ひなたあきらのおけまる公認心理師たん

新制度公認心理師の検証をしばらく続け、この制度がよりよいものになるための問題提起を行いつつ、カウンセリングの在り方について考え、最新の情報提供を行っていきます。ほか心理学全般についての考察も進めていきます ブログ運営者:ひなたあきら メールアドレスhimata0630★gmail.com(★を@に変えてください。)

カテゴリ: PTSD

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photo&lyric by sora (@Skylit_Blue)
わかってる
どんなに時を捧げても
欲望の空は満ちないことを


◯ トラウマがないPTSD・境界性パーソナリティ障害

1.序

僕はPTSD精神療法家をいちおう自負したいと思っていて、まあそれっぽいところで働いているのですが、実はPTSDでない人が他院ではPTSD扱いされたというクレームを聞くことがあります。

僕の勤務先は別にPTSD専門というわけでもないので、聞いてみるとPTSD用の心理療法を受けたけど向こうの心理がとてもいい人、あまりに一生懸命なので言い出せなかったけどなんとなく合わなくてドロップアウトしてしまった、とか、トラウマに関するDVDと本を渡されて宿題にされてやっぱりヤだったというものです。

PTSDを診られる機関はとても少ないので、巡り巡ってやっとPTSDという診断を受けることもあるのですがその逆もあります。

弊害で言えばPTSDの人が違う疾患だったと診断されることはかなり多くてトラウマを認めてもらえなかったという方がはるかに多いです。ただ、心理職の立場として、希死念慮が高く自傷行為を繰り返し、常に空虚感と自我同一性の揺らぎを持っている人をトラウマ所持者と思ってしまうのですが、幼少期から親から大事にされて愛されて育ってきて、現在も同じと聞くと、不思議に思うことがあるわけです。その理由について考えてみます。

2.トラウマのないトラウマティックな心情・行動の理由

これはいろいろ考えてみて、もし理由がわかれば、stap細胞はあります!に10分の1ほど追いつけると思っているわけですが、以下列挙してみます。

⑴ 境界性人格構造(BPO)を引き起こすような出来事の存在

境界性人格障害とまで行かなくても行動範囲が逸脱していて自傷的、希死念慮が高いBPOの人がトラウマティックな行動をする事はあります。ただしよく聞いてみると別に親から虐待されていたような対象関係論的な問題や基底欠損領域があるわけでもないです。

要するに「親からの、幼少期の虐待体験」はないのです。

ただしその後を聞いてみると幼少期のてひどいいじめや自己の容姿に関する恐怖が存在している(実際とは関係ない)ことも多いです。

幼少期のトラウマでなくとも成人してからでももちろんトラウマティックな出来事を体験することはあるわけですが、またトラウマティックでなくとも自己イメージをひどく傷つけられたらそれは大きな心理的障害になるでしょう。

⑵ 愛情飢餓

幼少期に愛情喪失体験をしていなくとも思春期や成人期になってからこの果てしない愛情飢餓感覚に襲われることがあります。依存性パーソナリティ障害はありますが、なぜ、どうして、そしてどうやったら治るのかは誰にもわかりません。

心理テストはあくまで現在の状態を示すもので、原因を解明するものではありません。

⑶ 精神病的世界観

これはあまり書きたくなかったのですが、というのは「それ、精神病じゃん?」というスティグマ(烙印)を押したくなかったので、統合失調症で自己の存在感への認知が歪んでいる、双極性障害で自己の行動統制ができなくてそれで自分が苦しむので、空虚感をなおさら感じるというものです。

3.結語

今のところ僕にも「わからない」ところが多すぎてこうやって苦しむ人たちの心理的・理論的な説明ができればいいのですが。薬理学の専門家医師ならば適切な精神薬のチョイスはできるでしょう。ただ、僕ら心理職は原因がわからずに目の前でしくしく泣いているクライエントさんに対して何ができるのだろうと思うわけです。

