第2回公認心理師試験はどうして難しかったのか?
「ブループリントには書かれていなかった用語ばかりが出題されていた」
「公認心理師用の参考書を読んでもムダだった」
という意見をよく聞きましたが、なぜ今回の試験がこれほど難しいと感じられたかについて考えてみました。
まず受験者側の要因としては、心理、教育、福祉系の人たちは文系出身者で統計は得意でないと述べる人が多いです。
問題数が少ないように見えても統計を捨ててかかると命取りです。
統計おける尺度とはどういう概念で、どんな時に使われるのか?
どんな場合に分散分析が必要なのか?
回帰分析とは?重回帰分析とは何か?
についても「実際に検定を行う際には統計的手法にどんな意味があってどの統計を使用するのがふさわしいのか?についてまで徹底的に理解しておく必要があるでしょう。
統計を実際に使用した経験が実際どの検定法でもあればいいのですが、たとえそうでなかともどんな時に判別分析を使用するのか、数量化Ⅰ類、Ⅱ類についても理解しておく必要があったでしょう。
統計を勉強する過程で自然に実験計画法も身についていたでしょう。
僕の後輩でも「統計は捨てた」と言って試験に臨んだ人がいましたが結果はかなり厳しかったと言っていました。
次に試験の内容について触れてみます。
1.心理テスト
心理テストは僕が職場で購入しているもの、使用しているもの10倍以上がテスト領域に出ていました。
以前勉強法のところで述べましたが心理テストは100種類ぐらいは網羅して心理テスト販売会社のカタログを読んで、それでもわからないところがあればきちんと当該心理テストの理論、測定対象、内容、利用法も理解しておかなければなりません。
ウィスコンシンカードソーディングやコース立方体検査はその用途に合った職場にいなければ使用しないテストですが、だから知らなくていいというわけではありません。
広く深くが心理テスト出題の要だったと思います。
2.基礎心理学
心理学史は公認心理師用のテキストをさらっと流し読みしただけでは間に合わなそうです。
基礎心理学書を数冊読んでおかなければならなかったのでは?
知覚、特に記憶は毎回の頻出問題です。
4.生理心理学、社会心理学、教育心理学
脳、神経系、生理心理学は独立分野として医学的、生物学的な理解が必要でした。
社会心理学や教育心理学も公認心理師テキストでさらっと読んでおいても得点できなかったと思います。
社会心理学も教育心理学もその専門学習のためのテキストを読んでおかなければならない難しさでした。
5.臨床心理学
毎回来談者中心療法から派生したフォーカシング技法創始者のジェンドリンが出ていますが、来年出るかはわかりません。
各心理療法の概要は必修だと思いました。
第1回はサイコロジカルファーストエイド、第2回はトラウマとPTSDがキーワードだったと思います。
次は?というヤマ賭けはできません。
緩和ケアやモーニングワークについては「理解した」ではなく深く理解してチームの一員になれる知識が必要です。
6.精神薬理学
副作用について多く出ています。
今回は筋緊張異常のジストニアが複数出ていましたが、賦活症候群、錐体外路症状(運動過少か過多の不快症状ジスキネジア、アカシジア)、口渇感、便秘などの抗コリン作用、乳汁の分泌や男性性機能障害の高プロラクチン血症、悪性症候群、セロトニン症候群も必須学習領域と思いました。
このあたりは一度覚えてしまえばおいしい得点源だったのだろうなあと思います。
7.関連法規・制度
教育、医療、福祉、労働は法とその解釈を読み流すのでは難しかったでしょう。
民法の家族法、家事手続法も出題範囲でした。
8.結語
「知らない分野は捨てた」ということができない試験でした。
ブループリント用語だけでなく関連知識、ひごろから5領域の知識やニュースに幅広く触れ、わからないところがあればどんどん深めて調べていく、この試験では能動的、活動的な心理職の姿勢が求められていたような気がしたのです。
