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sᴋʏʟɪɴᴇ.
数多の正義や価値観が風のように大空を流れてゆく。僕らはそれを他人事のように眺めながらも、その三秒後には同じ空に向けて想いを放つ。自分のそれだけは誰かに届くと信じて。


「主治の医師の指示」は公認心理師に必要か?

1. はじめに

公認心理師試験も3回を重ねて合格者は 43,022 人となりましたが、この 3 年間「主治の医師の指示」に関するトラブルは一度も耳にしたことはありません。心理職、公認心理師は一般的に無茶なことをやっているかと言えば、そこまで常識ない心理職は元々いないでしょう。

まず、元々この条文を知らない医師の数は限りなく多いと思われます。

2. 法律

最近話題になっているのは、この条文の解釈です。

(連携等)

第四十二条 公認心理師は、その業務を行うに当たっては、その担当する者に対し、保険医療、福祉、教育等が密接な連携の下で総合的かつ適切に提供されるよう、これらを提供する者その他の関係者との連携を保たなければならない。

2 公認心理師は、その業務を行うに当たって心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治の医師があるときは、その指示を受けなければならない。


についてですが、たとえば民法を見てみます。

第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

とあります。

つまり第一条、私権を公共の福祉に適合させて行うのであれば、信義誠実の原則は守られていることになるわけですし、権利の濫用も行っていないわけです。

ひるがって考えてみれば、「連携等」も関係者との連携をきちんと行っていればそれは違法でもなんでもないわけです。

したがって「主治の医師の指示」はあくまで「連携」の一種であり、当該公認心理師が「連携」の必要性があるかどうかを判断し、必要性があれば主治の医師の指示を仰ぐことができると解釈できるわけです。

この主治の医師の指示については文部科学省及び厚生労働省からも運用基準が出ているわけで、そこには「従前より行われている心理に関する支援の在り方を大きく変えることを想定したものではない。」とされています。

試しに臨床心理士間例例規集(日本臨床心理士資格認定協会) 倫理綱領を見てみると「他の臨床心理士及び関連する専門職の権利と技術を尊重し、相互の連携に配慮するとともに、その業務遂行に支障を及ぼさないように心掛けなければならない」とあり、上記運用基準の文言と相違はありません。

もとより「運用基準」は法律や規則のようにはっきりとした法律よりも下位の「基準」に過ぎません。

運用基準上でも医師の指示に関して記述はありますが、「運用基準違反」で処分が行われるということは聞いたことがありません。

3. 実情

医師らも何も知らないわけですし、この42条2項に限らず、パブリックコメントでは公認心理師法は医師になんの義務を負わせるものでもないと回答しています。

日本医師会でも日本精神科病院協会でもこの主治の医師の指示に関して広めるつもりはなく、特にホームページ上でも見たことはありません。

ということはそこは医師団体側が広めるつもりがないということで、公認心理師側が「指示」を求めても「ナニソレ」的な対応をされます。

また、医師は刑法 134条で秘密漏示罪が定められています。「…正当な理由がないのに、その業務上おり厚かった時に知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役または10万円以下の罰金に処する。」とあることから、公認心理師が指示を受ける時も患者の秘密を外部公認に明かすことが「正当な理由」なのか今度は医師が判断しなければなりません。

私設開業領域で働く公認心理師が運用基準どおり文書で医師に回答を求めると患者は保険外適用文書ということで数千円を支払うことになります。患者負担が大きくなる上にそもそも医師は回答していいかどうかもわかりません。

電話や文書で「○○カウンセリング事務所」です。と名乗られてもその患者がそこでカウンセリングを受けているかどうかはわからないわけですし、たとえ患者が文書を持って行ったとしてもそれはあくまで患者の「話」に過ぎないわけです。

このように公認心理師法施行後、公認心理師が誕生してからも医師側が知らず、またそれに対して医師側から1件も異議申立てが出ていないこの条文の存在については甚だ疑問を感じますし、条文上の解釈でも「連携」の下にあるわけですから、この条文だけを読むと「主治の医師の指示に従わなければならない」ことが頭の中に浮かぶわけですが、実情としてはそこは詮無きことに思えます。

つまり、公認心理師側が医師と連携をしたい、連携が必要だと認める時に初めて主治の医師の指示を受ける必要性が発生するわけです。

4.結語

法律というものは時代によって解釈が変わり、または法律の条文そのものが変わったり、大きく変化すれば例えば家事審判法が家事手続法に改廃されたように法律そのものが変わることもあり得ます。

また、公認心理師法はあくまで憲法、民法、刑法の下位法であり、さきほど述べた民法の信義誠実の原則を超え、医師団体が主張するように要心理支援者の同意を無理やり得ようとしたらそこには患者との信頼関係が壊れる可能性もあり、準委任契約であるカウンセリング関係がうまく行かなければそれは不法行為ともみなされかねません。公認心理師は「秘密を守る」という義務は広く医師に対しても及ぶ債務です。

さて、公認心理士カリキュラム等検討会ワーキングチームの議事録を読むと「多職種連携」という文言は医師の構成員から多く出て来ています。医師にとっては医療ヒエラルキーの頂点である医師が「連携」と言えばそれは「指示」と主張したいように思えますが、それは机上の空論とも言えます。

実際、医療現場では心理は医師に意見を求められれば医師と見解が違っていてもきちんと言う。見解の相違=指示に従わない、とはなり得ないわけです。

事件を担当する家庭裁判所調査官がどんな事案でも身体医を含む主治医に必ず意見を聞くか、少年・当事者全てについて全部照会するのは非現実的です。「微妙な問題だから聞かないで欲しい」と言われ、はいそうですかと中核に触れる部分を聞かないと調査は進みません。

2023 年、公認心理師制度の大幅な見直しがあるはずですが実情に沿った、国家資格公認心理師の自主的、独立した判断をより重視した改正にして欲しいと思っています。