ひなたあきらのおけまる公認心理師たん

新制度公認心理師の検証をしばらく続け、この制度がよりよいものになるための問題提起を行いつつ、カウンセリングの在り方について考え、最新の情報提供を行っていきます。ほか心理学全般についての考察も進めていきます ブログ運営者:ひなたあきら メールアドレスhimata0630★gmail.com(★を@に変えてください。)

カテゴリ: 心理学

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○ 第5回公認心理師試験の感想

受験生10数人ほどの試験の感想を聞きました。まだ僕自身問題文を精査していないのですが、相当難問だったという感想しか聞いていません。

「受かった!」という手応えのある人の感想は誰一人としていなく、相当な難易度だったようです。

プロロゴス山崎先生曰く、問題文を見て頭が真っ白になってからがスタートということなのですが、僕も午前問題のごく一部しか見ていないのですが「あ、わかった!」という問題は僅少で、相当に難易度が上がったという印象を受けています。

受験生の中には「Gルート落としか?」「公認心理師は現場ではここまで求められるのか」という、かなり悲鳴に近い感想も聞かれました。

公認心理師の求められている役割としては登録後にすぐに心理テストをしたりカウンセリングをバリバリとやったり、研究をしたりするというものではないという認識も一部にはあるのですが、それを求められるようなハイレベルな問題が出題されていたとも聞いています。(WAIS-Ⅳ問17も実際に施行したことがないとわからないと思います。)

各社から今夕から解答速報が出始めるでしょうけれども僕も解いてみて講評ができるようにしたいと思います。
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○ 公認心理師試験受験の心得

第5回公認心理師試験がいよいよ日曜日に迫って来ました。初めての試験で緊張している人も多いでしょう。

そこで受験に当たっての心構えを書いておきます。

1.受験前

家から受験会場までが比較的近いという人を除いて、今年は「なんとか行ける」「始発なら」という人たちは前泊をする人たちが多いようです。

確かに試験直前に交通事情を気にしていたらそれもストレスになりそうな気がします。

受験前日は休暇を取る人もいます。全日休暇とは行かないまでも午後半休を取ってもいいかもしれませんね。

2.受験直前

真夏の受験です。ここでまず注意しなければならないのは会場入りせずして帰還を余儀なくされることです。マスクは必ず予備を用意しておいてください。

ひとつしかないマスクのヒモが切れてしまった場合、受験会場のそばのコンビニまで買いに行く時間はないかもしれません。マスクの予備は買っておきましょう。

3.体温チェック

毎年書いているのですが、ここまで勉強を積み上げておいて体温チェックで引っかかっては元も子もありません。

時間には余裕を持って、会場まで走って行かないようにして下さい。走れば体温が上がるのは当然のことです。

次にこれだけ猛暑だと外を歩いているとそれだけで体温が37.0分になってしまうこともありえます。

日傘はお持ちでしょうか?当日は持って行くことをおすすめします。直射日光が遮られるだけでかなり違いますし、青雨兼用ならば急な天候変動にも耐えられるでしょう。

あとは朝食ですが、バイキングのホテルに泊まったからといってお腹いっぱい食べてから会場に向かうのは、人によりますが僕としてはどうかな?と思います。早めに朝食は食べておいて、眠くもならないし消化のために体温上昇を避ける心構えが必要かもしれません。

4.会場内

水分補給は必要ですが試験中は試験官の許可がないと飲水やトイレに行くのもままならないです。

自分の体調をよく観察して…としか言いようがありません。

女子トイレはかなり混みます。ということを想定しておいてください。

5.超直前試験対策

超直前はどうするの?ということですが、人によってさまざまでしょう。

僕の友人は前日ワイン3本飲んで合格しました。彼は「むしろ飲んでいなかったら合格できなかっただろう」と語っていましたが到底万人向きの対策ではありません。

リラックスして過ごすもよし、直前まで1点を狙って勉強するもよし、ひとそれぞれといったところでしょうか。

ちなみに僕は前日夕食を食べながらエリクソンの発達段階理論を読み、ホテルに向かう電車の中でも勉強していました。

試験開始前にはスマホで前頭葉の機能について読んでいて、それが1点獲得につながりました。

試験直前までテキストを読んでいた受験生が多かったです。本番中は机上に出せるのは筆記用具だけですが試験監督が言うことを聞いていればきちんと受験はできるので、それほど不安に思わなくてもいいと思います。

