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◯ 伊藤詩織さん裁判・性暴力被害に思う(心理職(公認心理師・臨床心理士)が出来る事

伊藤詩織さんが性暴力被害に遭い、民事裁判を提起、330万円の賠償金を勝ち取りました。

この事件を見て「あれ?」と思った人も多いと思います。

この犯罪行為は刑事裁判ならば5年以上の有機懲役です。

5年以上の有機懲役というと「短い」と感じる人もいるかもしれませんが、刑事裁判では5年以上の求刑は決して軽いものではなく、執行猶予がつかないので必ず実刑判決になり、地位のある人は社会的に抹殺されます。

判例では(最判昭和33年6月6日)「その暴行または脅迫の行為は,単にそれのみを取り上げて観察すれば右の程度に は達しないと認められるようなものであっても,その相手方の年令,性別,素行,経歴 等やそれがなされた時間,場所の四囲の環境その他具体的事情の如何と相伴つて,相手 方の抗拒を不能にし又はこれを著しく困難ならしめるものであれば足りると解すべきで ある。」

とあるのですから、刑事裁判となってもおかしくはないのではないか?

と思います。

なぜこの事案が刑事裁判ですぐに裁かれなかったかというと、それだけ密室で起こる性被害は犯罪にはなりにくいという事情があります。

そして伊藤さんの場合にも刑事裁判は一旦不起訴となった後、検察審査会に申立て、検察審査会でも不起訴が決定しました。

日本の刑事裁判は判例があっても性被害に対してゆるいのです。

伊藤さんはPTSD様のフラッシュバックを頻繁に起こす、これは性被害に遭った人には当然ありうることと言えます。

伊藤さんはジャーナリストとして活躍しているわけですから、公開の法廷で自分の身元を明らかにしながら裁判を起こせば当然に顔も実名も明らかになります。

伊藤さんは「強い人ですね」と言われても「私は強くなんかない」ときっぱり言明しています。

彼女は民事裁判を提訴してよかったと述べていますが、それによって自らが被害者であることを強く再認識できた、加害者の加害行為を認めることができたからでしょう。

性犯罪加害者更生プログラムについても僕は当ブログで述べて来ました。

加害者に対する加害者向けのプログラムがあります。

被害者側について考えてみます。

PTSDを軽くする要因として心理学的に知られているのは、加害者の処罰、加害者が社会的な信用を失墜する事です。

加害者の更生と社会を犯罪から防衛すること、社会の処罰感情を納得させる事、これらはいつも矛盾を孕んでいて、心理職として双方の立ち位置を全く矛盾なしにはっきりとさせることは困難です。

犯罪者更生のために必死に働く心理職は加害者への共感や理解を示さないと当該出所者の更生は難しくなります。

そして長期受刑犯罪者というスティグマ(烙印)はなお困難さを伴うことになります。

そして伊藤さんのような被害者には、本人が希望すれば心的被害を軽快させるためのあらゆる精神医学的・心理学的支援を受けられるようにするべきだと考えます。

東京医科歯科大学には難治性疾患研究所があり、精神科医小西聖子教授(現武蔵野大学教授)は長年被害者支援にかかわって来ており、PTSD研究に携わっていました。

そしてこの難治性疾患研究所は一方で犯罪者という存在をやはり難治性疾患として扱って来ていました。

双方の治療は実は矛盾していない、加害者臨床をしっかりと行う事によってトラウマを負う被害者を減らすことができるというのが心理職が持たなければならない認識ではないかと思います。

伊藤さんが語っているように、日本の裁判制度には闇、ブラックボックスの部分が多く、たとえ不起訴処分となったとしてもその理由の開示は刑事訴訟法47条により被疑者プライバシーを守るため原則不開示という決まりがあります。

ただし、時間の経過とともにこの刑訴法47条には相当な批判が集中したことから、法務省もだんだん開示の方向に動いて来ています。

日本のPTSD患者さんは相当な数がいると思います。

それは都会、郊外かかかわらずです。

それにもかかわらずPTSDを専門的に診ることができる医療機関は都市部に限られていて、その数はきわめて限られています。

そしてEMDR、持続エクスポージャー法、ソマティック・エクスペリエンス等のトラウマに特化したカウンセリングができる心理職もかなり限られていて、開業であればクライエントさんが相当な金銭的負担をしなければならないことも多いです。

被害者ケアと加害者の更生と双方の役割を期待されている心理職ですが、これを矛盾と受け止めるのではなく、目の前に迫っている課題、そしてクライエント、当事者双方に真摯に向き合うことでしか自らの職務を全うできないのではないかと考えています。