公認心理師試験で求められているアセスメントは「診断」という医行為か?
1.緒言
診断は言うまでもなく医師のみに許された専権的な「医行為」です。ところが第4回試験だけ見てみても医師の診断行為を「アセスメント」として行わなければならない場面が「考えられる診断名として」その答えを求められているわけです。
実務的には心理師も看護師も診断行為を求められる場合が多々あります。医師がツイートしてたと思うのですが「〜という根拠でせん妄と思われます」と言っていたら一刻も早く手当が必要な患者さんの命が危ない。だから「せん妄です!」と一言言ってもらった方がいいわけです。
M.I.N.I.(精神疾患簡易構造化面接法)なんぞは心理職や看護職が診断的面接をするためにも使われているわけで、とある医師が話していたのですが「診断ができない心理職は困る」とはっきり言い切っていました。
公認心理師試験委員にも医師は多く、医学的アセスメントの問題は医師が作っているのでしょうが、まんま診断行為や副作用、薬理作用を求められて心理職がその知識を生かして仕事をしていいのでしょうか?
「この患者は先生は境界性パーソナリティ障害と診断されたのですが双極性エピソードも見受けられるので抗ヒスタミン効果を狙った三環系抗うつ剤を眠剤に使うのは躁転の可能性が高く、危険だと思います。」などと心理職が医師に進言していいのでしょうか?
確かに患者さんの治療上、アセスメントに有用な知識もあります。
どんな疾患があってそれがどんな基準で診断するのか、その疾患についての処遇等、知っていないと心理支援に必要なアセスメントもできないのも確かにあります。
しかしながら「診断」行為は本来診察の中で医師が決めることです。各問題を見てみます。
2 各問題(問題の選択及び仮解答はひなた私見)
問13
問 DSM-5で神経発達障害群に分類される障害として正しいもの。
·答 発達性協調運動障害
問14
問 DSM-5の心的外傷及びストレス因関連障害に分類される障害として正しいものを
1つ選べ
答 適応障害
問105
問 依存を生じやすい薬剤として、適切なものを1つ選べ
答ベンゾジアゼピン系抗不安薬
問106
問 抗認知症薬であるドネジペルが阻害するものとして、適切なものを1つ選べ
答 アセチルコリントランスポーター
(ここまでの薬理知識は公認心理師に必要なのか?と思いました。)
問107 (事例問題)
問自傷、こき下ろしと理想化、短期的精神病的症状
答 境界性パーソナリティ障害
(この知識は必要と思いますが「DSM-5の診断基準に該当する A の病態として最も適切
なものを1つ選べ」という問い方に引っかかりました。)
問140(事例問題)
問 幻覚妄想状態、レビー小体症候群と見られるパーキソニズム症状の予測
·答 歩行障害
問149(事例問題)
問 コロナ患者の異常行動と記憶欠如
答せん妄
まあどれも確かに知らないよりも心理職としては知っておいた方が有益な知識ではあると思うのですが、これだけバシッとした医学問題を例えば教育専門分野(教科担任等)、福祉職(就労支援施設の心理職)、司法専門心理職(家裁調査官や鑑別技官)が必要としているかどうかは疑問に思えるところです。
もちろん、精神疾患や心身症などについては、医療機関以外で出会った際に、医療的トリートメントの必要性もアセスメントしないといけない場面もあるので、ある程度は知ってないと仕事にならない、とも思っていますが。
3 考察
何を僕が言いたいかというと、これだけの知識は確かに心理職や看護職には必要かもしれない、しかし診断行為をするのは越権行為で、いわば「ミニ医者」を作るようなものだと思うのです。
「ミニ医者」は別に給料が高くなるわけではないのですが、それだけの知識を求められて知らなければならないわけで、業務を通常行うに当たっては一般人と違う高度な専門性が求められるわけで、例えば精神薬理学知識が欠如していて患者さんが大きな障害を負ったり死亡したりした時には医師と同等以上の責任を負わなければならないこともあり得るわけです。
まあ「アセスメント」という言い方で診断行為を行えることや投薬や副作用に関する意見を言えるようになるのはラクと言えばラクですが、別に給料が上がるわけでもありませんし、待遇面で医療ヒエラルキーの中で専門職として優遇されるわけでもありません。
4結語
いつもながらの持論の我田引水になってしまうのですが、日本公認心理師協会が勝手に作った専門認定公認心理師は特に取得しても何の役にも立たないわけです。僕が思うには医師団体がもしも「医療公認心理師」(仮称)制度を創設したとして、その代わりに給与を含む待遇面が良くなるなどすればみなさんこぞってそういった資格を取得するでしょう。
ところが日本の保険医療制度でそれだけの予算はありません。医療保険制度の主な担い手はもうすでに看護師、言語聴覚士、3福祉士や作業療法士等がすでに国家資格として独占的な業務を行っているので、心理職は蚊帳の外です。
心理職は内輪もめをしていてさらに医師団体に翻弄されているだけで、これだけ苦労してやっと国家資格を作ったのにこのままでは責任は医師並み、権限はとても医師には及ばないという状態になってしまうのではないかと危惧しています。
発言権を責任に見合ったものにするには職能団体間で争いを繰り返しているだけでは全体の利益にはちっともなっていないと思うのです。
photo by ᴷᵁᴿᴼ' @PhotoKuro_
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