◯ 双極性障害、この残酷な病に公認心理師、臨床心理師はどのように対峙するか。公認心理師受験者に知っておいて欲しい事
公認心理師試験には双極性障害の
以前書いた「双極性障害、うつの意外な常識・公認心理師はどこまで踏み込めるか」
http://hinata.website/archives/15241655.html
の続編記事と
「公認心理師・臨床心理士は新型うつに対処できるか?」http://hinata.website/archives/22591014.html
公認心理師に精神薬理学が必要な理由
http://hinata.website/archives/16414478.html
に関連しています。
僕は「今年は双極性障害、来年は境界性人格障害」とテーマを毎年決めて書籍や論文を読んできました。
以前Kay Redfield Jamison,の「ケイ・レッドフィールド ジャミソン 他2名著
躁うつ病を生きる―わたしはこの残酷で魅惑的な病気を愛せるか?」新曜社紹介記事を書きました。
がうっかり消してしまいました。
この著作はアメリカではベストセラーになったものです。
公認心理師ブログで書評はやめておこうと思い削除してしまったのですが実に惜しい事をしました。
ジョンズ・ホプキンズ大学医学部精神科教授の彼女は臨床心理士で非医師です。
アメリカの臨床心理士は博士号取得後試験合格率50パーセントの大変厳しい関門を通らなければなりません。
臨床心理士の地位は高く、ジャミソンもUCLA感情障害クリニック所長を務めていた事もあります。
凄いのは無茶苦茶多くの論文を書いている彼女自身が双極性障害という事です。
彼女の人生が綴られたこの圧巻される著書はこれまで僕が出会った愛すべき双極性障害の人々を思い出ささます。
双極性障害の自死率は25パーセントという大変高い数値の研究結果もあります。
生き方は破天荒、教科書を読むと男性は夜の蝶の女性に全財産だけでなく借金をしてもつぎ込む、女性は出会い系でワンナイトラブを繰り返しだれの子かわからない妊娠をする等壮絶です。
このあたりは拙ブログを読んで下さっていている方々で通院している方の方が自己体験でその苦しみが僕よりも体感的にわかるのでないかと思います。
治らない、だけどきちんと維持療法で安定した生活を送る事も可能です。
⭐︎ 治療
※ 以下治療と薬剤名、副作用を正式名称英語、日本語、商品名順に記載します。
衒学的な理由からではなく、公認心理師試験は英語表記で出やすいからです。
また、治療法は双極性障害の患者さんにも心理職にも受験生にも知っておいて欲しいです。
副作用は何か?ただの気のせいなのか?それとも別の症状か?「湿疹が出てかゆいなあ」とラモトリギン服薬患者さんが 話したら急いで患者さんに対して医師に連絡してもらわないとならないです。
知ることは力となります。
さて、双極性障害薬剤知識と副作用です。
mood stabilizer ムードスタビライザー(気分安定薬)は古くから使われているLithium carbonate炭酸リチウムがあります。腎機能に影響を与える場合があるので定期的に血中濃度測定をします。
リチウムの血中濃度治療域は0.6〜1.2Eq/Lです。
ちなみに状態が安定していれば治療域から外れていても大丈夫と医師は判断しています。軽躁か躁状態になっている人は「オレ、すっかり大丈夫っすから」と言いつつだいじょばない人も多いです。
Lamotrigineラモトリギン(ラミクタール)
Carbamazepineカルバマゼピン
Sodium valproate、VPAバルプロ酸ナトリウム(デパケン)もムードスタビライザーとして使用される抗てんかん薬です。
定型精神病薬としてはChlorpromazine hydrochlorideクロルプロマジン炭酸塩(商品名コントミンなので昏倒眠と言われるような沈静作用があります。)
非定型抵抗精神病としては保険適用範囲としてパーシャルアゴニストのAripiprazoleアリピプラゾール及びOlanzapinオランザピン(ジプレキサ)が保険適用です。
アリピプラゾール(商品名エビリファイ)は
双極性障害の人がSSRIなどの抗うつ剤を服薬すると躁転することがあります。
また上記定型非定型精神病薬は錐体外路症状(ジスキネジア、口や舌が不随意運動をする、akathisiaアカシジアは足がむずむずして気持ち悪くなるレストレッグス症候群にも似ています。)は大変苦しいものです。
「低目安定の気持ちになれるといいですね」
と医師も心理士(師)も言いますが、この人たちにとって低目安定というのはとても難しいことです。折れ線グラフ📈📉を見ているようです。
基底的な気分はイライラしやすく焦燥感を持っている、躁転すると自分は万能で幸せだと思っているので叱られると例え新入社員でも社長に食ってかかることがあります。
躁転した人は幸せで万能なので邪魔が入るともの凄い勢いで怒る、治療アドヒアランス(意欲)がない。
ところが医師が患者さんに対して(病識が薄いので医療保護入院で無理やり入院させられたと思っていることもありますが)抗精神病薬を処方すると今度は過鎮静になって動けなくなることもあります。
薬剤のせいでなくともうつ転して死にたいと思うこともあります。
酒の席で上司に大酒飲んで絡んだ、うつ転してもうダメだと思いシクシク泣きながらずっと過ごす。
双極性障害あるあるです。
さて、こんなに苦しい生物学的疾患に対して心理職が何もできないかというと、そういうわけではありません。
苦しくて仕方ないという気持ちを聞いて受容するのは心理職の仕事です。
躁転している人が危ないと思っているのはとても貴重な自覚です。
褒めるべきです。
双極性障害の人たちは非常に多才で、教科書だと「あちこち手を出して何も完成させられない」と書いてあることも多いですが、達成して大量の論文を描いたケイジャミソンがいます。
作家で医師の故北杜夫は躁転している時に軽妙なタッチで人を面白がらせる「ドクトルマンボウ航海記」うつの時には「楡家の人々」を書いていたのは有名な話です。
双極性障害でアルコール依存症の故中島らもは素晴らしいセンスを持っていました。
統合失調症、双極性障害、発達障害は致死遺伝子ではなく(致死遺伝子は出生まもなく死に至ることがあります。)人類はこれらの遺伝子がなければ絶滅していたと思います。
統合失調症は神のメッセージを民に伝えて不安で縋り付きたい人々を教え導きます。
※(DSM-5)ではこのような宗教精神科憑依症候郡、祈祷精神病が実際に宗教活動等をして適応している場合は統合失調症の診断から外しました。
双極性障害は天災が起こった際、率先して恐怖に怯える人々を不眠不休で安全な場所に避難させるために心身をフル回転させます。
事態が収束した際には力も命も尽きてしまうかもしれませんが大いなる偉人として語り継がれます。
発達障害は誰もが持ち得なかった特殊な才能を発揮、ビルゲイツもスティーブ・ジョブズも発達障害と言われています。発達障害者なしには人類は文明を築けませんでした。
双極性障害の人たちは苦しくて辛い、でも達成できる事は多くそれをしようとすると中途半端になるのがイヤで医師にもカウンセラーにも内緒で課題にチャレンジし続けている人たちがいます。
(その結果倒れてまた周囲から怒られたりするわけですが。)
双極性障害について書くことはまだまだあります。
ジャミソンのように僕はこの人々は愛すべき戦慄の病と共存しているのだと思っています。