◯ 若手臨床心理士・公認心理師の躍進・台頭
心理の新卒者がどんなところに就職するかというと、新卒心理公務員になる、裁判所総合職家庭裁判所調査官補や国家公務員人間関係科学区分ならば採用後みっちりとレベルが高い研修を受けて現場に出て行きます。
こういった司法関係の公務員は若手のうちは少年関係で働くことが多く、場合によっては「話をわかってくれるお兄さん、お姉さん」的な役割が取れることもあります。
つまり共感性が高いと見られるのでその若さが役立ち、子どもにとってはモデルになり得る、これは教育相談所やスクールカウンセラーでは大きなアドバンテージ、メリットになるでしょう。
以前も書きましたが
勉強をしないで地位にあぐらをかいている中堅以上の心理職>>>>>若手で勉強熱心な心理職
ということを各種研修に参加したり、連絡調整をして若手と話していると感じます。「負けた」(勝ち負けではないのですが)といろんな分野で感じることも多いのですが、新卒から数年経って現場経験を積みながら勉強している臨床家は最新の心理学の知識も豊富ならカウンセリングに対する見立ても鋭い人たちが多くなってきたと感じます。
さて、カウンセリングを利用するクライエントさんや患者さん、家族にとってはどうでしょう。これが他の科で研修医を終えて最新の知識を持つバリバリの若手医師ならば若くてもインフォームドコンセントをしっかりしていれば高い信頼が得られる事は往々にしてあり得ます。
ところが精神科医師、心理カウンセラーの若手はとても頭脳明晰でもクライエントさんからは敬遠される事があります。若手で知識が乏しければそれは当てにならないと思われても仕方ありません。患者さんは精神疾患については自分が服用している薬から心理的治療法に至るまで無茶苦茶詳しく調べている人も多くそういう人、それから年齢=キャリアと思う患者さんは若手を敬遠する傾向があるようです。
例えば50代、子育ても終わり子どもたちも巣立っていき就職、いわゆる「空の巣症候学」になり更年期も迎え精神的に不安定になりつつある女性に「A病院には20代と30歳のカウンセラーさんがいるらしいすけどどうします?」「いや、いいです」ということがあります。
実は歳を取って馬齢を重ねただけのようでも、威張り散らすわけでもなく、黙って話を聞いているだけのカウンセラーの方がなぜかクライエントさんに安心感を与えるということはあるようです。
精神科医も同じで、精神科医師は患者さんの病状を心身ともに把握、投薬治療をするのが仕事です。医師でも古い教育を受けていて知識の上書きバージョンアップをしていない医師だと、どんどん多剤大量処方をして患者さんを悪化させることもありますが、それでも患者さんは貫禄のありそうな年配の医師を選ぶ傾向があります(ほとんどのベテラン医師は多剤投与のリスクについて熟知していますので多剤投与はごくほんの一部だけで行われています)。
患者さんは「病状の正確な把握」という点で不安を抱くのでしょうか。だから年配者はベテラン医師やカウンセラーに望むのではないかと思います。
カウンセリングも「受容・傾聴」の時代から、認知行動療法のようなエビデンスがありシステマティックな流派もあり、EMDRやソマティック心理学など技術を要するものがあるので年齢なんかいいじゃないかと思う向きの心理職の人もいるかもしれません。若手で立派な研究業績があり治療研究者として優れている治療家は多いです。しかしクライエントさんにとってはそれを評価の対象にするわけではないのです。
はっきりとした年齢差による治療効果の統計研究結果を読んだわけではありませんが、まず患者さんが治療機関選択をする際に口コミやホームページで情報を集めているわけです。
心理職なんぞはある程度の年齢がいってから社会人で学部編入から始めて新卒で就職したのが40代、心理職経験が長い30代前半選手よりも患者さんがチョイスする可能性も高いわけです。人生経験というものもありますので、それが一概に悪いとは言えません。
若くて自信を持って最新の理論の知識があり、貪欲に学び続けようとする姿勢は素晴らしいと思うので、年齢よりも腕前重視で来るクライエントさんには若手心理職が最高のカウンセリングを提供できる可能性が高いです。
点数=実力ではありませんが、若くても公認心理師試験でかなりの好成績を上げて合格する人がいる一方で、中堅者以上で知識をバージョンアップしていないので残念な結果になってしまった人もいます。
中堅以上というとベテランで知識が豊富と想像するかもしれませんが、経験を積んでいると単に老獪に過ぎず、経験値でストーリーを読み解き、知らなかった事でもさも知っている風に理解して語る事に慣れているので、それで誤魔化してしまうこともできます。「ああこの人はとても信頼できるいい人だ」と思わせるのは実はそういった老獪さかもしれません。それを実力と呼ぶのは僕は抵抗があるのです。幾つになっても学び続ける熱心さが心理職の本旨と思っています。
today's wonderful picture by
photographer sora
※ soraさんの撮る明るい空のような未来が心理職と患者様のみなさんに訪れますように。