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◯ 公認心理師がもし猫を轢いたら

医学部入試に「昨夜猫を轢き殺したるわれにして人の規則に許され働く」の短歌についての感想を述べよ。

という出題されたことがネットのニュースで話題になっています。

この短歌を詠んだのはタクシードライバー歌人、高山邦夫さんです。

タクシードライバーは多くの距離を運転していますが、小さくて交通ルールの守れない猫を完全に避けることは難しいです。

運転を生業とするドライバーでも轢いたら、子ども相手なら重罪、猫ならばそれは「モノ」相手として「人の規則に許され働く」ことができます。

公認心理師第40条には信用失墜行為の禁止義務があり「公認心理師は、公認心理師の信用を傷つけるような行為をしてはならない。」とあります。

猫を轢いたとしても、どの資格職もそれは信用失墜行為にはなりません。

しかしながらずっしりと重い罪の意識に苛まされる人も多いでしょう。

医師はその扱う患者さんの数とリスクから、人命が失われることが通常でも多く予想される職務です。

心理職もまた人の命を預かる仕事なのは間違いなく、一日中希死念慮が高い患者さんの話を次から次へと聞くことがあります。

以下のような発言を精神科医からも心理職からも聞いたことがあります。

「結局あの人は◯◯だから誰も死ぬことを食い止められなかったんだよ。だから仕方なかったんだよ。」

(カッコ内には病名やその人が置かれた環境、トラウマなどが入ります。)

もし上記医学部試験でそういう解答をしていたら×で、きっと合格点はもらえなかったでしょう。

「あの黒猫は夜道を一目散に渡って行ったから避けようがなかった。」

それは真実です。

クライエントさんが自死、不審死を遂げた時に心理職は毎週濃密に1時間を過ごしていたクライエントさんをどうすれば食い止められたかという理由を事後であっても探し続けます。

自分が眠れない思いをしても探し続けます。

医療事故はあらかじめ患者さんの死が予想されていなかったものについて事故とみなします。

※ ちなみに医療事故とは医療法では下記のように記されています。

第6回医療事故調査制度の施行に係る検討会 資料2-3

平成27年2月25日

医療事故の定義について

厚生労働省医政局総務課
医療安全推進室


医療事故の定義について

1医療に起因し、又は起因すると疑われるもの

2当該死亡又は死産を予期しなかったもの

3死産について

法律

通知事項

第6条の10

病院、診療所又は助産所(以下この章において「病院等」という。)の管理者は、医療事故(当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起 因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるものを いう。

(以下この章において同じ。)

が発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、当該医療事故の日時、場所及び状況その他厚 生労働省令で定める事項を第6条の15第1項の医療事故調査・支援センターに報告しなければならない。

(以上引用)


医療の世界では次々と患者さんが亡くなっていく、リスクが予測できる科も多いです。

心理職の世界は希死念慮が高い患者さんが次々とやって来ることが多く、ただそれを漫然と毎日のようにこなして1時間面接時間をこなしていると患者さんはそのままで帰ります。

1週間192時間、面接時の1時間以外の191時間、患者さんがまた次に生きて面接にやって来る来週に繋げていくか多くの心理職は必死だろうと思います。

「あの患者さんは元々死にかねない、そういう人だったから」

「自分にはどうしたらいいかわからないし、報告しても医師もどうすればいいのか教えてくれなかったから」

「そもそも自分にはあんなに重い人の生き死にをどうにかするような実力はなかったから」

どれも理論的には正しいことです。

医療においては先読みリスク管理をした上で危険性の発現を少しでも減らすことが大切です。

「この薬には◯◯という強い副作用があります。それでショックを起こす可能性がxパーセント、退院できるようになる確率がyパーセントです。」

というのが通常のインフォームドコンセントICです。

ICなしに死ななければならない、言葉が通じない、しかも避けようがない猫の飛び出しについての刑罰はありません。

この問題の正答は、医療過誤にならないし、避けようがない患者さんの死でもきちんと真摯にそれを受け止める、原因を究明してそして次の治療に生かすということではないかと思います。

そして医療者の内心の良心としては、医療過誤にならなくても患者さんの死から学べるものがなかったのか考えること、これが多分正答に近かったのではないかと思います。

心理職の世界では患者さんのバイタル(心拍、血圧、呼吸などの生命徴候)から一刻を争って救命をすることはありません。

ふと待合室で見た、あるいはカウンセリングルームに入ってきたクライエントさんの顔、声色、服装を見た時に感じる「直感」があり、それはたいてい当たっているものです。

証明力があるエビデンスでなくとも、患者さんの雰囲気全体から何かを感じたいと自分自身でも自戒したいと思っています。