
HSPに公認心理師はどうかかわれるのか?
(参考記事「HSP アダルトチルドレンACへの公認心理師の精神療法」)
HSP,Highly sensitive person
(高度に感受性が強い、センシティブな人)は1996年にユング心理学者Aron,E,N博士が提唱した概念です。
精神医学的に疾患単位として認められている概念ではないのはアダルトチルドレンと同じですが、HSPの人のその苦しさは相当なものがあります。
実に人口の15パーセントから20パーセントがHSPに当てはまると言われています。
実際に自分がHSPだと自覚している人はわかると思いますが、過度に情報を取り込みすぎるので、その繊細さから傷つきやすいという性格特性を持っています。
こういった情報処理特性HSPは詳細な心理検査でも十分にその特徴や対処法がわかるわけですが、HSPの人はかなり丹念に情報の細部に至るまでじっくりと吟味します。
したがって十分時間が与えられていて判断に時間が与えられていれば問題はないのですが、HSPの人は情報が多量に流入してくると、そのひとつひとつについてきちんと正しい判断をしていこうと思うから苦しいわけです。
現実社会というのは厳しいもので、ひとつ物事を片付けようとして慎重に対処していくとまた次の課題、さらに次の課題が押し寄せてきます。
そうするとマルチタスクで同時進行で多くの事柄をこなさなければならないという状態になります。
これははHSPの人にとっては苦手な状況です。
HSPの人の反対語で、もし何かその人の性格を示す言葉を考えられるならば「雑な人」「いい加減な人」で、情報を取りこぼしてもそれを気にしなければとても楽に生きていられるはずです。
HSPの人は情報処理過程において経済的ではありません。
刺激が与えられると過剰にスキャニングをします。
完全にやり遂げようとします。
そしてその刺激が有害なものであっても精査をして直面しなければならないので傷つきやすくなってしまうのです。
人間の情報処理能力は限られているのですが、場合によっては洪水のように刺激が流入してくることがあります。
対応できないから放置しておけばいいのですが、それほど簡単にはいきません。
そしてHSPがなぜ苦しいかというと、他の障害や疾患と重奏すると、より複雑な精神状態の様相を呈することになります。
よくHSPと重複していて本人が苦悩を訴えるのは発達障害圏の人です。
自閉症スペクトラム障害ASDやADHD、ADDの人は注意が自己に向かいがちです。
だからといって、たとえばアスペルガータイプの人が自分のことにしか興味がないから人からどんな評価をされても構わないかというわけではありません。
むしろ真逆で、ASDだからこそ他者のあてこすりや攻撃的な言辞、からかいを真正面から受け止めてしまい真剣に対処しようと過剰な情報取り込みをしてしまいます。
だからこそASDでHSPという人はとても多く、その傷つきも深いという印象を受けています。
現場で精神医療に携わっている精神科医の先生方や心理職で実感されている方々も多いと思いますが、発達障害、対人恐怖症、強迫性障害、境界性パーソナリティ障害の患者さんたちが抱いている恐怖は妄想に近いけれどもそれとは異なっていて、了解可能なぎりぎりの領域で、心的苦痛が大きいのです。
「あっちで笑っている女の子たち」は患者さんを笑っているわけではなく、昨日見たテレビ番組のジャニーズのタレントの雑談をして笑っているのですが、嘲笑されているのかもしれないという不安は患者さんを強く脅かすことになります。
内科、麻酔科医長嶺敬彦先生が著した「抗精神病薬をシンプルに使いこなすためのEXERCISE」(新興医学出版社)は薬理学の説明にとどまらず、その薬物がターゲットとしている障害、疾患の理解に役立つのでおすすめの一冊です。
たとえばこの本に記されている、統合失調症の人はとても優しい、そして発達障害の人もとても優しい、ただしその優しさの質が異なる、という記述に同感できる医療者や患者さんは多いかもしれません。
統合失調症の人の優しさは境界線がない底なしの優しさ、発達障害の人の優しさは環境の変化に適応できる範囲内で示される優しさで、環境が激変するとパニックやうつ状態になってしまいます。
統合失調症の人たちは溢れて流入してくる情報を別の意味合いに変換させて時には芸術にまで昇華させることがあると長嶺先生は書いています。
境界性パーソナリティ障害の人は情報の嵐を人格にダイレクトに自らぶつけて別の人格を形作るという適応をします。