そしてトラウマがあったとしても解離していたり、意図的に回避しようとしている場合には触らない方がいいのは侵襲性という観点から考えたらその通りだと思います。カウンセリングは一般的には苦行ではないので、苦痛を感じる人やその幻想的を作り出すべきではないと思うのです。

さらに付け加えるなら、心理職も外科的な発想を持つことが多く、「ここが悪い」という病巣を切除してしまえばいいと思いがちですが、病的であってもなくともクライエントさんが痛い痛いと言っている場合に心理的メスを入れる権限はありません。

人の心の動きはまだまだわからないことだらけです。不思議と思うことはあるかもしれませんが必ず突っ込んでいけばいいというわけではないと思っています。

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限られた時間の中で
何に心を委ねるかが大切なんだね ☪︎⋆


◯ 赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア   
自分を愛する[心理教育]


白河美也子医師・臨床心理士著

なぜ僕が白川先生のこの著作をブログで取り上げたかということをまず説明します。白川先生は一貫してトラウマ治療に取り組まれていて、現在はトラウマ治療専門の「こころとからだ・光の花クリニック」院長をされていらっしゃいます。白川先生のトラウマケアの書籍をぜひ紹介したかったからです。

光の花クリニックは日本では数少ないトラウマ治療専門のクリニックで、白川(西)先生他3人の医師と1人の臨床心理士が治療面接を行っています。(現在枠がいっぱいのため初診患者は取っていないとのことです。)

最近 トラウマのことがわかる本 生きづらさを軽くするためにできること も著されており、こちらもぜひ参考にしていただきたいのですが、白川先生の「赤ずきんとオオカミ」は寓話の形を取っていますが非常に含蓄のある本です。

「赤ずきんとオオカミ」と言うとオオカミさんが赤ずきんを食い尽くすもので、一方的な悪者だと思われがちですが、食べられそうになった赤ずきんは単回性のトラウマ、そしてオオカミさんもまたトラウマを負った存在として描かれています。

(以下ほとんど白川先生の著書の要約)
トラウマ後にはフラッシュバック(再体験)、回避、麻痺、過覚醒の症状が出ることが説明されています。

トラウマを負った人がトラウマそのものを消すことはでかません。この辺りはトラウマ治療専門家の白川先生は詳しいです。

しかしトラウマを負った、今現在のその被害者の生き方を変えることはできます。

トラウマを負った対象者は、トラウマの再演をすることがあります。その時にまた不幸なシナリオが繰り返されます。そのためにもトラウマにとらわらすぎない、明るい未来を見ることが勧められています。これは僕の私見ですが、今現在が明るいものであれば、トラウマティックな過去はかなり薄まるものでしょう。

助けを求めることと、支配−被支配のパワーゲームに巻き込まれないことが必要です。

オオカミさんは複雑なトラウマを負った存在として描かれています。だからこそオオカミさんは過去の繰り返しを再現してしまうのです。

白川先生の解説には、症状が完全に消失しなくても良いと書かれています。これは僕もPTSDの精神療法をしていてよく感じることなのですが、どんなに長期間力を入れても症状が完全に消失させることは難しいものです。フラッシュバックが起きること、そしてそれがどのようにして生起して、攻撃的な態度になるのかは知っておくことが大切だと本書には書かれています。

トラウマを負った人は「被害者−加害者」という一方的な認識を持ちがちですが、そうやって被害者のポストについてしまうと解離が起こり、解離の間に望まない性的関係を持ってしまうこともあり得ます。被害を深めないための対等な対人関係が必要です。

このトラウマを持った赤ずきん、赤ずきんはカウンセリングをして災害ストレスを癒やすことにしました。災害によるストレスは大きな影響人々の心に与えます。大きな影響をオオカミさんにも与えたのです。

さて、C-PTSDはICD-11で初めて取り上げられる疾患単位ですが、この疾患単位に対する批判もあります。白川先生がC-PTSDに似た概念として取り上げているのはvan der Kolk 他の「トラウマティック・ストレス」のDESNOSの概念の診断基準試案を掲載しています。

