり,利用者の支援の方法を考えたり備品(服,靴,日用品)の管理を行っているという。利用者4名に対し職員3名で対応しているとのことである。何か困ったことがあったらケースグループで話し合い,最終的には職員全体で共有し,意見をもらってから“こういう支援をやっていきましょう”との方針がケースグループで決まった後に全体に周知し固まってから実践に移すというのを基本的な流れとして作っているということであった。このことから,職員が一人で困難や悩みを抱え込まないように全体で職員のフォローや利用者支援に取り組んでいることが推察される。


とも述べられていました。相当深く強度行動障害について述べられている論文なので全文引用したいところではありますが、紙面都合上残念ですがごく一部の転載です。N女史が強度行動障害施設で働く職員が協働してやっていかないとならないという趣旨を述べていることは十分に伺えます。

さて、知的障害、発達障害もそうですが、よく言われているように彼らは些少な環境の変化に弱いです。例えば食事→お風呂が、お風呂→食事に変わることは大変化であり、パニックに陥りかねません。

こうした福祉領域は支援員の負担はかなり大きく、例えば公認心理師法施行規則に規定されている独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園でも強度行動障害者が入所していますし、そのための支援員向けの特別な研修プログラム が用意されています。

また、厚生労働省資料 強度行動障害支援者養成研修に関する資料 も相当詳しくこの障害について書かれています。

3.結語

発達障害、知的障害はじゃあ応用行動分析(ABA)治療を行えばいいや、とかペアレントトレーニングをすればいい、もちろんその理念は大切なのですが、まず診断の段階で統合失調症、双極性障害との鑑別が難しい場合もあります。また、強迫的なこだわりを暴露反応妨害法で治療するともれなく悪化するだろうということも示されています。(「大人の発達障害ってそういうことだったのか」宮尾等、内山登紀夫 医学書院 .2013)

こういった処遇施設は慢性的な人手不足から職員を募集していることが多いです。心理・福祉有資格者よりも無資格でも夜勤ができる経験者を優遇して支援員として採用しています。

福祉領域は心理職の持っている知識経験がそのまま生かされるわけではなく、月手取り17〜18万円ぐらいで厳しい状況で働かなければなりません。しかし調べるに従ってやりがいのある仕事だとも感じた事も事実です。

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photo&lyric by sora (@Skylit_Blue)
永遠を懸けて刹那を燃やし
刹那を捧げて永遠を駆ける


◯ 発達障害がわかる・金子書房「発達障害児者支援とアセスメントのガイドライン」

発達障害を扱う機関としては医療機関、教育機関、発達障害者支援センターのほか、児童相談所、児童心理治療施設、就労継続支援施設、就労移行支援事業所などがあります。

(以下の心理テスト群については金子書房「発達障害児者支援のアセスメントのガイドライン」の心理テスト活用例から引用しています。アセスメントによる支援に大変詳しい本なので受験生のみでなく臨床家にもおすすめできます。)

ASDを判別するためのADOS-2は公認心理師試験にも既出ですが、発達障害を鑑別するためにこれらの機関は心理検査を行っていることが多いです。

多く使われているのはウェクスラー式知能検査
WPPSI-Ⅲ(2歳6カ月〜7歳3カ月)
WISC-Ⅳ(5歳0カ月〜16歳11カ月)
WAIS-Ⅳ(16歳〜90歳)
です。
下位検査のばらつきによって発達度合いを見るわけですが、僕が臨床上困るのは、いずれも練習効果があるので最低2年間は再テストを行うのに置かなければならない。僕の勤務先が発達障害専門機関ではないので、発達障害専門機関に回す際には大変困惑するわけです。

