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◯ 精神薬理学と公認心理師試験

精神薬理学は公認心理師試験に割と数多く出ていましたし、薬理学そのもののの知識がなくても「薬で治療しないとダメですよ」という選択肢が正解、と精神科医師の治療領域、知識に踏み込まないと回答できない問題が多かったような気がします。

出題委員に医師が多ければ多いほど医学知識問題が出るような気もします。

大脳生理学はリハビリテーション分野の心理職なら知識が必要なのはわかりますが、教育福祉産業司法領域の人の多くは「関係ないじゃん」と思うかもしれませんが、試験は試験です。

それを言ったらきりがないです。

さて、精神薬理学は平成30年1月31日に厚労省と文科省から出ている「公認心理師法第 42 条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準について」p4

5.その他留意すべき事項
(1) 公認心理師は、主治の医師からの指示の有無にかかわらず、診療及び服薬指導をすることはできない。

とあるので、医療機関にいる心理師が

患者さん「私、診察では薬飲んでるって言ったけど薬でマインドコントロールされるのヤダから全部捨てて一回も飲んでません。お医者さんには内緒にしてね はーと」

と言われたら

心理「さぞそれは迷われたでしょう、大変ですね」と流すことはできないですし、服薬指導もできないのでもう一度診察室に患者さんを戻して服薬コンプライアンスは医師が指導することになります。

他機関に勤めている心理職のところでクライエントさんがそう言ったら「あなたが通院している主治医にチクります」と運用基準上は言わなければならないわけです。

黙って主治医に言いつけて知らんぷりをしていてもいいですが、バレたらクライエントさんとの信頼関係はズタズタです。

さて、機関によりますが、医療現場以外では結構これまで医師との関係はかなり自由にやらせてもらっていました。

主治医が遠くの病院にいて診察中で捕まらない、クライエントは僕の面接が終わったら長期出張、病院にも行かない薬も飲まない患者さん、医師の指示を求めている時間がなければ「治す気ないの?」と厳しく言うときもたまにありました。(メッセージは「病院行ってね」)

「飲んだら気持ち悪くなるから薬抜いちゃいました」と言われるとクライエントさんに「自分で判断しないで病院に電話するかすぐ診察受けてね」と言っています。

1.医師と薬について話すとお役立ち情報が拾える

医療機関勤務なら「この患者さんはどういう治療方針で投薬してるんですか?」と聞くと優しい医師は丁寧に教えてくれるかもしれませんが丸投げ的な質問はどうかと思います。

僕はドクターと話すとき薬のことをよく聞きます。

なぜかというと、投薬内容から医師の診断と治療方針が見えてくるからです。

僕「先生、ラモトリギン200mg/day出てますけどこの患者さんって双極性障害なんですか?パーソナリティ障害と思ってました。」

医師「あ、ラモトリギンは情緒安定させるためね、双極性障害だけに使うんじゃないよ」

僕「エビリファイ前の病院で出てましたけどバルネチールになってますね」

医師「エビリファイはセロトニン受容体にも働くからこの患者さん元気出すぎて躁転するかもしれないなあ」

などポイントを絞って薬のことを聞くとなかなかいい情報が取れます。

心理は患者さんには薬の話はしませんが、臨床像を理解してカウンセリング方針を立てるのには役立ちます。

2.副作用情報

「副作用がない薬には作用はない」ので、副作用が起きていてそれを医師が知っているかいないか、まず患者さんが話す「副作用」が病状によるものなのかひょっとしたら重篤な副作用の前駆症状なのか聞いてみて医師に報告することは心理の仕事のうちと思います。

これからも錐体外路症状、アカシジア(足のつっぱり)ジスキネジア(口唇などの不随意運動)抗コリン作用(口渇感、便秘)抗プロラクチン血症(乳汁、性的障害)賦活症候群(希死念慮)などなど公認心理師試験対策では必修と思います。

高血糖や代謝障害、傾眠もよくある副作用で糖尿病禁忌薬も多いです。

ベンアゼピン系の精神安定剤だと例えばデパス(エチゾラム)のように依存性が高い薬剤もあり、各病院を転々としてあっちでデパス、こっちでデパスと処方してもらっている通称デパ中の患者さんもいます。

ということでデパスは2016年、ほかの強い向精神薬と同様麻薬と並ぶ扱いになりました。

病院のデイケアの喫煙室で

ヒロシ「俺、デパス飲み過ぎて足りなくなっちゃうんだよね」

はるな「あ、私デパスたまってるから分けてあげる」

ヒロシ「悪いね、じゃ、缶コーヒーおごる」

はるな「ガチガチプリンとやわらかポテチも食べたい」

ヒロシ「しょうがねえなあ」

※ この場合はるなは営利目的の麻薬及び向精神薬取締法違反譲渡で5年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。

ベンアゼピン系薬剤はその多くが依存を生じさせます。

依存性を生じている、そういう患者さんの話を聞いたらきちんと医師には伝えないとならないでしょう。

適正使用せずに過服薬(OD)するとどんな薬にどんな危険性があるのかということはネットの世界なので記しませんが受験生の方々は知っておくと実務的にも役立つと思います。