僕の書いた白川先生の名著の要約はかなり端折ってあります。トラウマとは何か、そしてそのトラウマの意味を薄めて明るい未来を見るためにはどうすればいいか、ぜひ白川先生の原著に当たっていただきたいと思っています。

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◯ PTSDの理解・診断、心理検査、特徴、治療

何度もPTSDについて書いて来ていますが、まずはPTSDの定義です。PTSDとは何か?ということですが、最近は「この前部長に怒鳴られてトラウマになっちゃって」と日常用語で使われますが「トラウマ」というのはほぼ瀕死の体験を自分でする、目前で見る、虐待体験、救命活動や救助活動で人の死に接する、親しい家族などがトラウマについて延々と話すのを聞かされる、といったかなりハードな体験でないと精神医学的にはトラウマとは言えません。

なお、C-PTSD Complex post-traumatic stress disorder複雑性心的外傷後ストレス障害のような長期の虐待は別ですが、simple PTSDは悲惨な体験をしてもPTSDに移行しない人が6割と言われています。

また、4週間以内に症状が収まってしまえば「急性ストレス障害Acute Stress Disorder: ASD」の診断となります。

以下PTSDの特徴です。

1.フラッシュバック

これはさまざまな形態で起こることがあり得ます。悪夢を見てうなされて目が覚める、何もトラウマに関連がないことをしていても思考侵入が起こって白日夢のようにトラウマ体験が想起されます。さーっと目前にその体験の様子が見えて、実際に体験する(再体験)することがあります。

2.解離

トラウマ体験があまりにも耐えがたいものであることから、自分の気持ちを切り離し、フラッシュバックが起きている間、酷い目に遭ってきる自分を意図的に解離させてさらにそれを眺めている自分を作り出す人もいます。また、解離性健忘が起こり、フラッシュバックが起きていた事を忘れます。

またはトラウマ体験があったことそのものを忘れてしまいます。フラッシュバックが何の前触れもなく起こるように、解離も突然起こります。そうするとどんな現象が起こるかというと、知らないうちに元の住所から何百キロも離れた場所に佇んでいたり、いつの間にか財布からお金が消えているといった現象が起こります。(かつての診断基準では解離性遁走)

解離がひどくなると人格そのものが分裂します。DSM-5では解離性同一性障害Dissociative Identity Disorder DIDという疾患単位があります。かつては多重人格障害Multiple Personality Disorder MPDと呼ばれていました。トラウマ記憶がある人格を別人格として、それとは別の人格を作り、慰める、癒す人格や暴れる人格など20人格ぐらいが生じることがあります。主人格が出てこなくなり第二人格がとって代わるこたもあります。

(治療法のひとつですが、人格交代訓練や催眠とEMDRを併用して人格の再統合、ひとつの人格にするのではなく、ある程度の役割を何種類かの人格に集約します。無理にひとつに統合するとトラウマ体験が強烈に主人格を傷つけて自死に至る場合があります。こういった入院治療は日本では仁木啓介医師によるニキハーティーホスピタルが行っています。)

3.回避

トラウマ体験と似たような状況、場面を避けるようになります。トラウマを与えた人と同じような人を避ける。被害に遭った乗り物に乗れない、愛情を持てない、自分の未来を信じられないという症状も出ます。これは回避・麻痺の症状と言えます。麻痺が起こると本来ならプラスの感情を与える出来事にも無感覚になります。人との情緒的な交流を避け、引きこもる人もいます。家にいれば刺激はなく安全です。

4.過覚醒(覚醒亢進状態)

トラウマ体験が強烈だったことから、常に身体中をアドレナリンが駆け巡って交感神経がビンビン興奮した状態になり、心拍数が高まり、消化機能は低くなります。モノを食べている状態ではなく、常に臨戦態勢になります。常にfight or flight (戦うか逃げるか)の状態で、覚醒がひどいと不眠になります。