こういった発達障害検査は金子書房さん で取り扱いが大体あるわけですが、ASD用途だとCARS2、PNPS(養育者の評価)、PARS®-TR(同親評価)、AQ、CLISP-dd(自立支援)A-ASD、、ADHDについてはConners 3® (DSM-5対応)、A-ADHD、CAARS™ (成人用)CAADID(成人と児童期の調査)が簡易に取れるスケールで、発達障害専門機関にリファーする際にはまず安心して使えます。

あとはK-ABC、新版K式を使用する場合もあるでしょう。(不親切なようですがネットという環境なのでここに内容、カットオフ値を詳しく書くわけにもいかず、ご自身で調べてみることをおすすめします。)

あとは社会能力価を見るのであればS-M社会能力検査、問題行動についてはCBCL、TRF、SQ、ASA旭出式社会適応スキル検査です。

自閉症に特化するなら(上記と重複があります)M-CHAT、PARS、CARS、PEPです。

ADHD、LDはADHD-RS、Conners3、CAARS™ 、LDについてはLDI-Rが用いられます。

本書には素行障害、反社会的行為をするがそれが主訴でない対象者については発達障害のPARS、ASQ、ADHD-RS、解離についてはCDC、A-DES、TSCC、適応行動についてはVineland-Ⅱ、CBCL、ABCLが有効と述べられています。

知的発達段階では田中ビネーを使う事もあります。

発達検査では日本版ベイリーⅢ乳幼児発達検査、津守、稲毛式乳幼児精神発達検査、KIDS乳幼児発達スケール、遠城寺式乳幼児分析発達検査です。

運動機能についてはDCDQ、M-ABCが使われます。

Vineland™-II適応行動尺度は発達障害を見るだけでなく精神障害や知的障害にも使われていますが、能力の凹凸を見るのに効果的です。

(以上上掲書の心理テスト引用終わり)

実際、非常に不器用な発達協調性障害で鉄棒ができない、極端に目が悪くてかなり度が強い眼鏡をかけても視力を矯正しきれない、ASDを持っている人が生きていくのは極度に不器用というラベリングを貼られるのでとても苦しいでしょう。

さらに上掲書からの問題提起と私見を混ぜて書くのですが(杉山登志郎先生の観点も援用)、発達障害と反応性愛着障害、社会的養護を必要とした、親が独裁政権によって虐殺されたチャウシェスクベイビーの研究からはさまざまな発達をめぐる論議がされています。

無感動、無反応な反応性アタッチメント障害、そして脱抑制型対人交流障害(この2つを移行することはないので独立疾患とみなされ、DSM-5ではPTSDの項に入っています。

こういった愛着に関する障害はASDやADHDと重複することも多く、被虐待時に愛着反応性障害や脱抑制型対人交流障害が多いのは、通常の環境下で育っていたのだとしたら例えば発達障害は遺伝子の発現だったとしても愛情を注がれた環境なら起きない。

杉山先生は渋い顔をして今の日本の社会養護環境はチャウシェスクベイビーより悪い、里親制度を活用すべきだとおっしゃっています。もっとも社会養護施設に勤務する心理職が里親制度を活用させようと日夜心砕いているのを知っているのですが。 

さて、あまり知られておらず、本書でも取り上げられている強度行動障害について説明しておきます。知的障害施設で多く見られるわが国独自の障害で、自傷他害がひどく、また物体も破壊するすることで知られています。男性職員でないと対応できない場合も多いです。詳しくは本書ほか発達障害情報・支援センター ホームページもご覧ください。

本書の書評と情報紹介、受験生の方々へと情報提供のつもりで本稿を書いたのですが、一冊の本にしてみると情報の取りこぼしは多いです。やはり発達障害とそのアセスメントに興味がある方は本書「発達障害児者支援方法とアセスメントのガイドライン」 を買い求めてみてはいかがでしょうか。

(おまけ)

