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◯ いるだけ公認心理師・臨床心理士・東畑開人先生

十文字学園女子大准教授東畑開人先生の「居るのは辛いよ」(医学書院)があちこちのメディアで取り上げられています。

京大博士号を終えた東畑先生は最初の就職先に精神科デイケアを選んだわけですが、デイケアの仕事は心理療法やカウンセリングとは無縁のものでした。

デイケアや就労継続施設で働いていた心理職の方々はわかると思いますが、そこでは「いる」のが大切な仕事で、開業臨床をやっている方だとこれは仕事にならない世界です。

フロアのメンバーや利用者さんは病状、その日の体調によって思うように動けないこともある、調子が悪い時には起きていられなかったり、ハイテンションになってフロアの最低限の決まり事が守れないこともあるでしょう。

だから「いる」のは心理職でなくとも福祉職、生活指導員やらはっきり言って作業所だと無資格者でも施設職員ならばそれでもいいわけです。

いつも「いて」フロアの方々の様子を見て丁寧に声かけをする事は大切な仕事です。

心理職募集の求人を見るとこういった心理、福祉職の募集は多く、マイクロバス運転可能者、夜勤三交代可能とか、不便な地にあったりグループホームを併設したりしているとそういう募集も出ています。

そしてもれなく福祉領域の給与が驚くほど安い事に気付きます。

下手をすると障害者年金をもらいながら作業工賃をもらっている就労継続施設A型作業所の利用者さんの方が自由に使えるお金は多いかもしれません。

さて、そうすると東畑先生が書いているように学歴や博士号は特に役に立たず、むしろ高卒職員が「よいしょっ」と重い機材や家具を持ち運ぶ能力の方が重要になります。

僕は老人施設で働いた経験はないのですが、茶髪で真っ赤なポロシャツを冬に着ていた若くて体格がいい職員がテーブルやら車椅子をひょいひょい持ち上げて階段をにこにこしながら足取り軽く歩いていたのを見た事があります。

彼は「◯◯くーん!」と入所しているとおぼしき70代女子からの嬌声を浴びていたアイドルでした。

デイケア、福祉作業所だけでなく児童施設でも老人施設でも毎月のように行事行事と通所、在所者のみなさんが楽しめるようなプログラムは必須です。

デイケアでコラージュや俳句だけをやっていたらメンバーは飽きてしまいます。

就労継続支援施設でも地味な内職ばかりしていると「もうヤダ、こんな退屈なところ来たくない」と思う人も多くなると思います。

だからこういった場所では定例のお祭り行事の企画力、メンバーさんを楽しませる笑いを取る能力が必要になるわけです。

レクリエーション・インストラクター(本当に民間資格にあります。)が採用条件になっているとか、公認心理師試験事例問題でも「この場合、どういったレクリエーションをすればメンバーが一番楽しめるか?」といった設問はありませんが、実は一番必要な能力だったりします。

疾患、障害を持つ人は「笑う事」を忘れています。

僕はカウンセリングやメンタルヘルスに関する講義をする時、10分に1回笑いを取る事を目標としています。

一対一のカウンセリングの最中にクライエントさんから1度でも笑いを取ることができたらそのセッションは大成功だと思っています。

真っ暗な心持ちでやって来たクライエントさんが一度でも笑顔を浮かべてくれたらいいなあと毎回思います。

こういう事は大学学部や大学院のゼミでは教えてくれません。

故河合隼雄先生の講義を聞いたことがあります。

僕はユング派ではないのですが、話がとても面白く始終笑いが絶えなかったのを覚えています。

寝ている人はいませんでした。

心理職が福祉領域で働くのに「いる」ことが大切という事がよくわかります。

産業場面の心理職も「とりあえず君は出勤して毎日いなさい、君はヒマなのが一番なんだから、何か起きたらいろいろやってもらう事になるけど、それまではヒマでいいから、うちは君がヒマなのが一番平和なんだよ」と言われた事があると聞きます。

博士(修士)号を取得して最新の心理療法の知識や技法を身につけて「あれもやりたい、これもやりたい」と考えて施設職員として就職したら思わぬ肩透かしを食うかもしれません。

乳幼児、保育領域で働く心理職の女性が「オムツ替えるのよねえ」と言っていましたがそれは組織へのジョイニング(溶け込み)をする中では必須能力かもしれません。

国家資格公認心理師制度ができて、その活動領域を広げたいと思ったら、花形で脚光を浴びそうな大病院でのカウンセリング専属心理職としてだけでなく、他の場面でも有能かつ役立つと思われる活躍をしなければならないのだと思います。

小さな個人クリニックで働く心理職が受付、レセプト、備品管理等雑用全般を一手に引き受けてやっているのを聞くと、そういった草の根的な心理職の働き方が心理職全体の肯定的な認知に繋がるのではないかとも思う次第です。