たいていこういった症状が起きるのですが、それに加えて、公認心理師試験にも事例問題として出ていたようにひどく怒りっぽくなったり感情のコントロールがしにくくなります。対人過敏状態となって、恋人、家族、職場で少しでも攻撃的(ととらえられてしまう)行為で激怒することがあります。コンビニで買い出しを頼むと被虐待体験で親によくコンビニに行かされたことを想起させて「何を買えばいいかわからないのに買い物をさせて私に払わせるの?」と沸点がわからない地雷を抱えているのです。

性被害や性的虐待を受けた人はその加虐体験の陳腐化を図るために次々と異性と付き合ったり、そういった性的産業に身を投じることがあります。また自我像を自ら歪め、性的対象として見られる恐怖から、極端に女性としての美しさを捨てて過剰に太る事もあります。これも過覚醒症状のひとつです。

子どものPTSDではトラウマティック・プレイといって3.11の後には子どもが津波ごっこをひたすら延々とやり続けるという症状が出ました。このトラウマティック・プレイが子どもの心を癒すことはありません。

◯ 心理診断面接・心理検査

PTSDの程度測定にはCAPS (Clinician-Administered PTSD Scale)PTSD臨床診断面接尺度) という1〜2時間ぐらいの面接法が使われることも多いです。臨床心理士でもトレーニングを受けないと行うのは危険性があります。トラウマ体験を聞き出すということが十分侵襲性があるからです。トレーニングを受けた査定者が質問して、それでもCAPSはPTSDの人にとっては辛いことがあります。

どの心理検査も侵襲性はあるのですが、心理検査は質問紙式だからといって舐めてかかって、PTSD以外でもどんなクライエントさんに対してもSCT 文章完成法sentence completion technique やMMPI Minnesota Multiphasic Personality Inventoryミネソタ多面人格目録家でやって来てね、と宿題にすることはいけません。

特にPTSDの人はフラッシュバックを起こしやすいです。心理検査をしている間にフラッシュバックを起こすことも十分ありうるので心理職がそばについていて、ケアできる体制が必要です。

構造化面接法としてはDSM-Ⅳ構造化臨床面接時尺度SCID/Structured Clinical Interview for DSM-Ⅳ

PTSD症状尺度PSSI/PTSD Sympton Scale Interview

M.I.N.I The Mini-International Neuropsychiatric Interview(精神疾患簡易構造化面接法)はPTSDだけでなく様々な精神疾患を検出できる優れものの構造化面接法です。

もあります。

⭐︎ 成人用診断検査

1. PDS:Posttraumatic Diagnostic Scale(外傷後ストレス診断)

2.PTSDチェックリストPCL/PTSD Checklist

3.ダビッドソン・トラウマ尺度DTS/Davidson Trauma scale

⭐︎ 以下子ども用です。

1. CPTSD-RI/Child Post-Traumatic Stress Disorder Reaction Index子ども用PTSD反応指標

2.改訂出来事インパクト尺度Impact of Event Scale - Revised (IES-R)はトラウマ体験がどの程度だったのか測定するための成人と子どもにも可能な鉄板とも言える質問紙式テストです。

以下知っておいて欲しいのは
・子ども用外傷後ストレス症状尺度PTSS-C/Posttraumatic Stress Symptom Scale for Children

・子ども用トラウマ症状チェックリストTSCC/Trauma Symptom Checklist for. Children

・年少児用トラウマ症状チェックリストTSCYC/Trauma Symptom Checklist for Young Children

・子ども用PTSD症状尺度CPSS/Child PTSD Symptom Scale

・就学時前学童用PTSD症状PTSDPAC
/PTSD Symptoms in Preschool-Age Children(養育者評定)

◯ 治療

1.薬物治療

第1選択肢としては選択的セロトニン取り込み阻害薬Selective Serotonin Reuptake Inhibitors, SSRIが選ばれることが多いです。脳内でストレス低減物質セロトニンserotoninが吸収されて欠乏するとうつ症状が出現します。

パロキセチン塩酸塩水和物Paroxetine Hydrochloride Hydrate商品名パキシルやセルトラリンSertraline商品名ジェイゾロフトという抗うつ剤が使用されます。

