臨床心理士・公認心理師同士の修羅場-心理職の敵は心理職
1.はじめに
心理職は臨床心理学をやったのだから人の心が十分にわかる、だから受容、傾聴をする、というのはクライエントさんに対してはそういった心がけを学んできたわけですが、こと心理職同士になるとこういった相手を思いやる態度は簡単にかなぐり捨てられてしまいます。
というよりも普通以上に苛烈な生の人間と人間のぶつかり合いで、心理学の知識を学んでいるだけに激しく相手を突いてくるかもしれません。プライバシー保護のため平和でないそういった話を1パーセントぐらい大幅に改変して紹介してみます。
2. 論文作成
A さん:あのさ、B君だけ毎月定例の進捗状況の報告出てないんだけど。
B君:いや、うち総合病院だしコロナ対応で患者制限もしているから症例なんか集まらないから無理だって。
A さん:じゃあ B 君のところは事前データけっこう集めたじゃない。あの結果もう一度まとめ直してよ。
B君:え、あれ全部総合的に共同研究者でまとめて考察もしたじゃない。
A さん:頭悪いわね、あんたが予備データ全部まとめ直して中途まで考察ふくらませて書いてよ。
B君:それじゃ最初の論文の骨子と話違うよ。それに今うちの病院心理も駆り出されててんてこ舞いなんだよ。C教授も「今回の研究はそれぞれの仕事や家庭もあるから無理しないように」って言ってくれたじゃない。
A さん:あのさ、少なくとも月1回報告するって決めたのはみんなの総意じゃない。みんなで決めたこと覆すワケ?
B君:じゃ、その決まりをまたみんなで見直して…
Aさん:キリがない。2週間に1度っていうのをみんなで決めたでしょ
B君:いやだから民主的にやるんだったらもう一度そこのきまりも話し合って…
Aさん:何度話し合ってもそんなこと言ってたら決まらないでしょ!
B君:状況が変わったらもう一回話し合ってもいいだろ
A さん:基本はこれでやるって決めたから。2週間に1度を譲歩したんだし、みんなの負担を減らしたのはワタシでしょ!
B君:もういい!
3:ケース検討
Dさん:あのさ、E さんレジュメ出してもらって全部見たけど結局ナニ言いたいのか途中でカウンセラーがどんな介入したのかさっぱりわからない
Eさん:そこは口頭で説明したでしょ
D さん:こういうのってさ、書いてあることと口頭で説明していることと聞いてるとごちゃ混ぜになってわけわかんなくなるからちゃんと書いてよ。どこまでが事実かとかどんな介入したかとか
Eさん:そんなんじゃピカジップ法 (事前に3行ぐらいで事例概要を書いた小さな紙を渡してそれについて批判批評なしに事例検討を行う。)はどうなるのよ
F君:あのさ、あれは人間性理論に基づくものでさ、理念が全然違うじゃん
Eさん:ワタシ、ピカジップってキライなのよね。情報が少ないから質問に答えているだけで全部終わっちゃうから検討して欲しいことなんて何も出てこないし
F君:お前ピカジップのこと何も習ってないのによくテキトーなこと言えるな
D さん:自己流で勝手に勝手に変えちゃうなっていう話だよね。自分だけわかった風になっている
Eさん:ひどい!
4. グループ活動
H君:というわけでグループテーマを決めてその成果報告を今年度はやります。多数決で心理チームのリーダーには僕が決まったので僕が決めました
Iさん:ナニソレ勝手に決めて。確かに面倒だからってグループリーダーに立候補したのは H 君だけどなんでも自由にしていいワケ?っていうか何のために出してもらった資料みたいな手間のかかることやるの?必要性ないじゃん
H君:だいたい俺に任せるって言ったのはみんなだろ。だから俺が決めたんじゃん
Jさん:H君サテライトクリニックから本院行きたいって前から言ってたよね。手柄立てたいだけじゃないの?それに統括心理幹事作ろうって、うちら自分のためじゃなくて H 君が横滑りしてそのポストに入りたいために働くワケ?人の作った成果全部横取りして
Kさん:ワタシは H 君の言うことが正しいと思う。事前にメールでパワポのデータ流しておいたじゃない。意見誰も言わなかったし。正当な手続きにのっとったものだし
Iさん:あの Zoom の会議 H 君のパソコンが調子悪いっていってこの議題 5分しか話し合えなかったじゃん
Kさん:手続きは手続きです
Jさん:ナニソレひど過ぎ
5.おわりに
というわけで臨床心理を専攻した人々がみな人格者かというと全くそんなことはありません。上記のようなお互いの利害関係が絡む場合には下手に口達者なだけにお互いに言い合いになると禍根を残し、それは若い駆け出しのころから心理人生を終えるまでずっと続き、下手をすると一生の葛藤を抱えることになります。
今回はお互いの流派学派について特に触れられていないのですが、ここで流派学派の違いも述べ立てて方法論の違いについても論議に含まれるとそれはそれはもう恐ろしいことになって目も当てられません。
ただし、救いはこんな心理職でもクライエントさんの前に出るとにこやかに笑顔で接することができることです(と信じたい)。どの専門家同士でも議論をすることはありますが、こと臨床心理の世界はすさんでいるように感じるのは僕だけでしょうか。
photo by ᴷᵁᴿᴼ' @PhotoKuro_
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