◯ 心理療法再復習・動作法・EBP・TTM・対人関係療法
・動作法
脳性麻痺肢体不自由児童の改善を目的として始まった動作訓練が発端の心理療法です。
Jacobson,Eの漸進弛緩法(Progressive Muscle Relaxation=PMRもこの中に位置付けられます。
)PMRはストレッチでなく、
手、首と肩、顔 、胸、腹、背中、脚といった全身に力を入れてそれから緩めるというリラックス法で、緊張→リラックスを繰り返すという動作法のエッセンスが多く含まれています。
日本における動作法の大家は成瀬悟策教授で、当初は催眠、トランスの専門家でしたがほぼ動作法の研究に専念するようになりました。(動作法も催眠でないとは言い切れませんが)
動作法の適用範囲は幅広く、乳児に対して子育て支援、疼痛症患者、身体表現性障害、ASD、不安症によく適応するほか、ADHD、ダウン症、脳卒中後遺症、スポーツのリラクゼーション、高齢者健康法、強迫神経症、BPDにも有効性があります。
脳性麻痺で坐位、膝立ちが課題であれば股伸ばしを行います。
不安、緊張が高いクライエントだとカウンセリングののち動作法を導入することも多くあります。
動作法ワークショップでは肩の上下運動がイントロダクションとして使われることが多いのですが、肩を上げて思い切り筋緊張させた後に力を抜いてリラックスします。
それを全身に対して行い、それまで体がいかに緊張していたかということへの気づきを促します。
動作法は上記の記述だけだと、単なる筋肉の運動ととらわれてしまうかもしれませんが、実際には動作を通じ、いかに自分がそれまでメンタル的に緊張していたかを知ることができます。
身体がかるくなるというのは動作法を行った人が多く実感として体験することですが、自己肯定感の高まりも効果としてあげられます。
緊張もまた生活には必要です。
緊張とリラックスの調和で精神を安定させる心理療法です。
◯ 心理療法に関するエビデンスベイスドプラクティス(EBP)
DSMでアセスメント、実証的に支持されている心理療法(Empirically Supported Treatment)EST及コクラン・レビュー(医学論文のシステマティックなレビューを集めたデータベース)で、エビデンスがある心理療法を優先的選択肢とする。
コクラン共同計画(Cochrane
Collaboration)はまた、このメタアナリシスに基づいたレビューをオンライン上で誰にでもアクセス可能としたことが画期的でした。
コクラン共同計画のレビューは
1.根拠に基づく医療の浸透による診療の質向上、そしてそれによる患者アウトカムの向上
2.医療者と患者双方に、よりバランスの取れた確かな情報の提供と共有による、関係性の向上
3.臨床研究の推進(手法も利益の相反も含めて質の向上)
と、医療を選択して受ける権利が患者の側にあることが明示されています。
一方的に心理療法を指示されると抵抗を示すリアクタンスが低い方が効果的なアプローチです。
コクラン共同計画(リンクフリー)
https://www.cochrane.org/
また、コクラン共同計画日本支部に関するプレスリリース
https://www.ncchd.go.jp/press/2014/topic140530-1.html
(国立成育医療研究センター)
GuattによればEBM(Evidence-
Baced Medicine)とは、研究者による最善のエビデンスと臨床的技能、及び患者の価値観を統合するものである。
実際、アメリカ心理学会でもEBPは「患者の特性、文化、好みに合わせて活用できる最善の研究成果を臨床技能と統合することである」
と定義されています。
多文化価値観を尊重することがコクランの発想とも一致していますし、患者が選んだ心理療法はドロップアウト率も低くなるでしょう。
価値に基づく実践(Value Baced Practice)VBPで、支援者にとって正しいと思われる選択肢と被支援者にとって正しい選択は必ずしも一致しないことを示しています。
原田によれば、ナラティブなNBMの語りもまたEBMに包含されるので、矛盾しないと述べています。(原田隆之 2015)
心理療法にも適正処遇交互作用ATIの考え方は必要になります。
3.11後に報道されたのでご存知の方もいるかも知れませんが、被災児童にアートセラピーを実施したところ、悪夢にうなされた児童が多数派出たということがニュースになっています。これは適正処遇交互作用を誤った例ではないでしょうか。
◯ TTM
transtheoreticalモデルTTMで知られているProchaska,J.O.は心理療法による行動変化を6つのステージとして概念化しています。
現任者テキストでもこのステージは書かれているのですが、厚生労働省が禁煙プログラムの一環として、このプロチャスカのステージを紹介していて、興味深いものとなっていますので、カウンセリングと交えて紹介します。
https://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/kin-en-sien/manual2/dl/manual2_06.pdf
・前熟考期:問題に気づいていない。
「今後6カ月以内に禁煙を考えていない」関心がない。失敗した。
実際、これまでのカウンセリングは前熟考期のクライエントに対しての手段を持っていませんでしたが、カウンセリング技術の進歩は前熟考期のクライエントについても症状/状況には動機付け面接法、対人葛藤には対人関係精神分析(Sullivan,H.S. Fromm,E)