なお、PTSDはストレスへ暴露されることにより心的脆弱性が発現するためか、うつ、統合失調症、双極性障害、不安症、境界性パーソナリティ障害、物質依存、摂食障害、行動、関係依存などほかの精神疾患や嗜癖と同時に発現する場合が多いので、その場合にはその疾患の治療薬投与もします。発達障害との重奏もあります。PTSDはWHO調査では生涯有病率1.1パーセント〜1.6パーセントです。(厚生労働省 みんなのメンタルヘルス)

あまりにも苛烈な体験が妄想と扱われることもあり、誤診が多いと研究者は述べていますが、ベースライン疾患への治療が効果的な場合もあるので、実際にはあらゆる種類の投薬治療が行われています。

ただし、PTSDの確定診断がついている場合にはベンゾジアゼピン系抗不安材や睡眠導入剤は解離を促進し、依存耐性を生じるので注意が必要と言われています。

2.精神療法

⑴ 持続エクスポージャー法法(Prolonged Exposure Therapy: PE)

認知行動療法の一種ですが、その名の通り、暴露に次ぐ暴露を行います。まるで「悪魔の契約」のような「治るためなら何でもしますね?」「はい」「それではやります」的なところもあるのですが、心理教育、呼吸法はメソッドとして理解できます。

想像的エクスポージャーとして、トラウマ体験があったのと似たような場所に晒された場所、学校や会社や、普段は安全な道路を通ったら、と想像してもらいます。一時的に心理的苦しさの指標SUDs、Subjective Units of Disturbanceは上がりますが、エクスポージャーに慣れると下がるはずです。

現実的エクスポージャーは、安全な場所の学校、会社や道路を歩いたりする経験を実践してもらうことです。

さて、PEのキモとも言えるのは週一回、カウンセリングのワンセッションの録音を1日一回聴くという大変な苦行です。通常のカウンセリングならなんとか最後に丸く収まって忘れておしまい、なのですがPEはそれを許してくれません。クライエントさんは毎日それを次のセッションまで延々と聞き続けるので苦しくなり脱落例も多く、認知行動療法にありがちですが、脱落例の人たちがどうなったかは研究不能です。

2. 認知処理療法(Cognitive Processing Therapy; CPT)

これは認知行動療法の中でも侵襲性を低めた心理療法で、全12回のセッションの中で世界の安全性や、その人が回復から自らを妨げているスタックポイントを見つめ直して正しい認知を獲得するというものです。テーマは「安全、信頼、力とコントロール、価値、親密さ」で、全てを失っているというクライエントさんを正しい認知に導く試みです。

個人療法のみでなく集団療法も行います。認知行動療法の基本であるソクラテス的問答法(動機づけ面接と違って治療者は答えを用意していないのですが、質問をし続けてクライエントさんに答えを発見してもらう)

認知再構成法によって、こちらから答えを用意しないでトラウマ回避行動で何が起こっているか、回避しなかったことで何が得られたか、不安の高まりと低減のシステムを患者さんに発見してもらうのも大切です。

3.EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)

精神分析的な視点も認知行動療法的な視点も取り入れられていると思います(認知行動療法にも精神分析的知見は取り入れられていると思うのですが;「インナーチャイルド概念」)。

EMDRの創始者Francine Shapiroは偶然鳥が右から左に左から右に飛んでいるのを見て自らのがんの不安が低減したことから、英米文学者の地位を捨てて心理学者としてEMDR技法を広めました。

トラウマ体験を想起しながら指を左右に動かし、治療者が認知の編み込みを行いながら50分から90分程度のセッションを行います。

この治療法の仮説原理はトラウマ処理における両側性刺激で右大脳半球と左大脳半球の偏ったトラウマ記憶を処理することです。

3回のセッションでPTSDの70パーセントが軽快する侵襲性が低い心理療法と言われていますが、EMDRが苦痛と訴える患者さんもいます。

PTSD患者さんには侵襲性が生じる可能性があるのかもしれません。

日本EMDR学会のホームページも参照して欲しいのですが、
https://www.emdr.jp/
EMDRをトレーニングを受けないで実施することは不可能です。
トレーニングの受講資格は2年以上の精神科・心理学的医療経験のある医師、臨床心理士、そして新しく公認心理師も加わりました。トラウマ治療に興味がある新公認心理師の方はこの機会にトレーニングを受けてみてはいかがでしょうか。