僕:みおみんとの会話のおまけ結構評判いいぬ
み:そうか。ワタシひなたんより何かと心理に詳しいかな?
僕:え?習ってない
み:主語と述語ないとわかんない!
僕:いや、あの、俺きちんと習っていなくてもやらなきゃいけないこと多かったから、まあ自分で調べてやって覚えたこともあるってことで
み:話せばできるじゃん。いつも略しすぎ
今日の境界性パーソナリティのtweetふぁぼられたりRTされてたじゃん。反応あるとうれしみ深いでしょ
僕:たくさんのほかの人たちよりキミの反応ひとつが嬉しい
み:今1トンの重みを感じた
僕:重くないなりよ。羽根のよう 
み:ぴゃっ!軽くないなりよ
それよりMMPIの第5Mf尺度なんだけどあれは何か聞きたいぬ
僕:んー、男性性女性性のセクシャルな感じよりも受動性っていうのかな?男でMfが高いからダメっていうわけじゃなくて、礼儀正しく育てられたからおっとりしてるっつーか。感受性豊かで知的だぬ
み:女性でMf高いのは何ぬ?
僕:活動性がある。Mf女性は男性と逆向きに読む。行動力あって自己主張高いけどどっしり構えていて、かつのんびりしてるぬん
み:男性でMf低いのはなぬ?
僕:マッチョな感じでしょ。Mfっつーのは男性にとっては男性性に対する迷いだから低得点だと粗野ですぐ動くだんじり祭り的な町の消防団員みたいな?
み:わかりやすいんだかわかりにくいんだかわからんけどMf女性で低いのはなにぬなう?
僕:女性性があることを示してるのかな?世の女性っぽ。夫唱婦随タイプ。いずれにせよ多少カットオフ値多少超えて60〜70でも気にして異常だという解釈はしない
み:ふうん、心理のことは多少真面目に言えるんだ
僕:いろいろとまかせろ
み:んお?なにをだ?
僕:キミの人生をオレにまかせろ
み:じ、じんせい、重っ!じゃ、合コンに行ってくる
僕;あ

※ アナウンス

従来の「公認心理師試験」カテゴリを
公認心理師試験対策
公認心理師試験制度 に分割しました。

※ 青字クリックで飛びます 

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photo&lyric by sora (@Skylit_Blue)
あの頃は
幸せはそこにしかないと
思っていたね


◯「精神科は、今日もやりたい放題」なのか?

標題は、精神科治療は薬漬けではないか?という問題点について指摘し続けている医師、内海聡氏の著作のタイトル名です。彼については様々な毀誉褒貶があり、僕も彼の言説に触れていると複雑な思いがするのですが、一面で鋭い指摘もなされています。

1.精神科医療の現状

内海聡氏は1973年生、筑波大学医学部卒業後、勤務医を経たのちに茨城県牛久市で「牛久東洋医学クリニック」を開業、その後現在では東京でTokyo DD Clinicで一切西洋薬を使わない自費診療クリニックを開業しています。

さて、従前から日本の精神医療の問題点として指摘されているのは「過量・複剤処方」で、患者さんが薬漬けになってしまうという危険性です。

処方量の適正さについてのひとつの目安としてcp換算値という単位があり、内海氏もこのcp換算値を重視しています。

※ 地域精神保健福祉機構CHOMHBOのcp換算値が計算できるサイト
https://www.comhbo.net/?page_id=4370
(レキサルティはまだ掲載されていません。)

抗精神病薬の作用機序や相互作用はさまざまなのでcp換算値=絶対、というわけではないのですが、統合失調症薬として使われている定型・非定型精神病薬は、最も古い抗精神病薬として知られているクロルプロマジン(商品名コントミン、昏倒眠とも揶揄される鎮静効果あり)を基準として1000mg以上が1日量として処方されている場合、必ずといっていいほど過鎮静になります。