6.試験

山崎先生が、試験問題を見た途端わけがわからなくなって頭の中が真っ白になる、そこからが勝負と言っていましたが、この試験は心理専攻の院卒者をスタンダードにして出題される試験なので、そういう感想を持っても当たり前だと思います。

僕はわからない、迷う選択肢問題はどんどん飛ばしていき、最終的に自分にフィットしそうな選択肢を選んだのがよかったと思います。

マークミスには気をつけてください。

僕が書いたことはあくまで自分が受験した体験から言える所感です。人それぞれ、受験前にはリラックスを重視して、お昼休みも勉強しないという過ごし方もあるでしょう。

本当に受験まで数日間しかありませんが受験生の方々のご健闘をお祈りしています。
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営業に生かせる心理学5 「メンタルリハーサル」

「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp

1 メンタルリハーサルの重要性

営業という行為は売れた時は嬉しい、売れれば今度は新しいタスクが生まれる、売れない時には落ち込んでしまう、大変な仕事であることは間違いありません。

そんな時には「売れた自分」「売れて仕事をうまくこなしている自分」を想像することが有効です。もし「営業活動がうまく行かなかったのは顧客の性質が悪いからだ」「相性が悪い」「この商材は魅力はない」という誤った原因帰属をさせてしまうとそれは「セルフ・ハンディキャッピング」と言って失敗する自分を想像してそれを実現させることで妙な安心感をもたらすことになってしまいます。

そういった誤ったイメージに陥らないようにするためには「楽しく営業活動をしている自分」をイメージすることも大切になります。過去に営業活動をして成功したことを思い返すのは「自己効力感」を高めることにも役立ちます。

自己効力感はセルフイメージを高めることにもなります。ある具体的な状況において、人は目標を立て、その中で適切な目標を遂行できうるであろうという確信の程度が高ければ高いほど人は行動に対する動機付けが高まるのです。

2 イマジネーションを大切にする

先日YouTubeを見ていたら、自動販売機でどこにでも売っているような水1本を「相手に1万円で売るにはどうするか」という動画があり、興味を持って見ました。常識的に考えて水1本を1万円で売ることなど不可能です。

ところが営業マンはうまくその水を相手に1万円で売ることができたという内容のものでした。営業には付加価値が必要です。もし相手にその水を1万円売ることで、顧客の利益が100万円になることが約束されているとしたらどうでしょうか。筆者が経営者ならば喜んで買うでしょう。一見不可能と思えることでもそれを可能にしようというイメージは大切なことだと思いました。

心理学的な考え方ではいきなり成功をすることが大切だとはされていません。ひとつひとつ地道に前進をしていく「スモールステップ」が大切になります。さて、営業マンにとって大切なスモールステップとはなんでしょうか。

それは商材の内容や相手の対応によっても異なるのですが、少しずつ「売る方法」の行動やお互いの気持ちを考えていくことが大切になります。自己効力感について考えてみます。ある特定の行動が成功をもたらすそのプロセスについて細かく考えていきます。

そうすると「今、ここで」自分が何をしたらいいのかを見つめることになります。よい結果を出すためには何が必要で、必要な行動をどういった方法で行っていくかを分析してみます。そうすると自己効力感は高まり、成功体験がさらに営業マンの能力を高めることに役立つでしょう。

営業は形のあるものを売ることもありますし、形のないコンテンツを売ることもあります。さて、売れた時のことを考えてみましょう。どんな内容にせよ、売れた時、売れたものをうまく切りまわしてお客様が喜んでくれたことを考えてみます。それはとても営業マンにとっては嬉しいことです。

営業に訪れた時に暗い顔で受付を通ったら、まずは会社の顔である受付の人が「なんだか変な人が来たようだ」という情報はすぐにキーパーソンにも伝わってしまうと考えた方がいいでしょう。

キーパーソンに売ることだけ、ノルマだけを考えて元気なく営業先に行っていてはその表情や気持ちは相手にも伝わってしまいます。まずは受付を通る時から元気に挨拶をすることが大切です。自分というものは、あたかも鏡を見ているかのように知らず知らずのうちに自分のイメージを作り上げているのです。

