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◯ 公認心理師試験に見るクライエント中心主義神話の崩壊

このところカウンセリングのデメリット面についてばかり書いていますが、カウンセリング至上主義に対する謙抑性の大切さは第1回公認心理師試験、特に事例問題の大切な要点として出題されていたような気がしました。

「多職種連携」というのは、独走するな、スタンドプレーをするな、という意味です。

医療、学校では医師や管理職教員が頂点で、スクールカウンセラーは毎日子どもと会っている担任よりも謙抑的、黒子でなければなりません。

さて、職種間連携ばかりではありません。

公認心理師に必須の生物学-社会-心理モデルは日常の臨床活動でも正しいです。

誰が真のクライエントなのか?

目の前にいるクライエントではなく、クライエントが虐待している子どもや家族が真のクライエントです。

社会のルールは本人の心理状態至上主義では動いていません。

裁判所や児相ではよく聞かれる言葉ですが、「◯◯してくれなかったら死にます」というのは脅しかもしれませんし、本気かもしれません。

その主張を1時間以上繰り返す当事者に対し、業を煮やした心理職が「あなたが死んでしまうかどうかは残念ながらそれはこの件の行く先とは関係ありません」と言ったところ「上司を呼べー!」と大騒ぎになるという話は現実にあります。

目の前にいるクライエントは心理職にとってはコンプリメント、賞賛を与えなければならない唯一の対象というのが原則と思われがちですが、原則外のルールはたくさんあります。

個人カウンセリングだけをしているとそのあたりに目が行きにくいです。

クライエント「というわけで飲んでは妻に暴力を振るうのは自己嫌悪に陥って、もう金輪際やめようと反省しているんです」

カウンセラー「何回もお会いしてきましたが、そんな風に思えるようになったのが◯◯さんの良さですよ」

ゆったりとそんな話をしている間に当の奥さんはどんどん気持ちをズタズタにしていき、子どもを虐待しているかもしれません。

奥さんは体も傷だらけになって、怖いので暴力を振るわれて骨にヒビが入っても病院に行かず、シェルターに入ろうとしているまさにその瞬間かもしれません。

カウンセリングの役割が目の前にいるクライエントさんの個人的心理的問題解決だけだと思っているととんでもないことになりかねません。

「やっと職場の上司のパワハラもなんとかかわせるような気持ちになれて受け流せるようになって」

という発言に対し「▽さんもだんだん気持ちが落ち着いてきて冷静になれたんですね」

と言っている当のクライエントさんが毎日ツイッターに上司の名前を実名で書き込んでいて「俺をうつ病にしたパワハラ男だ!」とつぶやいていて、もうその人は社会的に取り返しがつかない状態になっているかもしれません。

学校でいじめ加害者のカウンセリングをしているといじめ加害者の気持ちはよくわかりますが、それを性急に周囲に訴えてもいじめっ子の校内での立場は良くなりません。

家裁や矯正施設での少年たちは更生教育に真面目に取り組んでいても再犯可能性は必ずあります。

司法分野では、世論は必ず加害者を攻撃します。

いくら加害者に対する同情を抱いて、犯罪に至る動機を了解できても社会防衛的視点も必須です。

カウンセリングをすることでクライエントの心情が変化し気持ちが和らいだ、だから周囲がクライエントを理解してくれるようになったというのは理想です。

「カウンセラーがカウンセリングをすることでクライエントさんが社会や家庭から孤立するのを助長している危険性はないの?」

というのは大きな命題です。

カウンセリングのコストについて考えてみます。

カウンセリングは保険外適用だとかなり高額です。

誰がカウンセリング料金を出していて、その人はお金を払うことについてどう思っているか。

カウンセリングを受けるために仕事を休んで来ていることが会社からどんな目で見られているか、それは目の前のクライエントさんが語らないエピソードです。

カウンセリングは時としてクライエントさんを中心に考えるあまり、回りの人がクライエントさんをどんな目で見ているかがわからなくなります。

だからこそカウンセリングという行為そのものがクライエントさんを結果的に追い詰めていないか?をカウンセラーがはっきりと認知しておかないといけません。

要支援者と公認心理師法ではクライエントのことを言いますが、真の支援とは何なのか、カウンセラーがクライエントの立ち位置を危うくして社会や家族からスピンアウトさせていることは多々あると思います。

当事者を巡る関係介入こそが仕事という意味では福祉関係者は専門家です。

病院は家族、職場の意見を聞く場合もありますが、その人たちが患者さんの対立当事者だと双方代理行為になるので医師も心理も本人だけの気持ちを聞くことに終始している場合があります。

多くの病院のルールですが、何百キロも離れた病院まで患者さんを送迎した職場の人を「守秘義務がありますから」と患者さんに対し、職場の人を診察室に入れていいかどうかの意向も聞ずに門前払いする医療側の対応はいかがなものかと思います。

クライエントさんの症状はクライエントさんが置かれている社会的状況によって増悪することもあります。

環境からクライエントさんを守るのか、環境へと介入するのがいいのか、少なくともクライエントさんの言葉の向こう側から環境との関係について敏感に察知することが必要と思うのです。

第2回目試験まで日もなくなって来ました。

一定ラインに達すれば必ず合格できる試験です。

受験生のみなさんは、この試験に要求されている独特のセンスを見切って合格を手にして欲しいものだと思っています。