◯ 公認心理師が関与すべき第4の発達障害・愛着障害臨床に踏み込むための児童福祉戦略
児童精神医学者の杉山登志郎先生がこの分野の研究の第一人者です。
杉山先生は先駆者であると同時に児童のトラウマ治療の専門家でもあります。
児童をめぐる環境は時代に応じて相当の変化があります。
例えば平成2年には児童相談所への児童の福祉を害する行為への相談対応件数は1,101件、それが平成29年度速報値では133,778件(厚生労働省発表)となっています。
心理職は「仲間として」というよりは燃え尽き、バーンアウトした児童業務に当たる福祉関係者のケアが必要な状態になってきているという認識を持たなければならないほどの状況です。
子ども側が抱えるリスクとして指摘されめいるのは発達障害で、「育てにくい」子どもが親の犠牲になることが多いことが指摘されています。
心理職は親子の発達相談から肌で感じていることですが、同じ発達障害児でも親の養育態度によってその適応度合いは全く変わるということです。
発達障害が発見されればまともな親なら悩み、これからどうやって子育てをしていけばいいのかと懊悩するのは珍しいことではありません。
そこで心理職や言語聴覚士(発達障害への療育は言語聴覚士の大切な仕事です)が話し方教室やペアレントトレーニングの場で親を十分に支えていけば学校生活にも馴染みやすくなります。
つまり遺伝だから発達障害の子どもは手ひどく扱われても仕方ない、という認識は間違っていて、環境因子でいくらでも子どもは変わりうるということです。
杉山先生がよく引き合いに出すのがルーマニアチャウシェスク独裁政権下で多くの子どもが親を失い、ある子どもたちはストリートチルドレンになって命さえも危うくしていたという事例です。
日本でも里親制度が子どもを救い、一部は特別養子縁組成立で実子として育てられることになります。(「絶対」ではないのですが)社会的養護で施設内処遇をされているよりも子どもの状況は劇的に改善します。
社会内養護でしか発生しないと杉山先生が指摘しているのは反応性愛着障害の抑制型(無表情、無反応)あるいは脱抑制型(過剰にべったりする)です。
こと脱抑制型にはADHD注意欠陥多動性障害との関連も指摘されています。
ここで反応性愛着障害でADHDが併発している場合、着目すべきなのは、不注意優勢型のADHDが多いということです。
親からの手ひどい扱いやネグレクトは解離(記憶を飛ばして心理状態を守るのでしょう)、爆発的な怒りの発作という形で発現します。
さて、児童を離れて医療現場などで働く心理職の中には成人PTSDで不幸な養育環境の中で育ったクライエントさんはいないでしょうか?
こういったクライエントさんはPTSD症状としての解離を幼少期から身につけています。
サバイバーとして生き残るためには身体的、心理的感覚を遮断しないと生き残れなかったのでしょう。
日常的に忘れ物をする、失くし物をする、これは解離なのか不注意優勢型ADHDとして起こる現象なのかの鑑別診断は難しいのですが、事故や傷害につながりかねない危険なサインです。
結果として心的な強さとしてのレジリエンスは複合的に低下します。
「仕事はどうですか?家庭ではどうですか?」クライエントさんが心的混乱状況を成人まで引きずっていて、児童のころの愛着障害を持ち越して場合にはかなり適応の困難を抱えることになります。
児童に戻ります。
児童養護施設での職員-児童間での軋轢がよく報道されていますが、小児PTSDやADHDを抱える子どもは反抗性挑戦障害を持っていることも多いです。
それは子どもが大人への不信感を職員への関係によって再構築していこうという試みとも取れるのですが、子どもでも激しい感情の吐露は人間である職員にとっては耐え難いことです。
心理職は薄給、激務の社会養護施設で福祉、心理職が長く勤められなくなるという現実をよく知っているでしょう。
その中でも必死に児童に向き合っている職員も多いわけです。
◯ 将来的には依存の問題を引き起こす場合が多い
物質依存、対人関係依存(少しでも優しくしてくれた人や自分に危害を加える人でも信じ込んでべったり依存)、行動嗜癖(ゲーム、買い物、浪費)これら満たされなかった思いは大人になってからも続きます。
刷り込まれた飢餓感、渇望です。
結果としてそれがまた子育てをする上での児童への迫害の連鎖となる場合もあります。
◯ 確立が必要な領域
公認心理師試験必修の司法面接では事実を一回だけ淡々と聞きます。
裁判になった場合、大人が子どもに加えた危害を子どもにトラウマを与えずに正確に聞き出します。
司法面接トレーニングを積んでいる心理職は日本では僅少です。
◯ 結語
児童福祉的な介入は、制度としては絶対的なベストとは言えないもののベターな社会的養護、里親措置、そしてもしもきちんとそれがうまくいけばベストにもなりうる家族再統合です。
これらの福祉場面にかかわる心理職は多いでしょう。
福祉という生活の場で行われる心理臨床活動、これらの努力は愛着臨床の中では尊いものです。
児童から思春期に至る過程で教育、医療もかかわっていき、彼ら彼女たちを真剣に受け止めていかなければなりません。
その後ずっと続く成人のトラウマ治療はまた児童への連鎖を食い止める手段となっていくのです。
(参照:杉山登志郎著作集③児童青年精神医学の新世紀)
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