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◯ 精神科医をぶっとばせ!

心理職は「カウンセリングはいいもの」「自分が勤めている病院もいいところ」と次第に愛着を持って職場に勤める事も多いです。

それ自体は決して悪いことではありません。

ただ、ティーンエージャー(に限らず)必要性があって精神科に通っている患者さんの本音を聞いて

「いやだよう、いやだよう、また診察だよーあの医者会いたくない、こわいよー」

という言葉を聞いた事は一度や二度ではありません。

「あの医者ぶっとばしてえ」など過激な事を言う患者さんもいます。

医師も3分診療で患者さんの精神科・身体管理、服薬コンプライアンスと次々と矢継ぎ早に聞かなければならないのですが、それを「怖い」と若い患者さんなら自分の心身に土足で踏み込まれると思うことがあるのでしょう。

精神科に通っていて「この人は治療が必要だなあ」と思っていても病院が怖くてドロップアウトして治療から離脱してしまう患者さんも多いです。

以前ドクターショッピングは悪い意味だけではなくとらえられるべきだと書きました。

実際田舎住まいの患者さんだと苦労して長距離を越えて初めて行った病院で「ふん」と冷淡にあしらわれたと感じるとすぐ病院を変えたくなってその場で紹介状を書いてもらうよう依頼することもあります。

また、精神科医が変わると病名も変わる事は多々あります。

うつ病なのかなあと思っていた患者さんが「君は人格障害だね」等と初対面の医師から言われて「えっ、私人格否定されてる」

と病院に行かなくなってしまう例もあります。

そこでいつも問題になるのは公認心理師法第42条2項「主治の医師の指示」です。

「あのお医者さんイジワルだからキライ。もう来ない」という患者さんにどう接しようかなあと迷うわけです。

もう公認心理師の存在はもちろん精神科医も知っているので「君らは医師の指示を絶対に聞かなきゃいけないんだろ?」とすでに言われた心理職の人たちも多いと聞きます。

診察前に医師と会いたくないと言われると迷ったあげく「えっと、◯◯ちゃん、治療アドヒアランスが低いので」と医師に報告しなければならない場面も出てきそうですが

(要は来る気がしない)

と言うのも患者さんの守秘義務を守り切れていないような気がします。

間にはさまれると心理職は苦労します。

他科であれば、最新の技術や知識を学んで手先も器用なバリバリの、溌剌とした20代後半から30代の先生だったら患者さんやその家族も手術や投薬を任せたいと思うかもしれません。

ところがこと精神科に限っては患者さんは医師との相性をとても重視しますので若くて元気があればいいというものでもありません。

医師は医療ヒエラルキーの頂点で、そう振る舞わなければならない、患者さんの管理者でもあるので堂々としていなければならない、だからプライドが高いように見えます。

猛勉強を重ねて医療専門家の頂点に立ったわけですから本当にプライドが高い医師も多いでしょう。

そういった医師の事を患者さんは「いばってる、いつも命令する」

と嫌うことがあります。

患者さんは精神科医療に対して何よりも「理解」や「共感」を求めます。

これは心理職がその思考原理として学部時代から叩き込まれている事ですが、医師は精神生物学や精神薬理学が基本です。

「私が感じていることを(医師の)先生にも同じように感じて欲しい。」

という患者さんの気持ちは時として治療者側からの反発を買うことがあります。

「お風呂で頭を洗うと虫がいっぱい落ちてきて気持ち悪い」

だと「幻覚」と決めつけることもできますが、「そういう気持ち悪さを感じていたら相当に辛いですよね」と実は共感しやすいかもしれません。

むしろ微妙な領域が難しいです。

「姑は私にイジワルばかりしている。旦那と実家行って旦那がトイレに立つと私にだけ『まだ子どもできないのか。お前に魅力ないんだろ』とチクチク言われる。ね、先生、私はちっともおかしくなくて姑がオカシイんですよね?」

ここで医師が「そうですよ」と言うと患者さんは「◯◯先生もお義母様のことオカシイって言ってました。だからワタシおかしくなって病院行ってるんです。」と言われるかもしれません。

「私と一緒の気持ちになって共感してください」

というのは微妙な心理の仕事で、医師の投薬治療を中心とした業務とは異なっているような気がします。

ただ、医師も何らかの形で患者さんに対してポジティブな気持ちを示しておかないと患者さんは治療から離脱してしまいます。

もしくは「精神科医なんかただの薬屋だから気持ちなんかわかってくれなくてもいい」と嫌々通い続ける患者さんが増えると、投薬センス抜群でもどこかに人当たりが良くて話を聞くのが上手という評判のいい病院ができたらそちらに移ってしまいます。

精神科医の先生で尊敬に値する名医は数多くいます。

そういった先生は精神療法にも十分に理解があり、患者さんの病態を正確にとらえ、温和で患者さんへの当たりもいい、心理職と協働してしっかりとした治療方針を示して明確な指示をしてくれます。

こういった先生が出す薬は患者さんも飲み忘れが少なくなり、効果も高いと言われています。

ただ、患者さんが診察を恐れてしまう権威がにじみだして独特のオーラを出している先生もいて、オーナーは部下にも厳しいのでそういった先生が来るだけで空気が張り詰めてしまう先生もいます。

こういった先生はなかなか患者さんが診察を受けたがらない、でもきちんと病院にはかかかり続けて欲しい、心理職は迷います。

結局は治療を受けるか受けないかは患者さん次第です。

管理者administratorと治療者therapistの役割を峻別するA-Tsplitは大切ですがあまりに医師が管理者に徹してしまうと、標題のような気持ちになる患者さんはいるでしょう。

それは患者さんが厳格な父親に育てられた事の投影かもしれませんが、投影も人間の立派な心理です。

心理職ははざまの人です。

医師と患者さんの受け渡しをうまくできて、患者さんが普遍的に持ちがちな「精神科医をぶっとばせ」という気持ちを理解しつつ、より良い医療を受けられるようにするのが心理職の仕事だと思っています。