僕はこのあたりの長嶺先生の記述を読んでいて思うのですが、だから統合失調症の人、パーソナリティ障害の人が苦しまないかというとそんなわけでは決してなく、化学物質が触媒に触れて激しく反応、場合によっては燃えたり爆発することすらあります。
彼ら、彼女たちもいまだ疾患単位ではないHSPとして情報の雪崩に苦しんでいる場合が多いのではないでしょうか。
その反応形式は精神分析的に言うと防衛機制ということになるのでしょう。
ASDの人は大量の情報がやってくると、ネガティブなものですらそのまま受け止めようとします。
だから境界線を越えてやってくる刺激に脆弱になってしまうわけです。
ここで長嶺先生の解説を要約しながら僕の解釈で説明しますが、ドーパミン神経は基礎分泌であるtonic相という、自他の境界を最も深い部分で分けている境界線があります。
一番侵入されたくないプライベートな部分で、発達障害の人はtonic相に侵入されると危機的な状態になります。
反面表層的なphasic相のドーパミン神経は、発達障害の人はその境界が表面上は薄いです。
発達障害の人は正直で率直、親しげに人の悪意に気づかずに薄いphasic相で接するので、情報をtonic相にまで受け入れてしまうことになります。
tonic相の内側でドーパミン濃度が低いことはGrace理論で説明されています。
ただしこの2つの境界線は周囲にはわからないし、本人にもわからないのでASDのHSPの人は情報過多になって初めてそれと気づくのです。
遺伝的因子や脳内物質に言及します。
公認心理師試験にも出題される可能性があると思います。
脳由来神経栄養因子BDNF brain derived neurotic factorは統合失調症感情障害の患者さんでその遺伝子多型(ハロタイプ)が見受けられると言われています。
BDNFはPTSDで欠乏するという研究結果があるということを以前書きました。
感情障害でもおそらく欠乏するでしょう。
そして疲れ切ってクタクタになってしまうということになります。
双極性障害と統合失調症は遺伝的に近接しているという事実はDSM-5でゴールドスタンダードとして認められるようになりました。
クエチアピンフマル酸塩(商品名ビプレッソ)が、服薬コンプライアンス、遵守にも有用として双極性うつの患者さんのために開発されていて、日本でも認可されています。
また、2018年4月にブレクスピプラゾール(商品名レキサルティ)が発売されました。
ブレクスピプラゾールはドーパミン受容体とセロトニン受容体にパーシャルアゴニスト(物質の異常分泌が認められると鎮静化させる)、またアンタゴニスト(遮断)作用もセロトニン受容体に対してあります。す
アリピプラゾール(商品名エビリファイ)を飲んですーっと落ち着いた患者さんを見て薬というのは大したものだなあと処方した医師のチョイスと投薬量のセンスに感心したものですが、アリピプラゾールのさらに進んだ形としてのブレクスピプラゾールにはさまざまな疾患への適応が期待されています。
新薬開発、認可はそれ自体が患者さんの良好な精神状態を安定させるのに資することになるのは言うまでもないのですが、よく知られているように、精神病圏に使用されるよりもごく少量の抗精神病薬の投与は発達障害の方の安定につながります。
精神薬理学を理解することによって医師の投薬哲学、そして患者さんの病態について理解することができるという記事を従前に書きました。
公認心理師試験に必出の脳科学、精神薬理学、精神疾患の知識は現場でも必須です。
HSP特性はASDや精神疾患患者さんだけでなく、その性格的特質を持つ人々にとっては苦悩を与えます。
患者さんは自分のことをとてもよく勉強しています。
HSP概念が今後パーソナリティ理論にどのように取り入れられて発展していくのか、障害と疾患と生物学的基盤の関係は何なのかということについて専門家が知っておくことはとても意義があります。
ともすると素人理論ではないかと誤解されやすいですが、僕自身の臨床経験からは情報処理様式としてのHSP概念の理解は有効と考えます。
今後研究が進んでいき、その最前線の知見を得ておくこともまた心理職の責務でしょう。
※ 認知・情報処理理論については「ロールシャッハテスト 包括システムの基礎と解釈の原理」金剛出版 を参照しました。
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