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公認心理師の活動状況等に関する調査 

1 はじめに

2021年3月、厚生労働省令和2年度障害者総合福祉推進事業として、日本公認心理師協会が「公認心理師の活動状況に関する調査」が発表されました。288 ページにのぼる調査で、よほどの好き者でないと全部を読めないと思い、僕も常識人代表として序盤だけ読みました。

まず、この調査は日本公認心理師協会が主体になって行っているものですが、「公認心理師の会」、鈴木伸一氏も参加していたことで、現在2つに分かれている職能団体がこういった「調査」という形で協力ができるのなら、もっと統一に向けて積極的に同じ目的に目的に向かって行って欲しいなと思ったことです。

2 分析

まず、全体回答率は 38.7 パーセント、こういった調査では 50 パーセントの回答が得られないと有効な結果が出ないという意味では残念なことでしたが、いちおうの成果が出たということです。

第2回試験までの結果として公認心理師資格取得者のうち、臨床心理士が 71 パーセント、カウンセリングや心理テストを仕事としている臨床心理士の割合が圧倒的に多いのは想定内のことでした。

そして気になるのは公認心理師法第 42 条2項の「主治の医師の指示」ですが、同じ病院に勤めているのならばこの法律の条文ができる前から「主治の医師の指示」は当然のように受けていたはずですが、実際のところ、教育現場ではチーム学校の概念が深く根付いていて、主治の医師との連携は難しいでしょう。

また、司法領域でも主治の医師がいたからといってその指示に従って司法制度や裁判官の考えに反することは事実上不可能です。そして主治の医師に同意を得ることができなかった例が6パーセント、日本精神神経学会の出している「要支援者の同意を得なければならない」とするべきとなっていますが、たとえば私設開業領域で「主治医はキライなので死にたくなっても言わないこともあるんですよ。あ、センセには内緒にしておいてくださいね」という要支援者の言葉を伝えるのは難しいでしょう。

この調査結果からは少し外れるのですが、第42項は「連携」に関するもので、連携の一種として主治の医師があるのだと解すると法の条文自体を変えるか新たな運用基準を出すべきだと思います。

本調査結果からは、公認心理師が研修熱心で外部研修に参加したり、スーパーバイズを積極的に受けたり行ったりという結果が出ています。ただ、これはこの調査に積極的に答えた人の4割近くがそうだったというバイアスがかかっているのかもしれません。

常勤勤務 55 パーセント、非常勤 41 パーセント、常勤を希望しているけれども常勤になれない人たちが 54 パーセントとありました。家庭の事情で非常勤勤務をしている人たちもいるとのこと。以前も書きましたが、女性の心理院卒者が公認心理師になりたいと考えたとしてみましょう。「私、大学院出たら旦那さんに頼って自分はパートで夜勤コンビニと同じぐらいの心理の時給で働くわ」という志で臨床心理を勉強する人はほとんどいないでしょう。不遇な就職
先に自ら諦めてそういった勤務形態にならざるを得なかった人が多いのではないでしょうか。

公認心理師が要支援者に対するメンタルヘルスシステムへのアクセシビリティ(接近性)についても書いてありました。確かに公認心理師が支援する対象者は経済的に不遇だったり、生活している環境もあまりよくないことが多いのですが、果たして公認心理師自身のアクセシビリティについてはどうなのか?ということを考えさせられてしまいました。

公認心理師は確かにメンタルヘルス関係の業務を行っているから確かにメンタルヘルス環境へのアクセシビリティはあるかもしれません。しかしながらこれが非常勤でメンタルへルスと関係がない仕事をしていたらアクセシビリティは少なかったのではないかと思います。

この調査結果で、福祉機関での公認心理師に対する言及が特徴的だったので触れておきます。児童相談所、社会的養護、心身障害者施設では心理職がいない場合が多く、公認心理師が入職することで心理学的な発想を施設に取り入れ、福祉全体の質を上げられるのではないかという提言です。確かにこれは一理ありますが、僕は新卒の院卒入職者、公認心理師、臨床心理士心理有資格者が施設に入職した場合も知っていますが、実態は新卒で入っても求められるのは ABA 応用行動分析の知識よりも荒れそうな知的障害者をいかになだめるか、中途障害を受容しきれない身体障害者の愚痴を黙って聞く、など非常に神経を使う感情労働が多いです。

だからこそ福祉施設ではどんな有資格者よりも経験者を募集しているのです。公認心理師をめぐっては国家心理資格を取り入れて社会のメンタルヘルスに資するという壮大な構想があるのはこの調査結果を見ているとよくわかります。しかしながら入れ物を大きくしてみても注ぐことができる中身がないのではこれまでと同じパターンに陥ってしまうという危惧を強く抱いているのです。
photo by ᴷᵁᴿᴼ' @PhotoKuro_