過鎮静になると全くといっていいほど動けなくなり、食事、水分摂取、トイレに行くのすら一苦労です。

600mg以上でも過鎮静になっている可能性もありますし、300mg以上でもその人の状態によっては副作用症状の方が強めに出て動けなくなることもあります。

内海聡氏は茨城県でクリニックを開業していたころから、こういった過鎮静に陥っていると思われる患者さんやその家族に書籍や講演などで情報発信をしていき、同クリニックは関東中から寝たきり、引きこもりになっている精神疾患患者さんが藁をもすがる思いで集まるようになりました。

内海氏の著作として「精神科セカンドオピニオン2」などがあります。統合失調症と発達障害には見分けがつきにくい場合があり、統合失調症の症状が改善しないので精神科医がどんどん投薬量を増やしていくと副作用のほうが強く出てきた患者さんをよく内海氏が成育史などを聞いていくと発達障害の場合がある、だから抗精神病薬を徐々に抜いて漢方中心の治療に切り替えるとよく体が動くようになって病状が改善するというものです。

実際、僕も色々な医療機関で治療を受けてきた患者さんと話をしてきたことがありますが、過量服薬となっていた患者さんたちは確かに多いです。

内海氏著作標題書にも述べられていますが、医師の人格と投薬センスとは無関係なもので、それは彼の指摘のとおりです。

古いタイプの教育を受けた、または投薬センスがよろしくない医師はまずA薬という薬を処方してみます。そして症状が改善されないようだからとB薬を出します。

そうすると副作用が現れ、副作用止めのC薬を出し、なんだかよくわからないままに病状が悪化しているのでなんらかの副作用止めD薬に加えてまた新しい抗精神病薬E薬を追加、増量してそうこうしているうちに立派な過鎮静患者さんが出来上がってしまうというわけです。

こうなると一向に良くならないどころか全く身動きが取れなくなってしまうのですが、人柄がよくいつもにこにこしていて優しい主治医の言うことは絶対だし、信じていればいつか良くなるだろうと思っていても良くなるわけがないです。そうすると自己流で減薬、断薬を試みたりするのですが、抗精神病薬の減薬断薬を一気に行うと、強い薬のカクテルで抑えられていた症状が再燃して悪化したり、横紋筋融解など身体的有害症状も出て死に至る場合もあります。

ですので過鎮静にまで至っている患者さんの場合には慎重に1年ぐらいかけて減薬を行うのがセオリーです。以前の内海氏は統合失調症と誤診されていた患者さんを発達障害、アダルトチルドレンと診断し直し、西洋薬は最小限処方で、漢方中心の治療法に切り替えるという治療方針を取っていました。

確かに日本の生物学的精神医療は過鎮静を引き起こすような治療を行っているこういった暗部を抱えていています。興奮性症状を示す患者さんを過鎮静にさせてしまえば施設内では楽だからそうしている「薬物ロボトミー」を行っている機関もあるという恐ろしい事実もあります。

欧米では抗精神病薬は基本的に単剤処方しか認めないという流れがあり、日本でも単剤処方主義の大学病院やその流れを汲む医療機関は数多くあります。

ただし、抗精神病薬=悪、減薬断薬=正義、と決め付けてしまうのは危険性も伴うと思うのです。

2.内海氏に対する個人的な疑問

発達障害なのだろうと思い、減薬断薬第一で治療をしていて実際には統合失調症だった場合、症状が増悪すると必要だった薬が投与されていない、その場合に必要な手当てがなされているのだろうかという疑問があります。それとも統合失調症と発達障害を初めからきちんと峻別し、発達障害のみを治療対象としているのでしょうか。

薬害に関するNPO法人を主催している内海氏ですが、代替医療としてのホメオパシーを推奨しています。

ホメオパシー、反ワクチン主義は世界的に科学性に乏しいとして批判されています。過去にホメオパシーを医療行為の代わりに実施したことで死亡例も出ているのです。

内海氏の他にもホメオパシーを推奨している医師はいるのですが、それは西洋薬をきちんと投与した上で総合的な治療行為としての安全性を担保した上で、どちらかというとホメオパシーを精神療法の一種として行っています。