もしそういった自分が人にどう映っているかを考えてみると、カメラを向けられている自分を想像してみるといいでしょう。自分が自分自身にどういったイメージを持っているかを考えてみると、客観的な自己意識が高まり、望ましく、理想としている自分のイメージに近づけることがっできます。こういった概念は「自己制御」とも呼ばれるのですが、これを意識して高めることも大切です。

人の気持ちには様々な要素があります。自己の状態や反応は行動、認知、感情、コントロール能力を高めることにつながってきます。明るい気持ちでいること、なぜそれが大切かというと、相手にいい印象を与えて対人魅力を高めるというだけでなく、自分の気持ちのテンションを上げることにも役立つからです。

対人コミュニケーションをうまく取ることに成功すれば、それは良好な関係を作ることにもなります。このプロセスを分析していくと①ある話題(営業活動)について自分の意見を言ってみる②相手の意見を十分に聞いてうなずく、③自分が相手に対して好意を十分に持っていることを、傾聴する、相手の目を見てはっきりと話すことも大事です。

こういった時にひどく萎縮していたり、その反対に「どうせ売れないだろう」と投げやりな気持ちになっていたら相手はそういった営業マンの気持ちを敏感に察知してしまいます。営業マンが売ろうとしている商材に詳しいのは営業マンです。

しかし、顧客はとても頭がいい方々なのです。顧客から「教えを乞う」という気持ちでコミュニケーションを取ることは顧客の自尊心を高め、スムーズに営業活動を行うことにもなります。営業は時として自分が話して相手の興味を高めようとしてしまいがちなものですが、自分が常に教えてもらうつもりで熱心に興味を持って聞くことが大切です。

こういった「共感力」は自分の魅力を高めることにもつながります。共感性の高い人はユーモアもあり、自主的、自発的で他人に感心があり、外交的、そしてこれらの要素によって感情が柔軟であり、何が今起きているか、正確に認知をすることもできます。そうすると共感力との相乗効果によって相手との関係性は安定していくのです。

このような親密性が高まっていくと自然にお互いの非言語的なコミュニケーションにおける好意も高まります。お互いに相手のことを知りたいという興味がわいてくるのです。営業で大切なのは相手への「視線」だともよく言われています。積極的に売ろうとばかりしていて相手の顔を見ていれば、その態度は敏感に察知されてしまいます。おどおどして「売れないだろう」と思って視線をそらしていてもそれは上手な営業はできません。

3 気分一致効果

なぜ上記に書いたことが大切かというと、人には「気分一致効果」というものがあります。例えばもし訪問する時に営業が失敗したことばかり考えていてクヨクヨしていたとします。そんな時に訪問をしたら、落ち込んだ気持ちになってしまうでしょう。

逆に成功した嬉しい体験を思い出しながら訪問したとしましょう。そうすると楽しい気分のまま訪問することができます。どちらの方が営業に役立つかは自明に思えます。

人間の記憶は恐怖ばかり感じていると、そのことばかりにとらわれてしまいます。恐怖を感じているとそのことばかり思い出されてしまいます。顧客のところに行く時にはよく行ったイメージを思い描いてから面談することも大事です。うまく行った体験をきちんとイメージングしてから訪問すれば、新規顧客であっても、継続営業をしているのであっても、うまくいく確率は上昇するでしょう。

これもひとつの学説ですが「人は悲しいから泣くのではない。泣くから悲しいのだ」とも言われています。悲しいから泣くのではなく、泣けば悲しくなります。これは好意的な感情についても同じことが言えます。意識的に笑顔でいること、その気持ちのまま営業活動をすることは顧客に対しても好印象を与えるのだと思います。 

5.感情制御・自己の再評価

相手との関係をうまく運んでいくためには自分の感情を上手に制御していくことも大切です。もしあまり緊張ばかりしていて、以前にうまく行かなかった記憶ばかりが蘇ってきて、その感情で営業に臨めば、笑顔もなかなか出てこないし、自分も不快になるばかりでしょう。

緊張がうまく低減していけば、それは自分と顧客、双方とも気持ちがほぐれてうまく商談ができます。

そのためには自分を責めないで自己をうまく見つめなおす批判的思考「クリティカル・シンキング」が大切になることもあります。対人関係を築いていく上では、その中で起こっている膨大な情報を人は処理しています。その情報をきちんとまとめることが大切なのではないかと筆者は考えます。