3.薬物情報

試験にも出るかもしれませんし、出ないかもしれません。医療機関でなくても心理職は向精神薬は知っておいた方がいいことは多くあります。

統合失調症と躁病に効く薬は多く共通しています。

もともと躁病も統合失調症も近縁の疾患だとDSM-5でも規定されるようになっています。

家族内に統合失調症と双極性障害患者さんがいる場合もあります。

◯ 非定型精神病薬(セロトニン受容体とドーパミンを遮断するSDAが多いです。多元受容体として脳のあちこちに働きかけるMARTAも多いのが特徴です。)

非定型精神病薬は定型精神病薬よりも副作用が少ないです。

・オランザピン(商品名ジプレキサ)
統合失調症、抗躁薬、脳内興奮作用物質ドーパミンを抑えます。
太るので嫌がる患者さんも多いのですが

・クエチアピン(商品名セロクエル)

統合失調症薬です。

BSPD(認知症周辺症状)や躁病に使用。

うつ病やパーソナリティ障害の気分安定化にも使用されます。

クエチアピン徐放剤(腸内で穏やかにだんだん溶けていく)はビプレッソと言います。

・アセナピン(商品名シクレスト)

2016年日本発売が認可された比較的新薬です。

舌下錠で比較的早く効き目があるのが特徴です。

・リスペリドン(リスパダール)統合失調症薬、鎮静剤の役割もあり、認知症患者さんに使われることあり、また注射で比較的長期間薬効が現れることもあります。

頓服の液体もあります。

・アリピプラゾール(エビリファイ)

統合失調症薬、舌下錠もあれば錠剤もあり、躁病への保険適用が認められています。

パーシャルアゴニストと言われる種類の薬です。

統合失調症のドーパミン過剰放出には効き目があります。

脳内で異変がないときはじっと何の働きもしない優れた薬と言われています。

※ ここでいったん注記しておきますが、統合失調症薬が出ているからといって統合失調症というわけではありません。

発達障害やパーソナリティ障害、PTSDの人の情緒安定にも処方されます。

・クロザピン

難治性、薬が効きにくい統合失調症に使われますが無顆粒血症という重篤な副作用があるので定期的な血液検査が欠かせません。

結構そういう意味では面倒かもしれません。

◯ その他の精神病薬

ゾテピン(商品名ロドピン抗躁剤)は日本で開発された日本だけの非定型精神病薬、パリペリドン(商品名インヴェガ)、ルーラン(商品名ペロスピロン)ブロナンセリン(商品名ロナセン)ピモジド(商品名オーラップ、セネストパチー、身体を虫が這うなど異常感覚に使うことあり)
バルネチール、ハロペリドール(セレネース、ケセラン、チック症を抑える)、クロルプロマジン(コントミン)、ペルフェナジン(PZC)、レボルプロマジン(レボトミン、ヒルナミン)などなどがあります。

どの非定型、定型精神病薬にも力価という作用の強さがあり、クロルプロマジンに力価を換算したCP換算値があり、この数式に当てはめて相当量を超えていると患者さんは過鎮静になって動けなくなることがあります。

患者さんが「もっと薬ください」と言うのに唯々諾々としたがって投与していると副作用、失禁などがおこるので医師は注意しています。

抗精神病薬はある程度以上の力価が出ているのに一気に抜くと横紋筋融解(筋肉壊死、腎不全)という、場合によっては命の危険がある副作用が出ることがあるので服薬量と体質を勘案し、断薬減薬は1年ぐらいかけて徐々に行うことがあります。

もちろんCP換算値だけで抗精神病薬を見ることはできず、それぞれの薬の作用機序がありますし交互作用(飲み合わせ)も見なければいけません。

◯ 抗うつ剤

SSRI、SNRI投与でいきなり希死念慮を抱く、情緒不安定になって境界性パーソナリティ障害と思われる、という副作用が出ることがあります。

慎重投与対象/双極性障害、統合失調症、情緒不安定、若年者(若年者には一時投与禁止にしていたこともあります)

セロトニン症候群、悪性症候群は昏迷状態に陥ることもあります。

抗うつ剤は三環系抗うつ剤でも脳内セロトニン量が増えてストレス低下、うつに効果を認めます。

・三環系抗うつ剤(TCA)

アミトリプチン(商品名トリプタノール)、インプラミン(商品名イミドール、トフラニール )、クロミプラミン(商品名アナフラニール、点滴薬あり)、ノリトリプチリン(商品名ノリトレン)

※ アナフラニール、トフラニール 、トリプタノールは夜尿の薬として処方されることがあります。

三環系抗うつ剤は副作用がSSRIやSNRIと比べて強目です。

三環系抗うつ剤には抗ヒスタミン効果を持つ薬剤があります。

抗ヒスタミン効果は、花粉症の薬などにあり、飲むと眠くなるのですが、それを利用して睡眠導入剤として処方することもあります。

・ 四環系抗うつ剤

※ こちらも抗ヒスタミン効果を認めます。

ミアンセリン(商品名テトラミド)、セチプチリン(商品名テシプール)、マプロチリン(商品名ルジオミール)

