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◯ 公認心理師事例問題対策・生物・心理・社会的理解とインフォームドコンセント・連携の哲学

1.序・とにかく難しい事例問題

第2回公認心理師試験は客観的に見ても難しかったと思います。実際僕も解いてみてそう思いました。「え?そう?」と言っていたのはとある超名門スパルタ大学院新卒者で楽々8割程度正答していましたが、彼女は各領域を転々とした後、Gルート受験も可能だったのですがあえて大学院卒業を待って受験した才媛なので例外と思うことにしましょう。

「事例問題対策のコツ」はさまざまな人が書いていますが、そこをすり抜けてきわどい設問をしてくるのが公認心理師試験だと思います。

実際知識問題よりも事例問題不正答率が高かったという解析結果も出ています。

2.事例問題には医学優位の思想がある

事例問題には思想があります。試験委員にも数多くの医師がいて、この試験のスローガンは生物・心理・社会モデルBio-Psycho-Social modelです。

一番先に生物が来ることに注目します。たとえ司法や教育領域に勤めている心理職でもこの試験に合格するためには事例問題を解く上では「医師に相談する」「医師に報告する」という選択肢があったらサービス問題で、ラッキーと思ってその選択肢を選ぶことです。

どうしても医師に話す際に患者さんの了解が得られないときには説明(インフォームド・コンセントIC)を懇切丁寧に取り医師に報告することは正解になります。

「いや、オレは心理職としての矜恃があるからクライエントとの治療同盟が第一、そのあとに医師への報告は1カ月後でもいい」などと臨床哲学をマークシート相手に戦ってもムダです。

貴重な3点を失うだけです。あくまでも第一は生物=医学です。一方的に医師勢の味方をするわけではありませんが、実務的にも臨床面接をする上で心理職は何度もこの哲学に直面します。

「何でこんなに具合が悪いんでしょうねえ、不思議だなあ」

そうクライエントさんが言う時に、今まで毅然と業務指導をしながらクライエントさんにできる仕事の割り振りを細かく行い、支えていた上司が転勤などで不在になってしまった。そしてクライエントさんの業務負担が増えて仕事への不安が高まってなお不安が高まった容易に推測できたとします。

そういう「社会→心理」が予測される場合でもまずは生物的要因として考えなければいけないということです。

もちろん投薬をこうしましょうと心理師が言うと誤答になるのですが「不思議だなあ」というクライエントさんの言葉こそが「医学=生物」的な発言です。インフォームドコンセントなしに職場や家庭に連絡をするのは医療保護入院以外は×です。医療保護入院でも心理職でなく医師が家族に連絡をするでしょう。ケースワーカーが家族に連絡するかもしれません。入院において心理職はケースワーカーではありませんし権限はありません。

3.生物学中心の発想とは何か

春が訪れそうな季節、どんどん具合を悪くする人は多くいます。「この季節はみんな調子崩すから気をつけてね」という医師もいます。

しかし「春だから」という選択肢はありません。社会・心理的・季節的変化が患者さんに不調をもたらしていると強く予想されたとしても、それは患者さんがそう言わない限りはあくまで生物学的な問題なのです。

ただ、その理由がわかるのならば患者さんに早すぎる洞察を押し付けるのでなく、「こうでしょうか?医師に伝えてもいいですか?」とインフォームドコンセントが取れた時に初めて「社会・心理>生物学」になります。

臨床心理学における教育や各種心理療法の基本は、心理的原因の結果として不調が発生すると仮定しています。

しかし生物学重視の発想で言えば、患者さんが不調になるかどうかの原因は「誰にもわからない」のが正解です。

上記のようなクライエントさんが来て「これまであなたの上司はよくあなたのことを支えてくれていたと思いますよ」と早すぎる先回り洞察をしたら患者さんから拒否されてカウンセリングも治療も中断するかもしれませんので相当な注意が必要ということです。

事例問題については医師がいる環境であればあくまで医師中心の生物学的要因を重視しなければなりません。これは医師の肩入れを一方的にするわけではないです。「わからない」「原因不明」という不調は実際多いです。同じような環境の変化があっても変わらないかむしろ逆方向に精神状態が変化する人といるわけです。

4.ぶれるBio-Psycho-Social modelの軸

教育領域についてはチーム学校概念を重視することです。そして虐待においては子どもや親の了解がなくともすぐさまアクションを起こすのはこれまでの事例問題の傾向です。子どもや保護者に内密にしながら教員チームに情報提供をします。極端に「全く理解を得ずに強引に」というのは不正解ですが。

これは教育というeducational-Socialな視点が臨床心理学的視点を超えるからです。たとえスクールカウンセラーの外部性が重視されたとしても、子どものために心理職がドン・キホーテのように全ての大人と戦って孤立無援になったら何もできないどころか子どもや保護者を追い詰めてしまうというのは真実です。

この試験は正答選択原則があるようです。巧妙な軸のぶれを問うこともあります。

5.心理vs社会

産業場面にいると明らかにパワハラを受けていて通報したい、あるいは通報を勧めたいクライエントさんがいます。ただし、この場合に労働基準監督署や公益通報制度を使うように勧めたら一発で誤答になります。十分に気持ちを聞くことです。また産業医がいれば独立機関としての産業医に相談させることです。

心理面接はどんなに苦しくても(と予想されます)常識の範囲で誰とも調整行為をせずにひたすら延々とクライエントさんの話をまずは聞かなければいけないようです。

6.まとめ

いろいろな視点から見て
・医療領域=生物学>心理・社会
・教育領域=社会>心理
・産業領域=生物学>心理>社会
という構図が成り立ちそうです。

隠された事例問題正答のコツはこうしたいくつもの哲学に支えられているようです。