◯ 公認心理師が医師専権の医行為を行う日
公認心理師試験には精神薬理学分野は必ず出題されています。
僕も自分の薬理学知識をまとめるために以前精神薬理学に関する「公認心理師に精神薬理学が必要な理由」を書きましたが「本当にこれでいいのか?」とも思っています。
公認心理師試験に出題されているのは主に向精神薬の副作用についてです。
抗うつ剤SSRIで賦活作用が出る、若年者を中心として希死念慮が出て来る、「実は診察の時には言えなかったんですけど最近衝動的に死にたくなって・・・」という独自の精神状態は確かに賦活症候群を疑わなければなりません。
抗精神病薬でも「足がつっぱってとっても寝苦しい」のはアカシジアで、投薬中止を考えなくてはならない副作用です。
また、双極性障害に使われるラモトリギン(ラミクタール)は眠気も強く出やすいですし、「ちょっとかゆみが出て、最近湿疹がひどいなあ」というとスティーブンス・ジョンソン症候群といって、皮膚全体が壊死する事もあります。
もちろんカウンセリングの中で患者さんがこういった「医師には言わなかったけど初めて言う副作用」があればすぐに医師に報告しなければならないわけですが、ちょっと待て、それは医師が患者さんに確認すべき事項ではないの?と思うわけです。
厚生労働省の「公認心理師法第 42 条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準について」では「公認心理師は、主治の医師からの指示の有無にかかわらず、診療及び服薬指導をすることはできない。」とあります。
「新しい睡眠導入剤、朝起きたとき眠気がひどいんです。」と言われて心理職が「それじゃあ薬を2つに割って半錠にして試してみましょうか」と言うことはできません。
「出された薬全然飲んでません」「ためてから一気に飲んでます」と言われたらその場で言いたくなるのが人情ですが、基本的に診察室で服薬指導、服薬コンプライアンスは医師に指示をしてもらうべきです。
目の前に「公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法 医学書院」がありますが、試験にも出た診療記録のまとめ方、SOAPの原則や嗜眠症ナルコレプシーの症状が書いてあって公認心理師試験に役立つ医学知識を得るにはとてもいいテキストです。
このテキストはなかなかいい参考書なのですが、薬物療法の欄で薬剤名とその副作用が書いてあります。
向精神薬の薬理作用にも触れられています。
「このイフェクサーってお薬はどういう効き目があるんですか?」
「このロゼレムっていうお薬はこれまでの睡眠薬とは違う働きがあるって聞いたんですけどどうしてですか?」
などなど患者さんはこちらが心理職だろうがなんだろうが、白衣を着たなんだか科学的チックな人ならいろんな質問をしてきます。
それらに答える事は心理職は(実際にはしなければならない事があっても)医師、薬剤師に尋ねるように言うのが本筋です。
上記ナルコレプシーについて公認心理師第2回試験に出題されていましたが、それは診断基準についての出題です。
ナルコレプシーの若い人が仕事をしよう、選ぼうと思っても働き方がとても制限されてしまう、これからどうやって生きていけばいいのだろうか?
そういう疑問に答えることは心理職の精神疾患へのかかわり方として大切なことです。
上記のテキストは「心理職が医療制度を理解し、その職分を守って疾患に適切にかかわるため」にとても役立つ医学分野の受験参考書です。
ただし、公認心理師試験で受験生の医学知識を深掘りしていくときりがないです。
医行為でしかできない医師の専権的知識を問う事にその必要性があるのかどうかということについては疑問が残ります。
心理職に対し「僕らの仕事もやってね」という意図ならばそれは無茶ぶりで「心理職はこういう特徴を持つ疾患にどうかかわるべきか」が問われるべきでしょう。
そうでないとタイトル通りの事柄が期待されてしまい、結局医行為に踏み込まざるを得なくなると心理職としてはおかしな事態になってしまうと思います。
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