◯ 「医師資格剥奪」公認心理師法「主治の医師の指示条項」の与える影響
1. 経緯・パブリックコメント
「主治の医師の指示」公認心理師法42条2項は激論の末に医師団体の圧力で成立したものです。
「公認心理師法における医師の指示に関する運用基準(案)に関する御意見募集(パブリックコメント)について」に対して寄せられた御意見についての記載があります。
厚生労働省のパブコメpdf
「医師にも指示を出す義務を 明確化し、義務違反の場合に公認心理師が取るべき対応を記 載してほしい。」
という意見に対し、厚生労働省は
「医師の義務については、公認心理師法上の定めがないため、 本運用基準で記載することは困難です。」
と回答しています。
※ パブリックコメント(パブコメ)とは行政機関が規則等制定する時に法人、個人からの意見を聴取するという制度です。
2.法と制度との関係
⑴ 法理論
さて、こういった規則、公認心理師法、医師法、医療法等よりも日本国家制度は上位法として憲法、民法、刑法があり、下位法が上位法を逸脱した行為や概念を認容することはありません。
⑵ 制度
厚生労働省には「医道審議会」という組織があります。
医道審議会は医師、歯科医師等の資格剥奪や資格停止処分を行う事ができる大変強力な権限が付与されているのです。
医師法は医師等が犯罪を含む違法行為で罰金刑以上の処分に処せられた者、あるいは医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者の医師免許取消、停止を行うことができます。
⑶ 法律理論の実態
さて、ここで刑法における医師の責任を考えてみます。
医師には国家、国民から高い医学的専門家としての知識や技能が求められています。
おばあちゃんが「やけどには味噌を塗るといいよ」と孫に処置をしてお嫁様が激怒しても犯罪性は問われない可能性がありますが、医師については全く違う解釈がされるのです。
医師は一般的な医師としての知識があり、その標準的な専門性に照らし合わせて常識的な治療を行う事が求められていて、過失があった場合には有罪判決が出ている判例はいくらでもあります。
そして危険性があることを知りながらその義務を懈怠し、何もしなかったことについて患者さんに心身の障害を与えた、あるいは死亡させた場合には殺人罪や傷害罪として告発される可能性があります。
刑法は事実の錯誤を罰しません。
例としては山に登った猟師が黒い大きな物体を熊と誤解して発砲、それが人であってもそれは事実を誤って解釈したからです。
(刑法38条1項「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。)
ところが「法の不知」は罰せられます。
「自分で人を刺したら罪になる、だから人に頼んで刺してもらった。人に頼んでも罪になるとは知らなかった」は通りません。
3.思考実験
3万5千人の公認心理師が誕生しています。
その中には開業心理師もいれば、スクールカウンセラー、医師がいない通所福祉施設で働く心理師もいます。
職場に医師がいない、クライエントさんが強い希死念慮を訴えていて具体的な準備をしていると話しました。
心理師が働く職場に入院施設がありませんし、もちろん何の強制力もありません。
クライエントさんが帰宅すると言えばそのまま帰宅します。
家族に話したくともクライエントさんが拒否すれば守秘義務規定があり、あるいは不在、家族がいない天涯孤独な人もいます。
慌てて心理師が医師に電話をかけて主治医の指示を仰ぎたいから折り返して電話して欲しいと心理師が伝えました。
糖尿病のクライエントさんが病気に苦しんでいて◯月△日は自分の誕生日だからその日に死のうと思うと語りました。
1カ月後です。
来週診察なので渋々でもなんとかクライエントさんの了解を取り付けて電話じゃダメだけど書面だったら送ってもいいと話し、医師に指示依頼書を作成して送付しました。
糖尿病専門医は
「ナニこれ、公認心理師法42条2項による情報提供書って封筒の表書きに書いてあるなあ、差出人はえっと、カウンセリングオフィス日股?公認心理師?全然わからないよ、営業かなあ、いらないから捨てちゃお」
患者さんが死んでしまったとします。
上記の思考実験例はそれほど練れたものではないのであちこちに穴がありそうですが刑事も民事もどこから突っ込まれるかわかりません。
医師は司法の世界では裁判官の格下扱いをされ、職務権限を剥奪され、出世ルートを絶たれたのを今まで見てきました。
どんなに高額の費用を払っても司法の正当な、あるいは恣意的なルールに対して医師は無力です。
責任を問いたい遺族が警察に捜査を依頼をする可能性は高いです。
公認心理師は記録をしておけば依頼書を出したことを伝え、依頼書の写しを遺族に渡すことができます。
(この方法について何の方法や通達もありませんので個人情報保護法上、やり方はわかりませんがデータ保管は音声、画像などいろいろありそうです。)
さて、こういった場合、あるいはもっと別の場合に何が起きるでしょうか?
