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◯ 認知症

DSM-5は認知症を「神経認知障害群」NCD neurocognitive disordersカテゴリーに定義付けました。NCDはmajor NCD(従来型)とMCI Mild Cognitive Impairment(軽度)に峻別されます。厚生労働省の資料にDSM-5の診断基準が引用されています。

厚生労働省「みんなのメンタルヘルス・認知症」

高次脳機能障害と同様に、一過性の意識混濁状態で、薬物や疼痛、ストレスなどが原因のせん妄と認知症は区別される必要性があります。

認知症は大きく分けて3種類があり、アルツハイマーAlzheimer型認知症(全体の50パーセント)、レビーLevy小体型認知症(10〜20パーセント)、脳血管型認知症(15パーセント)、ピック病(数パーセント程度)に分かれます。実際には認知症には70種類程度がありますが主な認知症は上記4種類です。

認知症カットオフ値はHDS-R20点未満ということは裁判所成年後見人制度のurlから以前引用しましたがMMSE-JだとMCIが27点、認知症は23点がカットオフ値となっています。

1.Alzheimer型認知症

アルツハイマー型認知症は男性よりも女性に多く見られます。症状としては記憶を司る海馬がダメージを受けるため、短期記憶が障害され、さっき起こった出来事を忘れてしまいます。

見当識にも障害が見受けられ、何月何日か、今の季節はいつなのかが分からなくなります。外出すると道に迷う、また実行機能障害として、今までできていた料理ができなくなることがあるのです。こういった認知機能障害から二次障害が起こり、物取られ妄想に発展する事もあります。不安、抑うつ症状が前景に出てくる事が多いです。

Alzheimerが中程度に進行するとさらに障害程度が進み、失行で着衣の着脱ができない、電話がかけられない。テレビの付け方がわからない。失禁してしまうなどの行為で、かなり自尊心が傷つけられます。徘徊を伴うこともあります。後期になると言語能力が失われて意思疎通はかなり困難になりますし、栄養を自力でとることも難しくなり、排泄はほぼ自力ではできません。

2.Alzheimerの治療

初期〜中期であればDonepezil商品名アリセプト、Rivastigmine商品名イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ、Galantamine商品名レミニール、進行が進んだ場合にはMemantine 商品名メマリー(PTSDへの治験も行われています。)が薬物療法として使われます。

しかしどの薬物療法もAlzheimerの進行を遅らせることはできても根本的な治療薬ではなく、徐々に進行する疾患です。

2.Levy小体型認知症(DLB:Dementia with Lewy Bodies)

パーキソニズムの運動緩慢さ、歩行の障害を伴います。記憶障害、遂行機能障害の他、この認知症の特徴として幻視、錯視が起こり、合併症として妄想が発生することがあります。睡眠時異常行動も生起します。記憶障害の程度はAlzheimerより軽いです。

投薬治療に反応しにくく、むしろ少量でも精神薬で悪化することがあることから、環境を急に変えず、作業療法士や理学療法士が心理・運動機能面でのサポートを行うこと、明るい部屋として機能低下を防ぐことが推奨されています。

3.脳血管型認知症

脳梗塞で脳の血管が詰まるとその先の脳の各部分が挫滅します。脳の部分によってそれぞれ損なわれる機能が異なり、左後頭葉が挫滅すると右半側空間無視、右後頭葉が挫滅するとその逆になります。そうすると片側の認知ができず、歩行をしていても転倒の可能性があり、食事も半分認識している側だけ食べてあとは残してしまうこともあります。

前頭葉、頭頂葉に梗塞部が起こると短期記憶が阻害され、易怒的になり感情障害を起こし、何度も同じことを聞きます。

脳梗塞の再発予防のために血栓を作りにくくするWarfarinワーファリンやAspirinバイアスピリンが使われます。梗塞が起こりにくくなりますが、反面出血した時に止血しにくくなるという点が要注意です。

脳梗塞は血栓が詰まる病気なので心筋梗塞も起こりやすくなります。また、どの認知症でも同じですが、高齢者には糖尿など基礎疾患がある場合も多く、生活の質の改善のためにはベースライン疾患の治療が大切になります。

4.ピック病

ピック病は比較的若年者、早ければ40代でも起こる疾患です。前頭葉及び側頭葉前方に萎縮が見られます。特徴は情緒の不安定さ、さっきまで笑っていたかと思うと急に泣き出したりします。また、人格障害が見受けられるようになり、平常の精神状態からいきなり怒りだすことがあり、他の認知症の周辺症状でも起こりますが、ピック病だとさらにその傾向が強くなるようです。

ピック病では万引きで捕まるなど道徳性への影響もあります。常同行為を繰り返します。

5.診断

診断は脳の萎縮部分を確認するためCT、MRI、またSPECT (Single Photon Emission Computed Tomography、放射線同位元素を注射しての脳画像診断)でドーパン量の流れを見て異常を測定(Levy小体型認知症にも使われます。)PET(陽電子放射断層撮影:Positron Emission Tomography、脳血管障害の検査にも使われます。)で脳血流を調べます。  

Alzheimerは前述のとおり進行を遅らせる薬はありますがピック病にはありません。

認知症の周辺症状BPSD Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(認知症の行動と心理的症状=周辺症状)は主として知覚、感情障害で幻覚妄想、焦燥感、攻撃性、怒り出して暴力を振るう、抑うつ状態、睡眠障害、徘徊などです。

6.心理検査の例

・MAS不安尺度
・MEDE多面的初期認知症判定検査
・AQ日本語版
・日本語版LSAS-J
・EAT-26
・M-CHAT
・長谷川式知能評価スケール(HDS-R)
・MMSE

6.治療

根本的薬物治療はないのですが、精神療法としては「回想法」といって、昔話をするなど患者さんが好きな話をする、そして環境を整えることが奨励されています。患者さんが言うことを否定しない「バリテーション療法」、今日の日付けや季節を認識してもらうリアリティー・オリエンテーション(現実見当識訓練)もあります。

※ 写真はTwitterフォロワー𝚜 𝚘 𝚛 𝚊 ꕥ
さんのものを使わせていただきました。この写真の空のように全ての認知症の患者さん、ご家族、支援する方々の心に平穏が訪れますように。

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