D54E639D-EDD2-40F6-8B8C-9E6BC4F37011

公認心理師になっておいた方がいいたったひとつの理由

1 はじめに

「若いうちの苦労は買ってでもしろ」と言われますが、僕が考えるにこれはウソです。このことわざは、苦労の結果として人格が磨かれ、陶冶されて素晴らしい人になる、ということを仮定しているのでしょうけれども、実際さまざまな人々の心に接している心理職の方々は苦労に押しつぶされてしまって長い間立ち直れない人たちを老若男女問わず見ています。

患者さんばかりでなく、そういった人たちに接する心理職の道はいばらのように厳しく、給料は安い、しかも重労働で神経をすり減らします。たとえそうであっても心理職の人は公認心理師を取得する。そして他職種 G ルートの人たちも自分の人生の中の大事な時間を割いて、あるいは予備校に大枚をはたいて勉強をする。それでも公認心理師資格を取っておいた方がいいと思う理由はたったひとつだけあると思うのです。

2 理由

その「たったひとつの理由」というのは学部から公認心理師課程を経て全て公認心理師純粋培養組が誕生するのは 2024年、それまでの公認心理師はあくまでこの制度が定着するまでの公認心理師と考えられるからです。そのため、この制度のためのパイオニアと考えらえています。かなり暴論であることは承知しています。

「それでは2024 年卒の純粋培養組が出て来るまで公認心理師受験資格は与えなければよかったじゃない」という議論はどこでも読んだことも聞いたこともないのですが、突き詰めていくとそういう考え方もできる、といういわば思考実験のようなものなのですが、「純粋培養組」の公認心理師だけが真の公認心理師かというと、全くそういうわけではありません。

純粋培養組が出て来るまでの経過措置で資格を取得した公認心理師も同じ試験を通った立派な「公認心理師」です。何度かブログにも書いているのですが、誤解を恐れながらもこういう言い方をしてしまうのですが(ほかのいい言い方を知らないので)現公認心理師は心理的支援を行うというほかに「新世代への架け橋」的な役割も期待されることになります。

公認心理師養成課程のある学部、大学院は一定数の公認心理師が大学教員としていなければなりません。また、実習先も一定数の公認心理師がいることが求められます。後進の育成のためにはどうしてもある程度以上の公認心理師がいなければならないのは理屈としては大変わかりやすいでしょう。

この指導は公認心理師以外の職種が行うことはできない、というか不適切なのではないかと思います。どの資格もそうですが、実習指導を行うのは主にその同一職種が行っています。

その中で例えば制度について実地で学ぶ、事例に触れる、それを検討する、その指導を受ける、グループディスカッションを行う、スーパーヴィジョンを受ける、という専門的な心理職を育成するための営みは公認心理師でなくてはできないと思うからです。

何度も言っているのですが後進の指導をしないからといってGルートを dis っているわけではありません。もともとGルートだろうがDルートだろうが、心理1人職場のところは多く、そこが実習を請け負うことはないわけです。

※ 付記:1人職場でも実習生を受け入れる猛者もいるそうです。

新たに出会った新卒心理職の人と共通言語としての心理学を用いて協働協調路線を取ることができるというのは実に素晴らしいことだと思います。生きた実践を教えられることになるでしょう。

3.理由のための理由

どうしても触れなければならないのは試験の難易度です。受験生のみなさんも過去問をやってみて思っていることかもしれませんが、僕の印象としては各回の試験の難易度や質が異なり、試験問題はある程度共通項があるものの、どうなっているのかわからない、とブレブレにぶれている感じがします。こう感じているのは僕が心理学の知識が中途半端で、合格者のみなさんにとってはどれも常識の範囲内の知識だったかもしれません。

このブレている傾向もいずれ落ち着いて安定していくものだと思っています。

難易度としては試験としての同一性は保たなければならないと思います。そして新卒ルートがこれまで8割を超えていたように、純粋培養組となってからは8割程度の合格率を保持することは望ましいことでもあると思います。なぜなら、学部時代に GPAで選抜を受けて優秀な学生が学部→大学院に進学→公認心理師になる、というのは大変自然な流れだと思うからです。

医学部や看護学部、また福祉関係各学部のように、職業に直結している学び+公認心理師課程の場合にはさらに + a で修士論文を作成する、ということは全体的な公認心理師の実力のボトムアップにひどく役立つでしょう。

4.おわりに

どの職種にしてもそうですが、将来的に求められるのはその高い専門性と豊富な知識、そして公認心理師の場合には学ぶための積極的な姿勢、臨床的なセンス等多くの素養が求められます。公認心理師というものは大変に高い実力を持っている、それではこういうところに活用しよう、ああいうところにも活用してみよう、というのは多分純粋培養組が卒業して10年ぐらい経たないと見えてこないのではないでしょうか。

そのための制度改革が行われるのならば実にそれは有意義なことですし、現在公認心理師資格を取得している人、純粋培養組に対して指導的な立場になれる人はぜひとも後進の育成に力を入れて欲しいと考えています。

photo by ᴷᵁᴿᴼ' @PhotoKuro_