医道審議会は注意義務違反による刑事責任を問われた場合に厳しい処分をする権限があります。
通報先は都道府県の医療政策室です。
真面目な話として匿名相談も受け付けていますので困惑した心理職も患者さん、家族も相談できます。医師は権限を剥奪されることになりかねません。
3.民事について
医師の善管注意義務(善良な管理者の注意を持ってその業務にあたること)
も素人の注意義務とは異なる高度なものです。
医師は治療をするという準委任契約を患者さんと結んでいると見なされています。
治療するという債務があり怠って患者さんが死傷したら債務不履行です。
民法709条、不法行為による損害賠償請求権は故意だけでなく過失も含みます。
条文
「第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
4.私論
クライエントさんが心理職と会う時、どんな疾患を持った人なのかはわかりません。
病院心理職があらゆる科で働いているのは現在では当たり前、自然な事です。
歯科、産婦人科、小児科、キリがありません。
「薬、合わないし効き目ないから全然飲んでないんですよねえ」
「それ、◯病院の主治医に伝えてもいいですか?」
「僕面倒だから連絡するならそっちからしてよ」
公認心理師には服薬指導権限はありません。
(公認心理師法第 42 条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準について)文部科学省・厚生労働省)
指示依頼書には服薬指導を心理師にさせてくださいとは書けないものの、生活習慣の改善にかかわるメンタルの状態を報告して、カウンセリングにおけるその疾患特有の対象方法を教えて欲しいと書くことができます。
「主治の医師の指示」は全ての公認心理師が知っていますが、29万人近い日本の医師全員に知らしめる、医学教育をする、法整備をする、どれも必要なことだと思うのです。
法を知り証拠を収集して記録に取ることは心理職の身を守ります。
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1. 経緯・パブリックコメント
「主治の医師の指示」公認心理師法42条2項は激論の末に医師団体の圧力で成立したものです。
「公認心理師法における医師の指示に関する運用基準(案)に関する御意見募集(パブリックコメント)について」に対して寄せられた御意見についての記載があります。
厚生労働省のパブコメpdf
「医師にも指示を出す義務を 明確化し、義務違反の場合に公認心理師が取るべき対応を記 載してほしい。」
という意見に対し、厚生労働省は
「医師の義務については、公認心理師法上の定めがないため、 本運用基準で記載することは困難です。」
と回答しています。
※ パブリックコメント(パブコメ)とは行政機関が規則等制定する時に法人、個人からの意見を聴取するという制度です。
2.法と制度との関係
⑴ 法理論
さて、こういった規則、公認心理師法、医師法、医療法等よりも日本国家制度は上位法として憲法、民法、刑法があり、下位法が上位法を逸脱した行為や概念を認容することはありません。
⑵ 制度
厚生労働省には「医道審議会」という組織があります。
医道審議会は医師、歯科医師等の資格剥奪や資格停止処分を行う事ができる大変強力な権限が付与されているのです。
医師法は医師等が犯罪を含む違法行為で罰金刑以上の処分に処せられた者、あるいは医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者の医師免許取消、停止を行うことができます。
⑶ 法律理論の実態
さて、ここで刑法における医師の責任を考えてみます。
医師には国家、国民から高い医学的専門家としての知識や技能が求められています。
おばあちゃんが「やけどには味噌を塗るといいよ」と孫に処置をしてお嫁様が激怒しても犯罪性は問われない可能性がありますが、医師については全く違う解釈がされるのです。
医師は一般的な医師としての知識があり、その標準的な専門性に照らし合わせて常識的な治療を行う事が求められていて、過失があった場合には有罪判決が出ている判例はいくらでもあります。
そして危険性があることを知りながらその義務を懈怠し、何もしなかったことについて患者さんに心身の障害を与えた、あるいは死亡させた場合には殺人罪や傷害罪として告発される可能性があります。
刑法は事実の錯誤を罰しません。
例としては山に登った猟師が黒い大きな物体を熊と誤解して発砲、それが人であってもそれは事実を誤って解釈したからです。
(刑法38条1項「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。)
ところが「法の不知」は罰せられます。
「自分で人を刺したら罪になる、だから人に頼んで刺してもらった。人に頼んでも罪になるとは知らなかった」は通りません。
3.思考実験
3万5千人の公認心理師が誕生しています。