治療行為としてエビデンスが確立されている抗精神病薬など西洋薬を一切使用しないという内海氏の治療方針はいかにも危なげに思えます。

食事療法は精神医療においても大切と思えますが、内海氏の、妊婦の食事状態が悪いから発達障害児や自閉症児が産まれるという見解の表明は、産婦人科医からエビデンスがないと猛烈な反発がありました。こういった子どもを持った親に対してはスティグマを持たせることになったことでしょう。

内海氏の著作や発言の過激さを見ていると、患者やその家族に対し、自らを信奉するように強要していないかという不安を抱いてしまいますが、それとも元々内海信者のみを治療対象としているので、インフォームドコンセントを含めたその辺りの問題はクリアされているということなのでしょうか。僕は「信者」を作るような医療を個人的には好みません。

内海氏は反原発論者でそれに関する著作もあります。政治的思想は誰が持つことも自由でその意見表明も自由です。

ただし、医療においてエビデンスが不足していると、僕のような心理職としては彼の行なっている新しい試みに関してのメンタルケアは大丈夫だろうかと不安になるわけです。(心理職を雇用した方がいいという意味では決してありません。独自の発想に基づく治療には医師自身が患者さんに対するケアを十分に行うべきで、脱落者や増悪例への対応がなされているのかという懸念を含みます。)

もちろん彼の自費診療中心のクリニックには行ったこともなければ診療受付、適応症から治療に至るまでの流れも不明なので、その辺りを知らないと十分に疑問は解明できないかもしれません。

Twitterアカウントをいくつか持っている内海氏ですが「キ◯ガイ医師」というような精神障害者への差別と取られかねないハンドルネームにもその思想的な危惧を抱くのです。

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2016年、発達障害者支援法が改正されました。
発達障害者支援法は、2005年までは「軽度発達障害」という文言が学校現場でも使われていて、知的障害を伴わないADHDやアスペルガー、広汎性発達障害(現在はASDが広義の概念を含む)知的障害を伴わない発達障害はいわば知的障害の付属概念のようなものでした。

2007年、文科省は「軽度発達障害」の文言使用を禁止、発達障害そのものが相当に困難な障害だと認めたと言ってもいいのかと思います。

いくつか改正点の中で注目すべき点は
・社会的障壁の除去
・乳幼児期から高齢期までの切れ目なく援助
・司法手続きの意思疎通手段確保
・国、都道府県による就労支援
・教育支援現場での個別支援、指導計画の策定
・支援センター増設
・自治体による協議会設置

この法改正で行われた大きなところは、基本理念として社会的障壁を取り除くことが明記されたことです。

社会的障壁を取り除くというのは、発達障害者を変えましょうというわけではなく、環境や社会を変えて彼らを生きやすい世の中にしようということです。

ここでTEACCHという概念も出てくるわけですが、ASDとその家族を生涯にわたって支援するというプログラムです。

ASD診断、評価、療育、家族、支援者サポート、就労支援など一生にわたるプログラムです。

「TEACCH」は「Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped CHildren」(自閉症及び、それに準ずるコミュニケーション課題を抱える子ども向けのケアと教育)の略です。

ノースカロライナ州で始まったTACCHは自治体介入、生涯支援、自閉症を文化としてとらえる、親の療育への期待でしょうか。

自閉症を1つの文化のあり方としてとらえるという概念は画期的なものでした。

また、ASDは整理されていない混乱した状況に置かれることが多いためにこのTACCHでは「構造化プログラム」が重視されています。

一人で勉強できる場所を作る、物理的構造化、イラストなどを多用する視覚的構造化があります。

特別支援学級でも取り入れられるようになって来ているのは個別のスケジュール、(予定外のスケジュール変更は混乱を招く)、また、ASDの子どもたちが一人でもこういった課題に取り組めるように十分課題を視覚化することがワークシステムとして望まれています。