このブログで読者の方からのご指摘を受けたとおり、試験に出なくてもその10倍の範囲の勉強が必要なのだと思います。
コメント
コメント一覧 (10)
僕も現任者講習さえ受ければほぼスルーで合格できるだろうと勘違いしていたのですが、現実はとても厳しかったです。週一回のボランティアで実務をしていたとしても生半可ではない知識、経験値がないと合格できない試験だと思います。心理専門職でない方々は相当な努力で合格できたのだと思います。そして博士取得した旧帝大院卒者も不合格と試験はとてもシビアです。将来的にこの方向が定着していくかもしれません。
入学年度が原因となり公認心理師養成のカリキュラムを大学院で履修していますが、受験資格がなく、仕事が現認者と認定されるようだと分かり経過措置の早い段階でと今年受験に至りました。大学院で学んだ知識では網羅しきれていませんでした。心理検査は出題されて中の一部しか学んでいません。過去問を解き、模試を受け、第1回よりも難易度は上がると予測しましたが、予想通り以上の試験内容でした。しかし、難易度は上がった印象はあるものの、基礎問題をしっかり抑えれば60%には届く気がしました。私は心理検査と統計の定着が悪く、落としてしまいましたが、本番では難問には時間をかけないと決めて難易度が比較的易しい問題を押さえて試験に臨みなんとか各社の解答速報の61%〜65%の正答率です。また、わからない語が出てきても惑わされず、問題をよく読むことで解答に至ったものもありました。しかし、たとえ院卒だとしても医療現場などでの臨床経験がないと解答が難しいようにも思われ、対策の難しい試験だと思いました。
私は第一回の試験を試験対策で解いてみて、で事例でかなり得点が取れると思いましたが、受験生は、それで甘く考えず、コツコツ基礎心理学や、政府の指針などに目を通したり、ブループリントのキーワードは説明できる程度の知識を身につける必要があると思いました。何はともあれ、数ヶ月に及ぶ試験勉強の末、直前はかなり集中して、エネルギーを注いだので、結果が出るまであと1ヶ月ですが吉報を待ちたいと思います。
ご指摘のとおりの試験内容だと思い、むしろ僕の方が納得をさせられました。鋭い分析をありがとうございます。
今回統計、心理テスト、臨床センス、関係法規のどれも落とせない厳しい試験となったという印象を持っています。
僕も拙い文を書きながら学びながら、心理知識と現場感覚双方に役立たせるべく頑張っていくつもりです。
若い方々、これから活躍していく新ルートの方々にも有益な試験となるように今後の制度の整備に期待したいところです。
受験生の知識やこれまでの学習、バックグラウンド、経験によって試験結果が異なるのは当然と思います。
どのような要因が高得点につながっていくのかは僕の中では大きなテーマとして扱っていきたいと考えています。
田中太郎様の持っている知識等を今後ともご教示いただければ幸いです。
どうぞ宜しくお願いします。
合格基準が6割138点とすれば、解答再現2000名の平均得点が145点であれば、今回の国試の難易度は、さほど高いわけではなかったのでしょうか?
某回答再現サイトは僕も第1回試験でやってみました。
平均点は160点近くだったと思います。
再現サイトに入力する人は意識が高い系の人が多く、ダメだと諦めている人や怖いと思っている人は利用していなかったようです。
むしろ意識が高い人たちでも145点という平均点に驚いているのですが、貴重な情報をありがとうございます。
おっしゃるとおりだと思います。
地域医療に今後公認心理師が活躍してくれると、ケアマネさんと共同してクライエントさんの支援ができますし、ケアマネさんが公認心理師を取得していると得られるものも大きいと思います。
中西様はとても深い学習をされたようで、その知識が今後の職務に役立つことをお祈りしています。
最新の法規に加えて心理面での詳細な知識はケアマネにも公認心理師にも役立つと思います。