4.その他

これまでPTSDで苦しんでいた人は生活のクオリティが上がることで劇的に症状が改善することがあります。性被害を受けた人が自助グループに参加して主導的になる、未発見性加害者告発チームにかかわることで自らの存在意義を見出す人もいます。

PTSD治療にはどんな精神療法も効果的と言われています。カウンセリングは受容から始まります。精神分析でも対人関係療法Interpersonal psychotherapy、IPT)でも効果はあります。試験には出ないでしょうけれどもEMDRから派生した自我状態療法、ブレインスポッティング、イメージワーク、ソマティックエクスペリエンス、ブレインジム、ダンスセラピー、ヨガ、太極拳も有効です。PTSDは身体性の病でもあるからです。

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◯ PTSDと脳科学

PTSDによってダメージを受けるのは扁桃体です。

扁桃体や海馬が萎縮して重量が軽くなることが指摘されています。

脳由来栄養因子BDNFも減少します。

最新研究ではメマンチンという認知症薬がPTSDに効果的なことが知られつつあります。

PTSD機序や治療については以下の書跡も詳しいです。


◯ PTSDの治療

PTSDの治療は、何の療法でもよく効いて反応すると言われていますが、PTSDに特化した治療法としては認知行動療法の中で持続エクスポージャー法(prolonged exposure)PEが著効があるとされています。

統計的なエビデンスは十分にあるのですが、PEは治療の際のセッションのテープを毎日1時間ずつ聞かなければならないというハードなホームワークがあるので脱落例も多いです。

また、PTSD治療のために開発されたEMDR
Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法
はフランシーン・シャピロによって創始された技法ですが、トラウマティックな出来事への曝露はPEに比べて少なく、PTSDに対して比較的安全な技法です。

眼球運動を左右に行う、音を聴くなど両側性刺激を行いながらトラウマについて処理するというもので、精神分析から認知行動療法までの幅広い精神療法のエッセンスを使っています。

日本EMDR学会
https://www.emdr.jp/

BSPやその他ソマティックなワーク(EBMでない、ナラティブセラピーもPTSDには有効です。)

PTSDの薬物療法ではSSRI、パキシルの使用が第1選択肢として教科書では考えられていますが、実際には定型非定形精神病薬や、解離を伴わないPTSDにはベンゾジアゼピン系抗不安薬、ムードスタビライザーなどのあらゆる薬が使われています。

◯ 解離症群
解離とは、意識・注意・認知(行動)機能の一過性変容で意識・記憶・同一性・情動・知覚・身体表象、運動制御・行動の正常な制御が破綻、不連続となる病態(現任者講習テキスト)。

解離性同一性障害は2つ以上のパーソナリティが出現するという部分で、旧来多重人格障害(multiple personality disorder)、解離性健忘ですが、どうやってそこにたどり着いたかわからない、見覚えない服を着ていた、見ず知らずの人に会ったら別の名前で呼ばれた、などの健忘状態とその間にしたこと。

それから、事物と自分を薄いヴェールのようなものが隔てていて現実感がなく、離人感があるという出来事があげられます。

解離性健忘は一部の場合もあれば、生活全般にわたる全健忘の場合にはもあります。

多重人格の場合には第2人格が何年も主人格として入れ替わっている場合もあります。

統合失調症、てんかんや睡眠行動障害などとの鑑別が必要です。

特に精神病性混迷は解離性混迷と峻別が困難です。

このような解離が始まった作用機序について考えてみると、例えば性被害に遭った女性が被害体験の記憶を別人格に移しておかないと生々し過ぎて自殺してしまう可能性さえあります。

