司法領域の臨床活動と新公認心理師

1.総論

心理職は被害に遭った、一生心に傷を負ったというクライエントさんに会うことは多々あり、そのためにそれこそその人の一生がかかっているカウンセリングを何十年もかけて行う場合が多いです。

ところが心理職の中には裁判、鑑別所、少年院、拘置所、刑務所など加害者と心理学的にかかわらなければならない心理職の人も相当数います。

加害者に対する臨床面接をしていても、加害者は特に悩んでいないことも多いのです。

被害者を数百人以上出している小児性愛の性犯罪者、集団でスポーツのプレイのように強姦する犯罪者たちもいます。

加害者臨床はカウンセリングの動機付けが薄い対象者への面接を行うという困難点を常に抱えています。

精神科で一生がかりで治療しなければならない、自殺可能性が高い性犯罪被害者を膨大な数生み出していく犯罪者の自責の念は薄いです。

致死事件、殺人事件において加害者臨床を担当した心理職なら「これからどうやっていきたいですか?」と加害者に聞いたとき「殺してしまった人の分まで今度は自分が頑張って仕事(学校)に取り組みたい。交際している彼女と結婚して幸せに生活をして親を安心させることが何よりの償いです。」と言われた経験は多いでしょう。

2.精神障害者の犯罪と一般の犯罪の相違

確信的殺人(必ず殺す)という信念を実行しようとする精神障害者が起こす犯罪はほぼ皆無です。

一過性の激怒の感情を無謀運転という方法で群衆に突っ込んで行う、精神病的症状がなくて実行する犯罪者が多いのはニュースで見てのとおりです。

以前から精神科に通っていて犯罪を行う患者さんは一般人の半分未満、もっと少ないという統計もあります。

統合失調症のクライエントさんは「死んでしまえ」「家族を殺してしまえ」という幻聴に苛まされている人も多いと思いますが、その恐怖の中で何十年も踏み止まって怯えている人がほとんどです。

殺人というものは、世間では精神障害者がおかしくなって通行人を切りつける通り魔というスティグマに満ちたステロタイプなイメージがあります。

しかし実際の殺人者は家庭内や知人間で起きていることが多く、借金苦で一家無理心中しようとして加害者の父親だけが生き残ってしまったというそういったニュース性のない殺人は報道されません。

3.加害者臨床の実際

加害者に対しては徹底した行動療法しかない、それは行刑施設への収容教育だという考え方は根強くあります。

心理的な観点からだけでなく、社会予防的な視点や被害者感情の考慮という点からもそれは社会政策上、正しいことです。

非行少年、犯罪少年についての調査を警察の膨大な供述調書と照らし合わせて面接をして、事実の調査、心理的調査、環境調査を行ってケースワーク的にかかわるのは少年事件ならではの家裁調査官の働きかけです。

ただ供述長所をたどった調査をして裁判官に少年調査票を提出すれば終わりというわけではありません。

鑑別所も心理検査結果と行動観察結果から処遇に対する意見を家裁に提出すればいいというわけではなく、少年の一生の行く先を有機的に考えて鑑別結果報告書を作成します。

少年事件、成人事件双方に共通して、更生意欲をまず持たせるための動機付け面接が必要です。

そして犯罪文化に馴染んだ加害者の認知を変容させる、さまざまな更生プログラムが開発されています。

特に性犯罪の更生率は低く、どうやって他者への感情移入が困難な加害者への心理面接を行っていくかは大きな課題となっています。

4.公認心理師制度と司法臨床の今後

最高裁判所家庭局も法務省矯正局も今のところ公認心理師誕生に当たって大きな改革は考えていないようです。

法務省矯正局は社会復帰調整官に公認心理師を採用する、また、公認心理師研修受け入れ先として行刑施設見学を可能にするという対応をします。

今後公認心理師必修科目として、また公認心理師活躍の場として期待される主要5領域の中でも司法臨床は大きな割合を占めていますが、肝心の司法が動かないと司法における公認心理師活動は停滞していくでしょう。

司法臨床で大きな領域を占めている裁判所、法務省では公認心理師をどんどん採用していくとう動きはありません。

もともと裁判所法や国家公務員法にしたがって独自の採用をしているのですから、無理に公認心理師を割り込ませる余地はありません。

家裁調査官も心理だけでなく、法学、教育学、社会学、社会福祉学を学んだ受験生を採用するという独自の方針があります。

法務省も自前の国家試験で職員を採用しています。

公認心理師ホルダーを優先して採用したり、採用後の処遇で有利に扱う理由はないわけです。

司法領域は公認心理師主要5領域の中で一番公認心理師制度が発足したとしても変わりにくい分野だと認識しています。

公認心理師制度で司法は必修領域ですが、司法現場に対し、公認心理師の主要な活躍の場と伝え続ける努力と、公認心理師行政側、司法側の意識をすり合わせてその乖離を埋めていくことは決して無駄なことではないと感じているのです。

それは司法領域で公認心理師採用を増やしてくれ、という筋違いな要求ではなく、司法の現場は臨床家にとって重要な意味合いを持つという認識を相互に確認するという意味です。


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