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ミヤガワRADIO 川上正浩先生〜認知科学の大冒険

2021.7.31、たまたま出先で時間調整のつもりでミヤガワの川上正浩先生ゲストの回を見てみたのですが、これが面白い…なんと3時間近くに及ぶ!LIVEですが、時間を忘れるほど楽しかったです。

番組の正式名称は
「認知心理学の面白さと学ぶ価値 大阪樟蔭女子大学 川上正浩先生 ミヤガワRADIO #150」です(本稿のタイトルは僕が勝手につけた)。

いつもは公認心理師・臨床心理士受験記事や公認心理師制度などなどについて書いている僕ですが、たまには好きなものを好きなようにつらつらと書いてみようと思います。

ちなみにミヤガワRADIOも気が向くと見ている程度(宮川先生すみません)ではあったのですが、面白そうな、ためになりそうな番組が多くあり、頭の回転が早く、軽妙な語り口でゲストの魅了を引き出していく宮川先生にも感心した次第です。

さて、心理学と言えば心理学史をひもとくと、どうしても知覚・認知VS臨床となっている、というのが僕の印象です。というのも例えベックが認知療法を編み出したとしてもそれはあくまで「認知行動療法」であって「認知科学」そのものではない。

認知科学者が即認知行動療法ができるわけではありません。また認知行動療法家も臨床を除いた認知科学そのもののだけの研究をしているわけではない。

よって、認知行動療法派の方々の中にはひょっとしたら怒る方もいるかもしれませんが臨床≠認知研究というのが僕の信念です。

いつもは僕は職能団体の対立についてばかり書いているので特定の学派=悪、と書いているように受け止めている方もいるかもしれませんがそんなことはなく、やはりいいものはいいし、クライエントさんのために良いものは良い、クライエントさんのためになるような心理学の知識もやはり大切だ、と付け加えておきます。

さて、今回のゲスト川上正浩先生の経歴です。

reserch map を見ると名古屋大学で博士号を1988年に取得されてから、中部・関西地域を中心に大学で教鞭を取っておられる。現在は大阪樟蔭女子大学 学芸学部心理学科で教えておられる実験心理学者なのですがとにかく研究業績がすごく、論文だけで187件を出しておられる。

僕は到底全部を読むことなどできなかったのですが、面白かったのは多分この放送とも関連があるかもしれない「漢字二字熟語の意味とそれを構成する漢字の意味との関連性(透明性)です。

基礎心理学者の常として、ヴント(Wundt,W.M.)に立ち戻るのはよくあることです。本論文にはWundtは全く出てこなかったものの、Wundtの行っていた「内観法」は自分の意識をじっと見つめ直すという誤解があり、そういうものではなく認知、知覚を実験として見つめ直す。

記憶というものをきちんとその要素に分解するというEbbinghaus,Hに戻るようでもあります。

というのは本論文で記憶は取り扱っていないものの、オペラント条件付けのように何ら道具を使っていないにもかかわらず、Ebbinghausは記憶を主題として取り上げていたことに際し(Ebbinghausは実験者と被験者が同じという批判は後世よく受けていたのですが)、人間の意識や知覚はそれだけで十分な研究対象となり得る、ということを臨床onlyでやって来た僕にとってはこの当たり前のことを「認知とは」「プライミングって何?」という言わば自由連想的な実験心理学の基礎として思い出すことができたわけです。

論文「不思議研究における態度の発達」(共著)も読んでみたのですが、いわゆるオカルティックな「 心霊現象や占い,UFO,超能力」(同論文引用)不思議現象に対する信念を描いたもので、さまざまな研究者業績を見てみると、その研究題材の選択や論説のあり方はとても魅力的、チャーミングなものではないかということでした。

心理学というのは深くて大きな海のようで、心理学全体を個人研究者が見渡すこともできないですし、その奥深さを感じることができたなあということが僕がこの動画を見て、やはり自由連想的に思った感想でした。

心理職の方々はともすると臨床だけに傾く知に引きつけられることが多いのですが、こういった「基礎と実験の知」も大切なのだなあと思える番組でした。


photo by ᴷᵁᴿᴼ' @PhotoKuro_