それは①集められた情報を明確化すること。情報は明らかになっているものだけではありません。隠された情報や感情のやり取りがその中で行われている事は多々あります。

そして②その情報は確かなものかどうか自分の中で吟味する、これまでの経験や、今そこで起こっていることを再評価することも大事です。

③ そしてその中で起こっていることの価値判断、今バランスの取れた思考法をしているのかどうか、何をここで話したらいいのか、決定権は相手にあるのか自分にあるのかということを観察します。

④人間の行動には様々な無数の選択肢があります。その中で現在起きていることも再評価します。最終的にその中で最も効果的と思われる価値判断をして、相手にフィードバックしていくということを営業マンは知らず知らずのうちに行っているのですが、それをきちんと意識化していくことが大切だと考えます。

その上で、行き当たりばったりに任せるのではなく、論理的に考えていくこと、好奇心や探求心を持って関係性を探っていくこと、客観性の重視、熟慮していくことも大事でしょう。今そこで急に決められないことが起こったならば、こちらが一旦持ち帰って自分の考え方やするべき行動について誰かからアドバイスをもらうことも必要になります。

感情をコントロールできるようになるとお互いに親密な感情が生まれるようになります。古来から日本では「以心伝心」と言われていて、阿吽の呼吸でお互いを知ることができるのです。

うまく行っていても、あるいはうまく行っていなくても、自己と相手の間に何が起こっているのか吟味することも無意識的・日常的に起こっているのでそれを観察します。そんな時にあたかも鏡の中を見ているように自分と相手との関係を見つめ直していきます。

そうすると感情だけに流されず、営業にとっては必要な自己意識や自己制御力が意識化できます。相手が自分に好意を持っていれば相手との笑顔のコミュニケーションが生まれてくることは当然の事のように思えますが、笑顔の向こうに「買う気はないよ」というメッセージが含まれていればそれ以上進展することはありません。

営業の際にはこちらも笑顔で相手に接するわけですが、隠されたメッセージを読み取ることも必要です。言外の視線や表情が何を意味しているのかということを考え直します。

自己の再評価・自己制御には自分自身をコントロールすることが大切になります。営業活動はコミュニケーションです。そのコミュニケーションの中には「何を今しているのか」(行動)、何を感じて見ているのか(「認知・感情」)、自分が衝動的になりすぎていないかという内省力、それらが上手にかみ合った時に営業活動はうまく行くと筆者は考えます。

今何が起きているのか、自分をあまりに卑下することがなく、また、相手のことを軽んずることなく誠実な態度でいることは大切なのではないでしょうか。

営業マンは確かに自分が売りたい商材のことは一番よく知っているわけですが、たいていの顧客、キーパーソンはとても営業をされることに慣れているものです。相手を立てること、知識と経験がある人と話しているのだから教えを乞うという姿勢は大事です。

自分が営業活動の中で何をしているのか、そして相手との間に何が起こっているのかを正確に再評価することがいい結果につながるのではないでしょうか。

そしてそれらの認知と行動がおおむね一致した時に成功体験は生まれるものだと思います。営業マンにとっては成功体験というものはとても大切です。失敗した時に自分を振り返ることも大事ですが、成功した時にも「たまたま成功した」と手放しで喜ぶのではなく「なぜ成功したのか」という事を精緻に考えていくことも必要だと考えます。

そういった成功体験と成功体験の原因を探求していくことは次の成功する営業活動にもつながりますし、さらに自己効力感情を高めていくことにもつながって行くのだと思います。

今回の記事のpdfです。
いつも丁寧に校正していただき感謝しております。

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心理職を応援する臨床心理士高原あきこ先生をぜひ国会議員へ!



2022.6.22参議院議員選挙公示が行われ、臨床心理士の高原あきこ先生が正式に立候補しました。

高原あきこ先生は障害福祉の専門家、のぞみの里から始まり、熊本大学教授などを経て現在は社会福祉法人玄洋会やまと更生センター施設長をしています。

高原あきこ先生は臨床心理士の資格を持ちながら、日本の心理職の待遇を良くしようとも考えていて、臨床心理士・公認心理師の地位向上にも尽力していきたいと考えています。

僕たち心理職は人の命を左右する仕事をしている割には常勤率が低い、仕事がない、給料が低いという、ないない尽くしでこれまで長年過ごしてきました。

悲しいかな心理職制度の歴史は組織内で分断、葛藤を持つことを続けながらのものです。それは現在も職能団体が2つに分裂していることから明らかなことなのですが、心理職の知人たちと話す度、この混沌とした心理職の世界を取りまとめてくれる大きな力はないものかと何度も話を続けて来ました。