・SSRI、SNRI

SSRIは選択的セロトニン再取り込み阻害薬、セロトニンが脳内に吸収されるのを防いで脳内セロトニン受容体にフタをすると簡単には説明できます。SNRIはそれにストレス低減物質ノルアドレナリンが加わったものです。

吐気は公認心理師出題にもあった副作用です。

SSRI、SNRIは特に初期に開発されたものはそういう傾向がありますが、初めちょっと気分が良くなったとしても数カ月服薬し続ける必要があります。

理由は、ストレス解消のための脳内シナプスの生成にそのぐらいの時間がかかるからです。

ちなみにSSRIやSNRIはパニック障害PDや強迫性障害OCD治療薬でもあります。

・SSRI

パロキセチン(商品名パキシル、PTSDの第1選択薬でもあります。なかなか減薬や断薬が難しいとも言われています。)セルトラリン(商品名ジェイゾロフト、性欲抑制副作用を逆手に性犯罪者に使用することもあります。)、フルボキサミン(商品名デプロメール、ルボックス)、エスシタプラム(商品名レクサプロ)

・SNRI

ミルナシプラン(商品名トレドミン)、デュロキセチン(商品名サインバルタ)、ベンラファキシン(商品名イフェクサー)

・NaSSA

ミルタザピン(商品名レメロン、リフレックス)

うつに奏功を呈するまでに短時間で済むというメリットがありますが、体重増加の副作用が強いです。抗ヒスタミン効果もあります。

・トラゾドン(レスリン、デジレル)

この薬剤は独立させておきました。

睡眠導入剤代わりに使われます。

古めの薬で抗うつ効果がありますが塩基構造や作用が他のの薬とは異なっています。

◯ ほか

ベンアゼピン系は抗不安薬や睡眠導入剤に多いです。

GABAの働きを強めるのでストレスを減らします。

ジアゼパム(商品名セルシン、ホリゾン)、ロラゼパム(商品名ワイパックス、いらつきを収めます)、クロルジアゼポキシド(商品名コントール、バランス)、メダゼパム(商品名レスミット、クロラゼプ酸二カリウム(商品名メンドン)、ブロマゼパム(商品名セニラン、レキソタン)、クホパザム(商品名マイスタン)、アルプラゾラム(商品名コンスタン、ソラナックス)フルジアゼパム(商品名エリスパン)、ロフラゼプ酸エチル(商品名メイラックス)エチゾラム(商品名デパス、睡眠導入剤として内科で出される場合もありますが医師によっては睡眠導入剤として使用するのは好ましくないとすることもあります。)

・睡眠導入剤

ベンゾジアゼピン系が主流、長期型、中期型、短期、超短期型などに別れています。

ロゼレムのようにメラトニンの働きを整えて眠りを良くする非ベンアゼピン系睡眠導入剤もあります。

ベンアゼピン系睡眠導入剤は催奇形性から妊婦への処方は禁忌になるでしょう。

スボレキサント(ベルソムラ)は脳を過剰に覚醒させるオレキシン受容体に働きかけて催眠を促す新薬です。

・発達障害

ADHDには中枢神経刺激薬としてコンサータやストラテラが使われます。

抗不安薬や微量な抗精神病薬が気分安定化につながる場合があります。


・ ムードスタビライザー

てんかんの薬は双極性障害やパーソナリティ障害の気分安定剤(ムードスタビライザー)として使われていて、カルバマゼピン(テグレトール)、ラモトリギン、バルプロ酸ナトリウム(デパケン)などです。

双極性障害の気分安定化は炭酸リチウム(リーマス)がよく使われます。

・プレガバリン(リリカ)

全身疼痛、線維筋痛症に使用されますが、他の精神薬との交差耐性が多いです。


※ 精神薬理学は大変奥が深く、僕も一部しかわからないし書けません。

薄い最新の教科書を買って読んでおくと心理の人はこれから公認心理師を受ける人、もう現場で心理職として働いている人も役立つでしょう。

ちなみに患者さんにはとても勉強熱心で僕よりも精神薬理学にもっともっと詳しい人はたくさんいます。 理系だと塩基構造まで研究している患者さんもいます。

患者さんが薬について聞かれても答えるのは原則心理の仕事ではないのですが、患者さんが何を話しているのか、何にこだわっているのかを理解するためにも薬物療法の知識が必要になる時があります。

精神科なんて連れて来られてなんて目に遭わせるんだと最初言ってて薬なんかイヤだイヤだと言っていた患者さんがいつの間にかだんだん薬の勉強を熱心にして詳しくなって「先生あの薬を処方してくれませんか?今飲んでる薬を増やしてください」と言うようになるのを見ることがあります。

そして僕に「◯◯先生はケチだから薬を増やしてくれない」とか言うわけですが、薬というのは医師からの贈り物、プレゼントなんだなあと分析的な意味合いを見て取れるので感心します。

(これは誰か精神科医も書いていたような気がしますが、忘れてしまいましたので誰かわかれば教えてください。)

薬は人間心理とも結構深いつながりがあるのだなあと思っています。

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