家族葛藤には戦略派家族療法、(Jay,Haley)個人内葛藤には精神分析的心理療法が有効とされています。
(この辺りは、何の構えがなくとも、セラピストが主体的に話をしていくことや心理教育的なかかわりで相手の変化を促すことができるからでしょうか。戦略派家族療法では動機付けが低いクライエントにかなり強力に働きかけていくからでしょうか。)
・熟考期:関心がある
「今後6カ月以内に禁煙を考えている」
ただし、この熟考期があまりに長引くことは問題を先送りするということにもなるので推奨されていません。
この時期になると不適応な認知についてアドラー派心理療法(器官劣等性を持っている、共同体感覚をみにつけるため、勇気付けが有効だからでしょうか)
対人葛藤について交流分析(Transactional Analysis,TA Berne,E PACモデルはわかりやすく、人生脚本などで動機付けを高められます)
家族葛藤について、ジェノグラム分析的で知られるボーエン派家族療法が有効です。
この時期の個人内葛藤には実存心理療法が有効です。
準備期:「今後1カ月以内に禁煙を考えている」
心理面では医師、カウンセラーに実際に相談に行きます。
不適応な認知では、論理情動心理療法(イラショナル・ビリーフ、非合理な(あるいは有益ではない)信念の変容をせまる)、認知療法、第3世代行動療法(マインドフルネス行動療法MBCT、ACT)があります。
マインドフルネスは自ら変わろうとする内省的行動と思考の変化をクライエントが求めます。
ACT(関係フレーム療法)でも不快な気分について、特にそれをあるがままで受け止めることが能動的に要求されます。
対人関係療法Interpersonal Psychotherapy IPTは短期間のうちに対人関係の中でその人が果たしている役割の変化、喪失の体験を受け入れることを分析します。
具体的には
1.喪失(重要な他者を喪失したことを受け入れられない)
2.役割期待についてお互いの相違
3.役割変化の不適応(結婚、出産、昇進等)
(4)対人関係の欠如(孤立、孤独)
会社員、主婦、学生が「甘えている、怠けているだけだから」という歪んだ認知を持ちながら無理しようとしていたらIPTではクライエントに「病者の役割」を付与して、休むという処方をします。
エンプティ・チェアや夢をポジティブに捉えて語るドリームワーク、自己や他者になって演じる能動的なゲシュタルトセラピーも準備期に個人内葛藤を解決するために有効です。
これらは準備期にあって、カウンセリングを受けるレディネスがないと受け入れられない心理療法でしょう。
心理療法にはさらに2つの段階があります。
実行期Actionと維持期Maintenanceですが、症状についてはかなり患者さんにとってきつい思いをするかもしれませんが、行動療法では暴露Exposureに晒され続けて恐怖を克服するという試みも必要でしょう。
Exposureは不潔恐怖の人に着衣のまま床を転がるように強力な暴露をさせることがあります。
EMDRはShapiro,Fが偶然に編み出した、眼球運動等両側性刺激を行い、PTSD患者さんに特化した心理療法です。クライエントはEMDRを受けながらカウンセラーの認知の編み込みの言葉を聞くというものですが、Trauma記憶が次々に引き出されたり、ストレスを想起、右大脳半球に停滞しているTraumaの消去を試みるという意味では、クライエントによっては侵襲性が絶対にないとは言えません。
もっともEMDRはPTSDに対して3回のセッションで70パーセントを劇的に好転させたというEBMでもあります。
また、EMDRは脳に直接働きかけるかのような強力な技法なので、疲労を感じる人もいます。
それでも治療を受け続けるのは実行期以上だから可能なことです。
家族葛藤を抱える準備期以上のクライエントには構造派家族療法を使います。Minuchin,S.による家族療法で、境界線(boundary、提携(alignment)、権力(power) のうちどれかを変革させます。
ワンウェイミラーを見ながら家族の様子を観察、葛藤場面を実際に再現してもらうエナクトメント(enactment)技法を使います。
例えば暴れる子供について母親が「悪い子」とラベリングしていれば「もっとかかわって欲しいのでしょう」とリラベリング(re-labeling)します。
セラピストがシナリオを演出し、ドラマティックな介入を行い、家族に対してかなり厳しい言葉を使いながらも労うという、Kick and Hugという技法も使います。
◯ その他
現任者テキストにはその他の心理療法として遊戯療法、絵画療法、心理劇Moreno,J.L.音楽療法、ダンスセラピーがあげられています。
運動療法がSSRIよりも効果的だというRCT結果の論文は多数発表されています。
現認者テキストに書いてあるとおりですが、心理至上主義でさまざまな弊害が起きるので、敢えてカウンセリングをしないという選択が正しい場合もあります。
過呼吸癖はパニック障害だから認知行動療法で収まる、というのは医師がカウンセリングを命じた時はそうしてもいいでしょうが、医療機関以外で過呼吸の患者を抱えていると、実は心肺に異常があり、放っておくと生死にかかわるWPW症候群ということもありますので、循環器内科の除外診断が必要なことがあります。
あってはならないことですが、産業場面では無茶な労働をさせるため、辞職させるためにカウンセリングを受けさせることもあります。
コメント