◯ 公認心理師試験に投影された学派間論争

結論:公認心理師試験は学派の派閥争いに巻き込まれて試験問題が作られていると思います。

理由:認知行動療法学派の人たちはアグレッシブ過ぎて弾がなくてもなんとか空包を調達して銃撃戦を試みる。ので巻き添えになったのが公認心理師試験

1.心理療法学派概括

さて、臨床心理の世界では学派、流派が数多く(400ぐらい)あります。

学派間の論争、というか批判は常に行われてきたわけで、それはお互いの学派の信頼性を高めるため、批判に耐えうる理論構築という意味では切磋琢磨するのが悪い事ばかりとは思いません。

ただし、公認心理師試験はエビデンス主義、evidence-based medicine:EBMに偏りがちなのではないか?

という批判は当然出て来るでしょう。

現在の医療保険制度も認知行動療法に対して点数を付与することが中心で、他学派の精神療法に関しての保険診療を大々的に認めてはいません。

しかし例えば、小児に対する20分以上のカウンセリングを公認心理師が行ったら200点(2千円)と今回初めて保険診療化されました。

何の流派のカウンセリングか?ということが問われていないのが心理師にとっての自由度なのかもしれません。

EBMと言えば真っ先に思い付くのがイギリスで有名なコクラン共同計画(Cochrane Collaboration:CC)で、全てのエビデンスある研究にシステマティックなレビューをして医療情報を利用できるようにしたものです。

認知行動療法は全て画一化されたものというわけでもなく、アーロン・ベックAaron Temkin Beckによる認知行動療法、マイヤーMeyerによる強迫性障害への曝露反応妨害法ERP(expo- sure and response prevention)エドナ・フォアEdna B. Foaによる持続エクスポージャー法PE(prolonged exposure)

第3世代としてのマインドフルネス、Steven C. Hayesによるアクセプタンス・コミットメント・セラピー ACT(acceptance and commitment therapy)(アクト)

マーシャ・リネハンMarsha M. Linehanによる弁証法的行動療法DBT(diactical behavior therapy)等々で認知行動療法の中でも学派が分かれています。

フロイトの精神分析、職業指導カウンセリングから始まったロジャーズの来談者中心療法(後にジェンドリンのフォーカシングに発展)、この辺りの学派はひととおり受験生の方々は調べておく必要があると思います。

Albert Ellisによる合理情動療法 RET(rational-emotive therapy)、
ジョセフ・ウォルピWolpe, J.による系統的脱感作法 systemic Desensiti desensitizatinn in-vivo Exposure. 、
自立訓練法、バイオフィードバック、

トラウマ情報処理に特化したフランシーン・シャビロShapiro,Francine創始のEMDR(eye movement desensitization and reprocessing)神経症治療のために編み出された森田療法、吉本伊信による内観法、この辺りは試験に既出なので勉強しないとならないと思います。

試験対策としては現象学、ゲシュタルト療法などさまざまな学派を覚えなければならないでしょう。

僕が挙げたのはほんの一部かもしれませんし内容はあまり説明していません。

さて、これら学派あまた数ある中で異なる学派であっても日本ではあまり学派間の論争は盛んではなかったような気がします。

アメリカでは行動主義心理学者ジョン・ワトソン(John Broadus Watson)が精神分析学を論破するためにフロイトの全著作を精細に読破しました。

こういう勢いのある話は納得ができるのですが、基礎心理学者たちは心理学を科学としてとらえていたので、昔から臨床心理学を非科学的なものとして異分子扱いしていた(いる)ことは間違いありません。  

2.日本の臨床心理学隆盛期

ユング心理学者の河合隼雄先生が御存命のころは無意識世界や精神分析はかなり人気があり、結果として多数派ともなっていたのです。

医師故小此木啓吾先生が正統派精神分析学者として慶應大学で教鞭を取られていたのにも一時代を感じます。

故霜山徳治先生は哲学と実存心理学者として「夜と霧」Viktor Emil Frank(ナチス強制収容所から生還した精神科医)の友人でもあり、実存心理学を含めて臨床家としても臨床心理学者としても一時代を築きました。