あるひとつの職種が自らの権利を正当に守ろうとした場合、職種内団体だけでそれを成し遂げようとするのはとても難しいことです。

医療関係職種では医師、看護師、薬剤師、柔道整復師etc…が国会に議員を送り出し、それぞれ大きな影響を政界の中に持ち、地歩を築き上げてきました。

考えてみると実働3万人以上はいると思われる心理職の中から国会議員がこれまで選出されていなかったことは不思議にすら思えます。

高原あきこ先生はただ単に心理職の地位を底上げする、ということが目的なのではなく、もちろん心理的要支援者、障害者福祉施策の充実も考えていて、災害時の心のケアやいじめ、虐待、家族関係など、社会と心の問題について真剣に考えています。

心理職が仕事をしようとした際に大きな力で守られていること、そして心理的要支援者が守られていくような法制度の整備やシステム構築ができていくのならばそれはどれほど心強いだろうかと思います。

高原あきこ先生が国会議員になることを切に願っています。
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「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
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営業マンが自分の活動に役立てる「メタ認知能力」

1「メタ認知能力」とは

まず、メタ認知能力とは何かについて説明したいと思います。

通常の認知は営業マンの「これを売りたいなあ」という自分自身の考え方、発想なのです。「メタ認知能力」は、その時に「顧客は本当にこれを必要なのだろうか?」「自分は『売りたい』という気持ちばかりが先走っていて、外から見るとこれはどう見えるのだろうか」という、自分を見るもうひとりの自分、さらに言うなら、あたかも自分を頭上から見下ろして自分の活動を見るという能力です。

このメタ認知能力が低いと社内でも社外でも自分勝手なわがままな人としか見られませんので注意が必要です。

例えば自分は自分、人は人と、自分だけの認知、認識にとらわれてしまうと「まあ遅刻してもいいだろう」という極端な考え方になってしまいます。

車で営業する場合に信号、道路の渋滞状況などを考えて客先へとなるべく早く到着するように心がけるというような人は知らず知らずの内にメタ認知能力を身につけていて、自分と他者のことをきちんと客観的に見るメタ認知能力を使用しています。

また、顧客がAという商品が欲しいと思っているのにBという商品ばかり売り込みたがっているのも顧客からすれば不快な思いをするだけで、営業マンはその時にはメタ認知能力を使用していません。

2 メタ認知能力を身につけるためには

メタ認知能力を身につけるためには「批判的思考(クリティカルシンキング)」が大切です。

自分だけの考えに陥ってしまって他者のことを見ない傾向を「自己中心性バイアス」と言います。

この傾向が強いと自分だけは正しいと思い込んでしまい「自分はこう思っているのだから他の人もこう思っているのは間違いないだろう」という、まるで自分だけにスポットライトが当たっているような誤った概念にとらわれてしまいます。

この傾向から抜け出すためには常に自分を振り返り、批判的思考を行うという行為が必要となります。批判というと他者を批判したり、行き過ぎた内省的な考え方をして自分が悪いとクヨクヨしてしまうことを想像しがちなのですが、真の批判的思考とはそういう概念ではありません。

誰しも人は推測、推論をして動きます。メタ認知に欠ける人は先ほど述べたように誤った推論をして動くわけですが、営業のためには証拠や実績に基づいた推測が必要になるわけです。

例えば「顧客は〇〇という提案を以前にしたら気に入ってくれた」「こういった手法を使ったら売れたけれでも別の時に別の手法を使ったら気に入ってもらえなかった」と考えて振り返るのが批判的思考です。つまり相手と自分との関係を常に客観的に見ているわけです。

直観的な思考システムだけに頼って動く勘は誰しも使用していますが、これは人が行う簡単な「ヒューリスティックシステム的思考」と呼ばれています。勘に頼るだけではなく、論理的な思考を行い、データに基づいて行うより緻密な思考方法は「アルゴリズム的思考」と心理学では言われています。

勘だけに頼ると単純に物事を見がちですが「なんとなく考えるとこうだろう」と決めつけてしまうのではなく、過去の思考・発想の成功体験、失敗体験やデータに基づく緻密な分析がアルゴリズム的思考です。物事を考える時にこのアルゴリズムに基づいた発想の方が有効なのです。

