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公認心理師・安全配慮義務のジレンマ

労働配慮義務は労働契約法上、

「第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働する ことができるよう、必要な配慮をするものとする。」

ということです。

この趣旨は心身の健康も含まれるものとされてますので、メンタルヘルスも配慮の対象になります。

厚生労働省「労働契約法のあらまし」p8

これによると、雇用主が労働者について安全配慮義務を負う、それについて何ら義務を履行しなかった場合には債務不履行となることが読み取れます。

「民放第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」

また、使用者側は安全配慮義務を履行しなかったことが不法行為にとらえられると不法行為による損害賠償義務を負うことにもなります。

「民放第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

例えば医師から休職1カ月の診断書が出た、そこで雇用主が「そんなの関係ねえ」と無理やり働かせたらこれは安全配慮義務違反になります。

産業領域で働く心理職は専門家としてこういった、職場の意向とクライエントさんの病状についてのジレンマに陥ることは多々あると思います。

また、診断書が出てもうつ病で「怠けてる、甘えてる、自分はもっと頑張らなくちゃいけない」とクライエントさんが思い込んでいたり、躁状態で「診断書関係ねえぜ!俺はバリバリ仕事できるー!ウッヒョー!」という場合があります。

職場は「まあ本人がやる気になっているのだから」と医師の診断書を無視して働かせることがあります。

本人の意思能力が欠缺しているのに働かせてしまって事故が起きた際には当然使用者責任を問われるでしょう。

心理職が「あの、部長さん、本人はやる気があると言っていても危ないので」

部長「休ませたらまた職場復帰に時間がかかると本人が恐れているのでここは働かせた方がいいんじゃないの?」

と、非常勤、あるいは職制の下位カーストに置かれた心理職が職場に物申すと下手すると職を失いかねません。

労働法上の安全配慮義務は労働者の安全に限られていますが、公認心理師試験頻出タラソフ判決があります。

クライエントさんがタチアナ・タラソフさんを殺すとカウンセリング中に言ったのをカウンセラーが漫然と聞き流して何もしなかったら殺人事件が発生、カウンセラーが敗訴したという事案です。

これはいろんな場面で心理職が直面する問題です。

例えば認知症の患者さんが車の運転をしたいと言っている、認知症機能検査長谷川式ではそこそこ高い点数が出ているけど昔のエピソード記憶は鮮明、最近の記憶はあやふやです。

免許は最近なんとか更新できたばかりだけれども医師はレミニールやメマンチンのような中等度以上の認知症症状に効く薬を出していて「運転、何言ってるんですか?早く免許返納しなさいよ」と言っている。

そして田舎で車がないと何もできない。

こういった患者さんに接したからといって、心理職が警察や免許センターに通報することはしません。

家族から「なんとかしてください」と泣きつかれる場合もあります。

車で出かけるのが生きがいのクライエントさん、でも例えば再発可能性が高いラクナ脳梗塞を経験していて服薬はしていても身体中に血栓の素がある、いつ心筋梗塞を起こしてもおかしくないですし、無自覚症状の発作の間に意識消失している場合があります。

知人から聞いたのですが半側空間無視(例えば左側の知覚、認知機能がない)人が運転をしていることもあるそうです。

道路交通法は本来大変に厳しいものです。

免許更新したときに意識消失した経験の有無についてのアンケートに「ある」と書くと聴聞されて免許返納を余儀なくされることがあります。

さて、警視庁のホームページでは統合失調症、そううつ病は免許拒否と明記されています。

これも例えばの話ですが、「先生(医師)、免許取りたいんですけれども大丈夫だって診断書書いてくれませんか?そして教習所に「病気ただから優しい先生がいいなあ」って一言添えて診断書に書いてもらえませんか?」と言われたら医師は法に則ってそう書きます。

ですが、その診断書が出たらまず免許取得はできません。

また、奇跡的に免許取得できたとしても1年更新でその間に恣意的に免許取消しになる可能性もあります。

役所仕事はお互いの部署で情報共有をしないので、自立支援医療を受けている精神疾患患者さんが都道府県や市の精神保健担当部局から警察には何の連絡もいきません。

患者さんや家族から相談を受けたらどうすればいいのでしょうか?

「免許のことは先生(医師)に相談してね」=免許取得不可能、につながる可能性があります。

なぜならばそれが医師の義務だからです。

認知症、精神疾患患者さんが事故を起こして任意保険適用を受けようとしてもその疾患があったことを知りつつ運転していた場合には保険会社は1円も払わないことができます。

そして死亡や重大事故になれば、危険運転過失致死症罪で懲役25年以下の刑罰を受けます。

執行猶予は望めません。

免許のことばかり書いていましたが、精神疾患患者さんには銃刀法も厳しい規定を課しています。

銃は警察だけでなく保安関係の仕事をしている公務員はかなり所持を許可されています。(入管、刑務官など)

銃刀法はほぼ全ての精神疾患患者さんの銃の携行を禁止しています。

パイロット×

ヘリコプター操縦士×

と世の中には精神疾患患者さんの仕事や興味を禁止する法律は多くあります。

これは大変難しいジレンマです。

電車運転士が幻覚妄想と戦いながら

「先生(心理)、今週も持ちこたえてなんとか仕事ができました。先生にいつも話を親身に聞いてもらっていることで安心しているんですよ」

心理「◯◯さん、よかったですね、今日は幻覚妄想という歪んだ認知を修正するためのホームワークを出しますのでこれから説明しますね。」

と言っていていい場合なのでしょうか?

僕自身は多数の人命や安全がかかっていればそれを重視します。

患者さんが「そんな重大な義務から解放されたい」と言うのならばほっとします。

心理職は基本的に裁く人ではありません。

しかしクライエントさんだけでなく他者の人命がかかっていれば申し訳ないのですが本人を粘り強く説得してあきらめさせることが必要な場合もあります。

だからといって「病名がついた」=何もかもを規制、禁止しなければならない、という風には思いません。

僕は精神病圏でも状態像を見て認知機能に問題なければ運転免許はあまり口出ししません。

仕事で運転を要することがある場合にはなるべく避けるようにしています。

安全配慮については心理職は多々ジレンマに陥ることがあるでしょう。

公認心理師の倫理規程はありません。

公認心理師として、の前に人として苦悩しなければならない場面が多く出てくる、そして誰も正解を持っていない現状を危惧しています。

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