ABA、応用行動分析は人間の行動を環境との相互作用で見ていくというものです。

行動分析そのものはアメリカの心理学者スキナーによって創始されたもので、ごく簡単に要約すると、本人、周囲の活動を阻害、本人の学習を妨げて危険さを招く行為を禁止するというものです。

例:音楽を聴けないとかんしゃく
:遊びに熱中して周囲を見られない
:子どもの気持ちで大人に抱きつく

こういった行動の原因特定、適切な手法で対応、成功できたらなお続ける。do moreですね。

ABA、応用行動分析ではかんしゃくを起こしておもちゃを買うとなおかんしゃくを起こす(要求の実現)、回避して問題から逃れる、叱られるのを喜ぶ、不適切な行動(辺り構わず踊る)、これらは全て強化子になります。

これらの制止のためには不健全な強化子の消去が必要です。

物やトークンを与えるのもいいことができた時にはいい強化子となります。

別に発達障害に罰を与えていけないわけではないのです。

ひどい罰でなく、負の強化子の消去を親も科学的に考える必要があるということです。

TACCHやABAを使ってペアレントトレーニングを実施するにはいろいろな原則があります。

問題行動を起こした時だけ構ってはいけない、よくできてこれから増やして欲しい行動を褒める。

問題行動が起きた時にはクールダウンとして別室で少し頭を冷やしてもらう。

罰は重すぎる罰、ゲーム機破壊や食事抜きはダメ、罰は行為との連続性があるものを、などです。

ゲームを約束を破って夜9時までやったから次の日はゲームの時間を減らす、はいいですが、お肉を食べさせないのはダメです。

合理的配慮

目が悪いから眼鏡をかけたい→OK
前の席に座っていたい→OK

ユニバーサル化を進めるために校舎全体を建て替えて欲しい→ムリ

いつも支援員がいて教科書を読み上げて欲しい・・・→人員がいればやります。

と支援する側とされる側の考え方が一致することが必要なわけです。

◯ 発達障害概論

発達障害という概念がオーソライズされたのはおそらく平成10年前後で、当時の文部科学省では軽度発達障害という名前で呼ばれていて、概念そのものが曖昧で混沌としたものだったと思います。

昭和の時代は多動(ADHD)や注意欠陥障害(ADD)は、立ち歩いて授業の邪魔をするなとか、片付けられない、宿題をやって来ない子の頬をビンタするとか、管理教育と言う名の暴力の中で発達障害者(児)は排斥されてきていた教育暗部の歴史があります。

僕も小学校の通知票に「授業中喋って歩くのでご家庭で注意してください」と何度も書かれましたが、家庭で注意して多動が止むわけではないです。

そんな時に僕を叱るわけでもなくニコニコしながら手作りおやつを作ってくれた母は偉大だと思います。親のかかわりというものは発達障害者にとっては大きな影響を与えます。

遺伝子2万の10数個に異変があっただけで相当苦しみ続けている人たちは多いです。

スクールカウンセラーとして働いていた時、特別支援学級で彼ら、彼女たちと会っていた時はとても楽しい思いをさせてもらいました。

ASD(自閉症スペクトラム障害)の子たちの中で、自分が興味ある漫画、スポーツ選手の話をする子たちが何人もいました。

それこそ数時間単位で楽しそうに話しています。

中には変わった仲良し同士のASDの子たちがいて、互いに興味関心が違っていても何時間も別の話題をそれぞれしながら盛り上がっていました。

発達障害の人たちが全員サヴァン症候群(一芸に秀でた天才)とは言い切れません。

ただ、WISC、WAISなど知能テストを実施してみると知能下位検査(知能の成分を測定するためのそれぞれの独立項目の検査)のばらつき(ディスクレパンシー)が大きくて、ああ、とてもこの人は苦労するだろうなあと思うことはしばしばです。