アルゴリズム的思考はメタ認知概念の中では重要な概念です。何かを売る際には相手が直観でヒューリスティック的思考で物事を考えることもあるでしょう。

しかし相手もメタ認知能力を使っていて「この営業マンはこういう売り方をしていて、以前もこうだったから買わなかった」あるいは「この営業マンはあの時には自分にとって役立つ提案をしてくれたことがある、今回はどうなのだろうか」という筋道だった論理的なアルゴリズム的思考で営業マンのことを吟味していてより客観的に考えていることも多いのです。

それでは営業マンがメタ認知能力を身につけるためにはどうしたらいいのでしょうか。

それは常に自分が行ってきた営業活動を振り返り、アルゴリズム的思考をしていくことが求められます。例えば営業日誌を書くことひとつ取っても、「今日は何件訪問してA社は乗り気だった」と単純に振り返りをするのではなく、訪問して乗り気ではなかった、すぐに相手が立ち去ってしまった時にはどういった要因が働いていたのかを冷静に分析することも大切です。

それは単純に相手が忙しかったからかもしれませんしタイミングが悪かったからかもしれません。

しかし自分と相手との関係をより客観的に見て、何か自分の言動や行動に問題はなかったのか考えてみることも必要です。心理学は失敗したことだけを自分で反省させる学問ではありません。

うまく行った時、なぜうまく行ったのか考えることも必要です。メタ認知能力が低いといつまでも売れた要因は「たまたま売れた」という偶然的な過程と結果を見ることだけに終わってしまいます。

論理的に考えてみて「どうしてあの時は売れたのだろうか」と考える、成功の要因を分析して振り返ってみること、そして売れた理由を考えてそれをまた応用していくという「Do more」(ドゥー・モア)的な発想が大切になります。

売れる営業マンは「今日は何をして結果はどうだった」と単純に考えるのではなく「どうして」「なぜ」という洞察を深めていき、無意識のうちにメタ認知能力を高めているます。

売れる営業マンのことを考えてみます。売れる営業マンは精緻にメモをしています。誰から何を言われたか、そしてどういった対応を自分をしたか書いています。そしてさらに一歩踏み込んで相手と自分の関係がどうだったか、顧客がどういった考え方をしていたのかを緻密なメモの中に書いている人もいます。メモしていなくともそれをきちんと記憶しています。

3 リテラシーという概念
最近、小学校でも「メディアリテラシー」の授業が行われています。メディアやインターネット上に溢れる情報の中から正しいものを取り出し、判断するという能力がリテラシーです。

メタ認知能力は正にこのリテラシー的概念を応用したもので、自分が行ったこと、そして相手の反応はどうだったかという、膨大なデータの中から役立つものを抽出するというものです。

そのためには言ったこと、言われたことを考えるだけではなく、もう一歩踏み込んで考えてみることも必要です。つまり、訪問のタイミングや時間は適切だったか、自分の発言に対して相手はどんな表情や声色をしていたか、態度はどうだったのか等細かく相手の、言語だけではない非言語的なノンバーバルコミュニケーションに着目していくことも大事でしょう。通常の直観的なリテラシーだけでなく、より高次な分析的リテラシーが役立ちます。

4 メタ認知能力に必要なプロセス

(1) 隠れている要因を明確化すること。

人は何気ない会話の中でも上述のように膨大な情報のやり取りをしています。

したがって、営業場面でその問の課題は何だったのか、その時にどんな仮説を立てたのか、仮説にしたがってどんな言動、行動を取ったのか、相手はどうだったのか、相手はどんな態度や言動だっのかを細かく分析していくというプロセスが必要になります。そして相手も同じことをしていると考えた方がいいでしょう。多くの人は直観的ヒューリスティック思考に従って動いています。

ヒューリスティック思考情報処理の手間を少なくしてより単純な経験則だけによって動いています。しかしヒューリスティック思考の中にもアルゴリズム的な論理性が無意識的に働いていることがあります。相手が直観的な観察力だけで自分を見ているだけではなく、こちらも言動、態度等ノンバーバルコミュニケーションで見られているのです。

営業が嫌いな人は営業の時に緊張して声が震えていたり、目が泳いでいたりします。そういった時に相手は必ずこちらを見ています。緊張することは誰しもあり得ることですが、そんな時こそ笑顔で明るく振舞ってきちんと相手の目を見て話すことが大切です。

