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〇 公認心理師・臨床心理士新卒受験者の仕事事情と悲哀

1.序

これは臨床心理士単独資格のころから問題となっていましたが、大学院新卒者で受験をするまでの院既卒者はどのように仕事をしているのでしょうか。心理院卒者は多くのクライエントさんよりは確かに経済的に恵まれているかもしれません。そうでない人も大勢います。

卒後まもなく奨学金の返済も待っています。実家暮らしの人も何かしら仕事をしていないと居心地が悪いことこの上ないですし、学部のころから親に「お小遣いはあげません」「家にお金を入れなさい」と言われているのがまあまあ通常の家庭だと思われますので、何か仕事をしていないとどうにも首が回りません。

なによりも心理の道を志して夢抱いて卒業したのですから、早く現場に出たいと思っている新卒者が「じゃ」といって心理と関係のなくファーストフードやコンビニ専業でアルバイトをしているとも考えにくいです。せっかくですから臨床心理の片鱗に触れるような仕事をしていたいのが当たり前のはずです。たいていの人は(よほど面倒見が悪い院を除いて)院の紹介でどこか心理のアシスタント的な仕事をしているはずだと思います。

そしてここに問題があります。無資格者ということでプレ資格取得前就職市場では買い叩かれるので、常勤の仕事に就くのは望むべくもありません。大学付属の相談所で3月までと期間を区切って児童~思春期のカウンセラーとして働かせてくれる場合もあります。また「資格取得見込み者」として働いていて「よし、資格を取るんだな」ということで資格を取ったら常勤にするけれどもそれまでは非常勤として働かせる、という職場もあるでしょう。しかし資格を取れなかったら?ここには心理職が抱えている新卒者の就職事情をめぐる問題があるような気がします。

2 構造的問題点

大学が紹介する仕事には2種類があり、上記の3月までの限定的なもの、資格取得→常勤or非常勤でもちょい待遇アップ、というようなものです。3月までの限定的なものだと、資格取得後、あるいは資格が取れなかった場合にも次の仕事を探さなければなりません。「資格取得見込み者」が院卒後いきなり常勤として雇われることも少ないです。

よって心理就職事情は、雇う側が非常勤で安く心理の卵を雇用するという絶好の機会になるとともに、資格が取れなかったら「はい、そこまでね」という「内定」切りをする言い訳にもなるという、働く側にとっては「自分が試験に受からなかったからダメなんだなあ」という罪悪感を呼び起こさせるやり方もすることがありますが、僕は法的にはけっこうダークな部分だと思っています。こういった労働問題が公認心理師試験に出ないかな、出ないだろうな。

さて、33年の歴史を持つ臨床心理士試験は堂々たるもので、受験者が今なんらかの心理的仕事をしていることを前提として、面接試験では例えば社会的養護の施設で働きながらカウンセリング的なこともしていると面接試験で試験官が偉そうに「キミ、それは入所者の管理をしながらカウンセリングもするという多重関係的なことをしているのではないのかね?」というような質問をします。

自らの機関で受験者を身分不安定にするような秋口に受験期日に設定しておいて受験者のせいにするという割ととんでもない「自己責任」理論に基づいて行っているのだということに気づきました。(今さらながら)

公認心理師試験については、厚生労働省がこれからのスケジュールとして第4回試験9月19日、第5回試験7月、第6回試験3月とどんどん前倒しにして試験を行い、第6回では3月に試験実施し、3月中の発表をもって資格を手に就職できる、という最後は帳尻合わせができますが、そこまでは新卒受験生の苦しい日々が待っています。

さて、そうなると修士論文を書きつつ激しい実習を経て試験勉強をするとなると学生も大学教員も大いにメンブレてしまうことも心配です。

3.実情

さて、こんな新卒就職事情ですから、心理院卒者がすぐにいい仕事にありつけるわけでもなく、上に述べたような期間限定学生相談所、クリニックのテスター、インテーカー(初回面接者)、事務、受付のような、また、スクールカウンセラー補助のような学生アシスタント(自治体によって呼び方が異なる)、心理学部大学の事務でケースともかかわるような仕事、など「ような、ような」仕事が用意されています。こうやってまた心理職は制度的に自ら
安売りせざるを得ないような状況を作ってきたのだと思います。

4.結語

仕事はない、あっても非常勤、非常勤でもいつ首を切られるのかわからない、こういった状態を「これは心理の仕事に就いた人間の自己責任だから」というような「あきらめ」に近いような状態に甘んじるように院新卒者から臨床心理専攻者は人生観を叩き込まれます。

それは人生辛酸を舐めてきたクライエントさんに共感するには役立つかもしれませんが、自分の状態が安定していないといいカウンセリングができないのも当たり前のことです。生活のクオリティがボトムアップされていないと人の精神状態はよくなりません。「心理職は自らの精神状態を健康に保つべき」と言われると、はいそれはその通りなんですけれどもね、といつも思ってしまう次第です。

photo & lyric are by ᴷᵁᴿᴼ' @PhotoKuro_
sᴀᴋᴜʀᴀ.
刹那的に生きるわけでもなく、まだ見ぬ未来に心を捧げるわけでもなく、ただただ今をしっかりと踏みしめる。あしたが必ず来るとは限らないから。