3.認知行動療法学派の台頭前後の状況

さて、アメリカでは認知行動療法のみが保険適用、精神分析はエビデンス(証拠)がないとして保険化されることはなかったのでその影響もあったのでしょうか。

河合隼雄先生御逝去と時を一にしてか、たまたまなのか認知行動療法が他学派のエビデンス欠如を俎上に乗せてアグレッシブに自学派のみの正統性を主張し始めました。

現日本心理研修センター理事長にして日本臨床心理士会長だったこともある村瀬嘉代子先生はカウンセリング世界の天才としての尊敬を集め、現在の地位にいるのですが、どう感じていらっしゃるのでしょうか。


村瀬嘉代子先生はいわば統合的心理療法学派からも学派を超えた稀代のスーパー臨床心理学者としてこの臨床心理世界を見渡す地位にあります。

河合隼雄先生に次ぐ臨床心理の第2の始祖とも言えますし(異論は認めます)彼女の活躍なくしては公認心理師制度も実現しなかったかもしれません。

ちなみに村瀬嘉代子先生の夫、故村瀬孝雄先生は東大教授にして生粋のロジャリアン、そこからフォーカシングにも発展した研究実践を行っていて、アクスラインの遊戯療法にも大きな意義を認めていた方です。

村瀬孝雄先生は67歳という若さにして亡くなられました。面倒見が悪い、というかその時代は心理の就職は万年氷河期で村瀬孝雄先生も学生の就職の世話をしなかったと言われています。

「村瀬先生、これからは英語とパソコンができなければ臨床家としてやっていけまさんよね」

という学生に対して「カウンセリングは机と椅子があればできる!」と喝破したという逸話があります。(村瀬孝雄先生はアメリカ留学歴があります。)

4.認知行動療法学者たちの現在

次々と臨床心理学の重鎮達が去っていく中で認知行動療法は現在臨床心理学の世界を席巻しようと躍起になっています。

認知行動療法家が自説に則った活動をするのを構わないのですが、科学性を主張するあまり、ナラティブな精神療法、精神分析学や投影的心理テストを全否定するのはいかがなものかと思います。  

箱庭療法のようなクライエントさんが心地よさを感じる精神療法、そして面談に来て満足して帰っていくクライエントさんはエビデンスを追求しなくとも多くの心理職がその手応えを感じているでしょう。

実際fMRIのような最新測定機器でも精神療法後のクライエントさんの脳血流が良くなったという研究報告もあります。

ところが認知行動療法家の筑波大学原田隆之氏はバウムテストや中井久夫先生の風景構成法、ひいてはロールシャッハテストも否定しそうな勢いです。

公認心理師試験委員会副委員長小川俊樹先生はエクスナーによる包括的ロールシャッハシステムを日本に適用させた第一人者ですが、エクスナーが実験に実験を重ねてロールシャッハ法を科学の領域まで高めたことまで否定されてしまうのでしょうか?

そして認知行動療法学者たちは他学派を否定するだけでなく、自分以外の認知行動療法家のありように対してもアグレッシブです。

T京大学のT野教授とS山教授が互いに険悪、少なくとも無視し合っているという噂を聞くとげんなりしてしまうのは僕だけなのでしょうか?

これでは認知行動療法学派ではなく自己認知至上主義療法ではありませんか。先生方認知は歪んでいませんか?

5.結語

僕の持論ですが、ナラティブな精神療法はやがて科学の発展の裏付けでEBMになっていきます。

認知行動療法が大々的に非言語的なノンヴァーバルコミュニケーションを重視していた研究は寡聞にして知りません。

認知行動療法家は自分主義でなく他学派の否定もせず、ダイナミックな心理の世界をお互いに尊重して欲しいと思います。

とても物柔らかで、この人はクライエントさんの信頼を得られるだろうという穏やかな認知行動療法家も多数いるのでなおさらそう思うのです。

日本心理学会がこの始まったばかりの制度の混乱をうまくくぐり抜けてシラバス(教育課程)を作り他学派を排斥しようとしている動きは誰にも見えてしまいます。71521558-E0C1-46F3-9B02-F6A4DCE7E7E7