PTSDと解離はとても近い機序があります。

精神病と神経症の境目として研究が始まった境界性パーソナリティ障害も一過性の精神病様状態の間に解離を起こすことがあります。

また、拘禁症候群としてよく知られるGanser症候群は、知覚の過敏、脱しつつということでカタレプシー緊張状態から、固まってしまいます。

逮捕拘禁でよくGanser症候群は起こります。

解離性感覚障害、解離性運動障害では声が出て出なくなる失声やヒステリー性盲もあります。

現任者講習テキストに書かれていて?と思ったのは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が治療に使われるとありますが、ベンゾジアゼピン系の投薬は解離を促進させるので禁忌とされています。

実際はSSRIや非定形精神病薬ではないかと思いました。

解離とベンゾジアゼピン系使用について 日本精神神経学会
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=28

◯ 身体症状群

ICDでは身体表現性障害と言われていますが、身体化障害、心身症、転換性障害(ヒステリー)、機能性身体症候群 Functional somatic syndromes, FSSでは、身体と精神とが一体となって症状が生じていて、線維筋痛症FM、Fibromyalgia慢性疲労症候群CFS、Chronic Fatigue Syndrome CFSとFMの合併症などが含まれます。

※ この辺りは身体症状群の中でもかなり重篤なFM繊維筋痛症の扱いが曖昧なので、単独疾患として繊維筋痛症をDSMやICDの中で独立したさせるか、身体疾患での治療の困難な難病としての扱いがいいとも思います。

繊維筋痛症は確かに多くの抗うつ剤や認知行動療法が効きますが、だから精神疾患に間違いないという原因論にたどり着くのは危険な気がします。

ただし、近年多くの心理職が整形外科で働くようになってきている実績のあるからは、痛みを緩和させるカウンセリングが定着することが望まれるでしょう。

「身体症状症は5パーセントの有病率で、症状改善を希求、未発見の疾病があるのではないかという心気症、慢性化覚醒が原因の身体感覚への閾値低下、そして身体内部感覚増強、不安による症状へのとらわれ、身体感覚内部の消失を目標とした過ちが病態を構成している。病態説明と「気のせいではない」という保証を行う必要がある。リラクセーション教示など身体的アプローチも実行できる必要性がある。」(現任者テキスト)

◯ 摂食障害

神経性やせ症AN anorexia nervosa
神経性過食症BN Bulimia nervosa
特定不能EDNOS Eating disorder not otherwise specified

日本ではAN125,00人
BN 6,500人
EDNOS 4,200人

男女比1:10

過食は自己誘発性嘔吐、下剤、利尿剤濫用で排出型があります。

やせ症、拒食の場合には生理が止まります。飢餓、低血糖、電解質異常(食べ吐きはカリウムが不足、胃酸で歯のエナメル質が融解します。)、肝機能、消化器、循環器障害を誘発します。

DSM-5によるAN重症度判定は

軽度:BMI≧17.6kg/㎡
中等度:BMI16〜16.99/㎡
重度:BMI15〜15.99kg/㎡
最重度:BMI<15kg/㎡

入院、死亡に至る場合も多く、拒食の死亡率10パーセント、食べ吐きは体内栄養バランスが大幅に狂うので18パーセントという統計があります。

自己の身体イメージに対する不快な意識を常に抱いていることから、自ら命を断つ、あるいは身体が生き延びることができなくなり死に至る例も多いです。

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◯ 伊藤詩織さん裁判・性暴力被害に思う(心理職(公認心理師・臨床心理士)が出来る事

伊藤詩織さんが性暴力被害に遭い、民事裁判を提起、330万円の賠償金を勝ち取りました。

この事件を見て「あれ?」と思った人も多いと思います。

この犯罪行為は刑事裁判ならば5年以上の有機懲役です。

5年以上の有機懲役というと「短い」と感じる人もいるかもしれませんが、刑事裁判では5年以上の求刑は決して軽いものではなく、執行猶予がつかないので必ず実刑判決になり、地位のある人は社会的に抹殺されます。

判例では(最判昭和33年6月6日)「その暴行または脅迫の行為は,単にそれのみを取り上げて観察すれば右の程度に は達しないと認められるようなものであっても,その相手方の年令,性別,素行,経歴 等やそれがなされた時間,場所の四囲の環境その他具体的事情の如何と相伴つて,相手 方の抗拒を不能にし又はこれを著しく困難ならしめるものであれば足りると解すべきで ある。」

とあるのですから、刑事裁判となってもおかしくはないのではないか?

