
公認心理師・臨床心理士「やってはいけないこと」=多重関係なのはどうして?
1.はじめに
一昨日Twitterのスペースで「公認心理師と倫理」のタイトルで話をさせてもらったばかりなのですが、心理職には明文化された、あるいは暗黙のうちにやってはならないルールのようなものが満載です。どんな行為をなぜ、どうしてやってはいけないのかということについて僕なりに考えたことについて触れたいと思います。
2.関係性
⑴ 恋愛感情をともなうもの
これはやはりまずいのですが「何が多重関係か?そしてなぜまずいのか」について考えると際限がありません。
恋愛感情をお互いに抱いて行動化してしまえばまずいのは想像はつくのですが、以前行政関係のお偉いさんから話を聞いた時「お互い独身だったら結婚してもいいんじゃない?」と言われて、一般的な感覚というものはそういう人もいるのかなあと思ったものです。
実際のところ、クライエントさんというのは自分が既婚者であってカウンセラーが既婚者であっても熱烈にカウンセラーのことを好きになってしまうと「かなわぬ恋」になってしまうことになります。
どんなに恋焦がれてもその欲求は実現しません。ここでひとつクライエントさんは傷つきを感じるのですが、その恋愛感情が満たされない時にもし究極の関係性をカウンセラーとクライエントが結んでいたらどうなるのでしょうか?
噂なので本当かどうかわかりませんし、作り話なのかもしれませんが、昔、とある既婚者の男性カウンセラーが女性クライエントとお互いにそういう関係になってしまいました。女性は「○○先生とは来世で一緒になれるものと思っています」と書いて自害してしまったのです。
そこで女性の配偶者は激怒して訴えたというものです。
これが一番強烈に記憶に残っている話なのですが、クライエントさんはカウンセラーのことを好きになったとしてもそれがかなわないことを知っているからまずそこで痛みを覚えます。
そして次に関係を結んでしまったら次は関係を断ち切らなければならないということで二重に深く傷つくことになります。
クライエントさんはひどく繊細なので「恋愛感情を持ってしまった」「好きと言ったけどそれが受け入れられなかった」ということだけでカウンセリングから離脱してしまうことがあります。
これが性的多重関係になってしまったらどうでしょう。ニュースにもなったので2例ほど知っているのですがクライエントさんには深い怒りの感情が湧いて来ます。
それは「利用された」というもので、相当な怒りを抱くことは想像に難くありません。医療倫理の4原則「傷つけない」を大きく逸脱してしまっているのです。
こうなるともうカウンセリングの行為そのものどころか人と人としての信頼関係も崩れてしまうでしょう。
僕の今までのカウンセリングの経験からは加害者臨床、子ども、男性が多く、たまにクライエントさんが女性だったとしても風采の上がらない貧相な男で良かったと思います。
女性クライエントには慣れていないのでたまに出会うことがあると、とても苦手な意識を感じます。みなさんがどうしてやり過ごしているのか知りたいぐらいです。
相手をカウンセリング関係を超えて好きにならせるカウンセリングは侵襲性があるとも思うのですがそこをどう乗り越えて行くかはとても難しいことです。
成田善弘先生の「青年期境界例」では若い男性から恋愛感情を寄せられた事例が書いてありましたが、成田先生は全く動ずることなく堂々とした態度を取っていて、息を飲むように読んだのを覚えています。あれは正に名人芸の域に達しているから可能だったのでしょう。
⑵ 友情を求められる
ひどく高価な品物を送りたいと打診されて(住所を聞かれたので)断ったことがあります。
また、飲みに行きましょうよ、食事に行きましょうよ、お茶でもどうですか、おごりますからと言われたこともありますしおごってくださいと言われた経験をしたことのある人も多いでしょう。
狭い街に住んでいると(僕も多々経験がありますが)街中でクライエントさんに会うことは多いです。そんな時も誘われることが多いですし延々と終わらない立ち話をされるのも困ったなあと思いながら切れなくなったこともありました。
⑶ 携番
携帯の番号を僕は同性には教えることが多いです。クライエントさんがかなり重度で命にかかわっているけれども手立てがない時、あるいはカウンセリングを受けたくて仕方ないけれどもなかなか予定が決まらない人の場合で、苦渋の決断をしています。
「友達じゃないんだから携番教えるのやめろ」と言われたこともありますが、大抵のクライエントさんは自制して連絡をしてこないのですがその結果夜中、早朝に電話がかかって来るのを覚悟しています。
高名な精神科医に「死んだ」って電話と「死ぬって電話とどっちがいい?」と聞かれたこともあります。
3.おわりに
何が多重関係かそうでないかは、はっきりとしたものから境界が曖昧なものまでさまざまにあります。心理職の倫理については考えても明確な答えがなかなか出ないと思っているのです。
photo by ᴷᵁᴿᴼ' @PhotoKuro_
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