
スーパーヴィジョン
1.はじめに
このところスーパーヴィジョンにかかわる議論がTwitterで盛んに行われるようになって、僕も思うところあり、この拙文を書き起こしてみました。
2.結論
スーパーヴィジョン、SVは受けておくに越したことはないし、受けるべきだと思います。
やはりケースの見立てというのは初学者や心理1人職場だと自分自身で不安なものですし、不安、というよりもSVを受けておくことで独りよがりのケースマネジメントを先達の目で見てもらえる、という大きなメリットがあります。
SVがいなかったらこのケースはこれほどまでにうまく行っただろうか、SVを受けたおかげでクライエントさんを文字どおりその命を助けることができたのではないかという経験を受けた人たちも多いのではないかと思います。
3.推論過程
(1) 受けなくていい、受けられない理由
やはり「お金」の問題は大きいと思います。無料でSVを受けられる人もいればそれを羨む人もいる。受けない、受けられない理由はいくらでも挙げられるでしょう。
ア.天才と言われる先達はどこでSVを受けてきたのか。受けていない人もいるのではないか。
イ.SVというよりハラスメントのようでサディスティックで厳しすぎると聞いた(場合も本当にあります)。
ウ.心理が多い職場の中で常にケースマネジメントについて学ぶ機会がある。
エ.SVを受けている人を見ているが、それほどぱっとしない。
などなど「受けない理由」探しをしたらそれこそキリがありません。
(2) 受けた方がいい理由
これは受けないよりも受けた方がいいに決まっています。どんなにお金が苦しくても自分の生活を犠牲にしてでも高いお金を払う。それだけケースに対して真摯に取り組んでいるということは素晴らしいことです。実際、個人的な人格は?というような人でも(人のことは言えない)夢中にSVを受けてケース対応能力が高い人もいます。
SVというのはヴァイジー、SVを受ける側を抱きかかえてホールディングして大切に扱うコンティナーのような機能もありますが、思い出してみると僕も経験した、ピリピリとした「対決」「対峙」のような場面は多々ありました。そしてそれでもそれだけのお金を苦心して工面して貪欲に学ぼうという姿勢は尊いものです。
SVを受けて独りよがりの見方だったことを気づかされるとケースに向かう際に何よりの糧になることは多いのだろうと自分の体験を振り返っても思います。
さて、僕は精神分析のプロパーではないですし、それほどの勉強をしているとはとても恥言えませんが、世の精神分析家と言われる人たちは教育分析、SVこそが全てと言ってもいいほど分析やSVを受けています。
知人の精神分析家は1回1万5千円の教育分析を週1で受けていました。別の人は渡米して精神分析を学びました。その人の話を聞くと約1,500万円ほどかかったということです。僕の知っている分析家は知見豊かで透徹した物の見方ができる素晴らしい人たちです。
ただし、そうすると精神分析を学ぶ、行うというのは特権階級に許されたことだけのように思えますが、実際そうかもしれません。かなり価格を抑えてSVをしているところもあるにはあるのですが。
4.お金の問題
高額なお金を払ってでもSVを受けることはケースに対する最高の礼儀だと思います。ただし、人には人の理由があるので「SVを受けない奴はダメな奴だ」というのはまた違うのではないかと思います。
遊びほうけていて高額なものを買いあさり、それなのにSVを受けない、というのは必死にSVを受ける人から見たら到底許しがたいものに思えるかもしれません。
考えてみましょう。心理職というのは高額な学費を出して大学院まで出た、心理職が見ているクライエントさんよりもたいていの場合、はるかに経済的に恵まれている人が多いでしょう。経済的に恵まれていない心理職の人たちは地頭がよく、成績のいい人に与えられる奨学金で進学をしている人かもしれません。何をおいても心理職というのは人より恵まれていて「特権階級」とみなされかねない、それでもワープアが多い仕事なのです。
5.おわりに
SVは大切です。大抵の場合、受けないよりは受けておいた方がいいに越したことはありません。ただし、SVを受けない人に対して「受けなければならない」と言うことについては賛否両論があると思います。
僕も初学者のころを離れて久しく、それほど自分が熱心にSVを受けてきたわけでもないのにSVを頼まれることもあります。これも賛否が多いと思うのですが無料で引き受けてしまっています。「甘い」というそしりを受けても仕方ないでしょう。
SVを受けるか否か、これは心理職、というよりもその人の人生にかかわる問題と言えるでしょう。仕事、お金、どれを取っても根源的です。この駄文をつらつらと書き連ねたところで結論は出なかったのですが心理職にとって大きな問題であることは間違いありません。
※ この記事に対するS女史のコメント
臨士会の調査では半数近くがSV受けていないとか。ではその男女比は?女性が3/4程の職種であるが、受けない層もその比なのか?
Twitterではお金の問題もさることながら、育児や介護との兼ね合いの問題への言及もあったような。
これもまたステレオタイプな偏見かもしれませんが、家のことを妻に押し付けてSVを受けに行く夫。家計を顧みずに「俺の稼いだ金に文句言うな」という夫。
これだけ女性の多い職種で、指導層は男性が多いというねじれ構造がある以上…
「受けなければならない」に賛否両論があるとして、それに賛を唱えるのはやはり男性が多いように思うので…
育児は女性が担いがち。仕事の間は保育所を利用できるとして、じゃあSVを受ける間は誰が子どもを見るの?とかはお金ではなくライフスタイルの問題かも?
本邦のSVを考える際に、それが仕事の一部として包含される制度になっていないというのが大きいんじゃないかなと。
photo by ᴷᵁᴿᴼ' @PhotoKuro_
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