◯ 第2回公認心理師試験は共感力を測定できたのか?
以前「第2回公認心理師試験は臨床能力を測定できたのか?」という記事を書きましたが、臨床能力の中でも重視されるべき共感力を公認心理師試験は測定できたのか?
というポイントに絞って考えてみます。
以前東京大学教授丹野氏が第1回公認心理師試験内容を評して「共感検出ゲーム」と記していましたが、それは今回の第2回試験でも同様でした。
公認心理師として働く心理職のところにクライエントさんが複雑な問題を抱えて相談に来ます。
公認心理師としては性急に「診断」や心理テストをしたり、勝手な自己判断をする、他機関に紹介するのではなく、まずクライエントさんに共感するという選択肢が正答と思われ、各社解答もそのようになっています。
ただし、臨床現場がそのような原理では動いていないことは確かです。
共感力だけを用いないカウンセリング技法は多くあります。
クライエントさんに生活の中で生起する問題について認知-情動-行動の評定をさせてホームワークとして毎回提出させる手法もあります。
しかし指示を出す時や宿題をクライエントさんが提出した時にきちんとほめて共感できないとカウンセリングはクライエントさんには無機質な苦行になってしまうでしょう。
これは何の流派でも同じことです。
本当は困っていることをクライエントさんが話したいのにカウンセラーが芸術療法、イメージ療法だけをさせるというのはどうかと思います。
また、とある症状で苦しんでいるクライエントさんに対してより苦しい「症状処方」をして問題行動をどんどん増やすように提案する、というのはその人の心を傷つけかねない侵襲性が危ぶまれるカウンセリングです。
統計学を含む基礎心理学、社会心理学、100種類以上の心理検査の特徴を出題するのが絶対に悪いとは思いません。
ただし、受験生のカウンセリング実務における共感力を検出することはできなかった試験だと思いました。
どの領域でも同じですがクライエントさんはカウンセラーの共感を求めています。
司法領域での加害者臨床は共感が困難な分野です。
クレプトマニア、窃盗癖のクライエントさんは行為依存に陥っていてカウンセラーが共感しにくいかもしれません。
ところが「君はたくさん盗みはさたけれど誰も人を傷つけたことはないよね、そこはきちんとしてるんだね」
「そうなんですよ、捕まりそうになったら全力で逃げて絶対に争わないのが大変なんです」
これは立派な共感です。
信じられないような悲惨な虐待経験を語る子どもに「それ、ホントの話?」と聞くともうその子は何も喋らなくなります。
「妄想」は否定も肯定もしないのがカウンセリングのひとつのセオリーのようになっていますが、嫉妬妄想らしい症状は本当にパートナーの浮気の結果かもしれません。
盗聴、盗撮も偏執的なストーカーが行っている場合もあります。
まずクライエントさんの辛い気持ちを受け止めて、信じて共感するということは難しいことですが大切です。
「医療機関はね、事実関係の有無を認定する捜査機関じゃないから」というのは確かに正しい言説かもしれません。
しかしカウンセラーのその言葉に反応して悔しくなり、カウンセリングから脱落していくクライエントさんは多いでしょう。
僕はこの試験は実務的でなく、現実離れした対応が正解となる「ゲーム」に挑戦することだと以前から思っています。
現場経験が長いほど、複雑な思考プロセルを必要とする「共感力」この齟齬に足元をすくわれた受験生の方々も多かったのではないかと思うのです。
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