と思います。

なぜこの事案が刑事裁判ですぐに裁かれなかったかというと、それだけ密室で起こる性被害は犯罪にはなりにくいという事情があります。

そして伊藤さんの場合にも刑事裁判は一旦不起訴となった後、検察審査会に申立て、検察審査会でも不起訴が決定しました。

日本の刑事裁判は判例があっても性被害に対してゆるいのです。

伊藤さんはPTSD様のフラッシュバックを頻繁に起こす、これは性被害に遭った人には当然ありうることと言えます。

伊藤さんはジャーナリストとして活躍しているわけですから、公開の法廷で自分の身元を明らかにしながら裁判を起こせば当然に顔も実名も明らかになります。

伊藤さんは「強い人ですね」と言われても「私は強くなんかない」ときっぱり言明しています。

彼女は民事裁判を提訴してよかったと述べていますが、それによって自らが被害者であることを強く再認識できた、加害者の加害行為を認めることができたからでしょう。

性犯罪加害者更生プログラムについても僕は当ブログで述べて来ました。

加害者に対する加害者向けのプログラムがあります。

被害者側について考えてみます。

PTSDを軽くする要因として心理学的に知られているのは、加害者の処罰、加害者が社会的な信用を失墜する事です。

加害者の更生と社会を犯罪から防衛すること、社会の処罰感情を納得させる事、これらはいつも矛盾を孕んでいて、心理職として双方の立ち位置を全く矛盾なしにはっきりとさせることは困難です。

犯罪者更生のために必死に働く心理職は加害者への共感や理解を示さないと当該出所者の更生は難しくなります。

そして長期受刑犯罪者というスティグマ(烙印)はなお困難さを伴うことになります。

そして伊藤さんのような被害者には、本人が希望すれば心的被害を軽快させるためのあらゆる精神医学的・心理学的支援を受けられるようにするべきだと考えます。

東京医科歯科大学には難治性疾患研究所があり、精神科医小西聖子教授(現武蔵野大学教授)は長年被害者支援にかかわって来ており、PTSD研究に携わっていました。

そしてこの難治性疾患研究所は一方で犯罪者という存在をやはり難治性疾患として扱って来ていました。

双方の治療は実は矛盾していない、加害者臨床をしっかりと行う事によってトラウマを負う被害者を減らすことができるというのが心理職が持たなければならない認識ではないかと思います。

伊藤さんが語っているように、日本の裁判制度には闇、ブラックボックスの部分が多く、たとえ不起訴処分となったとしてもその理由の開示は刑事訴訟法47条により被疑者プライバシーを守るため原則不開示という決まりがあります。

ただし、時間の経過とともにこの刑訴法47条には相当な批判が集中したことから、法務省もだんだん開示の方向に動いて来ています。

日本のPTSD患者さんは相当な数がいると思います。

それは都会、郊外かかかわらずです。

それにもかかわらずPTSDを専門的に診ることができる医療機関は都市部に限られていて、その数はきわめて限られています。

そしてEMDR、持続エクスポージャー法、ソマティック・エクスペリエンス等のトラウマに特化したカウンセリングができる心理職もかなり限られていて、開業であればクライエントさんが相当な金銭的負担をしなければならないことも多いです。

被害者ケアと加害者の更生と双方の役割を期待されている心理職ですが、これを矛盾と受け止めるのではなく、目の前に迫っている課題、そしてクライエント、当事者双方に真摯に向き合うことでしか自らの職務を全うできないのではないかと考えています。

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