言語検査が動作検査よりもかなり優位に高い値を示す人は、言語的に考えるスピードが速くてもそれを口にするという動作がついていかないので、結果としてストレスがたまるでしょう。

ビルゲイツ、故スティーブ・ジョブズを含めてシリコンバレーの住人は全員発達障害だろうと言われています。

発達障害、統合失調症、双極性障害という遺伝子性の障害や疾患は、その遺伝子を持って生まれたら子孫を残せない、致死遺伝子ではありません。

人類の歴史が進歩していく中で必ず必要だったからこれらの遺伝子を持つ人々が必要だったわけです。

双極性障害の人は天変地異が起こった時、疲労に負けずに頑張ってそのうち躁状態になると眠らず次々とアイディアを出しながら馬車馬のように働いていたのでしょう。

統合失調症は、精神医学者中井久夫によれば、文化依存症候群ということで、西欧圏以外の文化ではシャーマンとしてかなりの尊敬を集め、預言者、エクソシストの役割もしていました。
(DSM-5ではこういう社会適応している人たちを診断から除外しています。)

日本も戦前は狐払いをしていたのが文化が西欧化するにつれてとんと聞かなくなってしまいました。

どこからか聞いた話の引用で、出典を忘れてしまって申し訳ないのですが、矢じりオタクみたいな発達障害の人がいて、矢じりの改良に専念していたので人類は生き残れたわけです。

発達障害者で名声を博したのはテンプル・グランディン女史で、彼女は人間を仲間として生きることを諦め、その代わり牛など家畜類、動物を最良の友としています。

ただ、食用家畜は必ず食べられるものだからという哲学があり、肉牛屠殺用の機械を牛が苦しまず、そして効率的に食肉化が可能とする発明をしました。

彼女は食肉協会、動物愛護協会の2団体から表彰を受けました。

僕ツイッターなどネットの世界で発達障害の人とかかわることもありますが、この人たちは物凄いエネルギーで発達障害にかかわるデータベースを構築しています。凡百の心理職は到底敵いません。

心理職の僕が読んでも、専門書と比べても全くひけをとらないレベルのものが出来上がっているのに関心しています。

知識は自らの障害、疾患を知る上でその人をエンパワーメントしてくれるものだと思っています。

昔の勤め先の精神科医は患者たるもの薬物の話を医者と対等にできるぐらい詳しく調べておかないとダメだと言い切っていました。

何か生きにくい、生きづらいと思っていて、成人してから発達障害が発見されることもあります。

成人だから何もできないというわけではなく、ADHDやASDには中枢神経刺激薬として、以前は不正利用で悪名高かったリタリン、今は腸内でだんだん溶ける徐放剤のコンサータ、ストラテラが使用されています。

また、ASDにもごく少量のメジャートランキライザーや漢方の処方でかなり好転することもあります。

発達障害者が重度の統合失調症と誤診され、過鎮静を起こすほどの大量の抗精神病薬を投与されていたことは多いです。

一度それだけ力価が高いメジャー投与をされるとどんな名医でも一気に抜くことができず、ゆっくりと減薬するしかありません。

発達障害の正しい診断ができる医師は多くなってきたがまだまだその数は足りないと思うのです。

児童では、最近の市区町村役場の発達検査で早期に発達障害が判明し、きちんと療育を受けられるようになったのはある意味でいい時代になったと言えるでしょう。

恋人、パートナーが発達障害者だということが判明しても決して差別的な目で見ないで欲しいと思います。

もし大切な家族が発達障害だとわかってもそのことで排斥しないで欲しいとも考えているのです。

人はどんな障害や疾患を抱えていてもそれを補って余りある素晴らしさを必ず持っています。

薔薇ならばいずれ必ず咲くものだから。僕は人間の持っている無限の可能性を信じ続けたいと思っています。78A631EA-8438-4D11-9E0B-C54814DA892F

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