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◯ B群パーソナリティ障害・境界性パーソナリティ障害の治療

1.序

以前境界性パーソナリティ障害については何回か書いているのですが、 境界性パーソナリティ障害精神療法に公認心理師が期待される役割 パーソナリティ障害の診断基準・各クラスター・境界性パーソナリティ障害 などですが、また書きます。

なぜならばただ単に好き、すこだからです。

米国精神医学会治療ガイドラインコンペンデァアムAmerican Psychiatric Association編では徹底したevidence主義でBPD治療法を説明しています。

2.精神分析

効果的でないから保険診療点数から外されたという精神分析はRCT無作為割付試験によってそのevidenceが証明されています、ねえ原田隆之君。

精神分析を援用していると言われるメンタライゼーションは愛着理論に基づき、患者にその欠落を自覚させ、自己を観察して育て直すというPeter Fonagyを代表として有名な精神療法です。

元々精神分析がなければ境界例という概念もなかったわけで、Otto Friedmann Kernbergは対象関係論(例えば非合理的な「俺があいつを嫌っているからあいつも俺を嫌いに違いない」という投影同一視や分裂(Splitting)という不健康的な防衛機制や欲動理論、そしてHeinz Kohutが自己心理学にまで発展させ、境界例理論は理解が進みました。

Kernbergは境界例パーソナリティ障害BPDの前に「境界性人格構造」Borderline Personality Organlzatlonを規定しています。これは「境界性人格構造」のため、前述のとおり自分の感情を、相手に投影したり、自分の身近な人と相手を心理的に同一視したりします。

BPOの人はBPDのようにはっきりとした診断基準を満たしておらず、希死念慮が薄いこともありますが、行動統制という意味ではリストカットをしないものの、依存症を持っていたり自傷的行為を起こしたりします(2領域にはわたらない)。

境界性パーソナリティ障害の治療において重要なのは限界設定limit settingをきちんと設けることです。精神分析において使われている転移概念transferenceや恋愛性転移transference loveといった領海侵犯はBPDの人が行いたくて行っているのではありません。この人たちの中にある欠落(Michael Balintの基底欠損領域)と言ってもいいでしょう。

この転移感情の処理を徹底分析していくことがBPD治療の中心になることが多いです。つまりセッションの間に起こる行動化や契約違反を織り込み済みのものとして精神療法を行っていくのです。

3.弁証法的行動療法

対してMarsha M. Linehanが1980年代に多くの発展を遂げさせた弁証法的行動療法Dialectical Behavior Therapy, DBTは現在精神療法の中ではBPDに対する第1選択肢になりつつあります。DBTはグループミーティングを主な治療としているので、日本のクリニックでも良く行われていますがそのエッセンスを取り入れているのでしょう。

DBTにおいてBPD治療の中核となるのは

⑴ Core mindfulness skill

ア mindfulness「把握」スキル

イ mindfulness「対処」スキル

※ mindfulnessによる心身のコントロールです。

⑵ 対人関係保持スキル

⑶ 感情調節スキル

⑷ 苦悩耐性スキル

この辺りがDBTのキモです。


DBTでは患者さんが治療者に夜電話をかけてもいいとしています。

※ ちな、僕は自分の個人携帯番号を死にそうなクライエントさんに対しては教えています。反対派からは非難轟々です。これは僕の知ってる心理職のうち、約半数がそうです。産業だと工期や日程に縛られて内線がない工場からしか電話できないとか、死ぬだろうとかそんな理由です。「これから死ぬ」という電話と「もう死にました」という電話とどっちがいい?という究極の選択です。

⑴ mindfulness「把握」スキル

不快な感情をすぐ終わらせようとしたり快楽の感情を長引かせようとしない。あるがままに自分の感情を観察することです。「嫌われているように感じる」=「嫌われている」と感じがちですが、実態を把握することが必要です。ただ観察する、自分自身に巻き込まれないことを目標とします。

⑵ mindfulness「対処」スキル

人は生きていれば必ず迷うことがあります。その時に必ず正しくなければならないということはないのです。対処するのには実行するか諦めるという二律ではなく、譲歩するという対処を覚えることが必要です。断定をしません。

mindfulnessスキルにおいて必要なのは「賢い心」です。ともするとBPDの人たちはとても感情的になってしまう傾向がありますけれどもそれを理性で押さえ込むのには無理があります。だからこそこの2つの心を止揚する、弁証法的な賢い心が必要になるわけです。

⑵ 対人関係保持スキル

対人関係はBPDにおいて大きな問題になります。オールオアナッシングで考えたらBPDの人は対人関係を断ち切ることを考えてしまうでしょう。自由にノーと言える、そして人から断られたり、自分の要求が断られたからといってそれが人格を拒否されたことにはならないということを学びます。

⑶ 感情調節スキル

感情を調節することはBPD患者にはとても難しいことです。怒り、自殺のそぶりや遂行、自傷行為と大変危険なことです。DBTではこの人たちが抱いているマイナスの普段の感情ばかりでなく、プラスの感情にも着目するように注意を促します。その際に肯定的な感情にも目を向けさせます。どのように感情を感じるかは自由です。他人から認められない感情というものが自分自身の中にあるわけではないのです。

⑷ 苦悩耐性スキル

BPDの人たちは苦悩に耐えることで危機を乗り越える能力を身につけていきます。苦悩に耐えるということは難しいことで、気をそらすために花を見る、好きなテレビ番組を見る、氷をにぎる、手首にゴムバンドを巻き引っ張る(リストカットの代わり)。今ここにだれがいるのか、心配のあまり未来をタイムトラベルしていないだろうか。恥と思うことをセッションの中で積極的に話します。

DBTには日記カードがあり、記録するという認知行動療法もあります。

参考文献:弁証法的行動療法実践マニュアルMarsha M. Linehan、金剛出版
弁証法的行動療法実践トレーニングブック
Matthew McKay,Ph.D.星和書店
弁証法的行動療法 思春期患者のための自殺予防マニュアルMarsha M. Linehan他1人金剛出版
境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法
DBTにによるBPDの治療Marsha M. Linehan
誠信書房
自傷行為救出ハンドブック−弁証法的行動療法に基づく援助−Micael Hollender 星和書店