〇 臨床心理士・公認心理師・非常勤から常勤への面接術
1.序
心理職がとかく給料が安いというのは、その働き方で非常勤が多い、ということが理由のひとつということはよく言われています。考えてみればこれは当たり前のことで、アルバイトでいつでも雇えていつでも辞めさせることができるのは経営上都合がいいことですし、常勤にすると簡単に退職させることはできない、下手をすると労働基準監督署案件になってしまうから(ということを知らない事業所も多いですが)という面倒くささが伴っています。
非常勤で働いているみなさんは、社会保険はしっかりとしているでしょうか。正規職員の4分の3以上働いている場合には、介護保険、医療保険、雇用保険、年金保険、労災保険への加入させなければなりません。これは事務も煩瑣ですし、雇用側にとっては条件がしっかりとしていると非常勤でも本来きちんとしていならないのですが、日本の小さな事業所はいい加減なところが多いです。
ワンマン院長(社長)の裁量ひとつで気に入られなければ「明日から来なくていいよ」というのはいかにもよくありがちな話です。
そうであれば雇用条件がしっかりとした常勤で働きたいと思うのが当然のことで、心理職を目指して大学院に入った人が「旦那の扶養範囲内で働けばいいから別に専門性はそんなに求めなくてもいいわ」と思った人はいないものと思います。
そこで非常勤→常勤への面接を突破する方法を考えてみたいと思います。
2.ありがちな失敗
「どうして〇医院(弊社)を受験しようと思いましたか?」と聞かれて「子育ての手が離れて」と答えるのは実に微妙です。これで受験者の方が30代後半ぐらいで「あ、子作り打ち止めかな?」(禁止されているのでそういう質問は面接ではしてはならないことになっていますが)と言うと「なるほど、よしよし」となるのですが、20代ぐらいの人がそう答えると「あ、この人また子ども作ったらすぐ産休育休取るのかな」と思われて雇われにくい、ということは実際にあるでしょう。
しかも、雇う側はあくまで雇いたい、熱意ある動機のあるやる気のある人を探しているわけで「時間ができたから雇ってちょうだい。非常勤より常勤の方がお給料いいし」というのは本音であっても言ってはならないことです。
泣き落としは最も下策です。「ここで雇ってもらえないと経済的に苦しい」というのが本当であっても「それがどうした、こっちは欲しい人間を探しているわけで、困ったことがあるとすぐ弱音を吐く人間が欲しいわけではない」と思われてジエンドです。
若い女性心理職の方には結婚、出産はとても微妙な問題で、雇用側は聞いてはいけないのですがストレートに聞いてくれる場合もあります。「2番目のお子さんができたらどうしますか?」など聞かれたら(あるいは聞かれなくても)「夫の(自分の)両親の近くに転居したので両親が面倒見てくれますので」とさらっと言っておきましょう。
男性でもそうですが「俺が俺が」「私が私が」といきなり給料や雇用条件など、面接官が聞きたいことよりも自分の希望を述べるともうそれ以上は話を聞かずに短時間に面接を切り上げて「その後のご健闘をお祈りします」となってしまいます。
こういった社会性のない心理職の就職面接態度にげんなりして過去、医療系人材エージェントの中でも比較的大手は採算にならないと心理職から手を引いてしまったという例もあるぐらいです。
3.望ましい非常勤→常勤の転職への面接の臨み方
やはり、常勤になったらやりたいこと、非常勤ではできなかったこと、を熱意を持って話すのがいいのだと思います。それは何かというと、まずありきたりですが「腰を据えて落ち着いてじっくりと働きたい」という前向きな姿勢です。
これは非常勤→非常勤の場合にも当てはまるのですがきちんと就職先のことを前もって調べてある志望者に関しては好感を持つものです。ここで面接の8割が決まってしまう(要するに調べていないと8割負け)という場合も多いです。
「貴院ホームページを拝見させていただきましたが、医療法人〇〇会様では入院患者さんが退院したとしてもスムーズに社会復帰できるよう、デイケアや就労継続支援施設があり、また、患者様が通院しやすいようにサテライトクリニックを2つ持っています。理事長理念である、『〇〇会の、その先へ』を私も達成できるよう、雇用されたならさらに自己研鑽を積んでいきたいと思っています」とか、「単科クリニックで小児中心、スクールカウンセラーとして主に子どもとかかわって参りましたので、病棟のある病院でより支援を必要とする子どもたちの心理検査や療育に積極的にかかわっていきたいです」 という、「組織に染まる」姿勢が必要です。
非常勤でも一生懸命そこの現場に役立ちたいと職場のカラー合わせようとしていたとしても「あ、バイトね」ぐらいの扱いを周囲から受けていたことはなかったでしょうか。常勤はいわばその職場の「顔」です。中途採用は即戦力(は実際には無理でも)採用が建前なので、配属されたら〇〇をしたい、ということをアピールします。実際のところが違っていれば相手が言ったことに軌道修正をして自己アピールを重ねておきます。
「〇さんは家族支援もしたいって言ったけど、うちはそれはドクターが十分にやっているから」と言われたら素早く方向転換をして「それでは私が子どもの検査をやってプレイセラピーをやって行動観察をして、その結果をどんどんドクターに伝えていきたいと思います。内容もそうですが、面接官は臨機応変さがあるかどうかという地頭も見ているのです。
重要なのは、あくまで「採用面接」なのですから、非常勤で培った体験をどのように常勤で生かしていかるかということを相手に合わせてアピールしていくことです。志望者の個人的な事情はぶっちゃけどうでもいいですし、個人的な事柄を語って一緒に考えていくのはカウンセリングという場で行われる営みです。
さて、あとは面接内容ですが、面接官が心理の素人だった場合、専門用語ばかり並べられるとむしろげんなりしてしまいますので、「乳幼児テストは数十種類取れます」(必要なら)「親への集団精神療法(ペアレントトレーニング、保険点数が取れるので)ができます。と何ができるのかについては話しておきましょう。
どうも心理の専門家が面接官に入っているようであれば、「乳幼児の発達検査は何ができますか?」と聞かれるのでそこで「ウェクスラー式、鈴木ビネー、K‐ABC、遠城寺、津森、コース立方体などです」と言えばいいだけです。間違っても人事担当者に専門用語を使って尊敬する先生の話を長々と語ってはいけません。
あとは常勤だと、非常勤で働く人よりも「一緒にいて働きやすい人かどうか」をかなり見られますので、難しい質問でも常に笑顔で機転よく切り返すことが必要になります。スポーツの趣味はどんな就職面接の場合にでもプラスに働きます。特に集団競技はそうです。昔のことでも構わないので、学部、高校時代の運動部体験を聞かれてびっくりするかもしれませんが、協調性と健康さを聞いているわけです。
4.結語
心理職の求人は、一般就職と異なって割と1年中行っていることが多いです。悪く言えば心理はいなくてもなんとか回るけれどもいてくれれば助かる、というために欠員状態になっているところもあります。したがって雇用する側が上から目線になるのも仕方ないでしょう。そこに入っていくわけですから、どんどん前向きな姿勢で攻め込んで内定を勝ち取りましょう。
photo by ᴷᵁᴿᴼ' @PhotoKuro_
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