(2) 推論の根拠について考える

人は様々な情報に触れます。例えば新規訪問先のホームページを見た時にその内容を吟味してから行くことは多いと思います。訪問先の情報を伝え聞いていたり、何らかの手段で知識を得ていることもあるでしょう。そういった際に推論をする能力が必要になるのです。推論が誤っているのか正しいのか、判断することがここでは重要になります。

(3) 推論と実行のバランス

ただ「推論が必要です」と筆者が言ったところで、「簡単に言われてもそんなことは時間がかかるからできない、面倒だ」と思う人もいるかもしれません。しかし自分について、自分と相手との関係について常に振り返り、考えていくことはメタ認知能力を高めることにつながります。

この「振り返り思考」を論理的、客観的に行っていくことこそ推論の能力を高めていくことになります。常に推論を繰り返そうとしてデータの分析ばかりしていて今度は客先の訪問頻度が減ってしまったら逆効果です。「大変だからやらない」という理由を100個探すことは実行をひとつ行うよりもはるかに簡単です。データを分析しながら実行手順について考えていくことは営業先に向かう車中でも電車内でもできることです。

(4) 行動決定

メタ認知能力は、自分の認知的プロセスを適切にコントロールする能力と、頭でわかっていてそれを実現するための方策、行動に至るまでの意志決定の2つに分かれます。

理解していれば必ずできるという単純なものではないので、常にメタ認知的にはこう考えられる、その推論の根拠は何だったのか、常に過去の経験から次に自分の行動を決定するという段階が大事です。

5 メタ認知能力を鍛えるには
メタ認知能力と並んで大切なのは「メタ記憶能力」です。失敗しても成功してもその体験の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっていたら、いつも偶然にしたがって試行錯誤的に動いているだけになってしまいます。試行錯誤的な行動が悪いというわけではありません。営業は考えているだけでなく、動かなければどうにもならないところがあります。

試行錯誤的にスピーディに顧客訪問をする中で常にメタ認知について注意をしてそれをメタ記憶の引き出しにしまっておくと、だんだんとメタ認知能力が高められるようになります。

イメージ能力を高めておくことも大切です。じっくりとデータを積み上げて分析したり、細かくメモを取るということは誰にでもできることではありません。最初は経験則や勘に頼るヒューリステック的な思考でも構わないので、その記憶を後になってから内省的に分析していくことが役立ちます。そして自分が直観だけに頼っていないか、何度も考え、特に成功体験について振り返りを行うことがメタ認知能力を高めることにつながるのです。

人は自分で意識しているほど自分のことを知っているわけではありません。他者はその人のことをどう見ているのか明確でも、人から見ると客観的にはこういう人だ、ということがあります。メタ認知能力は常に自分を振り返る能力です。自分のことを謙虚だと思っていても人からはそう見られていないかもしれません。また、自分のことを気ままにやっていると思っていてもその人は周囲の感情や動きに敏感で感性が優れている人かもしれません。

人は他者から指摘されないとどういった人間なのかということを意識できないものです。常に他者と自分との関係を意識することは大切な能力です。また、それを他者がやんわりとでも受け入れられるように指摘することも大事です。

6 結語
営業はある意味で過酷な仕事です。しかし達成できた時、そこには大きな喜びが伴います。経営者は第一線で働く営業マンのメンタリティを常に気にかけていることが必要です。

成績を上げられたことについては褒めて、そしてなぜ成功できたのか考えてもらうことが営業マンの成長につながります。営業がうまく行かなかった時にはその理由を冷静かつ論理的に考えてもらうことも必要です。営業マンがあまりにも残業で負担がかかっていないか、それ以外にも心身の状態に気をつけるということは経営者から見た社員への「メタ認知」能力につながります。

営業マンは経営者がどの程度自分を気にしてくれているかを敏感に察知します。筆者が会ってきた経営者はみな優れた営業マンかつ心理学者とも言えます。経営者は常に自社の製品と自社を売り込むことを考えているので、営業マンを束ねるトップです。自社と顧客の関係性についてメタ認知能力を駆使していつもポジティブな内省力を持って考えています。そして経営者がそうやって身につけているメタ認知能力を営業マンに伝えていくことが営業マンを育てていくことにつながるのではないでしょうか。

※ 今回の記事もpdfにしていただきました。いつもありがとうございます。

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