その中には開業心理師もいれば、スクールカウンセラー、医師がいない通所福祉施設で働く心理師もいます。
職場に医師がいない、クライエントさんが強い希死念慮を訴えていて具体的な準備をしていると話しました。
心理師が働く職場に入院施設がありませんし、もちろん何の強制力もありません。
クライエントさんが帰宅すると言えばそのまま帰宅します。
家族に話したくともクライエントさんが拒否すれば守秘義務規定があり、あるいは不在、家族がいない天涯孤独な人もいます。
慌てて心理師が医師に電話をかけて主治医の指示を仰ぎたいから折り返して電話して欲しいと心理師が伝えました。
糖尿病のクライエントさんが病気に苦しんでいて◯月△日は自分の誕生日だからその日に死のうと思うと語りました。
1カ月後です。
来週診察なので渋々でもなんとかクライエントさんの了解を取り付けて電話じゃダメだけど書面だったら送ってもいいと話し、医師に指示依頼書を作成して送付しました。
糖尿病専門医は
「ナニこれ、公認心理師法42条2項による情報提供書って封筒の表書きに書いてあるなあ、差出人はえっと、カウンセリングオフィス日股?公認心理師?全然わからないよ、営業かなあ、いらないから捨てちゃお」
患者さんが死んでしまったとします。
上記の思考実験例はそれほど練れたものではないのであちこちに穴がありそうですが刑事も民事もどこから突っ込まれるかわかりません。
医師は司法の世界では裁判官の格下扱いをされ、職務権限を剥奪され、出世ルートを絶たれたのを今まで見てきました。
どんなに高額の費用を払っても司法の正当な、あるいは恣意的なルールに対して医師は無力です。
責任を問いたい遺族が警察に捜査を依頼をする可能性は高いです。
公認心理師は記録をしておけば依頼書を出したことを伝え、依頼書の写しを遺族に渡すことができます。
(この方法について何の方法や通達もありませんので個人情報保護法上、やり方はわかりませんがデータ保管は音声、画像などいろいろありそうです。)
さて、こういった場合、あるいはもっと別の場合に何が起きるでしょうか?
医道審議会は注意義務違反による刑事責任を問われた場合に厳しい処分をする権限があります。
通報先は都道府県の医療政策室です。
真面目な話として匿名相談も受け付けていますので困惑した心理職も患者さん、家族も相談できます。医師は権限を剥奪されることになりかねません。
3.民事について
医師の善管注意義務(善良な管理者の注意を持ってその業務にあたること)
も素人の注意義務とは異なる高度なものです。
医師は治療をするという準委任契約を患者さんと結んでいると見なされています。
治療するという債務があり怠って患者さんが死傷したら債務不履行です。
民法709条、不法行為による損害賠償請求権は故意だけでなく過失も含みます。
条文
「第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
4.私論
クライエントさんが心理職と会う時、どんな疾患を持った人なのかはわかりません。
病院心理職があらゆる科で働いているのは現在では当たり前、自然な事です。
歯科、産婦人科、小児科、キリがありません。
「薬、合わないし効き目ないから全然飲んでないんですよねえ」
「それ、◯病院の主治医に伝えてもいいですか?」
「僕面倒だから連絡するならそっちからしてよ」
公認心理師には服薬指導権限はありません。
(公認心理師法第 42 条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準について)文部科学省・厚生労働省)
指示依頼書には服薬指導を心理師にさせてくださいとは書けないものの、生活習慣の改善にかかわるメンタルの状態を報告して、カウンセリングにおけるその疾患特有の対象方法を教えて欲しいと書くことができます。
「主治の医師の指示」は全ての公認心理師が知っていますが、29万人近い日本の医師全員に知らしめる、医学教育をする、法整備をする、どれも必要なことだと思うのです。
法を知り証拠を収集して記録に取ることは心理職の身を守ります。

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コメント
コメント一覧 (2)
http://www.toyama.med.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/02/osirase_iryoukikan_kouninsinrisihou.pdf
こういう通知があったみたいです。
いつもコメントありがとうございます。
現場での扱いですが、「公認心理師法42条2項に基づき指示をお願いします」
という心理師らに対し総合病院精神科医が「え、そうなの、面倒だなあ」的な対応はあります。
精神科医とのフォーラムに出る予定もありますので、中西様の示された根拠を基にセッションで発言できます。
貴重な情報をありがとうございました。