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◯ 臨床心理士が資格を剥奪される時

1.序

公認心理師はいまだ細かい倫理基準がはっきりとしていないのですが、臨床心理士はしっかりとした倫理綱領が定められています。臨床心理士資格認定協会が発行している」臨床心理士報」を見ると巻末に「登録抹消」という極めて厳しい処分から「厳重注意」までの処分があるのをよく見ますが、理由までは書いてありせん。

2.アメリカにおける実情

ここでアメリカ心理学会(APA)の倫理事例について書いた金沢大学多田治夫先生の

倫理原則に関する事例集

論文にアメリカにおける具体例が書いてあります。

例としては「青少年の潜在能力を測定するテスト」を大々的に売り出したものの、エビデンスがなく学会倫理委員会の調査にまともに応じなかったことから心理学者が資格剥奪させとなったものです。

アメリカの心理学者にとってはAPAに所属できないというのは致命的なことです。

データ捏造、利権追求、それによる調査拒否は最も重い処分になるということを示しています。

アメリカは訴訟大国です。日本ではそういったことはなかなか起こり得ないのですが、患者の自殺はカウンセラーが訴えられる大きな要因となり得ます。

資格剥奪ということではなかったのですが、倫理対倫理、お互いの正義を主張し合った争いとしてはアメリカの「偽の記憶財団」farce memory foundationを中心とした活動があります。

催眠を使って虐待の記憶を呼び戻した娘が出奔し、行方不明になったことについてこれが虚偽の記憶だということで訴えられたアメリカの2人の治療者が巨額な賠償金を払うことになりました。

PTSD、トラウマの研究者であるジュディス・ハーマンJudith Lewis HermanはPTSDに対して催眠の利用を勧めていましたが長期間の論争を経てアメリカ精神医学会は「記憶回復療法」を一切認めないという決定になりました。

ジュディス・ハーマンは自らの信念を貫いただけですが、虐待の記憶を呼び覚ますことは事実上禁じられたのです。

上記のとおり、クライエント、患者の自殺もカウンセラーが裁判の被告人、相手方になることは多く、カウンセラーの責任が認められた場合、アメリカ心理学会からの処分が下りる可能性も高いのではないでしょうか。

2.日本における実情

重い処分に処せられた人は私設開業領域の人たちが多いようです。勤務臨床心理士は「組織に守られている」という点もありますが組織の規範に従わなければならないという窮屈な面もあります。

そして自分の名前を冠してあちこちの取材に答えたり、一般的な啓蒙書を書く、講演をするなど表に出ることが多い私設開業領域の人たちが多いのかもしれません。

目立つことが多く、開業領域で利潤、利益を追求しようという姿勢は大切なのですが、効果が誇大広告ととらえられ、表に出やすいだけに「出る杭」にもなりやすいのかもしれません。

また、有名なものとしては臨床心理士の守秘義務違反が裁判で敗訴したというものがあります。学会誌で改変して匿名性を担保したつもりでもわかる人にはわかってしまうのです。

こういった場合も臨床心理士としての処分を免れないものと思います。

多重関係は処分対象になりやすいです。特に性的多重関係は言語道断ですが、例外もあります。自然災害など天変地異が起こった際には緊急的に同僚であっても、持っている技能と経験を生かして人道的見地からカウンセリングやむなし、としてある学会もあります。

しかしながら災害終焉時にはすみやかに元の関係に戻ることが求められています。

3.結語

誰かが書いていたのですがカウンセラーとクライエントの関係は道ですれ違った他人以上に他人だと読んだことがあります。これは僕も賛成で、ばったりとクライエントさんと街中で出会うこともありますが決してこちらから声をかけることはないです。

ただし向こうから「先生!」と凄い勢いで声かけをされたら立ち話程度はします。

私物携帯の電話番号を教えるか教えないか?については僕の周囲は半々に分かれています。

初心者には決して勧めません。

ちなみに僕は教えています。多忙でカウンセリングを受けたいけれども時間調整がうまくいかないので外線からしかつながらないという理由がひとつ。こういう人には電話でカウンセリングはしませんし予約を取るだけです。

もう一つのパターンはあまりにも自殺可能性が高く、それでいて入院などの措置がとれないクライエントさんの場合です。

幸いにして自殺されたことはないのですが、やはりカウンセラーとしては苦渋の決断をしています。

僕はどんなクライエントさんでもカウンセラーの動き次第ではBPDに近くなると思っています。だから女性クライエントに対して個人的な連絡先を教えるのはよっぽどのことで、連絡先を教えた上で安全なケースマネジメントをするという技は未熟な僕には不可能と感じています。

そうすると最悪の場合待っているのは激しい転移による治療関係の破綻で、誰かにバトンタッチすることもやむなしという覚悟の上です。人間相手の賭けを僕は好みません。

カウンセラーも自分の感情に振り回される危険性を比較考量しています。クライエントさんの命を救うためにどうするかいつも考えていて、答えの見つからない答えを常に探そうとしているのです。

photo & lyric are by ᴷᵁᴿᴼ' @PhotoKuro_
ᴡɪᴛʜ.
グラスの向こうでじゃれる声。それは、かすれた時間を潤す響き。褪せた心を彩るように。