◯ 公認心理師事例問題の解釈のコツを2019年センター試験国語問題から学ぶ

2019年センター試験第1問は「河野哲也『環境の現象学』」からの出題でした。

問題文:東進ドットコム

https://www.toshin.com/center/sp/kokugo_mondai_0.html

河野先生の哲学研究における優れた業績は、哲学者故廣松渉の事物と人との関係の膨大な考察結果にも比肩すると感じています。

さて、このセンター試験の出題は「レジリエンス」(打たれ強さ)「サスナビリティ」(持続可能性)「ソーシャルワーク」、作業所や発達障害についても述べられていました。

公認心理師試験「事例」(地雷)問題で問われているのは法律や心理テスト知識も含みますが、心理職としての哲学も問われています。

読み解く力は正答を導き出すための最大のパワーです。

さて、引用された河野先生の文章ではレジリエンスについてまず書かれています。

レジリエンスは脆弱性vulnerabilityとは対極のものだと考えられがちですが、脆弱性こそがレジリエンスを作り出すという趣旨でした。

危険を知る、自分の脆弱性を知ることがいかに障害を持つ方々に対してレジリエントさを生み出すかという事です。

脆弱だからメンタルが弱い、わけではなく危険予測をする、伝えて予測してもらうことがその人を支援する事になります。

無理をしたら、させたらクライエントさんが潰れてしまう可能性をクライエントさんも学校、職場も理解していないだけでなく、熟達したカウンセラーも知らない、できない、やらない事が多いのです。

「頑張っていますね、その調子ですよ」「このまま登校(出勤)できていれば内申(復職)も期待できるかもしれませんね」「元気そうになって来て安心しました」

これらはクライエントさんを苦しめる可能性がある、禁忌肢ワードでしょう。

弱さを知ることは強味です。

カウンセラーがクライエントさんを勝手に「強い」と評価することは絶望感を強めます。

予測できる危険=脆弱性をしっかりとクライエントさんに伝えて理解を求めるのは心理職の大切な役割です。

HSP、ハイリーセンシティブパーソンの方々にも拙ブログを読んでいただいているのは大変感謝しています。

何かのお役に立てれば幸いです。

HSPの方々は自分が繊細で傷つきやすいと自覚しているのが何よりの自己資源になります。

そして河野先生はサスナビリティ、持続性はレジリエンスにとって必ずしも必要ではない、むしろサスナビリティを追求するとレジリエントでなくなると結論付けて書いていたのです。

立教大学文学部教育学科で教鞭を取る河野先生はソーシャルワークと支援教育についても述べています。

以下僕の私論と河野先生の論旨とのごちゃ混ぜなのですが

旧来の医学では従来病巣を摘出する事が治療になるという概念がありました。

現代医学はそのような簡単な治療計画は許されません。

血液ガン、全身血流によってどこに転移するかわからない。

患者にとって外科はあまりにも侵襲性、危険性が高い、それでは放射線治療はどうか?

副作用は化学療法と放射線治療とどちらが大きく侵襲性が高いのか。

ベースライン疾患があれば治療薬の交叉体制はどうか?

ソーシャルワークは現代医学に似ています。

当事者の脆弱性と脆弱性を支援する事がレジリエンスに繋がります。

河野先生が主張しているのはミニマルな支援です。

心理職、福祉職、医療職もクライエントさんの支援をするのに「どう?役所に電話するよ」「あ、◯◯っていうNPOに今から連絡するよ」「上司に言えないんだったら僕から伝えるよ」

これらの行為はクライエントさんにとってはとても親切ですが、こういった事柄を自力でできるクライエントさんの自立を奪うことになります。

依存させることにもなります。

センター試験原文ではユニバーサルで障害に適切な対応をするべき施設のあり方やダイバーシティマネジメント、多様性を重んじることに繋がる文章がありました。

クライエントさんはカウンセラーのメサイアコンプレックス、救済者願望を満たすためにいるわけではないので自立を促すという働きかけも必要です。

以下私論です。

河野先生の考えとも共通しています。

レジリエンスを強化するための働きかけは河野先生も十分承知と思いますが
やはりダイバーシティ概念が必要になります。

少数派で障害を持っていたり、マイノリティの人たちが自立するためには支援は必要です。

昨日来日して日本語が話せない人に全ての手続きを日本語対応させる事は不可能です。

さて、河野先生のかなり練れた文章に挑戦してこれから人文科学、医学、社会福祉、心理学を学ぶ受験生のみなさまにとってはエキセントリックでしかも有益なサジェスチョンがあったのではないかと思います。

こういう試験を通過できる人、必死で解釈能力を高める努力をする方には対人援助職ばかりでなく、文理問わず社会に貢献できる力を涵養して欲しいと思いました。

そして公認心理師試験にチャレンジする方は文書読解力を高めるためにぜひこの問題を見て欲しいと思います。

河野先生の文を問う今年度の問題はきらめく宝石が散りばめられているような良問でした。

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